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チラリと覗く奴の存在

「ほ、ほら! 好きなの頼め。このお子様麺セットとかどうだ? オマケに煽るパンダ人形が付いてくるってよ」


 レリックさんによって再び起きたラッキースケベ事件の夜、私達はグリエーンで最近評判になっているらしい麺料理の店にやって来ていた。事故とはいえレリックさんが私のお尻を掴んだのは確かだし、そのせいか妙に機嫌を取ろうとして来るけれど、少し似合わないから笑ってしまいそうね。


 ログハウス風の外観のお店の名はパンダ麺。まさかとは思うけれど、現在進行形で姿を見せないアンノウンが関わってたりとかしないわよね? 店の中は輝きながら天井付近に浮かぶ球体に照らされていて明るくて雰囲気の良いお店だったわ。キグルミの店員は……居ないわね。


「こらこら。歩き辛いですよ、ティア。本当に甘えん坊ですね」


「……父にくっついていられるなら甘えん坊で良い」


 肝心要の主である賢者様はあの通り。腕に抱きついて歩くティアさんにデレデレしている親馬鹿全開で頼りにならないわ。アンノウンについて訊ねてみたんだけれど……。


「あの子なら大丈夫ですよ。ちょっとフラッと居なくなるのは少し心配ですが、怪我をして動けないとかは無いでしょう。ゲルダさんもアンノウンの強さはご存知でしょう?」


 いや、違うわよ? 一体何時誰がアンノウンの無事を心配したって言ったかしら? あの神様が殺しても平気な顔で蘇りそうな無敵で傍迷惑な生物自体の心配じゃなくって、何かをやらかしてしまうのを心配しているのよ。


「煽るパンダ人形……本当に無関係かしら?」


 取り敢えず今はお腹が減ったからご飯にしましょうか。店に入るなり漂って来たのは濃厚で如何にも辛そうな刺激的な香り。スパイスで味付けした特製スープで野菜や肉団子を煮込んだ物をたっぷり掛けた麺の他にも辛くて美味しそうなメニューが沢山あって迷うわね。


 でも、ある意味気になったのがジュースとデザートとセットになったお子様麺セットのオマケの玩具の煽るパンダ人形……本当に関わって無いわよね? お腹を押すと相手を馬鹿にする音声を発するらしい。その種類は何と六百六十六種類! 凄いけれど……。


「……本当に関わって無いのよね?」


 何だか不安になりながらも羊肉とニラの焼そばの肉増しの大盛を注文する。あら? サイドメニューも豪華ね。メインのオカズが沢山有るわ。


「それだけで良いのかよ?」


「じゃあ、折角の奢りなのだし、ロブスターの蒸し焼きとデラックスパンダパフェを」


「お、おぅ。よく食うな、お前。いや、良いけどよ……。本当にお子様麺セットでなくて良いのか?」


 ちょびっとだけ値が張るからかレリックさんの顔が引き吊っている気がするけれど、好きな物を頼めって言ったのだし問題は無いわね。あっ、グリエーンって結構蒸し暑いから高級メロンジュースも頼みましょう。それにしても結構安い方のお子様麺セットを進めてくるわね、レリックさんったら。


「ほら、お子様麺セットのデザートはプリンだってよ。プリン、好きだろ? それに人形も子供向けだしよ」


「流石にパンダを操って煽ってくるアンノウンが居るのに煽るパンダ人形なんて要らないわよ。……所で思ったのだけれど、世界を救った後で色々と話をする際に私の口が滑ったらレリックさんの異名はラッキースケベのレリックとロリコンスケベのレリックのどっちになるのかしらね?」


「よ、よし! 確かにそうだな! じゃあ俺は激辛モヤシそばの肉抜き大盛にしておくか!」


 別に脅してはいないわよ? ちょっと気になった事を口にしただけだもの。なのに財布の中身を気にしつつ比較的安いメニューを選ぶだなんて。別に無理なら無理だって言って良いのよ? 少し騒がしいからか何人かの人達が私達の方を見ていたわ。家族連れに人気のお店らしいけれど、今は家族で来ているのは賢者様達だけみたいね。今は折角ティアさんと再会したのだし、気を使わなくて良いように少し離れているわ。


「激辛モヤシそばの大盛肉抜きお待ちしました」


 静かになったので他の人達も運ばれて来た料理を見たり酒を酌み交わして騒ぐ声が聞こえて来たわ。これはお子様麺セットなんて頼む人は居ないわね。一瞬もしかしてキグルミさん達が運んでくるんじゃと思ったけれどそんな事も無く、先ずはレリックさんの料理から運ばれて来たわ。


「食べないのかしら? 私のを待っていたら冷めるわよ?」


「飯ってのは同じ席の奴と一緒に食うもんだ。餓鬼がんな事を気にすんな」


「ふふふ。レリックさんって相変わらず律儀な人よね」


 じゃあ、少しお喋りでもしましょうかしらと提案すれば、仕方無いと言わんばかりの態度で頷かれた。でも口元が弛んでいるし悪くは思ってないみたい。でも、提案したのは良いけれど、一体どんな話をするべきかしら? 


「……精霊と契約出来るようになったが、どんな奴がテメェと契約してくれるんだろうな」


「あっ! そうね。私ったら忘れていたわ。契約が可能だからって精霊が誰でも契約する訳じゃないものね」


 そう。神様達の部下として六色世界で行動する精霊達と契約するには自然界に溶け込んだ精霊を発見する目と言葉を聞く耳が必要だもの。でも、それだけじゃ駄目。契約するための交渉のテーブルに着いて貰う前段階に過ぎないの。それから自分と契約するに相応しいか試されたり、そもそも契約自体を面倒臭いって精霊も多いらしいわ。イシュリア様みたいに無駄に行動的な性格はしていないのね。


「……俺も精霊と契約してる魔法使いなんざ知ってるのは片手の指で数えられる程度だな。それも名前を知ってるだけの奴も含めてな。最上級とか上級とかと契約可能なのはレリックさん程度だな。ってか、精霊ってそう簡単に遭遇しないよな、見えていてもよ」


「私も一度だけ雷の精霊と契約した人と戦っ……会った事があったけれど、その人以外は知らないわ」


 子供を人質に取られ、私が勇者だと知らないまま襲って来たあの人はお母さんに似ていたのよね。どうやらレリックさんがクルースニクの結成時から調査している誘拐事件とも関わりが有るかも知れないって話だけれど。


 兎に角、広い世界から何処に居るのかも分からない精霊を探し出すだけでも一苦労だわ。その上で頼りになる相手で、更に契約してくれるかどうかは別だなんて。


「……勇者として旅に出る前は水の精霊と契約したかったわ。雨が降らないと羊の餌の草にも困るもの。小動物みたいな可愛い子と契約したいとも思ってたけれど、今じゃそんな贅沢は言っていられないわよね」


「貧乳!」


「丸太体型!」


「平ら胸!」


 ……今、とってもシリアスな感じだったのに、続けざまに聞こえて来た声に私は思わず顔を向ける。言葉の度に声質が違って老若男女様々な声が聞こえて来た方向にはティアさんが居て、キラキラした目でパンダ人形を握っていたわ。


「駄目ですよ、ティア。オモチャで遊ぶのは帰ってからにしないと。ほら、料理が冷めてしまいます」


「……あーん」


「おや、私達の娘は本当に甘えん坊だな。キリュウ、今日だけだぞ、特別なのは」


 あっ、ティアさんはお子様麺セットにしたのね。確実に煽るパンダ人形目当てで。それにしても女神様もティアさんに甘いわよね。神様だから感覚が違うのだろうけど。


「……最初は女二人を侍らせた風に見えてたんだが、こうして見ると全然違うな、おい」


 見た目に年齢的には賢者様も女神様もティアさんと同じ二十歳前後。でも、賢者様がティアさんに料理を食べさせて、女神様がやれやれって感じで微笑んでいるのを見たら親子にしか見えないわよね。それも子供に凄く甘い親ね。


「……血が繋がっていないってのが信じられねぇよな。まあ、俺もレガリアさんを実の親みたいに思ってるけどよ」


「血の繋がりってそこまで大切じゃないのかも知れないわね。心の繋がりが大切なのよ」


 私が今まで読んだ物語には血の繋がりが無くても親子の絆は結ばれるって展開だったのに、何時の間にか親子の情が男女の情になっていたりするのも有ったけれど、あの人達は有り得ないわ。お互いに完全に親と子として見ているもの。



「……良いなあ」


 そんな姿を見ていたらちょっぴりだけ羨ましくなって来た。


アンノウンのコメント  僕の関与? さあ?

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