ツンデレとロリコン 人助けに行く 下 ロリコンの戦い
202話 閑話 見えないだけで…… 切れていたので修正です
「ピョーンピョンピョピョピョーン! ぶっ殺すピョーン!」
頭上から聞こえて来た知性を感じられない喋り方に一瞬だけ意識を向けてしまった黒子だが、直ぐ様に意識を飛びかかって来たコウモリの翼を持つ兎へと向け、ナイフで喉をかっ切る。バニーバット、兎そっくりの体を持ち、陸上でも身軽に動くコウモリのモンスターは脱走者の見張りの為に砦付近に数多く放たれていたが、今は黒子が背中に庇う少女を狙って集まっていた。
「ひゃあ!」
思わず頭を抱えてうずくまった彼女に鋭利な牙を突き立てようと向かって来たバニーバットは黒子の蹴りを正面から受けて首の骨を折り、空中で回避が不能な黒子に向かって数匹が襲い掛かるも、黒子はナイフを空中に投げて身近な二匹の翼を掴んでへし折り、そのまま正面から向かって来た仲間にぶつける。衝突して動きが止まった時、落ちて来たナイフを掴んだ黒子が着地し、その真下を滑るように駆け抜けざまに切り裂いた。
仲間が次々にやられた事でバニーバットの動きが止まるが、少女と黒子を襲えと指示を出したラビトから追加の命令が下されない。周囲を無数の翼を持つ敵に囲まれた黒子は少女の守りを優先して果敢に攻め立てる事は出来ず、ラビットバット達も向かって行く度に数を減らして行くので怯えてか威嚇しながら隙を窺うばかり。硬直状態に陥った戦いは暫く動かないままに思えたが、思わぬ横槍が入った。
「この愚か者めがっ!」
「!?」
飛んで来た拳大の石を殆ど動かずに避けた黒子だが、内心は激しく動揺している。彼に向かって石を投げたのは助ける対象だった筈の中年男性。怒りで顔を真っ赤にし、鼻息荒く怒鳴り散らす。
「余計な真似をして魔族を刺激しよって! 貴様が気でも狂ったのか無駄に守っている獣共なら兎も角、高貴なる我々にまで怒りが向いたらどうしてくれるのだ!」
「?」
続けて石が四方から投げられる。投げたのは怒鳴った男性と同じパップリガの貴族達。突然現れた黒子達の行為が藪蛇だと憤り、獣人への侮蔑を口にしながら次々と石を投げ続ける。まるで自分達は黒子達の敵だとアピールするかのようで、実際そうであった。
突然現れた黒子とキグルミの不審な二人組が多くのモンスターを率いる魔族に勝てるとは思っていないのは無理ではないだろう。だから自分達は黒子の敵だとアピールし、終わった後で怒りを向けられるのを阻止しようと一致団結していた。そもそも彼等には獣同然と見下す獣人の少女を庇うという思考に行き当たらず、故に偶々近くに居るだけで黒子が弱いから硬直状態にあったと思っているのだ。
「……」
その蔑視が、その思考が、その怒りが黒子には理解不能だ。だから彼等が少女を守るという思考に行き当たらないのと同じで、黒子も彼等がその様な思考をしているとは思わない。故に何が起きたのか分からず、固まった所にラビットバットが殺到する。
「……助けて」
「!」
少女が震えながら黒子の服を掴んだのはその時だ。絞り出した声に黒子の迷いは消え失せ、少女を抱き上げて真上に跳ぶ。真下には一斉に密集し、上に居る黒子が無防備に落ちて来るのを待ち構えるラビットバット達。その中心に向かって黒子は片腕を伸ばし、掌から紅蓮の電撃が迸った。
無数に枝分かれした電流はラビットバット達を貫いて身を焼き焦がし、一匹残らず息絶えて転がった上に黒子は着地する。周囲に視線を向け、残りが居ないと判断して一安心した時、木材を振り上げた男達が襲い掛かって来た。
「貴様ぁっ! さては獣人共を助けに来たな!」
「我々だけをひっそりと避難させれば良い物を、危ない目に遭っていたからと獣を優先するなど許せんっ!」
流石に今の姿を見れば黒子が少女を助けるべく動いたのは分かったのか、今度は派手に登場した事に憤り罰を与えるべきだと結論付けたらしい。今度も黒子はその思考が理解不能で、木材をその身に受けた。咄嗟に少女を庇い余計な物まで受けた事が気に食わないのか貴族達の怒りは更に燃え上がって木材が再び振り下ろされる。
魔族の指示が無くなった状態。切り裂かれたラビットバットから漂う血の香り、そして驚異となる者を巻き込んだ馬鹿な諍い。狂暴さと同時に冴え渡る野生の勘を持つそのモンスターはその隙を見逃したりはしなかった。
「グルルルル……」
「シャァアアアアッ!」
海から数体の魚影が飛び出した。ギラギラ光る血に飢えた瞳にビッシリ生えた鋭利な歯、そして鋭い背鰭を持つ鮫だ。だが、只の鮫が海から地上に飛び出しはしないし、唸り声も上げはしないだろう。前後二対、併せて四本の兎の足が生えた水陸共に活動可能な鮫、兎鮫である。
同時に砦から離れた場所から軽快に飛び跳ねながらやって来たのは猿に近い形の大柄で逞しい持つ二足歩行の兎、ゴリラビだ。此方も叫び声を上げ、胸を激しく叩くドラミングと呼ばれる行為で黒子を威嚇していた。
バニーバットと併せて砦を建設する奴隷達の見張りであるが、本来は本能的に人を襲うモンスター。ガス抜きに大人に選ばせたターゲットを追い掛けさせる遊びや逃げ出した者を狩る許可をラビトから与えられてはいたが、どうしても生殺しの状態が続いてしまっている。
バニーバットが突然現れた強敵の手で全滅した事と濃厚な血の香り、何よりもラビトがレリックの相手に集中して命令系統が機能しない事がモンスター達を興奮させ、暴走へと導いた。今は命令ではなく抑え続けた殺戮本能で動く暴走状態。ターゲットは当然この場にいる者全てだ。
「に、逃げろ!」
「邪魔だ! その辺で転がっていろ!」
この危機的状況に真っ先に逃走を選択したのは高貴で気高い貴族達。泡を吹きそうな程に動揺し、ドタドタと慌ただしい足取りで駆けて行った。逃走ルート上の子供を突き飛ばし、それによって転んだ子供を踏み越えて進む。
その姿に黒子は理解した。話には聞いていたが、獣人を獣扱いするという考えの持ち主がどんな者達なのか、激しい憤りと共に理解してしまった。
「ひぃ! ひぃ! どうして私がこんな目にっ!?」
脂汗を流しながら逃げ惑う彼は、今この島で生き残っている貴族達は自分の身に命の危機が迫るとは夢にも見ていなかった。別に連れて来られてから死んだ貴族が居なかった訳ではない。逃げ出そうとしてモンスターに殺された者、彼らからすれば異常で他の世界の者からすれば正常な価値観を持ち、獣人の子供達の扱いに憤った者はモンスターに追われるターゲットに選ばれた。生き残っているのは逃げる気概も無く、獣人の子供達から搾取するのに疑問も躊躇も感じない者達だ。
雨風を防げる場所に住み、子供達と分け合えば少々物足りない量でも自分達が満腹になるまで食べ、危険な仕事は獣と蔑む子供達に押し付ける。魔族はそれを知って何も言わない。逆にモンスター達に狩らせる遊びの為のターゲット選びをさせるなど、生殺与奪の権利すら与えて貰え、ストレス解消に子供達に暴行を加えるのも楽しかった。
だから自分が生き残る為に迷い無く目の前の子供を突き飛ばして転ばせようとし、その子が思わずしゃがんだ事でバランスを崩して倒れ込む。その際に鋭く尖った石で足を深く切ってしまうオマケ付き。自業自得としか言い様が存在しない彼を見捨てる等、どの様なお人好しでも見捨てるだろう。なにせ子供を犠牲にして助かろうとした外道だ。
「シャァアアアッ!」
「ひわっ!?」
そんな彼に大きな口を開いた兎鮫が迫る。足を深く切って動けない彼は咄嗟に犠牲にしようとした子供に手を伸ばすが既に手の届かない場所に逃げていた。
「き、貴様ぁ! 獣の分際で私を見捨てるとは死に値するぞ! 戻って来んかぁ!」」
唾を飛ばして子供を呼ぶが、今までの仕打ちな上に今しがた何をしようとしたのか忘れたか、そもそも問題が有ると思ってもいなかったのだろう。彼にとっては当然の事なのだ。
「私はっ! 私はこの様な所で死んで良い人間ではない! 私は白神家の……」
この様な状況になっても彼は自分の行動の善悪を疑わない。例え彼が善良で、そして社会的地位がどんな物であってもモンスターには無関係にも関わらず、地位が盾になる筈もないのに。
兎鮫の大きな口が迫り、手元の物を投げても当然効果は薄い。そして息が掛かる程近くに迫った時、黒子が間に割り込んだ。
「!」
次々に迫る兎鮫やゴリラビ。数が多く、その勢いは雪崩の如し。それでも黒子は一歩も引かず、逃げ出した者を追うモンスターも相手取ってその場の全員を守りきった。
黒子姿なので外側からでは怪我をしているかも分からない。バラバラに逃げ出した者を守りながらの戦いだったので攻撃を何度も受けている。酷く疲れているのは顔が見えない状態でも見て取れた。
「よくやった! このまま魔族も倒せば褒美にくれてやろう! そうだな……好きな獣人を持って帰って良いぞ! 躾を少ししてやったし、役に立たないのは処分する予定で全て連れて帰るが、働きには褒美をやらねばな!」
この時になって貴族達は黒子の力を認め、口々にこの様な事を告げて来る。さも光栄だろうという感じで、黒子が耳を疑う内容を当然のように語る貴族達に黒子の憤りは更に激しくなって行く。
「……」
その後ろ姿を獣人の子供達が見詰めている。皮肉にも彼等と同じくラビトの支配から解放される可能性を感じていて、故に今まで通りに大人しくしている必要は無い。各自の手元には建材や石やら武器となる物が握られている。
「安心しろ! 獣共は私達に従順だ。自分達の立場を理解しているし、獣にしては賢いぞ。まあ、私達の躾の腕が良いからだな! ハッハッハッ!」
獣同然と見下し、どの様な扱いをしても反撃して来ない子供達がその様な事をしようとしているとは思っても見なかった。
アンノウンのコメント だからさあ……食っちゃっても良い?




