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パンダと兎と懲りない連中

「なあ、悪かったって言ってるだろ」


 操られた人達との戦いから二日程経った頃、私は未だに怒っていたわ。レリックさんは謝っては来るけど、どうも軽く感じるのよね。


「女のこの胸を触った上に貧乳だとか色々言う変態さんとは話したくないわ」


 事故だってのは私だって分かってるのよ。だから先に謝ってくれればそれで終わりで済んだのに、掴める程の大きさもない貧乳だとか言ったのだもの、許せないわ。どうも私はレリックさんに対しては遠慮が無くなるらしく、他の人なら此処までにはならなかったと思うけど。


「何だ、未だ怒っているのか?」


「女神様……」


 でも流石にそろそろ見かねたのか女神様が間に入って来た。今までは妙な程に介入せず、賢者様と一緒に複雑そうな表情を浮かべるだけだったのだけど、私だって何時までも怒っていちゃ駄目だって分かっているわ。……明日、グリエーンで勇者の試練が行われる。それに新しい仲間のレリックさんも参加するし、こんなんじゃ駄目だと思うんだけれど……。


「よし! 町でアイス奢ってやる。それでチャラだ。良いな! んじゃ、行くぞ!」


「わっ!?」


 私がモヤモヤして固まっていたらレリックさんに担がれ、返事も聞かずに町に連れ出される。もー、強引なんだから困るわ。……でも別に良いわ。何故か嫌な感じはしないし、この辺で許す口実になったし。



「わーい! アイスだ、アイスだー!」


 何時の間にか私の肩に乗っていた元凶ことアンノウンのパンダ。私とレリックさんは同時に掴み、女神様へと投げ渡した。


「「アンノウンの分は無しよ(だ)!」」


 本当に相変わらずなんだから、アンノウンは。本当に反省しなさいよ! 女神様の手はパンダをガッチリ掴んで離さない。もう片方の手も本体の尻尾をガッチリ掴んで離さない。


「いーやー!? 僕は今日担当の僕なのに! 今日担当の僕なのにぃ!」


「元々は一匹だろうが。それに安心しろ」


「安心出来ない予感……」


「他の六匹も一緒だ。常日頃の悪さの罰は纏めて受けるぞ」


「矢っ張りー!!」


「じゃあ、私はこの馬鹿を連れて一旦家に戻る。キリュウは残って明日の支度をしているし、帰ったら労ってやらんとな。……たっぷりと」


 獰猛な肉食獣が獲物を狙う時の眼差しに私は労いの方法を悟った。賢者様、明日は大丈夫かしら? 女神様があの表情を浮かべた次の日は疲れ切った顔になっているもの。……野暮な話ね。放置しましょう。助けを求めて無言で目を潤ませるアンノウンからも目を逸らした私とレリックさんはアイスを食べに行く。この時、怒りはとっくに何処かに消え失せていた。





「しっかし飯を沢山食うのに全然脂肪にならねぇな。腹は兎も角、胸に付けば良いものをよ」


「レリックさんって反省しないわよね」


 デリカシーが無いのは変わらないので直ぐに怒ったけど。この人、私に対して遠慮が見られない事が多いのだけど何故かしら? 今まで仲間内でこんなノリだったの? 私をちゃんと仲間だと認識してくれているのなら嬉しいけど、デリカシーが無いのならば複雑ね。……あっ、そうだ。私、レリックさんの冒険について詳しく知らないわ。


「ねぇ、レリックさん。今までどんな旅をしていたのか詳しく話してくれないかしら? 人間社会のドロドロとしたのは除外で」


「おいおい、俺が気になるのか? まあ、俺の魅力はテメェみてぇなチビ餓鬼にも……」


「ここで私が大声で『変態よ。助けて』って叫んだらどうなるでしょうね」


「……悪かった」


 話してくれるのは良いし、嬉しそうなのも別に良いのでしょう。でも、調子に乗るのはどうかと思うわ。私は強ち冗談ではないと声色で伝え、レリックさんはテーブルに突っ伏す勢いで頭を下げる。本当にお調子者ね。この人が本当にお兄ちゃんで一緒に暮らしていたら苦労しそうよ。でも……。


「どうかしたか?」



「ちょっとね。レリックさんがお兄ちゃんだったら楽しそうって思ったの」


 言い切った後で急に恥ずかしくなる。顔が熱くなったし、赤くなってそうね。これ、レリックさんに弄られそう。そんなに俺が素敵かって調子に乗らないかしら? でも、私の予想は外れて、レリックさんは神妙な面持ちだったわ。


「……そうか」


 えぇっ!? 何? 何なの、この展開!? もしかして触れちゃいけない話題に触れちゃったの!? 私はどうしたら良いのかって迷い慌てふためいたのだけど、レリックさんは冗談めかした態度を取る事もなく二人でアイスを食べて帰る。夜には何時ものレリックさんに戻っていたけれど、本当に悪い事を言ってしまったのかしら……?


 ちょっと戸惑いながらも夜になったら眠り、朝になったら目を覚ます。グリエーンに向かう時間が迫っていた。


「さて、いよいよグリエーンに向かいますが、今回の儀式で得る力について再確認しておきましょう。そして直ぐに向かいましょう!」


 翌朝、朝ご飯を食べる前から賢者様は上機嫌だったわ。レリックさんは不思議そうにしているけれど私は予想が付いていたの。だって儀式を執り行う清女代理は賢者様の養女のティアさん。女神様にはバカップルでアンノウンには駄目飼い主でティアさんには親馬鹿。まあ、家族に会えるのが嬉しいのは分かるけど、もう少し節度が必要じゃないかしら。


「三百年以上生きていても……」


 いや、立派な人だとは思っているのよ? 善人だし、親切だし、凄い魔法使いだし。でも、身内が関わると本当にこの人は……。


「……あの人も子持ちらしいけど、少しは見習って欲しいわ」


 ネルガル君にアビャク。たった数日の内にニカサラで出会った二人の敵。ネルガル君を呪詛の満ちる村から連れ出し狂わせて育てたのがアビャクなのかは分からないけれど、そんな二人が潜伏しているのに私が安心してグリエーンに来られた理由。それは頼もしい人が街に残ってくれているから。


 ハシビロコウの鳥トンさん? いいえ、違うわ。あの人は強いらしいけど性格に欠陥が有り過ぎるもの。


 黒子さん? あの人って私とそんなに年齢が変わらないらしいし、ちょっと頼りないイメージが。


 私がアンノウンの部下だけれど信頼している相手。それはウサギのグレー兎さん。厳しいけれど真面目だし思い遣りがあるし、素敵な女性だと思うわ。


「でも、キグルミなのよね……」


 そんな事を思っている間にも前方から砂煙を上げながら近付いて来る人影が見えた。


「レリックさん、大丈夫よ。敵じゃないから」


「お、おう。……ん? んんっ?」


 身構えたレリックさんだけれど、敵じゃないと伝えれば構えを解いたのだけれど、ティアさんの姿が見えた途端に様子が変ね。会った事でも有るのかしら? もしかしてナンパしたとか? レリックさんが腕組みして首を捻っている間にも人影は急速に接近し、矢っ張りティアさんだったと分かった。この人、落ち着きがないわよね。大きな声で騒いだりしないけどマイペースで動きがアグレッシブだわ。


 

「父。母。アンノウン。ゲルダ。そして知らない奴」


 ほら、今だって次々に抱き付いているもの。流石に初対面の相手には抱き付かないのね。賢者様から絶対に抱き付かせない強固な意志が見て取れたわ。


「ティアさん、その人はレリックさん。新しい仲間なの」


「そう。一瞬、ゲルダの兄かと思った。……何処かで見た気がする顔」


「さ、さあな! 人違いだろっ!?」


 あっ、これは絶対に会った事の有る顔だ。だって明らかに挙動不審だもの。冷や汗ダラダラな上に目が泳いでいるもの。……こんな時、グレー兎さんみたいな人が居てくれれば助かるのだけど。


「……ティア、そろそろ行きましょうか」


「父、怒ってる?」


「いーえ、いえいえ。私は怒っていませんよ? ほら、笑っているでしょう?」


 この時、賢者様は確かに笑顔だったわ。目が微塵も笑っていなかったけれど。


「ふふふ、怒っている姿も素敵だぞ」


 女神様は女神様で役に立たないし!




 一方その頃、グレー兎さんはと言うと……。



「今、何と言いました……?」


「アヒャヒャヒャヒャ! 聞こえなかったの、オっバさーん! 僕の年齢を訊いたのはそっちなのにー! 年取ったら耳が遠くなっるんだねー!」


「……殺しますよ?」





アンノウンのコメント  耳が遠いの? グレちゃーん

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