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ロリコン疑惑のツンデレ 晴れ時々焼き蜜柑

 焼き蜜柑が空から降り注ぎ、私達を取り囲むカンガルーの群れが慌ただしく逃げ惑う。割と悲惨な目に遭っているレリックさんから目を逸らし、手の中に落ちてきた焼き蜜柑の皮を剥いて一房口に運べば甘酸っぱい味が口の中に広がる。


「認めない! 認めてなるものか!」


 訳の分からない状況だとは思うけど、今分かっている事は一つ。黒子さんの頭の上でパンダが怒り心頭って事よ。何だ、何時もの変な光景だわ。珍しくもないわよ。


 うん、もう慣れて来たわね、こんな状況にも。未だ慣れていないレリックさんは頑張って。さて、どうしてこうなったのだったかしら?


 えっと、確かお化粧をレリックさんにして貰って、町中でレリックさんの知り合いに会ったのよね……。



「本当に奇遇ですね。嬉しくて体が疼いて来ました」


 レリックさんとのお出掛け中に現れた知的美人のイーチャさん。涼しげな白のワンピースの下には大きなお胸が存在を主張していて、何やら訳ありの関係っぽいレリックさんは気まずそうに顔を背けながらも彼女の方をチラチラ見ていたわ。イーチャさんは全然気にした様子も無くレリックさんの肩に触れているけど。


「おや、これは失礼致しました。お連れのお嬢さんが居たのですね」


 レリックさんが間に入って何故か隠すようにしていた私に気が付いたイーチャさんはレリックさんを迂回して私の前で屈んで目線を合わせてくる。この時、胸が揺れた。……くっ!


「初めまして。私はイーチャと申す者です。レリックさんとは以前お仕事をお引き受け頂いた仲でして、前払いと後払いの報酬として……おっと、これ以上は子供に話す事では有りませんね」


 あっ、察した。うん、別に良いのよ? レリックさんだって男の人だし、別にそういう事をしても関係無いわ。でも、一応蔑んだ視線を送っておきましょう。何となくそうすべきな気がしたもの。


「それでレリックさんとはどの様なご関係ですか? 仲良く手を繋いでいますが……」


 あれ? イーチャさんの視線に僅かだけど刺が有る気がするわ。笑顔のままなのに目が微妙に笑っていないし、レリックさんに体をくっつけているし。矢っ張り只ならぬ関係なのね。話からして体を使ってお仕事を引き受けて貰った結果、互いに情が湧いたとかかしら? 少し素敵な気もするわね。詳しく聞いてみたいわ! でも、レリックさんは多分照れて話してくれないわね。ツンデレって本当に面倒よ。


 しかし私達の関係かぁ。旅の仲間って言うのも私が子供だから変だし、知り合いなら仲間の私がクルースニクの制服を着ていない事にも違和感を覚えそう。つまりクルースニクとは別の仲間ならどんな仲間だってなるし……。


「……家族だ」


 イーチャさんから視線を外しながら私の手を握るレリックさんと目が合う。視線だけで話を併せろと伝えて来たわ。そうね。確かにそれが一番だわ。じゃあ、一番あり得そうな設定は……。


「お兄ちゃん。そろそろ見せ物が始まるんじゃないかしら? 早く行きましょう」


 レリックさんにしがみ付き、少し子供っぽく甘える声で先に進みたいと伝える。こんな風にしたのは何時以来かしら? トムさん達にお世話になっていた頃も羊飼いとして頑張って独り立ちを目指してたし、少し恥ずかしいけど何となく嬉しい。


 ちょっと照れているのも人見知りをしている風に見えるし、後はレリックさんに丸投げね。どんな関係かもレリックさんに丸投げだけれど。だって私って嘘は慣れていないし、下手な真似は出来ないわ。


「……そういう事だ。ちょいと訳あって離れていた妹と遊びに出てるんでな」


 ……あれ? 直ぐに話を合わせてくれたし、ボロが出る前に離れる口実を作ったのは良いけれど、レリックさんったら少し嬉しそうじゃないかしら? お兄ちゃん呼びが嬉しかった? あれ? もしかしてレリックさんってロリコ……忘れましょう! 主に私の精神衛生の為に! ロリコンと一緒に旅をするとか想像しただけで色々すり減りそうだもの!


「そうですか。じゃあ、お邪魔するのも悪いですね。私も慰霊碑に参る為にやって来ていまして」


 慰霊碑って確か数年前に起きた疫病の犠牲者の鎮魂目的で作られたって奴よね? この町の隣の領地の村で、評判が凄く悪かった領主様が死んだけれど詳細は闇の中って噂の。領主様の評判が評判だから暗殺って噂すら有るのよね。


「……ちょっと村とは縁が有りましてね。毎年この時期にはお休みを取って祈りに来ているのです。もしかしたらあの子も……いえ、何でも有りません。では、直ぐそこの宿屋に泊まっていますので……用があるならどうぞお出で下さい」


 イーチャさんは何とか納得した様子で宿屋を指さして離れて行ったけど、最後のって多分夜のお誘いよね? 肉食系だわ、彼女。普通の美人も私みたいな子供も範囲内のレリックさんは雑食性とでも呼ぶのかしらね? その辺には詳しくないから分からないけど。違う気もするわ。


「……何とか行ったな」


「そうね……。所でレリックさんって男の人も……いえ、矢っ張り無しで」


「……おう。聞かない方が幸せな気がするからな」


 ……あれ? 所でレリックさんがイーチャさんと一旦お別れしたいのは未だ子供の私が隣に居るから気まずいからって分かるのだけれど、私はどうしてかしら? 何となくイーチャさんと離れたかったのだけど、その理由が思い浮かばないわね。巨乳だから……じゃないでしょうし。


 レリックさんと手を繋いだまま広場に向かう道中、私はその理由を考えていたけれど何故か分からない。レリックさんが本当にお兄ちゃんだったら嫉妬を感じたのでしょうけど他人だし、別に好みのタイプって訳じゃないもの。私の好みはどちらかと言うと楽土……いえ、特に居ないわ。



「……いや、マジか。顔面に羊の糞を投げ付けるとか」


「だって仕事中にしつこかったのだもの」


「にしてもゲルドバっつったか? マジで普通の犬かよ。犬みたいなモンスターじゃねぇのか? 頭が良さ過ぎだ」


「さあ? でも、犬でもモンスターでも大切な家族には変わらないもの」


「……そうか」


 広場に行く途中、人混みで中々進めないから退屈だって理由で私の故郷での生活を話すように言われたのだけれど、退屈するんじゃって思ったのに興味深そうに聞いてくれたわ。特にトムさんの息子の悪餓鬼についてなんか私が怒った話をすれば一緒に悪い奴だって言ったし、家業をサボって女の子の邪魔をする奴なんて気に入らないのね。


「……案外お前が好きなんじゃないのか?」


「うへぇ。ちょっと嫌な事を言わないで欲しいわ。私、あの子が大嫌いなのだもの。しかもちょっかいを出して来た切っ掛けが狼の群れから助けてあげてからなのよ? 失礼しちゃうわ、本当に!」


「まあ、仕事サボって女を追いかけ回す野郎なんざ相手にすんな。ほれ、着いたが……多いな」


 広場に到着したのだけれど、只でさえ大柄なエルフを中心に人が集まって居るから大道芸人の二人が見えない。いえ、どうやら聞こえて来た話からしてピエロは居ないらしいけれど。……うーん、困ったわね。エルフさん達は優しい種族だから子供の私を前に行かせてくれそうだけれど、頼むのも気が引けるし、此処まで密集していたら大変そう。


「……おい」


「何かしら? って、ひゃわっ!?」


 レリックさんはいきなり私の腰を掴むと持ち上げて、そのまま有無を言わさずに肩車をして来たわ。あっ、でもこれなら見えるわ。


「有り難う、レリックさん」


「……気にすんな。後で不満がられても面倒だと思ったからだ」


 この人、もう少し言葉に注意すれば女の人から人気が出そうなのに損な性格ね。……一瞬、私の太股で頭を挟むのが目的じゃって思ってしまったけれど、失礼だから黙っていましょう。レリックさんが太股フェチで少女も範囲内の女装趣味だなんて有り得ないもの、多分、きっと、恐らく……


 さて、折角だから甘えさせて貰いましょうか。前の人達の頭より位置が高くなったのでハッキリ見えたのは噂通りに小さな竜を杖に乗せた男の子だった。


 赤毛を三つ編みにして、その上から絵本の魔女みたいなトンガり帽子を被った私と同年代の男の子。少し活発そうな顔付きだけれど、杖は宝玉を咥えた髑髏だし少し悪趣味ね。


 そして竜は鷹と同じ位の大きさで鱗の色は黒。目は男の子の髪と同じ燃えるような赤だった。うーん、ちょっと気になるわね。芸を覚えさせたって事は賢いのだろうけど、なんて名前の竜なのか解析してみましょうか。


『『はp&が%&』?%fだあ#』


 ……あれれ? 変な文字列が浮かぶだけで全く分からないわ。少ししか解析出来ない事は有っても、こんな事は今まで無かったのに。



「さあ! 今日は自称メインのピエロが居ないけど、この町の人は悪徳領主から逃げてきた子供を匿う位に優しい人達だし、多分許してくれるよね? じゃあ、僕、ネルガルと……」


「俺様、ザハクのショーの始まりだ。ケケケケケ! 存分に楽しんで行きな! もう死んでも良いって位に楽しませてやるからよ!」


 私がちょっと疑問に思っている間にショーが始まる。ネルガル君が魔法で出した火の輪を次々に潜ったり、投げたナイフを的で受けたり、皆拍手を送り、私も目を奪われていたわ。そしてショーは続き、ネルガル君が杖を振り上げれば何が起きるのかと期待すれば、何も目の前では起きないその代わり、背後から唸り声と獣臭が漂って来た。


 振り向けば観客を取り囲む様に並ぶ袋に子供が入ったカンガルー。グリエーンで戦った無頼(ブライ)カンに似ているけれど、一回り程体が逞しく、前脚は帯電していたわ。


『『武雷(ブライ)カン』無頼カンの上位種。肉体及び格闘技術は数段上であり、雄は年中発情期。基本的に一度夫婦になればそのままだが、雄が浮気した時に使われる発電器官を雌のみが有している』


「……うわぁ」


 対応する為にレリックさんから飛び降りて解析を使うけど、呆れてしまって一言しか口から出ない。基本的に雄が弱いのね、この種族って。っと、そんな事を考えている場合じゃないわ。どう考えても流れからしてネルガル君が関わっているのは間違い無いもの。


 武雷カンから意識を外さずに振り向けばネルガル君を掴んだザハクが宙を舞い、その口の中は煌々と輝き火が漏れている。


「無関係な人はごめんなさい。じゃあ、関係有る人は……お人好しを悔いて死んでよ」


「させるか!」


 ネルガル君の顔から表情が消え、目が人形めいた物に変わる。ザハクの口の前に現れた火球は急速に輝きを増し、

竜の最大の武器とされるブレスが今にも放たれそう。観客達は小さな子供やお年寄りを抱えて逃げ出し、レリックさんは咄嗟に飛んでスレイプニルで弾こうとする。でも、放たれたのは巨大な火の玉が分裂した広範囲を撃ち抜く無数の火球。



 そして、地上から投げられた無数の蜜柑が相殺する。程良い焼き加減の蜜柑が武雷カンに降り注いで熱くて染みる果汁が武雷カンを足止めする中、レリックさんもグレイプニルが叩き潰した蜜柑の果肉と果汁を全身に浴び、ベッタベタの状態で着地する。


「……矢っ張り来たのね」


 そう。こんな展開を引き起こす存在は一匹だけ。慌ただしく動き回り、蜜柑箱で降り注ぐ焼き蜜柑をキャッチする黒子さんの頭の上にはパンダのヌイグルミが乗っていた。




「ザハク! 僕はお前の存在を許さないぞ!」


「……へ? 俺がどうかしたかよ?」


 あれれ? 何か怒ってないかしら? ……面倒だから傍観に徹しましょうっと。

アンノウンのコメント  ゲルちゃんも結構酷いなぁ うん、最高!

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