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パワハラ上司(ロリ)による部下(ショタ)へのセクハラ問題

 見知らぬ誰かを守りたい? うんうん、素晴らしい事だね。虐げられる弱者を救いたい? なんて素敵な考えなんだ。僕はそんな考えを賞賛しよう。まるで物語の英雄みたいだ、とね。


「所で僕は思うんだ。自らを犠牲にしても誰かを守ろうって考えの持ち主ってさ……結局は余裕が有ってこそなんだって」


 力から誰かを守るには力が必要だ。飢えた人を救うには食べる物を持っていなくちゃ救えない。でも、世の中には自分の事なんか度外視して人助けに勤しむ人だって居る。僕から言わせて貰えば狂人か、善行に勤しむ自分に陶酔したナルシストさ。ああ、それとは別に助ける力も無いのに助けようとして共倒れになったり、助けた気で居るけれど結局はその場凌ぎか、その場凌ぎにさえなっていないパターンも有るよね。


「三人で大体五秒か。魔人になる素質が無い割には保った方だし、流石はエルフって所かな? まあ、足止めって目的を果たせていない時点で意味が無いんだけれどね.寧ろ逃げ出した方が誰かが助かる可能性が有ったよ」


 見ず知らずの僕を心配して同行してくれた三人のエルフのお兄さん達との道中はそれなりに楽しい物だったよ。どうやら三人とも漁師らしくって舟歌やら海での話やら、僕が知らない事を沢山知っていて聞いているだけで楽しめたんだ。


 僕が何かしらの訳ありだって察したのか無駄に詮索してくる事は無かったけれど、変に気を使った様子も見せず、ただ単純に人が良いだけじゃない気持ちの良い人達だったんだ。


 そんな人達は今、巨大なカニの餌になっている。両のハサミの奥の砲口から老廃物の塊を放つ本来は海に住む上に陸に上がれば体が急速に乾燥して弱体化するんだけれど、イエロアのサンドスライムの仲間で海に潜んで小舟を襲うシースライムに包まれているから万全の状態だ。


「逃げろ!」


「俺達が足止めする!」


「振り返らずに走るんだ!」


 決して驕っていた訳じゃない。寧ろ海に生きるエルフだからこそ恐ろしさを知っている相手らしく、覚悟を決めた顔だったよ。まさか見ず知らずの僕の為に命を捨てる決意をするだなんて、掛け値なしの善人だったんだろうね。でも、僕が魔法を使えるだけの普通の子供だったら全て無駄だった。


 三人みたいにハサミで叩き潰され、放った老廃物に頭を吹き飛ばされ、馬よりも速く走る銀色に光る巨体に跳ね飛ばされて死ぬだけだ。彼らの足止めなんて意味が無く、直ぐに追い付かれて肉団子にされて食べられただけだ。それかシースライムに溶かされてかな?


 でも、僕は三人の事は覚えておこう。全ては無駄だったけれど、それでも僕を助けようと絶対に勝てない相手に立ち向かった雄姿を忘れない。決して英雄候補と呼ばれる超人ではないと自覚した上での無謀な行動でも、尊ばれる事には違いないのだから。ああ、それにしても三人について考えるとある想いが浮かんで来るな。


「今日の夕食はハンバーグが食べたいな。付け合わせは人参のグラッセとポテト、インゲン豆は要らないや。スープはクラムチャウダーかな」


 幾ら信用されていなくても僕は魔族に組する身で、こんな所に本来居ない筈のモンスターが居るって事は誰かの眷属だ。だから僕は襲われない。本能からか僕にも捕食者としての目を向けるけれど手は出さない。まあ、僕が手を出せば口実を手に入れたとばかりに襲って来るんだろうけどさ。


「あっ! カニクリームコロッケも食べたいな」


 そんな風に好物の事を考えていたらお腹が減って来ちゃったよ。確か荷物の中に屋台で買った練り物を刺した串が有ったと思い出してイカゲソを混ぜたのを選ぶ。冷えているけれど中々美味しいや。その辺の岩に腰掛けて食べ続け、喉が渇いたから水筒の中で冷えた果実水で喉を潤す。そして次は小エビのパリパリとした触感が嬉しいのを食べたんだけれど、これって喉に引っ掛かるよ。


「……あれ?」


 喉の奥でチクチクするエビを流そうと水筒に伸ばした手は空を切る。僕の水筒は置いた場所じゃなく、見た目は美少女だけれど中身は腐りきった悍ましい女の、リリィ・メフィストフェレスが保っていたんだ。僕の水筒に口を付け、コクコクと喉を慣らしながら飲む姿を見ていて思ったよ。あの水筒、もう使いたくないから捨てようってね。


「それ、僕のなんだけれど? どういう積もりなのさ? リリィ様?」


「おいおい、水臭い態度は勘弁してくれよ。私と君の仲じゃないか。呼び捨てか……ハニーなんて良いんじゃないかい? そして君のだからこそ口を付けたのさ」


 自分の言葉に酔いしれて両頬に手を当ててウットリしている姿は可愛いけれど、僕の胸はときめかない。この最上級魔族はどういう理由なのか僕にこんな態度を取る。部下で振り回される事によって恒常的な胃痛を発症しているビリワックさんによると強い相手を気に入るらしいし、確かに僕は天才だけれど、それでもこの態度は不気味な程に有り得ない。


 だってさ、僕はマトモだけれど、アビャクとか先生みたいに頭が完全に狂ってる連中が周囲に多いから狂人は大体分かるけれど、この女は群を抜いている。手遅れレベルだけれどリリィよりは遙かにマシな先生程度でさえ初恋を拗らせてるのに、こんな奴に恋心とか信じられないよ。絶対何か有ると僕は疑い、関わりたくないから拒絶しているのさ。


「僕、君が苦手なんだけれど……」


「今はそれで良いさ。苦手だろうが何だろうが無関心よりはマシなのさ」


 駄目だ、話が通じない。僕、正直言って此奴が全然好みじゃないんだよ。僕の好みは綺麗なお姉さん系。但しレリル・リリスは苦手。ああいった、如何にも色気満載ってタイプのは違うんだよね。第一痴女だし。どちらかと言うと部下のアイリーンの方が好みなんだ。真面目なノーパン主義とかエッチだよね。


 まあ、レリルの方は性的に食われそうだけれど、アイリーンの方は物理的に食べられそうだよね。


「おや、他の女の事を考えてる気がするな。おいおい、嫉妬しちゃうじゃないか」


 表情から読まれたのか実際に心を読んだのか、不機嫌そうな声だけれど顔は何時もの不気味な笑顔を浮かべたまま抱き付かれた。普通の男の子なら可愛い女の子に密着されたら嫌がる素振りを見せながらも嬉しいんだろうけどさ……此奴だからなぁ。中身が最悪だから台無しだよ。


「抵抗したいならしてごらん。私は絶対に離さないぜ?」


 抵抗? いやいや、相手は最上級魔族だし、抵抗するだけ徒労だから。逆に相手を楽しませそうなのに、そんな無駄な事はしたくないよ、面倒だもん。


「嫌そうな顔だなぁ」


「実際嫌だしね」


 でも言う事は言う。だってさ、嫌なんだから。こんな時こそザハクが居れば毒を吐いてくれるのに。


「……一応君の主扱いのウェイロンは私の指揮下だって知っているかい?」


「成る程。これがパワハラ上司によるセクハラって奴だね。先生に罰を与えるならどうぞ。僕を魔人に覚醒させた後なら好きにして良いからさ」


「君には罪悪感が無いのかい? 僕でも少し引くよ」


「罪悪感? そんな物、当然有ると思うよ? だって僕は普通だからね。|自覚する前に食べさせているから《・・・・・・・・・・・・・・・》、実際はどうだか分からないけどね?」


 今更何を言っているんだろ? て言うか、此奴にだけは引かれたくないんだけれど。あと、惹かれたくもない。もう面倒になったから僕は立ち上がって歩き出すけれどリリィは離れない。僕の腕に腕を絡ませて引っ付いて歩いていた。まるでくっつき虫だと感じる中、慰霊碑が見えて来た。


「……ねぇ。ちょっと離れてくれるかな?」


 あの糞領主が小さな村に住む住民の名簿なんてちゃんと作っている筈も無く、仕方無く死体だらけの村を探索して調べた名前が刻まれているんだけれど、その中には僕の両親の名前も有ったんだ。妙に聞き分けが良いリリィは素直に僕の腕から離れてくれて、僕は両親の名前の所に指を伸ばす。直ぐ近くには僕とお姉ちゃんの名前も一緒に刻まれていた。


「あっ、ちゃんと刻まれてるや」


 今までは気が付かなかったけれど、友達だったこの名前を今回初めて見付けられた。あらら、名字が記憶と違うや。僕、当時は五歳だったからな。今のアビャクよりも小さいんだし仕方無いよね。でも、こうしていると全てを思い出すよ。裕福じゃないけれど幸せだった頃を。


「……」


 ああ、こうしていると迷いが……全然湧いて来ない。皆、見ててよ。僕がこの世から今の自分を不幸だと感じる人を居なくしてみせるからさ。





(ふふふ、良いなあ。良い具合に曲がってしまってて、それでもって。どうせ神や賢者がその気になれば為す術無く消え去るんだ。儚い一生、精々楽しんで好き放題に生きなくちゃね。……既に仕込みは済んだ。後はあの言葉を言わせれば、君は私の物さ)





 物思いにふけている時だった。一人分の足音が後ろから聞こえて来たのは。何となく振り返り、その人と僕の目が合う。あはは! これは皆が引き合わせてくれたんだね。



「ネル……ガル……?」


「うん、そうだよ。お姉ちゃん! ずっと、ずっと……殺してあげたかった(会いたかった)!」



 ……所で背負ってる焼き蟹が気になる。

アンノウンのコメント  自覚がないって怖いなぁ 僕はあるよ

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