一周年記念 閑話 賢者の日常 少しの憂鬱 ☆
一周年! 挿し絵沢山です! 今後も応援お願いします! 感想とか待ってます
これは四代目勇者が選ばれるよりも前、ティアが十歳の誕生日を迎えて盛大にお祝いをした日の事です。ふふふ、十段重ねのバースデーケーキは流石に張り切り過ぎでしょうか? いや、可愛い娘の為ですし普通でしょう。でも、ちょっとウェディングケー……まあ、それはどうでも良い。
「あっ、そうだ! 世界中の人の言葉の認識を変えれば良いんでした」
この日の夜、私はその様な世迷い言を口にしました。手元には二代目勇者の伝説に関しての本が有るのですが、開かれたページの挿し絵に描かれているのは胸の辺りまで伸びる長い白髭の魔法使いの老爺。はい、私こと賢者です。いやぁ、私へのイメージって大体こんな感じでして、神様連中は勿論の事、私の正体を知る知人達からも偶に弄られていまして。……そもそも髭を此処まで伸ばすと手入れが面倒だと思うのですけどね。
「急にどうした? その様な世迷い言を言って。眠れないのなら少し相手をしてやろう」
「おや、久しぶりですね。手加減は宜しくお願いしますよ? 私に剣の才能が無いのは武の女神である貴女の太鼓判付きなのですから」
「善処してやりたいが、私にも武神としての誇りがあってな。……それにティアはお前より才能が有るのだし、少しでも才能の差を埋めておいた方が父の威厳を保てるだろう?」
私の隣でシルヴィアが呆れたような怪訝そうな顔をしていますが、それでも直ぐに嬉しそうな顔で私に寄りかかる。でも、今のイントネーションの時は甘い誘惑でなく、組み手のお誘いなのですよね。分かるんですよ、微妙なイントネーションの違いでシルヴィアが何に誘っているのか。散歩だったりお喋りだったり組み手だったり、大体は夫婦の営みなのですが、どうもアホな事を言いだした私を諫める意味も有ったらしい。夫婦だから全部分かっていますよ。ラブラブな夫婦ですから!
だから夜中に急な申し出をされても断る理由は有りません。どの様な形であっても愛しい妻と触れ合えるのですし、寧ろ断る理由が知りたいですよ。師匠にそれを知る魔法が存在しないか聞いた所、鬱陶しいから黙れと怒られてしまいましたよ。まあ、可愛い娘であるティアは私が自分より弱くても気にしない子ですが、私としては娘に誇れる父親で在りたい訳ですしね。
「まあ、私としては別の方の相手でも良いのだが……組み手後のご褒美に取っておこう。精々励め、二つの意味でな」
耳にそっと息を吹きかけられ、首に手が巻かれ体がより密着する。これって今直ぐ押し倒しても……駄目なパターンのイントネーションですね。武の女神としてのプライドが有りますし、私も夫として尊重しなければ……。
「ええ、当然です。微力で未熟な身ではありますが、愛しい貴女の教えを受ける以上は情けない姿を見せたりはしないと約束致しますよ」
「それでこそ私の愛する夫だ。ふふふ、滾って来たぞ」
……あっ、これってやる気に火を付けてしまった時のアレですね。いや、どの様な顔でも魅力的ですし、益々惚れてしまうのですが。私、気絶で済めば良いのですけれど……。
「はい、そして気絶の上に至る所が骨折していますね」
「何を独り言を言っているのだ、お前は……」
身体能力強化や感覚強化、その他接近専用の魔法をフル活用した結果、目と耳を塞いで右手を封じたシルヴィア相手に二分保ちました。情けない? いやいや、私は基本的に人間ですし、相手は武を磨き続けた女神ですよ? 愛しくて美しい武の女神に二分も保てば良い方でしょう。お互い使っているのは同じ木刀なのに、どうして私の方だけ砕け散っているのかは……技の差ですね。
「まあ、及第点はくれてやる。さっさと治せ。……ああ、汗臭さは消さなくても良いぞ? 今日はお前の汗の臭いを感じたいのだ。全身でな」
舌なめずりをしつつ木刀を放り投げたシルヴィアはそのまま服を脱ぎ捨てる。鍛え抜かれた褐色の肉体は何度目にし、何度肌を重ねても飽きる事など有り得ない。さて、私は今動ける状態では無いのですけれどね。たった二分? その二分に全ての力を注ぎ込んだのですよ。それが武の女神であるシルヴィアへの……いえ、愛しのシルヴィアへの礼儀でしょう。
「美しい……」
「あまりジロジロ見てくれるな。……照れるではないか」
目の前で服を脱ぎ、今から始めるというのに恥ずかしそうに手で胸を隠す姿は私の情欲を刺激する。ああ、駄目だ。今直ぐにでも押し倒したいのですが、今日はシルヴィアが私を襲いたい気分らしいですからね。
「疲れて動けないらしいな。良いぞ、そのままで。今日は動けないお前を味わいたい気分だ」
服を脱ぎ捨て生まれたままの姿になったシルヴィアが私に覆い被さり器用に服を脱がして行きました。……その後? まあ、メタネタで言うのならR18的な展開ですからね。詳細を描くとお叱りを受けてしまいます。
「さて、昨日は何やら悩んでいたからな。偶には家族会議で話そうではないか」
「父、悩んでる? ティア、力になる」
翌朝、肌がツヤツヤのシルヴィアと少しゲッソリした私はティアと共にテーブルを囲んでいました。ああ、妻も娘も私の事を考えてくれて、私はあらゆる世界で最も幸せな男でしょう。では、早速ですが私の悩みを語りませんと。
「賢者の異名がどうしてもシックリ来ませんで。……私の中でも賢者って老人のイメージなのですよね。それに如何にも知性が有るって感じなのがプレッシャーで。私でしたら凄く期待しますし、下手な所は見せられないのですよ……」
勇者を導く賢者、その役割は別に不平不満は感じていないのです。私は見知らぬ世界でシルヴィアを含む四人の仲間と共に世界を救いましたが、本音を言えば導いてくれる存在が欲しかった。だからミリアス様から導き役を頼まれた時は迷いながらも引き受けたのですが……。
「どうして賢者なんでしょうね、本当に。私、もっと魔法使いっぽい方が良かったのですが……」
賢者の名前が嫌なのではありませんが、剣の才能が無いので攻撃魔法と魔法による強化のごり押しで魔王を倒した私からすれば知性よりも魔法の腕前が強調された方が嬉しいというか。……師匠が魔法を司る神ですし、ちょっと憧れていましたし。
「私は好きだぞ? お前の行いを賞賛した結果が賢者の称号なのだからな」
「父、凄く賢い! ティア、賢者で良いと思う」
「……あー、二人にそう言われたら心が揺れますね。凄く賢者で良かったと思えて来ました」
まだ少し迷いは有りますが、二人がそう言うのなら暫くは賢者のままで構わないでしょうかね? それにしてもシルヴィアは美しいし、ティアは可愛い。二人とも最高に愛しいですね。
「まあ、それはそうとして何時か同じ悩みを抱いた時の為に新しい呼び名を考えておこうと思うのですよ。どんなのが良いか一緒に考えて下さいよ、師匠」
翌日、私は師匠である魔法の女神ソリュロの所に相談に訪れていました。仲の良い神は他にも居ますが、頼りになるのは師匠ですからね。……多分暇ですし。
「いや、どうして私の所に相談しに来る? ……まさかとは思うが、私が暇だと思っているのではないだろうな」
「……まさか」
「取り敢えず先に言うが……呼び名やら異名は呼ばれる物であって、自ら名乗る物ではないのだぞ? それと後で久し振りに超激烈ハードコースで扱いてやるから覚悟しておけ」
……このロリ婆ぁ、本当に勘が良いから厄介なのですよね。イシュリア様は別の意味で厄介で面倒ですが。しかし、師匠は私がその程度の事も分からないとおもっているのですか……。
「大丈夫ですよ。ちゃんと賢者と別の呼び名の認識を入れ替えるだけで、相手は賢者と呼んでいると思いますから。……最初は自分の耳に変換して聞こえる魔法を使おうと思ったのですが、少し虚しい気がしまして」
「どっちにしても虚しくないか?」
「え? 虚しいですかね?」
神と人の価値観は別ですし、こうして偶にそれを感じるのですよね……。
「こうなったら神以外の知り合いに相談しましょうか」
「……あっ、うん。そうしろ。私は疲れた……」
不老不死でも精神が老けて……。
「死にたいか? 死にたいな? そうか、死にたいのか……」
「師匠は何時も外も中も若々しいですね!」
取り敢えず仲間の子孫の二人に……。
聖剣王イーリヤの子孫・現エイシャル王国国王ジレークの場合
「……まあ、賢者殿の悩みは分かったが、洗脳はどうかと思うぞ?」
ナターシャの子孫・ナターシャの場合
「私は賢者様のままで良いと思う。それより抱いて!」
どうも引かれたり相変わらずだったりと相談しても思った返答は頂けませんでしたね。
「……他の知り合いの何人かにも」
現聖女シュレイ・本名アミリーの場合
「……えっと、ノーコメントで」
仮面の公爵令嬢ことチスラ
「……私からは何も言えませんわね」
……どうも私は神に影響されて価値観が変わったらしい。話が合いませんね……。ちょっとだけ疎外感がありますし、家に帰って妻と娘に癒されましょう。
「しかし癒しと言えば動物ですね。ペットとして使い魔を創りましょうか。どうせだったら凄い能力の持ち主が良いですね。明日から早速素材集めをば……」
アンノウンのコメント マスターって未だに悩んでるもんねー




