クルースニク外伝 27
結局隊長も参加する事になったガンダーラ。俺は当初の予定通りにラム王女の護衛として参加したんだが……。
「凄ぇ! 何かもう、凄く凄ぇ!」
「おい、あんまり身を乗り出すなっての。落ちるぞ」
俺の相方は何故かレガリアさんじゃなく、滝を見て大はしゃぎのチビことルゴド。いや、本当に馬鹿みたいなコメントだな、おい! ったく、どうして俺がこんな馬鹿のお守りなんだよ。あのバシルってエルフかせめてレガリアさんだろ。俺だって暴走して諫められる方だっつうのによ。こんな事になったのはどう考えてもお偉いさんの策略だぜ。隠す気が無いのが余計に腹立つな。
何故そう思うかと言うと、そもそも最初に出場したチームでない理由の説明になる。これが俺をムカつかせているんだ。
選ばれた六人は全員強者中の強者であり、志郎のみ最初のチームではないのは不公平故に此方で無作為に選ばして貰う……だってよ。最初に言い出したのは第一王女のサラ王女で、護衛のチームを分け直したのはサラ王女の派閥の連中だって事だ。けっ! 好き勝手やりやがって。この時点でやる気が失せたぜ。だが、まあ先に報酬は貰っちまったし、放棄するのは駄目だろ。ラム王女の護衛じゃなければ投げ出してるがな。
「なあ、滝壺に飛び込んだら早く進めるんじゃねぇ?」
「わあ! 此処から眺めれば凄く見晴らしが良いよ!」
「だからショートカットは禁止だって言われただろうが! 足場から内側の空間に出たら失格だっての! 王女様も岩から降りて下さい!」
だが、同行人共が余りに自由過ぎるのはどうにかしてくれ! ルゴドは人の話を聞いちゃいないし、ラム王女はせり出した岩をよじ登って眺めを楽しんでやがるし! てか、最初にゴールしないと試練を突破した扱いにならないんだし、さっさと行こうぜ!
「……質問するが、やる気は有るのか?」
「俺は強い奴と戦いたいからアヴァターラに出場しただけだしな。ちょっとした願いだったら報酬で叶えて貰えるっつっても、特に無いぜ。強いて言うなら呪われて暴れたからって意識不明の状態で幽閉されてる彼奴の免罪だけど……」
「それは仲間の志郎が願うのが筋だろうし、僕も特に不自由は無いしなぁ。姉様の周囲の連中が気になるけど、願いで追い払っても後々面倒だし、王族として考える案件だしさ。……所でレリック、ちょっと良いかい?」
「どうかしました?」
「いや、思った以上に高いし、足下も堅いから飛び降りたら足を挫きそうだから……受け止めてね!」
「政敵以前にそれを考えとけや!」
俺だって敬語くらいは使えるが、流石にこの時は素が出ちまう。何も考えて無い風に見えて色々考えているけれど、何も考えずの行動も行う。そんなラム王女への気苦労やサラ王女周辺の奴共へのムカつきで注意散漫になってた俺は、他人に注意しておきながら自分が濡れた岩で足を滑らせた。
「おっと」
だが、この程度なら直ぐに立て直せる。少し体がフラッとなった程度だ。何の問題も無い。但し、目の前にラム王女が迫ってなかったらな。胸で受け止める筈が俺の顔でラム王女の胸を受け止め、腰を掴む筈が尻を掴む。転ばなかったのが幸いだな、こりゃ。……どっちにしろ最悪だってのには変わらねぇか。
「……事故だってのは分かってる。でもさ、分かっているよね?」
「よし殴れ!」
覚悟は既に決めている。ラム王女を下ろした俺は振り抜かれた平手を甘んじて受け入れ、乾いた音が滝の轟音にかき消された。……理不尽? そうだろうと無かろうと、男には女に打たれるべき時が有るんだよ。
「……にしても俺以外が全然やる気が無いってのはなぁ」
「だってさ。王権で叶えられる願いだよ? 苦労して兄弟姉妹で争って、その報酬が下手すれば今後の民衆からの評価に関わるとか面倒じゃないか。変な願いを頼んだら馬鹿だとか噂されるんだよ。試練で肉体的に疲れて報酬で精神的に疲れるとか」
「……アンタが淑女だとか信じてる連中が哀れになって来た」
「あっ! 鳥の丸焼きが山積みだ!」
「どう考えても試練だろうがっ!」
俺の頬に紅葉の痕が付いてから一時間程後、俺達は漸く二つ目の螺旋の半分辺りまで来ていた。一個目の道は滝の裏側に繋がっていて、隠された道を抜ければ別の滝と上に向かう螺旋状の岩道。壁には横穴がチーズみたいに沢山開いているし、二人のやる気が無かろうが行楽気分じゃなく気を引き締めるべきだって思っていたんだが、ラム王女は空中に浮かぶ鳥の丸焼きにダッシュしやがったので襟首を掴んで止めた。
しっかし護衛の二人と試練を受ける王族の計三人の誰かに向けて幻が出て来るんだが、ターゲット以外は幻だって知っていても抗えない魅力は感じないし、端から見てりゃ馬鹿丸出しだ。こりゃレガリアさんや隊長とは別で助かったかもな。計略しやがった連中、どーもご苦労さん。お陰で助かったぜ。
「あっ! 下着姿の美女だ。俺が左側を掴んで押さえとくな」
「絶対レリックだね。じゃあ、僕は右側」
「う、うっせぇ!」
ラム王女への言葉遣い? これだけ内面の欲求を暴露し合って、馬鹿話も途中で散々してるしな。他に誰か居れば王族の権威がどうとか不敬だの何だの喧しいが、居ないんだから別に良いだろ。もう敬語使うのも馬鹿馬鹿しいし、胸に顔を埋めて尻を掴んで、不敬ってレベルじゃねぇもん、既に。
「取り敢えず食べ物系の誘惑が増えて来たし何か腹に入れる? ほら、向こうに開けた場所が有るからお弁当にしようか。レリックの場合は別の意味で食べる対象の誘惑だけど」
「食欲じゃなくて性欲たぁ若いよな」
「何時まで同じネタを引っ張るんだよ、テメェら! てか、お前何歳だよ、ルゴド! どう見たって俺とそんなに……」
「俺、25」
「マジでかっ!?」
顔立ちからして十代だと思ってたのに、俺より十歳近く年上たぁ驚きだぜ。……にしても俺への試練って何で女ばっかりなんだ? 娼婦位は誰でも買うだろ、男なら。まるで色情魔か何かみたいに弄くられるしよ。
……だが、俺には何としてもラム王女をゴールまで到達させる理由が有ったからやり抜くしか無い。ビリッケツだろうとゴールするのとリタイアするのでは評価に雲泥の差が有るんだとよ。報酬は前払いにシて貰ったし、やり抜くしか無いよな。
「……イーチャってアンタに凄い忠義誓ってるよな」
「うん。僕には勿体ない家臣だよ。死に掛けていたのを拾って助けたんだけど、それで恩義を感じてくれてさ。何でも年の離れた幼い弟に他の家族の仇だって……あれ? ねぇ、さっきまでこんな所に木なんて無かった……よね?」
気になるが踏み込んだら駄目な気がする話の途中、サラ王女が話題を切り替えたのは巨大な木が理由だ。本来ならば大瀑布と周辺の広大な空間、小さな村がすっぽり入る程の広さの周囲の中にスッポリ収まった大木。これじゃあまるで勇者が次の世界に渡る為の試練として登る…。。
「世界樹……?」
「いやいや、とんでもない。そもそもこの試練自体が勇者の試練を真似したパチ物で……」
「ん?」
「え?」
「あ?」
い、今、確かに目の前の木が……。
「「「しゃ、喋ったぁ~!?」
「え? 普通に喋るけど?」
思わず声を上げた俺達。だが、直ぐに木の正体に行き当たる。ガンダーラの試練の一つで、特定の場所を特定の歩数と入ってからの秒数で踏めば現れるとか、調べれば調べる程に胡散臭い情報ばかりが出て来る存在。深層心理を読み解き、もっとも知りたいと思っている問いの答えを教えてくれるって触れ込みを持つ真実の木だ。
「よし、無視するぞ! 護衛限定の試練だっつう話だし、俺には特に無いからな。ルドゴ、お前はどうなんだ?」
「作者失踪で続きが読めない推理小説の結末を知りたい程度だな」
「なら、何の問題も無いな」
そうだ。護衛を放り出す訳にも行かないし、無視して進めば……。
「教えてあげようか? 君が知りたい世界の真実。唯一無二の肉親の居場所をさ」
「……あっ?」
……今、何って言った?
「特別サービスで少し教えてあげよう。君の両親は既に死んでいるけれど……娘が生まれていたんだ。さて、どうする? 此処から先は有料だ。質問には答えるけれど、その場で帰って貰うよ」
過去は捨てた。もう俺とは無関係だ。だが、それでもその言葉は……。
アンノウンのコメント そりゃどスケベだからじゃない?




