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ツンデレ、ヤバいのにに目を付けられる

 俺、偶に呪われてんじゃって思う時が有る。呪って来る相手に心当たりが有るし、仕留め損ねた時の為にってとうの昔に呪われてた可能性が否定出来ないからな。


 例えば、こっそり侵入した王城で第三王女を押し倒して唇を奪ったり、偶然飛び込んだ先で賢者様の養女の水浴びを見ちまったり、十年近く経って漸く会った妹の胸や尻を触っちまったり、もう沢山だぜ。


 あっ? 羨ましいだ? あのな、そんな事言う前に考えろや。王族が住む城に侵入した挙げ句に第三王女を襲ったみたいな状況に陥ったり、信仰対象が溺愛している娘の裸を偶然目撃しちまったり、実の妹っつってもその事は黙ってんだぞ? 事故であろうがなかろうが、信じて貰えようが貰えまいが、普通に死ねるだろ。社会的にも物理的にも。だから今の俺は運が良いのか悪いのかって話だよ。妹の件以外は俺が自分から殴らせた以外は幸運にも無事に済んでいるからな。そんな事態に陥る事が不運っちゃ不運だがよ。


「……言葉も交わしていないのに大胆なお方。でも、それ程までに私を求めているのですね」


 だがな、そんな俺も不幸は続くが運は尽きちまったらしい。妖精郷に到着するなり魔法で女装させられた俺は逃げ出し、前をちゃんと見ていなかったから蹴躓いて勢いそのままに前に飛んだ。そのまま地面に倒れるだけなら平気だが……居たんだよ、前に。綺麗なドレスを着た巨乳の美女がな。ありゃメロンでも服の中に入れてんじゃってレベルだったぜ。


「げぇっ!?」


「……え?」


 避けろと言う暇もなく、俺の体はその女に向かい、伸ばした右手の先が右側の襟を掴んで真下に引き裂く。ブラを着けてなかったらしく是非揉んでみたい見事な胸が露わになり、左手は破れていない側を正面から掴んだ。後はそのまま倒れ込み、俺の唇に触れる女の唇。……今までで最大にやっちまった。


「……うん? お前って……女王だよな?」


 俺は口ではそう言うが、肯定されると分かっていながら否定されるのを望む。倒れ込む前に見えたのは女の背中に生えた金色に輝く妖精の羽。そんな羽を持ち、尚かつ俺と同サイズ。その事実が俺に気が付きたくなかった現実を突きつける。だってよ、普通に妖精は小さいんだ。人間サイズなのは只一人だけ。


「……はい。私こそが今代の妖精女王のヴェロンですわ、旦那様」


「……うん? 旦那様?」


「ええ、その通りです。私に一目惚れした貴方は我慢の限界を超えて襲い掛かった。でも、私はそれを受け入れましょう。私も貴方に一目惚れしたのですから。ふふふ、どんな方と夫婦になるのかと不安でしたが、今のタイミングで妖精郷にお越しという事は勇者様である少女の仲間なのでしょう?」


「……ああ、そうだ」


「矢っ張り!」


 一瞬びっくりしたが、基本的に許可が無いと妖精郷には来れねえし、そもそも事前に連絡してから来てるっぽいし、俺の立場を見抜かれて当然か。別に否定する理由も無く、俺は素直に認める。後から悔やんでも遅いんだが、俺はちゃんと何を肯定しているのかも口にすべきだったんだ。女は……ヴェロンは俺の言葉を聞くなり嬉しそうにそして陶酔したみてぇな顔でこう言い放った。


「良かった。万が一にも事故だったらと思ったのですが、私の思った通りに互いに一目惚れをした結果なのですね。なら、何も迷う必要は有りません。今日から、いえ、今から私達は夫婦です」


「……うん?」


 いや、ちょっと待てっ!? この女、いったい何を言ってるんだ!? 俺は困惑し、思わず口に出た言葉で全てが終わる。


「好き好き大好き、愛しております、旦那様!」


 駄目だ、自分の世界に入っちまってる! 俺は悟る。目の前の女は今まで会った中で最もヤバい奴だってな。……俺、絶対に呪われてるだろ。俺にゾッコン、心酔してますって表情のヴェロンの中じゃ既に俺は夫らしい。このままトンズラこきたいが、目的の為には無理だよな……。


「あら? 旦那様、少しご様子が。まさか私をお嫌いに……なるはずが有りませんね。だって私達は運命によって結ばれた夫婦。こうして勇者の仲間と妖精の女王として出会ったのも愛の女神イシュリア様のお導きでしょう。早速捧げ物……いえ、生け贄を……」


「ま、待て! 賢者様が来てるんだし、会って話してから決めても遅くないだろ!?」


「でも、それじゃあ遅くありません? お伺いを立ててから用意してお待たせするのは不敬な気が……」


 生け贄なんて今時時代遅れも良い所の発想が出るたぁシルヴィア様が来るのを渋る筈だぜ。真しやかに囁かれる伝説。妖精の信仰心は重過ぎる。妖精と関わる奴自体が少ないし、文献だって信憑性が薄いが、それでも妖精に関する話を集めていたら結構な割合で出て来るんだ。狂信者みたいだってな。


 俺はどうせ面白可笑しく話をでっち上げただけか、偶々狂信者と出会っただけで全員がそうだと勘違いしただけと思ってたんだが、どうやら本当の話だったらしい。自然に口から生け贄って話が出るんだからな。


 ……ん? あれ? 俺ってそんな狂信者な上にイっちゃってる女に将来を誓い合った仲だと思い込まれているって事だよな?


「……」


「そんなに見られたら照れますわ。でも、愛しい方が望むならこの場で一糸纏わぬ姿になる覚悟は御座います」


「いや、大丈夫だ。脱がなくて良い」


「えっと、着衣のままの方がお好みですか? ……っと、いけません。女神シルヴィア様の伴侶たる賢者様や勇者様をお待たせしては妖精郷を滅ぼしてお詫びしても許されざる事です。では、早速向かいましょう。その前に……」


 ヴェロンは胸の谷間に挟んでいたらしい小さな魔本を取り出して詠唱をする。妖精独自の言語なのか詳しくは聞き取れなかったが、確か他の妖精が俺にピンクのフリル付きの服を着せた時の魔法と似た詠唱だな。詠唱が終わると俺とヴェロンの体が光り輝いて服が別の物に変わっていた。白いタキシードとウェディングドレス、しかもブーケ付きだ。


「では、参りましょうか」


「……ああ、そうだな」


 最早止める気さえ起きねぇ。俺、本当に呪われてるんじゃないのか? 俺の腕に自分の腕を絡ませて歩き出したヴェロンの横顔は綺麗だが、それだけに目が怖かった。結婚は人生の墓場だって聞いた事が有るんだが、俺ってこのままじゃ何時墓場に送られるか分からない相手と結婚させられそうになってんじゃねぇのか? 酒の席でちょっと神を侮辱したら友人だった妖精が襲って来たって話があるんだが、マジじゃないかって思えて来たぜ。い


「私達、絶対に幸せになりましょうね」


 そんな嫌な予感がしながら一緒に歩く時、俺はきっと死んだ目をしていたんだろうな……。





「……ふぅん。遭遇するなり服を破いて押し倒してキスしたんだ。へぇ~」


 そして今、俺はゲルダに蔑んだ視線を向けられている。事故だって伝えようとは思ったんだ。だが、惚気話のノリでヴェロンが話し出してな。


「互いに一目惚れでして。外の男性は随分と積極的なのですね。おかげで私の恋心は激しく燃え上がりました。旦那様が求めるなら、私はどの様な事でも……」


 顔を赤らめ恥ずかしがりながらも嬉しそうに語る姿を見ていて察したよ。これ、変に否定したらヤバいって事をな。互いに惚れたから出会い頭に服を破られて胸を揉まれながらキスをされても許すが、事故でそんな目に遭わされるのは許せないってキレられる、そんな予感がするんだ。


「……ふーん」


「あらあら、勇者様ったら潔癖症なのですね。えっと、もしかして旦那様が特別性欲が強いのでしょうか? いえ、それはそれで嬉しいのですが」


「そうだよ。レリッ君はドスケベなのさ!」


「まあまあ、それはそれは……」


 嘘吹き込むな、アンノウン! てか、テメェは理解して言ってるだろ! ……ん? 急にパンダが動かなくなったな。糸が切れた人形みたいにアンノウンが操るパンダのヌイグルミの動きが止まる。気になって摘まんで引き寄せると俺にだけ聞こえる小さく弱々しい声が聞こえて来た。



「ヘ、ヘルプミー」


「知るか。テメェで何とかしろ」


 ハッ! 助けて貰えるとでも思ったのかよ。俺はパンダを賢者様に向かって放る。賢者様は少し困った様子でパンダを眺めていた。その時、パンダが動いた。


「えっとね。ノリで助けを求めただけ」


 余裕有るな、おい。それだけ告げるとパンダは再び動かなくなる。ってか、俺の心の中を普通に読むなよ。


「っと、こうして無駄話している場合じゃねぇな」


 さっさと事情を話したいし、妖精郷からおさらばしたいぜ。その場合、口説くだけ口説いて手を出した挙げ句に逃げた屑として狙われる不安が有るが……賢者様に守って貰おう。



「なあ、ヴェロン。妖精郷にのみ存在するっつう金属、妖精鉱石ティターニアを貰いたいんだが」


「あっ、はい。それならば試練を受けて貰いますよ。私は確かに女王ですが、それはそれ、これはこれは。決まりですから」


 ……おぉう。上手く行くと思ったんだが、世の中そんなに甘くないって事か。





アンノウンのコメント  実は途中から別の日の僕なんだ…… 今日担当の僕、ガンバ! 助けないけど、怖いもん!

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