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自覚無しの外道と自覚している腐れ外道

「……ふぅん。この洞窟は随分と住み心地が良いんだろうね」


 アヒャヒャヒャヒャ! 僕、アビャク! 今はお友達のネルガル君とブリエルのとある洞窟に来ているんだけれど、何故か何も居ない空間を見ながら呟くネルガル君に驚いている所なーのさっ! あれかな? とお姉ちゃんに会えた嬉しさで頭が変になっちゃった? 


「あわわわ。そうだったら大変だぞ。ガクガクブルブル」


「棒読みで何を言っているのさ? 君には見えないし声も聞こえないだろうけど、この洞窟には結構な数の精霊が住んでるんだ。巨大な地底湖が有るし休止しているけれど火山も近いし、オマケにこの辺は磁気を多く含む鉱石が採れる。精霊からすれば格好の住処って訳さ」


「なーるほどっ! でも、ネルガル君じゃ意味が無いよね! だって魔族側だもーん。僕と一緒に居るから騙くらかして契約を結ぶとかも無理だっしね。こう言うのを才能の無駄遣いって言うんだっけ? アヒャヒャヒャヒャヒャ!」


「うぅぅ……」


「別にそうでもないさ。僕は天才だし、天才は自分の才能を無駄にしないものさ。ちゃんと精霊も利用するよ。その為に精霊の力を強く感じるこの場所に来たんだからさ」


「ふーん」


 ネルガル君に釣られて僕も洞窟全体を見回した。黄色く光る水晶みたいなのが岩壁の所々から顔を覗かせていて、天井には沢山の鍾乳石。これは広い場所に誰かを閉じこめて天井のを降らしたら楽しめそうだね! 今回、先生か、あの緑の間抜けでやってみよっと! 


 でもでも、楽しそうと言えばどうしても試したい事があるんだ。でも、さっき提案したらネルガル君に却下されちゃってさ。諦めたくない僕はネルガル君の服の袖を摘まみながら、さっき呻き声を出したお姉さんを指差す。壁に刻まれた魔法陣にガムみたいにくっついていたよ。


「ねぇ、ネルガル君。矢っ張りネルガル君のお姉ちゃんに悪戯しちゃ駄目かな? 絶対誰かが調べに来るでしょ? その時に面白くしたいんだよ」


「さっきも言ったけれど駄目だよ。だって僕の為に死んでくれるのに、死んだ後に悪戯されているとか可哀想じゃないか。これが成功すれば大勢の人が自らを不幸だって嘆かなくて良いんだ。貴い犠牲には敬意を払わなくちゃね」


 面倒臭そうに僕の手を振り払ったネルガル君は浮き上がるとお姉さんを抱き締めて頬にそっとキスをする。ちょっと泣きそうに見えたのは多分気のせいだろうね。


「……姉さん、さようなら。ずっとずっと大好きだよ」


 だってさ、ネルガル君って狂ってるもん。先生も緑も赤も黄色もオカマもそう言ってるし、ネルガル君を気に入ってる変な奴も黒山羊さんだって言ってるし、そんな子が狂っていない訳が無いよね。まあ、一番狂っているのは僕、アビャクさ! だって僕の方が先に魔人にして貰えたもーん!


「ああ、楽しみだなぁ。これで人が沢山死ぬよ。沢山苦しむよ。それを眺めながら食べるお菓子は最高だよね。ほらほら、見てよ皆。面白い事が始まるよ」


 家族が大好きなのはネルガル君だけじゃない。僕だってお父さんもお母さんも大好きだし、お姉ちゃんだって大好きなのさ。だから何時も皆を持ち歩いてるんだ。ネルガル君のお姉ちゃんが張り付いた魔法陣の端っこから枝が伸びるみたいに光の線が伸びて、空中で幾つもの魔法陣を形成する。


「……良いなぁ。ネルガル君は精霊が見えてさ。ずるいずるーい!」


 僕だって何が起きているのか見たいし、家族にも見せてあげたいのに、見えているのはネルガル君だけって事に納得が行かず、その場で寝ころんで手足をバタバタ動かして駄々を捏ねる。家族で暮らしていた時は直ぐにお姉ちゃんが叱って止めさせたけど、目玉だけの今じゃ叱れないだろ、やーい!


「別に君を仲間外れにしないって。ほら、その為に新しいのを作ったんだ」


 そんな僕に呆れながらもネルガル君が取り出したのは魔本。彼独自の魔法が使える特別なアイテムで、前に落書きしたら怒られた。ケチだよね、そういった所はさ。そんな事を思い出している間にもネルガル君は魔法を詠唱して、僕の目に何かが張り付く。するとワクワクドキドキの光景が目の前に広がっていたんだ。


「凄い凄ーい!」


 無数に枝分かれした魔法陣にはハエ取り紙に捕まったハエみたいに不思議な存在が張り付いて苦しそうに震えている。あれが精霊、神様の手下かと思うと思わず笑いながらその場で飛び跳ねちゃった。空中に浮かんで見ている家族達もきっと驚いているだろうね!


「ネルガル君、僕は魔人になって良かったよ。英雄候補とか勇者の仲間じゃなくてさ」


「どっちにしろアビャクの年齢じゃ勇者の仲間は無理じゃないかな? 七歳だよ?」


「そうだった! 僕、七歳!」


 だから僕って多少悪さをして見許されるよね? ネルガル君は駄目って言ったけれど、あんな格好の悪戯の対象を前にして僕の腕白な心は止まらないよ。


「……本当に駄目だからね?」


「何の話だい? 僕にはさっぱり分かんないよ」


「……ふーん」


 あっ、これ見抜かれてる奴だね。誤魔化したのに疑いの眼差しを止めないネルガル君を見て悟る。これじゃあ目を盗んで悪戯をしに戻って来るしかないなぁ。今はそんなに悪戯グッズを持ってないから取りに帰るって意味でもそれで構わないんだけどさ。


 ネルガル君、怒ると怖いからね。ザハクだってネルガル君の味方をするし、僕の味方になってくれても良いじゃないか。退屈なんだよ、毎日がさ。悪戯でもしないと死にそうなんだ。


「ねぇ、直ぐに終わらないのかい? お腹空いちゃったよ」


「精霊を結構使うからね。興味を引かれて寄って来てたから予定よりは早く終わるし、これが済んだら城に戻って何か食べようか」


 取り敢えず僕は見学に来ただけなので特にする事も無いし、逃げ出した精霊が次々に捕まって行くのを眺めるしか出来ない。僕達が居るのは開けた場所なんだけれど入り口は反対側の一つだけだし、同じ方に向かうから密集しちゃって纏めて捕まってる。中には抵抗しようと襲って来たのも居たよ。


「水の精霊かな? 多分中級位の」


 水の体を持つ女の人っぽい輪郭の精霊が腕を伸ばせば無数の水の槍が僕達に飛んで来る。でも、それは届かない。ネルガル君の帽子の中で昼寝中だったザハクの吐いた炎が一瞬で蒸発させたのさ。


「無駄な抵抗だったな。ケケケケケ!」


ザハクの炎は精霊が放った槍だけじゃなくて精霊自身にも届き、水の体が燃え上がった。水の精霊が苦しさで暴れ、仲間が四方から水を掛けるけれど炎は消えない。ものの数秒で全身が蒸発して消え去り、助けに入った仲間も魔法陣に捕まったよ。


「仲間を助けたかったか? ざーんねーん! 俺様の前じゃ足を引っ張られただけの無駄だったな。ケケケケケ!」


 アヒャヒャヒャヒャヒャ! 確かに見捨てて逃げてれば誰かは逃げ切れたかもね! でも残念賞! だから何も有りませーん! あっ! 何か起きるぞ。所で、僕はずっと考えてた事が有るんだけどさ。


「ネルガル君。結局この儀式ってどんな効果が有るんだい? エクレア食べ放題とか?」


「いや、違うよ?」


「じゃあチーズタルトかよ、ネルガル! 俺様はチョコタルトの方が良いぞ!」


「ザハクには何度も教えたと思うけど? アビャクにも言ったはずだけれど、結局聞いちゃいなかったんだね。分かっていたけどさ」


 ううーん。何故かネルガル君が残念そうにこっちを見ているけれど、理由が全然分かんなーい。ザハクも疑問って表情を浮かべた所で視界の端に精霊の姿が映った。ありゃりゃ、逃げられちゃったね。見事に出口から出て行ったよ。


「ネルガル君。向こうに配置した奴には精霊を見る力を与えてるの?」


「うん? まあ、当然さ。上級魔族を凌駕する力と一緒にあげてるよ」


あっ! 今、精霊の悲鳴が聞こえたぞ。あれが断末魔って奴なんだなって僕が感心する中、魔法陣からピンク入りの煙が滲み出して来た。


「この煙ってレリルさんの部屋で焚いてるお香みたいじゃない? この前、美味しい物を沢山食べさせてくれた上に、添い寝したらお小遣いまで沢山くれたんだ」


 香水が臭い上に口の中に舌を入れて来たのは気持ち悪かったなぁ。




「うぇっ! あの人、見た目が大人なだけで七歳児にまで手を出してるのか。魔族自体が誕生してから数年しか経過してないけどさ。……引くなあ」


 そういうネルガル君だって前に呼び出されたと思ったらレリルさんとアイリーンさんの背中を流させられたって言ってたよね。本当に大人って変だよ」……魔族は大人で良いのかな?



「じゃあ、帰ろうか。もう此処には用は無いしね」


「未だ生きてるけど良いのかい?」


「お別れは言ったしね」


 そっか、ネルガル君にとってお姉ちゃんはもう用済みなんだね。ならさ……後でこっそり悪戯しに行こうっと!



「所で何を持ってるの?」


「お弁当箱だよ。未だ食べてないみたいだし、お姉ちゃんの料理を食べたいからね」

アンノウンのコメント  あれれ? カニはどうしたんだろう?

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