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クルースニク外伝 28

実は数話の予定だったのに長くなり、評価も色々といただきました!

 王女付きのメイドたる者、例え同行出来ぬ場所に主が行っていたとしても暇を持て余し等致しません。ご愛用の食器の整備や部屋の掃除、各種諜報系魔法の有無のチェック、愛飲の紅茶の茶葉や茶菓子の常備を調べて不足しているのなら買い足しておきませんと。おっと、心付けを各所に配らなければ。


「さて、お昼は過ぎましたが食事にしますか」


 一段落着いた頃には正午を既に過ぎ、軽く摘まめる物を用意していたので書類作業に移行します。ラム様自体は他の王女様達との仲はご良好、されど派閥の者達がいがみ合う。正直申しますとサラ王女様は第一王女だけあって支援者の力も強いのですが、それ故に周りを手の者で固められて側近らしい側近は皆無。だから視察の途中で事故に遭われた時は随分と騒ぎになりましたね。大規模な落石事故で護衛はほぼ全滅、生き残った者達もモンスターに襲われましたが、旅の剣士によって助けられたとか。


 それにしても公爵が最近は妙に大人しいのが気に掛かります。下手すればサラ王女様と親子程に年の離れた息子の結婚話を進めたがっていたのに、最近は派閥のカイエン家とパップリガの有力な家との婚約を進めるのに夢中ですし。あの古狸、何を企んで……っ!


 少し気が立った為に右脇腹に負荷が掛かる体勢になっていたのに気が付かず、走った痛みに思わず眉をしかめた。そっと裾をめくればシミ一つ無い綺麗な肌。ですが、隠蔽の魔法を解除すれば背中から腹部に貫通した傷跡が現れ、指先で撫でれば涙が出そうになりました。ですが私に泣く資格など有りません。……あの子からすれば生きる資格すら無いのでしょうね。


「全部っ! 全部お前が悪いんだ! お前が逃げ出したから父上も母上も!」


 あの日、四年振りに会った弟は随分大きくなって、そして一緒に暮らしていた時と同じ様に泣いていました。そう、あの優しく泣き虫だった子にあんな事をさせたのは私。だからこの傷を消す方法があっても私は消さない。思いがけずとは言え家族を犠牲にした以上、死を選ぶ事はしないけど、自分の幸せは求めない。残りの人生は命を救って下さったラム様に捧げましょう。



 でも、もしもあの子が私の前に現れた時、どうすれば良いのか。その答えは未だに出ていないのです……。




「さーて、どうする? 後二十秒以内に決めないなら私は消えよう。ガンダーラの邪魔をするのも忍びないのでね。でも、広い広い世界が六つもあって、その中から一切の手掛かり無しに子供一人を捜し出すのは困難だと思うよ? ああ、半獣人で八歳の女の子って手掛かりが有るっけ? その程度、何の役に立つんだって話だけどね」


 風も無いのに、いや、台風の直撃だろうとも揺れそうにない大木が揺れる。まるで笑いを必死で堪えているみてぇにな。そうか、生まれたのは妹か。餓鬼の頃、弟だったらちょいと荒い遊びを教えてやるが、妹だったらままごと遊びに付き合わされるのかって思ってたんだ。まあ、兄貴になるってのが嬉しかったから嫌じゃなかったがな。


 だけどよ、此処で問い掛ければ俺は試練を脱落して、誘惑に負けた馬鹿の誹りを受けちまう。俺だけなら良いんだ。だけど、俺に期待してくれたイーチャを裏切り、レガリアさんや隊長、ラム王女の顔にまで泥を塗る事になっちまう。


 そうだ、妹が生きてるってだけで良いじゃねぇか。俺は過去を捨てたんだろ。なら、これ以上は聞く必要なんて……。


「ああ、どうせなら長々と詳しく話を聞かせてあげようか。そうだな、一時間位は必要だね。その間に王女がゴールすればリタイア扱いにはならない。……どうだい?」


 真実の木だの深層心理を読みとって願いを探るだの、色々聞いてはいたが随分と性格が悪い奴だ。自分を許す理由を与えてくるんだからよ。一つ与えられれば他の理由が浮かんで来る。依頼はアヴァターラへの参加だったとか、どうせラム王女にやる気は無いだとか、誘惑を受け入れる方向に持って行かれそうになる。


 俺は必死に耐えるが、どうしても心が叫ぶ。両親が既に居ないならせめて妹について知りたいと。例えレガリアさん達が俺にとって家族同然だとしても、その気持ちだけは捨てきれないんだ。


「……よし! お前が知ってる事を長々と話しやがれ」


「おいっ!? テメェ、何考えて……」


 そして堪えきれず真実の木へ問い掛けてしまった。だが、それは俺じゃ無い。呆れ顔のルゴドが俺に代わって質問したんだ。何やってんだよ、お前! 会って大した付き合いも無いのに何でこんな事を。


「いや、だって辛そうだったろ。俺には家族なんざ残っちゃ居ないが、テメェは居るんなら知っとけ。まあ、変な意地張ってるから我慢しきれなかったんだ。ったく、馬鹿馬鹿しい」


 ルゴドは肩を竦めると早く行けとばかりに上を指さす。真実の木は不満そうに体を揺らし、語り始めたが俺は聞いてる暇なんか無い。


「……助かった! んでラム王女……悪いっ!」


「わわっ!?」


 俺はラム王女を持ち上げ、足場を一気に駆け上がる。聞いた話じゃ一日以上掛かる試練らしいが、それなら何十倍もの速度で走り続けるだけだ。駆け抜けろ。決して止まるな。邪魔する奴は全部蹴散らせ。絶対に……絶対にルドゴがリタイアさせられる前にたどり着け。足が折れても、心臓が張り裂けても根性で動け。


 俺に止まっている暇は無い。俺に止まる事は許され無い。走れ、走って駆けて進み続けろ。レリック、お前が男だってんなら絶対に一秒たりとも遅れるんじゃねぇぞ!


 立ち塞がるモンスターを蹴り殺し、罠を蹴り壊し、息が上がろうと進み続ける。俺は託された。なら、やり遂げなければならない。今の俺では足りないってんなら今の俺よりも速くなれ。


 異変に気が付いたのは全力で走り、更に手持ちの札を全て使って速度を上げて走り続けて三十分程が経過した時だ。未だに息が上がる事もないし、魔力だって枯渇する様子は無い。だが、俺は自惚れじゃなく常人を遙かに凌ぐ肉体を持っている筈だ。既にその辺の強いって言われてる奴の全力を遥に超えた速度で走っているのにゴールに辿り着ける様子が無い。文献ではとっくに試練を終える位に上り下りを繰り返しているにも関わらずだ。


「……おいおい、まさかそうなのか?」


「どうかしたのかい?」


 俺の呟きで目を覚ましたラム王女が問い掛けて来た。限界を超えた力を出し、自分への負担は一切考えないが、それでも腕の中の此奴には極力負担が掛からない様にしてたが、それでも何時の間にか寝てやがったんだよ、この女。マジで王族かって疑う神経の図太さだぜ。


「嫌な予感がしたんだ。ガンダーラの試練ってのは、入った奴の強さでより過酷になるんじゃないかってな」


 そもそもの話、俺みたいな常人を越えた存在、隊長曰く英雄候補は魔族の発生時期に合わせて誕生する上に圧倒的に数が少ない。だから今まで護衛に選ばれず、その結果としての内容を俺は参考にして……いや、関係無い。


「……四の五の言っている時間は終わりだ。例えどうだろうと俺のやるべき事は変わらねぇ」


「うん、だったら僕への負担は無視して進んでくれ。これでも君を仲間だと思ってるんだよ? なら、変な気遣いは無用さ」


「……悪い」


 ……なあ、レガリアさん。俺って奴は恵まれてるよ。アンタに助けられて新しい家族を得て、こうやって今だって色んな奴に助けて貰えて、本当に人に恵まれた。


「……やるっきゃねぇ! やるっきゃねぇよな、おいっ!」


 だから走れ、俺! 根性見せろやっ! ……この後の事は何も覚えちゃいない。気が付けばベッドに寝かされていて、随分な無茶をしたらしく筋断裂やら疲労骨折やらで暫く入院だってよ。


「じゃあ、明日から面会を許可するから。君が間に合ったのかって? いや、詳しい話は聞いちゃいないよ。最近は忙しくってさ。……故郷が滅んじゃったんだ」


 それ以上の事は流石に聞けず、俺は仕方無く明日を待つ事にした。……この時、俺は知らなかった。無理な動きと魔力の異常な枯渇で俺が三日以上寝ていた事を。どうやって説得したかは聞かなかったが、ルゴトとバシル、そして志郎見もクルースニクに入ったって事をな。



「じゃじゃーん! これが知り合いに頼んで作って貰ったクルースニクの制服だよ。並の鎧より遙かに頑丈なんだから!」


 そんな風に金属製で背中に賢者信奉者のマークが描かれたコートを見せびらかされたのが三日前。俺が入院している間にクルースニクとしての仕事に行っていたルゴトに妹の名を聞かされたのが今だ。




「ゲルダ。ゲルダ・ネフィル。それが妹の名前だ。今じゃ平和なパップリガのエイシャル王国で羊飼いをしてるってよ。会いに行ったらどうだ?」


 その言葉に俺は首を縦に振ろうとし、横に数度振る。俺は過去を捨て、名前を変えた。だが、ケジメを着けなくちゃならねぇ連中が居る。それは決定事項だ。だから……巻き込む訳には行かない。例え殲滅しても雑草みたいに生き残った連中が居た場合、俺じゃなく俺の周囲に危険が及ぶ。


 だから、俺と妹は永遠に他人だ。俺は兄として守ると両親に誓った。だから絶対に守る。俺なんかの因縁には絶対に巻き込んだりするかよ。それが俺に出来る守り方だ。


「……ん。まあ、本人がそれで良いんなら別に良いや。これから宜しく頼むぜ?」


「……おう」


 短い言葉の後、互いに拳を突き出してぶつけ合わせる。男なんざそれで十分だ。









「さてと、例の毒でオアシスが滅んで助かった。レリック君、一刻を争うって状況じゃ戦力が足りなくても挑みそうだからねぇ。その結果、救える筈だった更に大勢の人を救えなかったりって事を考えないんだから。彼処まで衰弱してたら直ぐにギャードを倒しても毒が消えても死んじゃってたし、今回と犠牲者の数は大して変わらなかったよ。さて、仲間が増えたし様子を見てギャードの城を発見しようかな。実は既に知っているけど。……人助けは数を見るべきだって気が付いてくれたら助かるんだけどねぇ。オジさん大変だよ、全くさぁ」

アンノウンのコメント あの木、性格悪いなぁ。僕を見習いなよ


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