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勇者への試練 ②

 空から地上に向けて降り注ぐその風は、吹くと言うよりも叩き付けると言い表す方が正しかった。まるで目には見えない巨人の腕が振り下ろされたみたいに水は押しやられ木々はへし折れ、そして地面は陥没する。咄嗟に飛び退いて躱した私が空を見上げれば黄色い髪をした勝ち気そうな女の子が私を忌々しそうに見下ろしていたわ。


「なんだよ、死んでねぇのかよ。鬱陶しいな、チビが」


 首に手を当ててゴキゴキと鳴らしながら吐き捨てる彼女が起こしたであろう風は周囲の霧を晴らし、それで普通に利くようになった私の鼻がもう一人の存在を告げる。吹き飛ばされた木に額を打たれて涙目になっているのは私がブリエルに来た直後に戦い、倒したと思っていた相手。只、あの時と違う所が一つ。


「……狸?」


 メイド服のスカートからはみ出した太い尻尾やカチューシャの横の耳は確かに狸の物ね。私は作物は少ししか作っていなかったけれど、お世話になっていたトムさんの所は畑を荒らされたりしたそうだし、私も子羊を襲われそうになった事が有る。結局親羊に追い掛け回されていたけれど。


「うう、痛いよぉ……」


「何やってんだ、ウスラトンカチ! 心臓が潰れても良いけど頭はちゃんと守れ、頭は!」


「……飛ばしたのは飛鳥」


 少し赤くなっている額を押さえて涙目な彼女に空中の子は怒鳴り散らし、ブリューは呆れたみたいに呟いている。仲が良いのか悪いのかって感じね。友達かぁ。私、村にそんなに同年代の子が居なかったから友達少ないのよね。意地悪してくる悪戯小僧は居たけれど、私は彼奴が嫌いだし。妙に構って来たのは鬱陶しかったわ。


「って、何で三人同時に来ているの!?」


 そう、変なのよ。普通に考えて数で押すのも連携で力を底上げするのも普通なのだけれど、魔族が相手を敵と認めた場合は名乗りを上げての一騎打ちを絶対の誇りにしている。それはどんな嫌な性格の相手でも同じだったのに、ブリューが名乗りを上げた後で別の子が攻撃を仕掛けて来るのは誇りに反する行為じゃない! まさか一騎打ちを三連続で行うとでも言う気なのかしら!?


「え、えっと、三対一で確実に仕留める為……だっけ?」


「こら、美風ぇ! んな程度の事を自信無さげに言ってんじゃねぇよ! 只でさえ馬鹿丸出しだってのに、更に馬鹿だって思われるだろ! 私達も同類だと思われたらどうするんだ!」


「そ、そんなぁ……」


 ……また喧嘩している。一応私を勇者と理解した上で襲って来たのよね? 賢者様が言うには魔王は例外で、今までその事が破られた事は無いらしいのに。


「……隙有り」


「っ!?」


 背後から横に振るわれたブリューの爪を屈んで避けて、そのまま腹部に拳を叩き込むけれど体をすり抜ける。一体何で!? 実は本当の体と見えている姿が違うとか?


「兎に角色々試すしかって、わぁっ!?」


 私の周囲には何時の間にか大量の木の葉を巻き込みながら動く旋風が四つ。葉っぱはピクシアの物なのだろうけれど、それに触れた木がスパスパ切れちゃってる。


「風を起こして操るのが能力かしら?」


「惜しいな、貧乳チビ! 私の能力はそれだけじゃねぇんだよ!」


 最初の上空からの風もそうだけれど、目の前のこれも風による攻撃。なら空の上から私を狙っている彼女の力は風の操作だと私は予想を立てる。でも、荒々しい声と共に彼女が葉団扇を振るうと周囲を煌々と照らす巨大な火の玉が現れた。


「燃え尽きな! 天狗火(てんぐび)!」


 私の周囲の旋風は私を逃がすまいと包囲網を狭め、ブリュー達は咄嗟に飛び退いたけれども、メイド服のスカートが木に引っかかった彼女が仰向けに転ぶ。咄嗟に起き上がろうとするけれど、私が彼女に向かってレッドキャリバ-を投げつけた。


「ひゃっ!? ポ、ポンポコリン!」


 最初に戦った時と同じく彼女が葉っぱを摘まんで何かを唱えれば、煙と共に葉っぱが巨大な鉄の盾に変化する。あれで火の玉もレッドキャリバ-も防ぐ気なのね。横回転しながら向かって来るレッドキャリバ-を見る彼女は少し安心して見えた。


 でも、甘いのよね。私が苦し紛れに鈍器を投げただけとでも思ったのかしら?


「魔包剣っ!」


 叫びと共に切れない刃は魔力の刃に包まれて鈍器は刃物へと変わる。呆気に取られて動きが止まった彼女に刃が迫り、分厚い盾と一緒に胴体を深く切り裂いた。


「うあっ……?」


 自分に何が起きたのかを理解しないまま彼女は水の中に沈み、火の玉は目前まで迫っていた。四方は無数の刃と化した木の葉を包み込んだ旋風に囲まれて逃げ場は無いわ。なら、どうやって切り抜ける? 簡単よ。上に行けば良いじゃない。


 ブルースレイヴを振りかぶり、躊躇無く火の玉に迫れば足元で四つの旋風がぶつかり合う音。目の前は目も眩む程に明るく輝く火の玉で、触ったら火傷をしそう。つまり私にとっても格好の武器ね。


「たぁっ!」


「無駄だ! 殴っただけで私の天狗火が跳ね返せるかよ!」


 得意そうに笑うけれど、どうやら情報共有がされていないのね。まあ、あのアンノウンとは別方向に性格が悪そうな奴だし、部下に情報を流さないのかも知れないけれど。


「地印……解放!」


 火の玉に向けて空中での全力のフルスイング。勿論これだけじゃ跳ね返すのは無理よ。でも、このブルースレイヴの力が有れば話は変わる。火の玉に浮き出る青い魔法陣。真下に向かって降り注ごうとしていた火の玉は落下速度を遙かに上回る速度で術者の方へと帰って行った。


「げぇっ!? ご、轟水!」


 咄嗟に正面から水が放たれるけれど、その天狗火って自信を持って放った技なのよね。だからほら……咄嗟凌ぎの技なんて突き抜けちゃう。少し威力は下がったみたいだけれど、火の玉は放った張本人を飲み込んで爆発した。


「ギャァアアアアアアアア!!」


「飛鳥!」


 初めてブリューが感情を見せる。爆発する火の玉に包まれて悲鳴を上げる仲間を見て声を上げる彼女の意識は上に向いていた。私が着地しても僅かに視線を向けるだけ。そうよね。種は分からないけれど攻撃を無効化出来るのだもの。でも、こんな攻撃はどうかしら?


 さっき投げつけて地面に刺さったレッドキャリバーは彼女の背後で水中には赤い魔法陣。ブルースレイヴの地印が反発なら、レッドキャリバーの天印の力は引き寄せ。そして既にマーキングは済んでいる。水中に転がっていた拳大の石がブリューに向かって飛ぶ。


「……え?」


「当たったっ!」


 石はブリューの腹部に当たり、勢いで背中から川に倒れ込んだ。突破口、開けた!


「……このまま二人を何とか倒せば。っと、危ない危ない」


 再び上空から吹き荒れる暴風を避けて空を見れば少し服と体が焼け焦げているけれど未だに戦意が衰えていないのか私を睨んでいた。




「二人? ああ、そうか。お前、美風を倒した気でいるんだな」


「ぐっ!」


 横から伸びて来た拳をブルースレイヴで受け止めるけれど、咄嗟の事だったので数歩後退させられる。新手かと思って相手を見た時、私は思わず声を漏らした。



「何……で……?」


 私に拳を叩き込んだ相手。それは私が倒したばかりの相手だった……。


 


アンノウンのコメント シリアス……ギャグはさめない

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