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賢者の誤算

「皆様、これがお約束の品。妖精鉱石ティターニアです。どうぞお受け取り下さい、レリック様」


 あの後、何とか諸々の問題は解決したわ。賢者様はパンダを撫で回す事で癒されたらしく少し元気になってくれたの。アンノウンはアニマルセラピーって言ってたわ。私なら全く癒されない自信すら有るのだけれど、絶対に気のせいじゃないわね。


 そして私に試練を先に突破された事で拗ねた上に、私が余計な事まで言っちゃったから余計に機嫌を悪くしたレリックさんも、宥めて煽てて誉めてあげれば簡単に機嫌が直ったのは助かったわ。アンノウンに耳打ちされた内容を言ったのだけれど、本当にこんな時には役に立つんだから。でも、お兄ちゃんと呼んで頼りにしたい人一位、って言ったのが一番効果が有ったのは正直言って……。


「キ……」


 思わず本音が口から漏れそうになったけれど、残り二文字を口にするのは何とか防ぎ、ついでに目の前の現実に目を塞ぐ。視覚情報を一切防いだから私は何も分からないわ。人の頭程度の大きさの鉱石をレリックさんに渡すヴェロンさんが自分にリボンを巻いている事とか、目が完全に何処か彼方を向いている事とか、レリックさんだって私に助けを求める視線を向けていた気がするけれど、今の私は何も見ていないから何も分からない。


「さあ、お受け取り下さい。全て旦那様の物です。ティターニアにも、勿論私も……」


「お、おう……。ティターニアは遠慮せずに貰っとくな」


 レリックさんったら現実から目を逸らしているわね。声で分かるけれど、ヴェロンさんには伝わっていないみたいで良かったわね。彼女、自分はレリックさんの物だからって同行しないわよね? 恋よりも立場と仲間を優先するわよね?


「私も同行します………と言えない不甲斐無さをお許し下さい」


「そ、そうか。う、うん、残ね……いや、それが良いだろう。お前には大切な役目が有るもんな。俺もそれを誇らしいと思うぜ」


 ……良かった! 本当に良かった! ヴェロンさんは今にも泣きそうな声だけれど妖精郷に残る事を選んだみたいだし、レリックさんも残念とか言いそうになったのを言い直してくれたし。多分残念って言ったらヴェロンさんの背中を押して、自分の背中を奈落の底に突き飛ばす事になるって判断したのね。


「……でも、ご安心下さい。必ず時間を見付けて会いに行きますし、周囲に一度は夢の中に出ますし、世界を救った後で必ず迎えに行きますので結婚式を妖精郷で挙げましょう」


 レリックさん、もしかして逃げ場が無い? 無いわよね、これは。うん、可哀想。自分から飛び込まずに済んだ奈落の底に引き吊り込まれたもの。えっと、ヴェロンさんは美人だし恋仲の間は楽しそうとでも言って励ますべきかしら? でも、恋愛経験の皆無な私が何を言っても説得力が無いわよね……。


「……あっ、賢者様に栞を見て貰いましょう。何か特別な品かも知れないもの」


 取り敢えず夢に出たりするのは賢者様から適当な理由で止めさせて貰いましょう。旅に集中する為ってドン引きレベルの信仰心の対象が言えば大丈夫よね。うん、本当に賢者様って頼りになるわ。こういった面倒事では特に!


 ……後はドン引きするレベルの身内への甘さがどうにかなってくれれば良いのだけれど。せめて人前で甘い空気を醸し出すのは勘弁して欲しいわ。


「無駄でしょうけれど……」


 行きは船だけれど帰りは転移。帰るなり女神様とイチャイチャする賢者様の姿がハッキリと浮かぶし、三百年物のバカップルが今更どうにかなる筈が無いわよね。


「……はぁ」


 私、未だ十一歳なのに溜め息が多いわ。今は大丈夫だけれど、白髪が銀髪に混じらなければ良いのだけれど。その場合は賢者様に責任取って貰って元に戻して貰わないと駄目ね。


 そんな事を心に誓っている間に賢者様はヴェロンさんのストーキング行為を何とか説得で阻止し、少し焦った様子で転移を行う。さて、ティターニアを手に入れたし、次はディロル様の所に向かうのね。先に女神様に会いに戻りそうだけれど。





「ふぅん。あの子も随分と腕を上げたんっすね。弟子の作品に手を加えるのは自分の流儀に反するけれど……まあ、子供に世界の命運を背負わしてる側が言うべき事じゃ無いっすね」


 あの後、一旦休もうと賢者様は言ったわ。あの試練で魔族が乱入して疲れているだろうからって言ってたけれど、私は半分は自分の為だって思っているわ。早く女神様とイチャイチャしたいけれど、私みたいな子供に勇者をやらせているのに自分の都合を優先させられない。だから自分を誤魔化せる理由を付けようとしたのだろうし、私だって疲れているから言葉に甘える事にしたのだけれど……。


「まさか先にこっちに向かってるとはな。……禁断症状はマジで大丈夫か?」


 そう、拠点にしている馬車の中のリビングの机には置き手紙が有って、どうせ向かうだろうから先にディロルと打ち合わせをしてくるって内容だったのよ。女神様も自分が行きたくないからって留守番をしているのも気が咎めたのね。そして今に至って、ディロル様の工房でレリックさんのグレイプニルとティターニアをディロル様に渡した所よ。


「「……」」


 尚、賢者様も女神様も流石にこの場面ではイチャイチャを自重しているのだけれど、既に一日以上会っていない時間が過ぎているから直ぐにでも相手を抱きしめたいって様子だわ。それなのにディロル様の話が長くって、今はグレイプニルを造ったドワーフさんがどんな人で、どんな理由で人里離れた場所に工房を拵えたのかを話しているの。


「……ふっ」


 あっ、二人の方を見て笑ったわ。えっと、もしかして故意に話を長引かせているのかしら? でも、一体どうして……あっ。


 私は今、ディロル様がどんな女神様なのかを思い出したわ。神の力を封印して地上に来てまでドワーフさん達に鍛冶の技術を叩き込んでいる親方さんで、確か結婚どころか恋人すら……。


「……」


 今、確かに目が合って、無言で喋ったら駄目だって告げられた。さて、黙っておきましょうか。それに私って今だけ物忘れが激しいから何を考えていたかも忘れちゃったのよね。そんな事よりも私はディロル様の手元に視線を向けていた。ディロル様の手の中のティターニアは僅かに光だけの石だったのに、少しハンマーで叩いただけで眩く光る物体へと変化をして行く。これがティターニアの本当の姿なのね。





「じゃあ、グレイプニルは自分が預かるっす。期待して良いっすよ。ゲルダちゃんのデュアルセイバー同様に勇者の仲間に相応しい最高の武器に打ち直してみせるっすから」


 ディロル様は自信満々に告げ、その姿に私達は一切の疑いなんて持っていなかったわ。



アンノウンのコメント 根本的解決はしてないぜ、レリッ君!

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