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いざ妖精の国へ

評価ポイント10減っただと  ユーザーが削除されたのかも……



 霧に包まれた水没林を小舟に乗って進んで行く。霧によって視界は閉ざされているし、不思議な事に私の鼻も利かない。感じるのは川の水と植物の香りだけな上に、どちらから漂ってくるのかさえ不明だったわ。こんな事、今まで一度も無かったのに……。


「不思議だと言いたそうな顔ですね。既に予想が出来ていると思いますが、この霧は招かれざる客を惑わして入り口に戻す魔法によって発生した物ですよ」


「あら、矢っ張り。鼻が全然利かなくって困惑していたのよ」


 船に乗っているのは船首に足を掛けて鈴を鳴らす賢者様と船の縁から霧に包まれた林を眺める私。そして何故か水を見ようともせずに寝転がっているレリックさん。アンノウンはパンダだけ同行してて、女神様はお留守番よ。船は一見すれば狭いけれど、乗ってみれば不思議と広い。なのに女神様が来ていないのは定員オーバーじゃないの。これから向かう場所に行くのに女神様が居たら面倒だからって留守番を言い渡したのよ。


「……いや、本当に面倒な所でな。正直言って重いと言うか何というか……察してくれ」


 あの女神様が賢者様と別行動を選ぶだなんて、一体何があるのかしら? これから向かう先に私は子供心に憧れていたわ。絵本で何度も風景を見て一度見てみたいと思っていた場所。妖精達が住まう妖精郷(ようせいきょう)に……。



 船は誰もオールを漕がなくても進む。川の流れを見れば流されているだけじゃないのが分かる。流れに沿って進んでいるかと思ったら横断したり逆に進んだり、川に手を入れてみれば冷たくて気持ち良い。


「落ちたら大変ですよ。この辺り、結構深いので。まあ、勇者の身体能力ならば問題無いでしょうが」


「ゲルちゃんは泳げるの?」


「ちょっと前までは苦手だったわ。村の近くに川は有るけれど水遊びを楽しんで泳ぎの練習って余裕も無かったし」


 アンノウンの言葉に私は目を逸らしながら答える。まあ、今は少しは泳げるのよ? 女神様が泳げないと水中で戦いにならないからって教えてくれたわ。……水中戦の訓練をしながらだけれども。大変だった。うん、大変だったわ。て言うか、アンノウンったら分かって言っているでしょ。


「って、あれ? 私は?」


「そろそろ到着しますよ」


 水没林の木々の隙間を通り抜け、船は流れが無いみたいに止まる。目の前には不自然な程に木が生えていなくて綺麗な円が出来ている。水面は一切動かず、まるで鏡みたいに空を映し出していた。


「この先に妖精郷が存在するのね」


「ええ、後はこの先に進めば妖精郷に……おや?」


 それなら今直ぐにでも飛び込もうとしたのだけれど、レリックさんが起き上がらない。熟睡? いえ、これは……狸寝入りかしら?


「レリックさん、遊んでいないで行くわよ」


「……グー」


「下手な演技は止めて。さっさと行くわよ」


 何が嫌なのかは分からないけれど、妖精郷に行くのはレリックさんの為なんだから一緒に来て貰わないと困るのよ。私はレリックさんの腰を掴むと抵抗される前に川に投げ込んだ。


「いや、別に放り込まなくても私が道を作りますのに」


 賢者様は少し呆れた様子で手を前に翳す。目の前の円の部分だけ水が引いて、深い穴に向かう階段が出来ていたわ。あっ、レリックさんが階段を転げ落ちている。悪い事をしたわね。……凄く悪い事をしたわね。


「じゃあ進みましょうか」


 レリックさんに後で謝らないと、と思いながら私は賢者様と一緒に階段を進む。それにしてもレリックさんったら何故水に飛び込むのを嫌がっていたのかしら?


「泳げない……とか? でも、レリックさんも水練位は受けている筈よね?」


「泳げないという話は聞いていませんよ? まさか妖精に嫌な思い出でも有るとか。……有り得ますね」


「……えっと、嫌な予感がするのだけれど?」


 賢者様は心底嫌そうな顔をしているし、心底行くのが嫌みたい。え? 妖精さんったらそんなに面倒な相手なのかしら? 絵本とかでは無邪気で悪戯好きで……悪戯好き? 私はこの瞬間、猛烈に嫌な予感がして、賢者様の頭に乗ったパンダに目を向ければ笑って見えたわ。ヌイグルミなのに、この子はどうして笑っているのを伝えられるのかしら?



「皆、僕の同類さ!」


「嫌な予感が的中したわ! 皆って事は沢山居るって事よねっ!? アンノウンみたいなのが沢山居るのよねっ!?」


「まあ、僕の方が凄いんだけれどね」


「……ちょっとだけ安心したわ。小指の先位だけれど」


 だって沢山居るのでしょう? 郷って位だから大勢居るのでしょう? アンノウンの同類が。


「あれね。賢者様と同じで憧れの相手は憧れのままま会わないでいた方が良いって事よね」


「おや、ゲルダさんも酷い事を言いますね。私だって大変なんですよ。賢者とか大層な名で呼ばれたりイメージ通りの振る舞いが必要だとか」


 まあ私だって勇者だし、色々と全然違うイメージを持たれたりとかしているでしょうね。多分昔の私みたいに物語のイメージを憧れで膨らまして。…ガッカリされる未来に少し落ち込みそう。そんな事を考えて居る間にも私達は階段を進み、光り輝く門の前まで辿り着く。それにしても随分と長い階段だったわね。普通に潜っていたら苦労してそうだわ。だって私って未だそれ程泳ぎに慣れている訳じゃないし。


「あら? レリックさんが居ないわね」


「随分と激しく転げ落ちていましたし、既に先に進んでしまったのかも知れません。……大変な事になっていなければ良いのですが」


「多分なっているだろうけどね!」


 アンノウンの明るい声に私は少し慌てて門を開いて先に飛び込む。流石に私の強引な行動が招いた結果だもの。何かされる前に助けなくっちゃ。もう手遅れだとは思うけれども。勢い良く扉を開けて駆け込めば一番先に感じたのは甘い香り。目の前には大小色取り取りの花畑。そして聞こえて来たのは楽しそうな歌声。


「ようこそ勇者様!}


「妖精郷にいらっしゃいませ!」


 私の周囲を舞うように飛び回るのは蝶を思わせる形のキラキラ光る羽を持った人形サイズの人達。間違いないわ。此処はまさしく私が憧れた妖精郷。アンノウンや賢者様が脅かすから変に身構えたけれど、その必要は無かったかしらね?




「歓迎のパイをどうぞ!」


 あら、素敵な歓迎ね。妖精さん達が数人掛かりで持って来てくれたのは美味しそうなクリームパイ。あれ? 凄い勢いで私の方に向かって来て……。


「ダイレクトプレゼーント!」


 ベチャリ! そんな音と共に私の顔面に叩き付けられたクリームパイ。……あっ、うん。人の忠告はちゃんと聞いてなくちゃ駄目ね。

アンノウンのコメント  まあ、僕には敵わないさ だって僕は僕だもん!

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