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ツンデレの恥辱

 迷宮探索の物語は結構人気が有るわ。古代都市や謎の神殿、洞窟の奥に隠された地下帝国。数々のモンスターや罠を退け謎を解き明かし財宝を得る。とてもロマンを感じる話よね。


 まあ、ソリュロ様にその事を話したら微妙そうな顔をされたのだけれど。


「いや、そういった事は空き巣やら何やらと言うのではなかったか? 幾ら持ち主が居なくなったとしても忍び込んで墓荒らしや泥棒をするのはどうかと思うぞ?」


 あっ、うん。不老不死で数百年前の事も最近だと感じる神様からすればそうなるわよね。私達に例えるなら家主が亡くなったり引っ越しして所有者が居ない家に勝手に入り込んで探検するみたいなものだもの。太古の呪いとか空き巣対策の防犯用の魔法みたいな物よ。……うーん、神様と分かり合うのって難しい。時々だけれど魔族の方が価値観の共有が可能だって思えるわ。……本当に偶にだけれど。


 さて、遺跡を舞台にした冒険小説にはお約束の展開が有るわよね? 密室に水が流れ込んで来たり、壁が迫って来たり、大岩が転がって来たり。お約束だし、助かるのは分かっているけれど心躍る展開よね。……あくまでも小説だったらの話だけれど。


「レ、レリックさん!」


「舌噛むから黙ってろって言っただろうが!」


 勇者の試練として訪れた遺跡を模した場所を進む途中、私達は螺旋状の通路に居たわ。追い掛けて来るモンスターの気配も無いし、体力の温存も兼ねてゆっくりとした足取りでグルグルグルグルと右回りに進みながら下へと向かって行く。私はこの時点で嫌な予感がしていたのだけれど、レリックさんが踏んだ床の一部が沈んだ事で更にそれは増したわ。


「今、カチって鳴らなかった?」


「……鳴ったな」


 上の方から何かが転がって来る音。それは勢いを増し続けて急速に接近して来る。体力の温存だなんて言っている場合じゃないとレリックさんが駆け出し、今に至るわ。


 未だ何が転がって来ているのかは分からないけれど、このままレリックさんの足なら逃げ切れそうね。そんな風に一安心したのも束の間、私を抱えたレリックさんが走り抜けた通路の壁に穴が開き水が流れ込んで来たの。嘘でしょ!? 私、今は体に力が入らないのだけれどっ!?


「レリックさん、泳ぎは得意かしら? 例えば鎖で手と手が繋がった女の子を抱えたまま泳げる位には……」


「……」


「……え? ちょっと、レリックさん? 無言は不安になるのだけれど?」


 進めば進む程に水の量は増えて行き、逆に水が邪魔でレリックさんの動きは僅かだけれど遅くなって行く。転がって来る物の姿が遠くに見えれば、予想通りの大岩だったわ。えっと、このままだと岩に追い付かれて二人共……あれ?


「ねぇ、レリックさん。ちょっと思ったのだけれど、岩から逃げる必要は無いと思うわ」


「言われてみりゃ、その通りだ。なんで邪魔な岩から逃げ続けてんだよ、俺は。冒険小説の展開みてぇだからその通りにしてたが、俺達はどっちかって言うと英雄伝側だろ」


 立ち止まり向き直ったレリックさん。私も頭を動かして抱えられた姿勢のまま後ろを向けば迫り来る岩。水は膝上まで来ていて時間は無さそうね。


「おい、ちょいと本気出すから絶対に喋るな。……マジで舌噛むからな」


 最後は心配する様な声の後、私は体が後ろに引っ張られる感覚に襲われて、続いて堅い物が砕け散る音が聞こえたわ。頭位の大きさの破片が周囲に散らばり、着地したレリックさんは再び振り向いて走り出す。拾い通路を埋め尽くす程の大きさの岩が完全に砕かれていたわ。


「おい、破片がぶつかっちゃいねぇか?」


「え、ええ、大丈夫よ」


「なら別に良い。ほら、もうちっと急ぐぞ」


 水は更に勢いを増して増え続け、もう直ぐレリックさんの腰まで届きそう。だけど溺れるかもって心配は既に無いわ。だってレリックさんが一緒だもの。絶対に助かるって確信があったわ。


「ジャンプするぞ!」


 突然聞こえた叫び声と共に浮遊感に襲われて、私とレリックさんは壁に開いた穴に飛び込んだわ。私達が通る途中も穴の両側から壁が迫って来ていて、なんとか通り抜けると同時に閉じる。……あー、ビックリした。


 でも、どうやら試練も終盤みたい。私達が足を踏み入れたのは四方を壁に囲まれた広い部屋。その中央であのお姉さんが杖を手にして待っていたのだけれど、その杖には見覚えがあったわ。確か三代目勇者の物語の挿し絵や一行を讃える石像が持っていた物ね。じゃあ、あの人は……。


「アナスタシア……様?」


「あー、ちょっと恥ずかしいわね。一応姫だけれど母さんが市井の出だったし、町で育ったから慣れてないのよ、敬称に。……勘弁してくれない?」


 恥ずかしそうに頬を指先で掻く彼女こそ私の故郷であるエイシャル王国の王女にして、三代目勇者の仲間。最終的に二人は結ばれて王座に着くのだけれども、伝説では清楚で理知的な方だったけど、実際はこんな感じだったのね。でも、三代目勇者であるシフォー・ヴェッジと違ってショックとかは無いわね。……あの堕落した上に初対面で失礼な事を言って来た事は忘れないわ。


「じゃあ、アナスタシアさん。貴女が試練の相手って事で良いですか?」


「敬語も無しで。どうせ私は再現されただけの存在だし、礼儀は不要よ? 調子に乗りすぎたらシメるけど」


 怖いっ! この人、レリックさんみたいな感じの人だわ。レリックさんはチンピラって感じで、アナスタシアさんは姉御って感じだけれど。


「にしても貴女も小さいのに大変ね。勇者の仲間とか苦労するでしょ。私の所の勇者は堅物のお坊ちゃんって感じだから少しは楽だけどね」


「あのぉ、さっきから少し勘違いをしているわ。私、勇者の仲間じゃなくて……」


「えっ!? まさか一般人だったのっ!? ……参ったわね。まさか無関係な子供が儀式に巻き込まれるだなんて。儀式の調整をしている神様は何をしているのよ。もしかしてイシュリア様なんじゃ……」


 アナスタシアさんの記憶は会話からしてシドーが贅沢を覚えて堕落する前の状態らしかったのに、既にそんな評価って一体何をしたのかしら、あの駄目女神様ったら。これ、本人は自分の未来を知った時に死にたいって言った位に落ち込んでいたけれど、この人はどんな反応をするんでしょうね。


「ウェイロンの事は尚更言えないわよね」


「ウェイロンがどうしたの? まさか何かやらかしたんじゃ。彼奴、ちょっと常識が無いのよね。悪い奴じゃないけれど……」


 言えない。シドーは贅沢に溺れて、ウェイロンは不老の体を得て魔族側に寝返って居るだなんてとても言えないわ。でも、それとは別に伝えなくちゃ駄目な事が有るわ。



「アナスタシアさん、私は勇者の仲間じゃなくって……」


「分かってる分かってる。直ぐに帰してあげるから安心しなさい」


「そうじゃなくって、私が勇者なの!」


 その言葉を聞いた途端、アナスタシアさんは固まった。もしかして子供が勇者だって事を不安に思ってショックが大きいのかも知れないわ。でも、そうだったら余計なお世話だわ。私だって勇者として頑張って、実際多くの魔族を倒して世界を三つ救っているのよ。だから私が勇者な事に不満があるならビシッと文句を言ってあげなくちゃ! じゃないと助けてくれた賢者様や女神様……ついでに一応アンノウン、そして戦って来た魔族達を侮辱する事になるのだもの。



「いやいやいや、子供に任せるって何をやってるのよ! 今までの功績とか関係無く、子供が世界を背負わされるだなんて許される事じゃないわよ! あーもー! 神様連中を全員ビンタしてやりたい!」


 文句を言う気だったけれど、これって文句を言えない空気よね。子供だから無理とか否定するんじゃなくって、普通の感性で私の為に怒ってくれているもの。



「で、でも、賢者様が仲間になってくれているから大丈夫よ」


「あんな嫁さんとの惚気話ばっかする人じゃ、ちょっと不安ね。……まあ、決まった物は仕方無いわ。辛くなったら逃げなさい。最終的に世界を救えばチャラよ。犠牲? 犠牲を出したのは魔族でしょうし、貴女が背負う必要は無いの。……それじゃあ試練を開始するわよ」

 

 手から鎖が外れ、体に力が戻る。これなら戦えるわ。レリックさんとの共闘は女神様との訓練以外では初めてだけれど、何となく上手く行く気がするのよね……って、今度はレリックさんが倒れてるっ!?


「ち、力が入らねぇ……」


「順番が逆だし、こっちの手落ちって事で鎖は外したわ。じゃあ、仲間を庇いながら戦いなさい!」


 困ったわね。レリックさんを放置しながら戦うのは難しいし、肩に担ぐのは身長差が結構あって無理だし。……うん。緊急事態だから仕方が無いわよね。


「レリックさん、絶対に黙っておくから安心して!」


「嫌な予感がするんだが、何をする気だ?」


「お姫様抱っこ」


 咄嗟に逃げ出すレリックさんだけれど力が抜けた体で這っても直ぐに捕まえられる。恥辱を避けたいから暴れるレリックさんを無理やり抱っこした瞬間、全てを諦めた顔だったわ。まあ、私は絶対に口に出さないし、大丈夫よ。……只、不安なのがアナスタシアさんの様子。気まずそうに目を逸らしているけれど……。




「ククク。随分と愉快な……いや、大変そうな事になっているな」


 ……あれぇ? どうして貴方が此処に居るのかしら? ……取り敢えずレリックさん、ごめんなさい。



???のコメント  全ては主のお導き……担々麺が食いたい気分だ

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