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ツンデレと狼のときめき

 鏡の前で座り、楓さんから貰った化粧品を使ってみるけれど思うように出来ない。十一歳には未だ早いと思うし、今まで忙しいからお化粧なんてした事が無いって言ったら楓さんに怒られちゃったのよね。


「ええい! 素材は良いのだから磨け!」


 そんな剣幕に圧されてお化粧を習ったけれど、こうやって自分一人でやると、教えて貰いながらの時とは違うわね。変に濃くなったり、斑になったり変になっちゃうわ。試行錯誤しながらも軽いお化粧を済ませたら次は問題の髪の毛。賢者様の用意したシャンプーでさえ少しの間しかストレートになってくれない強烈具合。


「……昔からこれだけはどうにかしようって頑張ったのよね」


 近所の悪ガキがからかってくるし、お洒落に興味が無いけれど何とかしたいと願ったこの癖毛。今も勇者としての力を込めて櫛を当てるけれど、癖毛も力と同様に強くなっているのか伸ばせない。……いや、どうしてっ!?


「まさかとは思うけど、この癖毛って呪いの類じゃないかしら……」


「んな呪いが有るかよ。あれか? 今以上に伸びて蠢く髪の毛が人を襲うのか?」


 少し自分の癖毛が憎くなって呟けばノックもせずに扉を開けたレリックさんの姿。


「私、女の子なのだけど?」


「その程度知ってる。にしても酷ぇ化粧だな。仮装大会にでも出る予定かよ」


 遠回しの抗議は通じず、扉を閉める所か部屋の中に入って来たレリックさん。確かに私のお化粧は下手くそだろうけど、仮装大会は言い過ぎよ。思わず頬を膨らませばレリックさんは笑いながら私の前まで来るとお化粧道具を取り上げたわ。


「はっ! 今度はハリセンボンの真似か? ったく、下手な化粧ならしない方がマシだっつーの。ほれ、大人しくしな。俺が一からちゃんとしてやるからよ」


 え? レリックさん、お化粧出来るの? この時、私の中である疑惑が芽生えた。あのミニスカセーラー服は実は満更でもなくて、女装に目覚めたんじゃないかって。疑惑の目を向けながらも大人しく化粧が終わるのを待つと鏡を見せられる。私がしたのよりもずっと上手なお化粧がされていたわ。目元をパッチリと見せて肌も少し白っぽいだけで自然な仕上がり。私は野外での活動が多いからどうしても日に焼けちゃうんだけれど、鏡に映った姿は室内で大人しくしている子っぽかったわ。


「凄いわ、レリックさん。勝手に女の子の部屋に入って来たりとかデリカシーが無いからモテそうに無いけど、こんな特技が有るのね」


「テメェみたいなチビ餓鬼には早いだろうが、俺みたいなのは結構モテるんだよ。化粧も話題作りに丁度良くてな。残念だったな」


「あっ、そうだったの。私ったらてっきり趣味で女そ……そろそろ行きましょう」


「おい、趣味で女装とか言おうとしなかったかっ!? ちがうからなっ!? その『焦っている所が怪しい』って顔止めろ! マジで頼むから!」


 ……今、ちょっとだけアンノウンの気持ちが分かったわ。レリックさんって打てば響くし、反応が面白いもの。悪戯のしがいが有るわ。アンノウンが色々な人に悪戯を仕掛ける訳よ。


 この日、私は少しだけSになった。悪い子になっちゃったって方が正しいかしら?



「うーん。僕とキャラ被りされるのは困っちゃうなぁ。ほら、悪戯好きなマスコットってのが僕の立ち位置だしさ


 ……あれ? 今、アンノウンの声が聞こえたような。でも、周囲を見回してもパンダ一匹居ない。うん、気のせいね。じゃあおでかけしましょうっと。


「おい、出掛けるんだったらこれを持っとけ」


「これは?」


 レリックさんが渡して来たのは一枚の御札。何が書かれているかというと、私には読めないので分からなかった。辛うじてパップリガの文字だって分かるんだけど。


「それを持ってりゃお前への認識をずらせる。俺は兎も角、勇者だって身バレしてるテメェは目立って楽しめねぇだろ。……言っとくが一緒に行く俺の為だから勘違いすんなよ。ほら、行くぞ」


「そうなの。でも有り難う、レリックさん」


「……話はちゃんと聞いとけや、ボケ」


 相変わらず乱暴な物言いだけど、私の為に用意してくれたのは分かっているわ。だいたい、本当に自分の為だったら一緒に出掛けないって選択肢も有ったもの。それなのにくれるって事は……あれ? もしかして気が付かない振りの方が礼儀だったのかしら? 私、ツンデレへの対処法に詳しくないから困ったわね。


 こんなくだらない事を考えながらいたからか私は気が付かなかった。レリックさんとニカサラの街中に入った時、とても小さい影が私達を尾行していた事に。でも、レリックさんも気が付かなかったらしいけど、何か考えてたのかしら?



(……やっべぇ。さっきので良かったのか? 恩着せがましいのは駄目だろうって思ったが、どうも態度を間違った気がするぜ……)


 私よりも戦闘とかの経験が豊富なレリックさんが尾行する気配に気が付かないだなんて、一体どんな事を考えていたのかしら? もしかしたら今日の休暇が終わってからの事かしらね。うん、このお散歩が終わった後はゆっくり体を休めましょうか。


「……それにしても多いわね」


 この時間は買い物客が集まる時間帯なのか右を見ても左を見ても人だらけ。特に多いエルフさん達は体が大きくて逞しいから人の波に飲まれたらはぐれそうね。そんな風に思っていたのだけれど、レリックさんの手が私の手を掴んだ。


「迷子になられたら迷惑だ。ちゃんと繋いでろ」


 この人、本当にツンデレね。でも、良いか。私は大人しくレリックさんの手を握ったまま歩く事にした。口も態度も悪いのに歩幅を私に合わせて歩いてくれてるし。……う~ん、でも全くドキドキとかはしないわね。何故かしら? こういうシーンでドキドキするのって作り話って事なのね。それとも……。


「レリックさんって実はモテない呪いとか受けてない?」


「んな訳有るかっ!」


「……この様な場所で喧嘩ですか? お止めなさい、レリックさん」


 あら、違うのね。人混みで大声を上げたせいか随分と目立っちゃうし、レリックさんも居心地が悪そう。どうやら喧嘩でもしたのかと誤解したらしいお姉さんが少し呆れた様子で話し掛けて来たわ。眼鏡の知的で色気のあるお姉さん。……あれ? 今、レリックさんの名前を呼んだ?


「イーチャ!?」


 あら、どうやら本当に知り合いみたいね。でも何処か只ならぬ様子だし、修羅場かしら? レリックさんの慌てた様子にちょっとだけドキドキする私が居た。


アンノウンのコメント レリっ君のタイトルでの呼び名はツンデレに決定!

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