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クルースニク外伝 ⑲

 世の中の男共にはロマンってのがある。まあ、女も同じなんだろうけどよ。例えばロケットパンチに目からビーム……いや、何だそりゃ? 兎に角、憧れる物やらシチュエーションってのが存在するんだ。


 特に色関係ではな……。


「暇だ。暇過ぎるだろ……」


 レガリアさんと隊長が情報集めに出掛け、俺は餌にならないからって留守番だった。お使いが中途半端な結果だったから先に寝るのは気が咎めるし、俺はベッドに寝転がって天井を見上げるだけだ。


 何か暇潰しでもするか? 出掛けて娼婦を探しに行くのはアレだし、本でも読むか。俺は体を動かすのが好きだが、読書だって趣味だ。特に伝説の賢者様が登場する話が好きなんだ。旅の荷物になるから数冊しか持っていけないから宿の貸本を利用している。それなりの宿には貸本のサービスがあるから便利だよな。さて、確か此処の宿にも有ったが、俺が読んだ事の無い本が有れば良いんだが。


 あっ、因みにヒロインはシルヴィア派だ。一応俺ってシルヴィア信者だし、隊長がナターシャの子孫って事は実際にシルヴィアと勇者キリュウが結ばれたって事だろうし、俺としては幸いだ。何だって推しが勝ったら嬉しいもんな。


 イエロアの宿屋だし、世界独自の物語、最悪小説じゃなくて絵本でも良いから読んでみたかった俺は宿の従業員に利用の意思を告げて本棚に向かった。結果は期待外れ。俺が知らない本は片手の指で数えられる程度しかない。どうも他の客も同じ考えらしくてな。仕方無いな、早い者勝ちだ。


 まあ、数冊でも残ってるだけでも幸いだし、後は読んだ事の有る中で気に入ったのを……これはっ!?


 正に残り物には福があるって奴だ。本棚の隅に残っていた古ぼけた本と、それだけ借りるのは恥ずかしいから未読の本で挟んで部屋に戻る。結構な時間が経過した気がしたが、俺が部屋を出てから少ししか経っていない。つまり、暫くは楽しめるって訳だ。


「まさかこんなお宝本が有るなんてな……」


 俺は自分の幸運に身震いする。発見して迷い無く借りた本。それは幻の官能小説にして神が記した幻の一冊。余りにも過激過ぎて絶版になった物だ。


「著者イシュリア『女神の魅惑的な日々』。まさかこんな所で……」


 偽物じゃ無いよな? いや、本物だ。最初の数行を読んだだけで引き込まれる。十ページ目には血液が一カ所に集中するのを感じたぜ。こりゃ凄い。熱中が過ぎて身持ちを崩した連中が居るってのも納得だ。文字を読むだけで実際に女を抱いて居るみたいな錯覚に陥り、絶版に納得する中、突如窓が外からノックされる。


「んげっ!?」


 咄嗟に腰に布団を掛けて本と下半身を隠し、良い所で誰だよと不満に思いながら窓を見ると片膝立ちのイーチャが僅かに笑みを浮かべながら手を振っているんだが……俺は見えてしまっているスカートの中に視線を送ってしまう。会った時も思ったが良い足だ。そして黒のレース付きか……。


 読んでいた本が本だけに妄想が頭に浮かんじまう。おいおい、こんな時間に男の部屋に来るとか、俺が馬鹿なら変な勘違いするぞ。よく見たら胸元も開いて黒のブラが見えちまってるしよ。ラム王女の部屋で会った時とは別人みたいな着こなしのイーチャに俺は戸惑い、同時に欲望を刺激される。


 この時、まるでレリルと会った時みたいに情欲を刺激されていた。



「お部屋に入れて頂き感謝しています。さて、急な話ではありますが、少々ご依頼いたしたい事が御座いまして」


「依頼?」


 流石に気まずいからベッドから上半身を起こし、シーツで腰回りを隠した状態でイーチャを招き入れたんだが、何故か俺の隣に座っている。漂うのは仄かに甘いイーチャの香り。駄目だと分かっているのに足や胸元に視線が向いちまう。足を組み替えた時なんざ生唾を飲み込んだ。


「実はガラム王国の王子や王女にはガンダーラという試練を受けねばならず、その際に護衛となる者達を選出する大会が有るのです」


「ああ、成る程な。随分と強そうな連中が集まってるとは思ったし、酒場で揉めた連中が大会がどうかと言ってきたな」


 イーチャの話じゃ、その大会の名はアヴァターラ。二人一組で挑むトーナメント制の闘技大会。その三位までが好きな王位継承者の護衛になれる。つまり下手すりゃ護衛無しで危険な任務に挑む必要が有り、下手な癒着を防ぐ措置ってのが謁見の禁止って事だ。


 何せガンダーラを突破すりゃ王の権限で叶えられる願いなら何でも叶えて貰えるらしいからな。実際、俺が使った隠し通路で密会してたらしい二人はそれで結ばれたらしいとか。隠し通路は知られていないから不確かな話だがな。


「姫様は姉君達に比べてコネをさほど持っておりません。ナターシャ様は生まれた家が家ですから政治に大きく関わる催しには参加し辛いでしょう。ですが、貴方が居ます、レリック様」


「ちょ、ちょっと待ってくれっ!? 話が急過ぎ……んっ!?」


 紡ぐ困惑と遠回しの拒否の言葉は唇を重ねてせき止められ、ねじ込まれた舌が続きを許さない。なすがままに蹂躙され、頭が惚けた所で唇は別れ、繋ぐ唾液の糸は人差し指で絡め取られてイーチャの唇に運ばれた。


「私はラム様の忠臣。ご本人が拒絶したとしても、あの方を守る為ならば何でもします。……貴方、会った時から私の身体に視線を向けていましたよね? いえ、責めてはいません。私としては都合が良いので」


 胸やらを見ていた事を指摘された俺は思わず顔を背けたんだが、布が床に落ちる音に思わず前を向く。ベッドの上、俺の目の前には下着姿で舌なめずりをしているイーチャの姿が有った。おいおいっ!? 確かにそんな妄想したが、実際やるかっ!? 仮にも第三王女の専属メイドってそれなりの家の出じゃねぇのかっ!?


 だが、その事も気になったが、次に気になったのは服に隠されていた部分。くびれた腰や想像以上に大きく、呼吸の度に揺れる形の良い胸。そして俺の好みの大きさの尻……の辺りから生える先端がハート型の短い尻尾。背中にも小さいコウモリの翼だ。


夜魔(よま)……」


「ええ、その通り。私は夜魔族です」


 夜魔族、それは吸血鬼族と同様に魔族と同一視される事がある種族であり、スケベな男の憧れだ。先ず間違いなく美人であり、相手の好みに合わせてある程度の変身も可能とする女だけの種族。一度抱けば永遠に忘れられないとされ、高級娼婦の中でも最上位の殆どを占めているとも言われている。


「ああ、誤解無く。別に貴方様に大会に出て貰う為だけに抱かれるのではありません。レリック様の強さは夜魔族の力によって計ったのですが、此処までの精気の量も質も初めてで……夜魔族の本能が刺激されまして。それに精気を分けていただければ私は力を増せますし、隠れてラム様の援護が可能でしょう」


 その言葉は俺の中の心の歯止めを甘く溶かして行く。忠義の為に身体を差し出す相手に手を出すのは気が引けるが、別の理由なら据え膳を拒む理由なんて……。


「ふふふ、逞しいのですね。好みです」


「……アンタも俺の好みだ」


 四つん這いになり、俺が少し顔を動かせばキスが可能な距離にまで寄って来たイーチャの手が俺の腹に触れる。囁かれた言葉に本音が出た時、俺の手が掴まれてイーチャの背中に当てられた。スベスベだな。今まで触れた女の中で一番だ。


「……それで、どういたしますか? いえ、大会に出場するかどうかは別の話。私は精気さえいただければ結構。レリック様の様に好みの殿方なら嬉しい限りですが……下着、私が脱ぐのと脱がせるのとではどちらがお好みで?」


「っ!」


 その瞬間、俺の理性は完全に吹っ飛ぶ。窓を閉め忘れたとか色々聞こえた気がするが知った事が。良いぜ。大会だろうが何だろうが出場してやる。試練だろうか何だろうが王女様を守ってやるよ。


「きゃっ!? 紳士な方と思いきや意外と……」


「見誤ったな。俺は獣だぜ?」


 その対価がこんな極上の女だってんなら釣りが出る位だぜ。









「レリック君、大丈夫かなぁ? 彼、女の子に騙されやすいから。簡単に色仕掛けに乗っちゃうんだよねぇ」


「完全に手玉に取られているでしょ。夜魔族よ、夜魔族。彼奴がどうこうできる相手じゃないわよ。ぶっちゃけレリックより強いし、彼女」





 

アンノウンのコメント 完全に手のひらの上  獣(笑)

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