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閑話 賢者の幸福

 緑香る小道を愛しい妻と並んで歩く。思えばこうして二人で過ごす時間が中々取れないのは何時以来でしたっけね? 幼い少女に世界の命運を背負わすという非道を行っている身からすれば何を贅沢を言っているのだと非難されて当然だとも思うのですが……。


「シルヴィア、愛していますよ」


「知っているさ。お前も私が愛している事を知っているのだろう?」


「ええ、それでも伝えたいのです」


 指と指を絡めて見詰め合い、少し密着して歩き続ける。私は自分がどれ程の非道を行っているのか理解しています。人類の未来が懸かっている? それは個人に背負いきれない重荷を背負わせる理由にはなりません。勇者関連の術式を構築したのは神々? 私も勇者として召喚された身ではありますが、今では神の世界の住人です。女神を娶り共に生きていくと決めたのだから私も背負うべき罪なのですよ。


 ですが、今だけはその罪科から解放され、愛しい妻との時間を謳歌したいと思うのは強欲でしょうか? 許される事ならば見逃して貰いたいです。だって、私にもその位の幸せがあっても良いじゃないですか。


 まあ、シルヴィアという美の女神すら超越した美しい女神を妻にして共に過ごす。それはその位だなんて言葉には納まらない至高の幸福ですけどね。


「少し座って話をしませんか? 歩く事に向ける分の意識も貴女に向けたいのですよ」


 丁度目の前には花畑。二人して入って行き、いざ座ろうとすると何故かシルヴィアは正座をして、膝を指差しているではありませんか。ついつい彼女の足に視線を向けてしまいましたが、咳払いで我に返ります。ああ、成る程。意図は理解しました。


「失礼しますよ」


 ゴロンと横になりシルヴィアの膝枕を堪能する。至近距離で感じる彼女の匂いに少し胸がドキドキして来ました。毎晩の様に互いの匂いに包まれているのですが、それは彼女が魅力的だからでしょう。膝の感触を頭で感じ取りながらいるとシルヴィアの手が私の目を覆う。困りましたね。このままシルヴィアの顔を見ていたいのですが。


「お前は少し寝ていろ。偶には何も考えずに眠る事も必要だ」


「許されるなら貴女を見ていたいのですよ。それが私の幸福なのですから。それに毎晩の様に何も考えられない程に貴女を貪っているでしょう? 昨日は貪られましたが」


 使い魔でありペットでもあるアンノウンの相手をしたり、愛しい娘であるティアの成長を見守るのも私にとっては絶対に手放したくない幸福ですが、こうしてシルヴィアと過ごす時間も同じです。彼女の存在を感じるだけで私は満たされ、更に先を求めてしまう。ですので懇願しました。貴女を見続けさせて下さい、と。


「私はお前の寝顔が見たいのだ」


「お休みなさい! 愛していますよ、シルヴィア!」


 言われるがままに目を閉じ、自らに魔法を使って眠りに入る。だってシルヴィアが眠っている私を見たいのなら眠らないという選択肢は有り得ませんよ。何せ相手は愛しい愛しい大切な愛妻。愛という言葉を何重にも重ねるべき相手の希望を叶えたいじゃないですか。


 どんな夢を見るのでしょうね。出来ればシルヴィアの夢が良いですが、ティア幼い頃の夢でも嬉しいです。成長した姿も親としては嬉しいのですが、幼く手間が掛かる時の姿は姿で……。




「……なのにどうして貴女が出て来るのですか、イシュリア様」


「ちょっと失礼じゃない!? 私、シルヴィアとは結構似ているのに扱いが違い過ぎでしょう!」


 ああ、本当にテンションが下がりますね。目を閉じて夢の世界に入ったのは良いのですが、出て来たのはシルヴィアの姉であるイシュリア様。霧に包まれた中に立っているのか、はたまた雲の中に浮かんでいるのかは不明ですが、兎に角周囲が白に覆われている場所で望まぬ相手との対面です。


「わざわざ夢に干渉するだなんて何さ……何用ですか?」


「今、何様って言おうとしなかった!?」


 しかも私が見てしまったのならば大変不服ながら仕方が無いのですが、この夢は外部からの干渉で見せられている物。要するに勝手に私の夢の中に入って来たのですよ。


刷毛(はけ)とハゲは口にすれば似ていますが全然別物ですよね? まあ、イシュリア様とシルヴィアでは毛とか濁音程度じゃ済まない差が有りますが。それで恒例のネタでも披露しに来たので? いい加減飽きましたよ」


「女神の誘惑を芸人のギャグみたいに扱うのは止めなさいよね!?」


 分かっているじゃないですか。私は何か詳しく言及した訳でも無いのに言い当てていますし、自分でもネタ扱いだと思っているのでは? 最終的にシルヴィアの怒りを買う事までワンセットとして。


「じゃあシルヴィアかティア、もしくはアンノウンの夢を見たいので邪魔は止めていただけます? って言うか次からはネタをするにしても新作でお願いしますね」


「はいはい、お邪魔虫は帰れば良いんでしょ。次は新ネタを披露して……って、違うわよっ! ミリアス様からの伝言よ。どうも魔人が出現したらしいの。ちょっと気になって調べたら見つけたらしいわ」


「……」


 イシュリア様の言葉に私は無言にしかなれませんでした。いえ、内容が関わっているのですが、先日既に遭遇したという報告を受けているのですよ。


「つい先日、アビャクという名の魔人を自称する相手と遭遇したと報告を受けていますが?」


「あら、そうだったの? 三ヶ月前位にに報告しろって言われたんだけれど、グリエーンでの復興の手伝いが忙しくって忘れていたのよ。君にもこの位ならとか言われたけど、こりゃ言い訳無理ね。ごめんごめん。……あっ! さっきの例えなんだけれど、刷毛とハゲじゃなくて、ウコンとウン……」


 強制的に覚醒した為に少々嫌な気分ですが、流石にあれ以上は聞けません。だって、シルヴィアの姉だけあって声質が似ているのですから! あれでもって一応哀れな事に信者が居るのに少しは自覚を持って貰いたいですよ。まあ、私も賢者信奉者だとか何とか言われても困惑するだけですけれど。


 ……でも、私は一応人間なので問題は無いはずです。……多分。



「……どうかしたのか? 何かあれば私に話せ。夫婦ではないか」


 目を開ければ微笑みながら語り掛けて来るシルヴィアの姿。最悪の目覚めから一転して最高の目覚めとなった私は起き上がると彼女を抱き締め、唇を奪いながら押し倒す。一切の抵抗は無く、時間が許す限り互いの存在を確かめ合いました。


アンノウンのコメント 勿論ボスがウコンでイシュリアが道ばたに落ちて乾いた牛の……

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