あくまでも物のついで
切れていたので再投稿
「……オジさん達、誰?」
フェリルの人達に居場所を聞いて向かった先に建っていた簡易的な小屋。雨は何とか防げるけれど隙間風が吹きそうな中は地べたに毛皮や大きな葉っぱが並べてあって、フェリルの人達との物々交換で手に入れたらしい使い古された鍋で野草と獣肉のスープを作っている時に私達は姿を見せたわ。
……でも、ちょっとした問題が起きちゃって。
ウロの記憶を読んで得た情報によると、何人もの魔族が拠点にしている建設中の城から逃げ出したって話していた子達は本来は入れない島にやって来て自分達を訪ねて来た私達を……いえ、見知らぬ魔獣であるアンノウンと顔がちょっと怖いレリックさんを警戒しちゃったの。しかもレリックさんったら前に出て来ちゃうし、年長の子の背中に隠れて此方を見ていた小さい子達なんて今にも泣きそうだわ。
「おい、此処に居るのは島から出た女の餓鬼以外の全員か? 居なくなってる奴は居ねぇだろうな?」
「……それがどうかしましたか?」
えっと、聞いた話によるとトゥロさんだっけ? 私より少し年上の彼は、如何にもチンピラな感じのレリックさんが威嚇しながら探りを入れて来たと思ったのか警戒と怯えの表情を見せながら他の子達を庇っているわ。……レリックさんったら直ぐに帰してあげたいから確認をしたんだろうけれど、絵面が最悪よ。どう見ても子供に絡むチンピラだわ。
「えっと、この人は人相と態度と女癖が悪いけれど悪人ではないわ」
善人かどうかはギリギリだけれど、そんな言葉を蛇足だと飲み込んで庇った事で少しは警戒が薄れたけれど、恐る恐るといった感じでレリックさんに視線を移すなり身を竦ませる。
「……何だよ?」
「レリックさん……ちょっと向こうを向いて貰えるかしら?」
レリックさんったら怯えられた事がショックだったのか笑顔を見せたのだけれど、無理に作った笑顔だから人相が余計に悪くなっちゃってるわ。……お父さんもそんな所が有ったわよね。偶に似ているって思う二人だけれど、そんな所が似るだなんて嫌な偶然ね。
「……ちょいと小便行って来る」
私の言葉に素直に従って後ろを向いて向こうに行くけれど、背中から落ち込んでいるのが伝わって来ているし、後で励ましましょう。ちょっと酷い事を言っちゃったし謝らないと駄目よ。
「ふっふっふっ! 此処は僕の……皆のアイドルであるパンダの出番だね!」
何処からともなく聞こえて来たのは陽気な笛の音。あら、草陰に隠れて黒子さんが演奏していたわ。器用に笛を吹いたままジェスチャーで秘密にして欲しいと頼んで来たけれど、これ以上不審者が増えると小さい子達が大変だから当然見て見ぬ振りね。
「わ!」
「凄い!」
中身は最悪で癒されないストレレス増す事ばかりの自称癒し系純粋無垢なマスコットだけれど、パンダのヌイグルミが演奏に合わせて陽気に飛んだり跳ねたりしながら踊る姿は可愛らしかったわ。中身に目を瞑ればだけれど。小さい子達も目を輝かせて夢中になってて、踊りが一段落した頃に賢者様が前に出る。レリックさんみたいに上から見るんじゃなくって屈んで視線を合わせて穏やかな表情を向ければ、レリックさんのが酷かった分、安心を誘う物になっていたの。
「大丈夫です。私達が必ず家に帰してあげますよ」
「……本当?」
「ええ、約束します。お城に居た人達も助けますので安心して帰りましょう」
こんな時、賢者様は大人なんだなって思うわ。普段は変な拘りや女神様とのバカップルさを見せられているけれど、本来は穏やかで聡明な方だもの。本人は否定しているけれど、賢者の名に相応しいんじゃないかしら?
「では、トゥロさんでしたね? 後で少しお話を聞かせて下さい。勿論、思い出したくない記憶ならば話さなくても結構です。辛い体験をしたのですし、望むのならば泡沫の夢の如く記憶をあやふやな物にして、夢にすら出なくしましょう」
「出来るのっ!?」
「ええ、出来ます。これでも魔法の腕には自信がありますので」
子供達が恐怖の記憶を思い出さないようにと気を使いながら話を進める賢者様。同じ子供の私じゃ何処かでミスをするか最初から信頼されなかったでしょうね。勇者として情けない気分だわ。
「まあ、私が子供なのは仕方が無い事だもの。変に悩む必要は無いわね」
「おい、ゲルダ。……終わったか?」
そうこうしている内にレリックさんも帰って来たけれど、アンノウンったら早速弄くりに行くんだから困ったわ。
「レリッ君って本当にこんな時に役に立たないって言うか、寧ろ邪魔だよね。僕より信用されないってどうなのさ?」
「……うっせぇ」
「あはははは! ねぇ、どんな気持ちだい?」
あらあら、アンノウンったらパンダをレリックさんの頭に乗せて此処ぞとばかりに弄くっちゃって仕方のない子ね。でも、そんな風に頭の上にパンダを乗せて弄くられている姿に小さい子達も安心した様子だし、却って良かったのかも知れないわ。レリックさんもアンノウンへの怒りでショックを忘れているみたいだし。
そんな風に微笑ましい光景を眺めていたのだけれど、トゥロさんが急に私に話し掛けて来たわ。随分と緊張した様子だけれど、一体どうしたのかしら?
「……あの、君が勇者……様で良いんですか?」
「え? どうして分かったのかしら? 未だ勇者だって名乗っていないのに不思議ね。普通は私みたいな子供が勇者だなんて思わないのに」
小さい子達が帰れると聞いて喜ぶ中、年長の少年、トゥロさんが私の事を言い当てたから驚いてしまったわ。だって今まで三つの世界を救って来たし、ブリエルでも活躍したから私の特長が伝わっていても不思議じゃないし、キグルミさん達も私の手が届かない場所で活躍しつつ噂を広めてるもの。
「うん、僕も普通は分からなかったよ。それなりの期間を城で労働させられていたし、今はこの島だからね。噂が入って来る環境じゃなかったからね。……まあ、耳が痛くなる位に聞かされてたんだよ、君達の事はさ。半分は惚気話っぽくてさ……」
「……え? あの、その惚気話をしている人って……楽土丸って名前じゃないかしら?」
私の問い掛けに頷くトゥロさんは聞いている方が恥ずかしくなる内容だったのか照れた顔だけれど、そんなの話題に出てくる私の方が恥ずかしいわよ! 私と彼は偶然押し倒される格好になった時に胸を触られて、その勢いで求婚されただけなのに。私、未だ了承してないわよっ!? まあ、悪い気はしなかったけれど……って、違う!
「い、言っておくけれど別に恋人でも何でも無いわ! 只の知り合いよ、知り合い! あーもー! 本人に文句が言いたいけれど、本人は何処に居るのかしらっ!?」
「それが……」
思わず勢いよくまくし立てた私に気圧されたのかトゥロさんは言いにくそうにしながらも口を開き、島の中央を指差す。えっと、もしかしてアガリチャに向かったって言うんじゃないわよね? 部族の人でも警備隊に選ばれている間しか近寄れない神聖な場所ってなっているのに。もしそうだったらトラブルの種になるじゃない。戦いになっていたら味方するのは難しいわ。
「実は小さな子供から母親が警備隊に居るけれど様子がおかしいって相談を受けて……」
「ああ、成る程。様子を見て来るって引き受けちゃった訳なのね。……彼らしいと言えば彼らしいわ」
まあ、それだったら戦いになっていても擁護の言葉の一つでも口にしてあげるべきかしら? 全く仕方が無いんだから。惚気話の文句も言いたいし、私も警備隊の人達が心配だったもの。こっそり様子を見に行く位は別に良いわよね?
「賢者様、今からアガリチャに行きましょうか。楽土丸に会う為じゃなくて、警備隊の人達の安否確認が必要だもの」
まあ、トゥロさん達とも仲良くなったみたいだし、心配だろうからついでに楽土丸の様子も見なくちゃ駄目ね。あくまでもついでであって、私としてはどうでも良いのだけれど。
アンノウンのコメント ごめんね!




