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一生のお願い

もう直ぐ一周年!

「……ふんっ。まあ、及第点だな。これなら文句は言われまい」


 私の名はコルス。愛と戦……そして実は厄災すらも司ると伝わる女神イシュリア様の力によって誕生したレーン島に住まう戦士の部族フェリルの一員だ。狼の獣人の女だけで構成された我が部族はイシュリア様を崇め、教えに従い暮らしている。女神が力を使ってお与え下さったこの地を離れる事は禁忌とされ、従えた巨鳥のモンスターを相棒にして、その背に乗って外との交易と孕むまでの婿探しをする以外は島の中で狩りや漁をして暮らしているのだが、最近嵐に乗って本来ならば来られない余所者が島を訪れていた。


「……そろそろ約束の日だな。面倒だが、約束は約束だ」


 フェリルには幾つかの掟が存在する。例えば私はもう直ぐ十六になるのだが、誕生日を盛大に祝って貰った次の日は気に入った強者を探し婿にして、孕んだら一人で島に戻って来るという物。どうもこの島に存在するイシュリア様の力によって生まれた子は全て女となるらしい。……私の母の双子の姉は婿に選んだ男、確かレガリアとかいったのと共に生きる事を選び、レーン島に戻って来る事は無くなったがな。


 二つ目は島の中央に存在する洞窟に立ち入らない事。妖精が精霊に変わるのに適した環境らしく、影響を与えない為に入り口付近に選ばれた戦士が住み、他の者とは必要物資の受け渡しを少し離れた所で行うのだ。……だが、どうも最近は受け渡し場所に置いた物を回収場するが、受け取りに来た姿を目にした者は居ないとか。……掟故に見に行けぬが、今回選ばれた戦士の中には私の母が含まれている。歴代でも最強と称えられる母の心配を未熟な私がするとは烏滸がましい話だな。


「知られれば叱られるか……」


 母の怒った姿を想像した私は身震いしつつ口笛で相棒を呼ぶ。二つの頭と四枚の翼を持つツイーグルのクオ、私が幼き時から共に過ごした相棒だ。目の前に降り立ったクオの左右のクチバシを撫でてやり、そのまま魚を担いで空に飛び上がれば島の端で暮らす余所者達の住処が見えた。


「……ふん」


 この島に婿にした者であっても連れ込んではならぬ掟はあっても、勝手に来る事は禁じられてはいない。禁じていたならば直ぐに追い出しただろうさ。だが、意図せずに来たのならば洞窟に近寄らなければ無碍に扱ってはならぬと掟で決められている。まあ、海流やら上空の激しい気流やら、奇跡でも起こらぬ限りは来られぬ筈なのだが、子供だけでよくたどり着いたと思う。


 トゥロにカイ、そして楽土丸。幼く守られるだけの者とは違い、この三人はそれなりに力があるらしく、狩りで手に入れた獲物を使った物々交換に応じてやっているし、掟で男は相棒で運んでやれぬが女であるカイは構わない。私の誕生日が近いから、外に出る時に乗せる事になっていた。


 ……正直言って面倒だがな。だって、そうだろう? 婿にするのに相応しい男が二人島に居るのだ。わざわざ外で滅多に会えぬ強者を探すなど手間ではないか。掟とは言え、融通が利かない事が嘆かわしく、溜め息を吐けばクオが不思議そうに鳴く。


「キュ?」


「気にするな、クオ。少し面倒な事が有っただけだ。それよりも急いでくれ。前回は会えなかったから……気にするな?」


「……キュゥウウ?」


 さて、今日は物々交換に来る日だから早く帰ろう。前もトゥロだったそうだが会えなかったし、今回も来て欲しいものだが。……所でクオ、その妙な鳴き声は何が言いたい? ……今夜は久々に鍛えてやるか。





 今、何か嫌な予感がしたっ!? 僕はクオ。大好きな家族のコルスを乗せて飛んでいたんだけれど、少しからかったら怒らせちゃったみたいだってコルスったらトゥロって奴の事が絶対好きだもん。この前だって罠を作ってる所にいったしさ。


「……見てられんな。ほれ、貸して……いや、私がお前の為に罠を仕掛ける必要性は存在しない。教えるから一回で覚えろ」


 こーんな風に言ったけれど丁寧に教えて、色々理由を付けて他の罠まで時間を掛けて教えたんだもん。島に来た妖精さんはツンデレだって言ったけれど、ツンデレってどういう意味だろう? コルスみたいに面倒見が良い子の事なのかな?


 コルスはね、凄く優しいんだ。乱暴で偉そうな言葉遣いだけれど人助けを沢山しているし、皆も分かってくれているからコルスが恥ずかしくならない様に優しい優しいって正面からあまり言わないよ。皆も優しいよね! 


 だからコルスの周りは人が集まるし、鬱陶しいとか僕さえ近くに居れば良いって言うけれど、頼りにされた後はこっそりニヤニヤ笑ってるよ。もっと自分から皆の所に行けば良いのにさ。僕と同じくフェリルの人達と組んでる仲間は僕を羨ましがるし、凄く自慢なんだ。僕、コルスが大好きだよ。コルスの為だったら何だって出来ちゃうんだ。


「キュウ!」


「ん? 腹でも減ったか? ほら、一匹やろう」


 えっとね、好きだって伝えたのに伝わらなくて残念だな。でも、コルスがくれるお魚は美味しいから嬉しいな。僕達ツイーグルは人間と寿命が変わらないし、このままずっとずっと一緒に居たいよ。だからね、コルスに何か起きた時は僕が絶対守るんだ! 頑張るぞ!!


「キューイ!!」


「そんなに美味しいか。そうか、それは良かった」


 ……うーん、僕はコルスの言葉が分かるけれど、コルスにも僕の言葉が通じて欲しいな。神様、一生のお願いだから僕とコルスがお話出来るようにして下さい。








「……やれやれ、あの勘違いストーカーの馬鹿女の所の様子を見に行かなくてはならず憂鬱だというのに、主の(メェ)の邪魔をしないで貰いたい」


 どうしてこんな事になったんだろう。皆、コルスの誕生日を盛大に祝ってくれて、外に交易に行く人達と一緒に島から旅立ったんだ。これからどんな事が待っているんだろうって期待と不安を僕だけじゃなくてコルスも感じていたのが伝わって来たよ。


 でも、他の皆は死んじゃった。空から降って来た黒い槍が皆の全身に突き刺さって、皆は死骸になって海に落ちて行く。僕と、僕の背中に乗っているコルスとカイだけは無事だけれど、カイは初めて見る奴に捕まっていた。山羊の頭を持つ変な奴。見ているだけで心がザワザワして、多分皆を殺した犯人なのに言う事を聞かなくちゃ駄目な気がして凄く嫌だった。


「くっ! 其奴を離せっ!」


「無理ですよ。この子はとびっきりの素材になり得ると主が欲していましてね。では、さようなら」


 グッタリして動かないカイを抱えたまま山羊頭はコルスの剣を指先で弾いて僕の背中から飛び降りる。そして一瞬で消え、代わりに空一面に皆を殺した黒い槍が現れたんだ。


「っ! 逃げるんだ、クオォオオオオオオ!!」


「キュイ!」


 そうだよね、君は優しいからそんな行動に出るよね。コルスは迷い無く荷物と共に僕の背中から飛び降りて、僕を身軽にしようとする。でも、君ならそうするって分かっていたんだ。だから、君を絶対に殺させない。僕は直ぐにコルスの下に回り込んで全力で飛ぶ。駄目だよ、コルス。僕と君はずっと一緒なんだ。だから、僕は君を絶対に死なせない。死なせてなるものか!


「……馬鹿者が。私を見捨てれば良いのに……」


 僕には頭が二つ有るから、片方は前を向いて、もう片方は上を向く。こんな速いだけで上から落ちて来るだけの槍だなんて、不意打ちじゃなかったら避けてみせるさ。槍は時々翼や体を掠り、凄く痛いけれどコルスには絶対に掠らせもしない。避けて避けて避けて、足が一本駄目になって、翼も一枚穴を開けられたけれど、何とか空に槍が無くなった。助かった……。えへへ、怪我の治療が終わったらコルスに沢山遊んで貰うんだ。




「がはっ!?」


 ……え? どうしてコルスが血を吐いているの? あれれ? 視界が変だ。グルグル回って、それにとっても苦しいや。槍を受けた所から変な煙が出ているけれどもしかして……毒? 僕の、僕のせいだ。あんな槍を全部避けられない位に弱いから。だからコルスが苦しんで……。


 コルスは突っ伏して何も言わない。息の音も聞こえない。僕も前が全然見えないや。頼りになるのは翼で感じる風だけ。絶対に、絶対にコルスだけは死なせない。


 全身がバラバラになる位に痛くても、穴の開いた翼が千切れても僕は飛び続けた。そんな時、下から凄い力を感じて、見えない目には頭が七つ有る獣が見えたんだ。怖い、直ぐにでも逃げ出したい。でも……!


「キュィイイイイイッ!!」


 僕はコルスが死んじゃう方が怖いんだ! 絶対にコルスを落とさないように下に向かう。風が教えてくれたんだ。獣の近くに沢山の人が居るって。だから少しでも興味を持って貰えるように何かに体当たりして、そのまま僕は島がある所に落ちた。えへへ、最後までコルスは落とさなかったよ。





 ……神様、一生のお願いを変えます。僕は死んでも良いからコルスは助けて下さい。どうか……お願……い……。

 

アンノウンのコメント  当たり屋だったかぁ

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