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ツンデレ&パンダが恐怖する

「あら、随分と上等な酒を出すじゃない。良いのかしら? これ、旦那の秘蔵の品じゃなかった?」


「うふふふ。駄目よ、シルヴィア? 夫婦でも大切なお酒を勝手に出しちゃ」


 ゲルダ達が妖精郷に向かっている頃、同行を拒否してアンノウンの本体と共に留守番をしているシルヴィアを姉であるイシュリアと母であるフィレアが訪ねていた。親子三人でテーブルを囲み、グラスに注いだ上物のワインを楽しむ。どうやらワインはキリュウの物らしいが、それを出して来たシルヴィアには気にした様子すら見られなかった。


 因みにアンノウンだが、悪戯をさせない為に子猫サイズにされてシルヴィアの膝に乗せられていた。ワイングラスを持っていない方の手で頭をガッチリと掴んで離さない。既にこの時点でダイヤさえ貫通する程の力が指先に込められていた。


「構わんさ。ちゃんと許可は取ってある。偶に集まるのだから楽しめと秘蔵の品を渡してくれてな。……本当は更に上物が有ったのだが、この馬鹿が飲んでいてな」


「ギブ! ギブ! ボス、ギブアップ!」


 言葉の最後に怒りを滲ませながらアンノウンの頭を掴む指に更に力を込めればミシミシと音が響いた。悲鳴を上げて逃げ出そうとするも動けない。普段キグルミ姿ににされたり落とし穴に落とされたりビームを撃たれたりしているのだが、静かで穏やかな声がその場に響く。


「二人共、駄目よ? アンノウンは未だ子供なのに苛めちゃ可哀想よ。ほら、こっちに来なさい」


「いや、しかしだな母様……」


「私、普段から此奴に散々……」


 笑いながら差し出した母の手に思わずアンノウンを渡してしまったシルヴィアだが、直ぐに我に返って反論を始める。それに続くイシュリアだが、どうも二人揃って覇気が足りない。


「駄目よ?」


「「はい!」」


 フィレアは笑顔だ。恋と美を司る女神であり、母である彼女に相応しい穏やかながら美しく慈愛に溢れた笑み。だが、娘二人は何処か怯えた様子。普段の自信や強気に溢れた顔は何処へやら、何やらトラウマを呼び起こされたらしい。


(ふふ~ん! こうしていれば安心だね)


 余裕なのはアンノウン。フィレアの膝の上で背中を撫でられながら尻尾をパタパタと動かし、普段は一方的に叱られているシルヴィアと、何時も一方的に弄くっているイシュリアの姿を楽しんでさえいた……のだが。


「でも、アンノウンだって良くないわよ? ちょっとお仕置きフルコースね」


「え?」


「「お、お仕置きフルコース!?」」


「えぇっ!?」


 更に顔を青ざめさせる二人の姿に只ならぬ物を感じて逃げ出そうとするのだが、その首根っこをフィレアの手が掴んで離さない。足をバタバタ動かすも体が揺れるだけで一向に逃げられる様子が皆無だ。



「じゃあ、ちょっとお仕置きね」


「あーれー」


「ほら、抵抗しないの。良いじゃないの、良いじゃないの」


 ニコニコ笑いながらアンノウンを連れて行ったフィレア。そのまま姿を消した彼女の姿を見送った後、女神の姉妹はホッとした様子で顔を見合わせた。


「……行ったな」


「……行ったわね。所でキリュウ達は妖精郷だっけ? 彼奴達ってガチ信者だから重くて困るのよね。前に私が当番で行った時には生け贄を捧げようとしてたわよ」


「捧げられても困るだけなのだがな。受け取れたとして、神がどう役立てれば良いのだ?」


「さあ? ……えっと、今回の女王は本当に面倒よ。次期女王の時に会ったけれど……うん」


 問題児ナンバーワンのイシュリアさえも言葉を濁す。その事に少し戦慄するシルヴィアであった。








「……うーん。レリック君はその内女の子に刺されないか心配だよ」


 未だ俺がレガリアさんと仕事をしていた頃、一仕事終えて立ち寄った街で結構好みの女が居たから口説いて酒を飲んだ。その後は順調に進んで同意の下で一晩楽しんだんだが、朝帰りするなり困り顔でこんな事を言われたんだ。


「大丈夫だって。俺を刺せる奴がそうそう居るかっての。狙ってやがったら殺気だのなんだのを感じるしな」


「まあ、君なら襲われても大丈夫だろうけど、世の中には厄介な子も居るから注意してね?」


 この時の俺はレガリアさんの忠告を適当に聞き流してた。さっきも言ったが俺は強いし殺気を感じとるのも得意だから不意打ちで刺されたりはしねぇし、正面から襲って来ても返り討ちにする自信だって有るからな。


 まあ、それに俺は好みの相手を口説きはするが、結婚とか交際をちらつかせる真似はしてねぇぞ? ちゃんと一夜だけの関係だって分かった相手にしか手を出さないし、ナンパして飯でも食ってる最中にヤバい奴だと感じたら速攻でおさらばだ。魔本を使うタイプの魔法使いはどんな手を持ってるか分かったもんじゃねぇし、魔法使いも基本的に対象外。互いに割り切って楽しめればそれで良いんだよ。


「君、結婚願望とか無いのかい? オジさんも若い頃は無かったけれど、実際にしてみたら良い物だよ」


「分かってるよ。レガリアさん達の姿を何年間近で見てると思ってんだ」


 そうだ。俺は別に結婚に否定的な訳じゃ無い。レガリアさん夫婦の所で世話になって、家族の良さだって知ってる。だがな、俺は絶対に復讐を遂げなければならないんだ。普通の幸せは全てが終わった後だ。今更汚れちまった手で普通の幸せが掴めるとも思ってねぇがな。


 だから俺には恋人だの妻とかは要らない。ちょっとの間楽しめる相手を必要な時に見繕えば十分なんだ。



「……あはっ! こんな大胆なプロポーズを初めてされました。まあ、殿方に口説かれる事自体が初めてなのですが」


 そんな俺だが、今絶賛ヤバい事態に陥ってる最中だ。目の前にはってか、息が掛かる距離に見えるのは若い女の顔。如何にも儚げなお嬢様って感じの美女で胸も大きい。正直言って好みだが、俺は絶対に口説こうとはしないだろう。だってよ、目がイっちまってるんだ。ハイライトが無いっての? 俺はそれなりにモテるから何度か会った事が有るんだ、こんな目の持ち主に。


「ねぇ、子供は何千人欲しいでしょうか?」


「……落ち着け」


「そうですね。先ずはデートを繰り返して絆を深め、それから欲望に任せれ……きゃっ!」


 そう、正にこんな感じに人の話を聞かなかったり、聞いても都合良い解釈をしたり、中には一度も話してないのに結婚の約束をしている事になってたり。要するに妄想激しいストーカータイプ。レガリアさんが言っていた刺してくるタイプの女って事だ。


 そんな女を俺は今、絶讃押し倒し中。……何でだよっ!?

アンノウンのコメント  ガクガクブルブル

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