クルースニク外伝 ⑱
ギリギリ完成!
「……あ~、うん。それでそのまま帰っちゃったと」
信じて送り出した仲間が親友にラッキースケベを働いて戻って来ました。目的は殆ど達成出来ていません。まあ、今の状況を確認したらそんな感じね。正直言って意味が分からない。
私の目の前では反省しているのか自ら正座をしているレリックの姿。別に事故だし向こうが許してくれているってんなら報告する事も無いってのに、態度と言葉遣いはチンピラなのに変に真面目って言うか律儀で不器用って言うか、損する性格ね。
仕方が無いのでさっさと立ち上がる様に言ったのだけれど、立ち上がったレリックの服のポケットに何かが入っているわ。本人に言って取り出させたら、貴重な宝石や金細工の指輪が幾つも入っていた。こりゃ別れる時にポケットに忍ばせたのね。王家の紋章が刻まれていないし、換金するのに問題は無い品ばかり。イーチャさんが気を使ってくれたのね。
「先ず間違い無くラムには無理な事よ」
確信から呟く。あの子、外面は何とか取り繕っているらしいけれど、基本的にじゃじゃ馬姫様だもの。私も人の事は言えないんだけれどさ。矢っ張り有能な部下が居るかどうかってのが大切なのよね。
……でも、イーチャさんかぁ。あの人の事だから暴利えおふっかけて来るか面倒事を押し付けて来る可能性が高いわね、有能だもん。まあ、来るとしたら今夜辺りかしら?
にしてもラムったら親友の私への伝言も無いだなんて水臭いわよ。せめて一言くらい伝言を頼むとじゃ有るじゃない。親友だからこそ自分の口で伝えたいってんでしょうけど。
感じるのは一抹の寂しさと、親友がそんな思考をするであろう確信。さて、受け取った物は仕方無いし、慌ただしくなる前に換金して来ようっと。
「ねぇ、隊長。オジさん、話を聞いていて気になったんだけどさ。そんな重要な物を何処に隠していたんだい?」
「あっ! 俺もそれが不思議だったんだよ」
私は水晶玉の事を詳しく知ったレリックにされたくない質問が有ったから急いで出て行こうとしたのだけれど、まさかのレガリアからの不意打ち。その上、レリックまで疑問を思い出しちゃうし最悪ね。
別に怪しい連中に預けていたとか後ろ暗い理由が有る訳じゃないわ。これでも大勢の子供達を導く学びの園を管理する一族にして英雄の子孫。例え自分は自分だって血を否定する考えを持っていたとしても、曲がった事を平気でする腐った性根は持ってないの。私が話せない理由。それは恥ずかしいから!
……あれはラムが留学生だった頃、家柄もあって私は王城に遊びに入れたのだけれど、イーチャさんに無理を言って外にお忍びで遊びに行っていたのだけれど、ラムが有る提案をして来たのよ。
「此処に秘密基地を作ろうよ! 僕達だけの秘密の城さ」
「アンタってそんなの好きよね。私はこの歳で秘密基地とか勘弁して欲しい所だけれど……付き合ってあげるわよ」
「やった! 流石はナターシャ。君は僕の永遠の親友だよ!」
「こら! 嬉しかったら直ぐに抱き付く癖をどうにかしなさい!」
まあ、こんな感じで仕方が無いからって私の一族の隠し別荘の一室に秘密基地を作ったのよ、十代後半も過ぎてるってのにさ。
私も英雄の子孫だの、魔族が発生する時期にご先祖様が遺したホリアーに選ばれた逸材だの、色眼鏡で見て、利益目的に近寄って来る連中と付き合ってたからラムと遊ぶのは楽しかったってのが有るわ。あの子、王族なのに打算とか計略とか苦手だもの。
……もしかして全部演技とか無いわよね? 無いと信じたいし、親友だから信じるけれど、あの親友は色々な意味で心配になるのよ。
さて、回想はこの辺にしておきましょうか。兎に角、十代後半で秘密基地とか恥ずかしいし、下手に誤魔化してもレガリアには見抜かれそうで私は非常に困っている。仲間を騙すのは気が引けるしね。
でも! 恥ずかしい物は恥ずかしい! 只でさえ顔パスが出来なかったって事で隊長の威厳が下がってるってのに。威厳ってのは零を通り越して負債になる物なんだから。別に二人を従えたいって訳じゃないけれど、一度隊長になったなら、それに相応しい振る舞いが有るわ。
何故かその内に自然とそういうのを気にしない仲間ばかり集まるって直感が告げているけれど、それは別。さて、どうすべきか。
「……い、良い女ってのは秘密き……秘密を持つ物よ」
はい、失敗! ギリギリで秘密基地って言わなかったけれど、二人共微妙そうな顔?表情をしながら顔を見合わせているし。あれ? 寧ろ年齢を誤魔化して秘密基地ってバラしておいた方が傷が浅かった? ガクリと肩を落とし、何か威厳とか色々落としながら私は部屋から出て行く。
いっそ、笑ってくれた方が傷が浅かったわ。……にしても大会って、多分ガンダーラ関連の物よね? ラムも興味無いって話していたし、私も興味が無かったから忘れていたわ。
さて、他の王女は裏工作とかしているのでしょうけれど、イーチャさんが何処まで進められるかよね。あの人、幾ら有能でもメイドの身分じゃ限度が有るし、ラムに被害が出ない範囲でしょうけれど。
裏通りを少し歩いたのだけれど、少し聞き耳を立てれば虚実入り交じった情報が入って来る。まあ、確か試練を突破した時の褒美が褒美だし、毎回色々起きるって賢者様も言っていたけれど……。
「……どうも臭うのよね」」
今回は今までとは何かが違う。胸騒ぎがそれを告げていたわ。
「……香水とかで加齢臭って隠せるのかなぁ」
「いや、多分別の話……だと良いよな、レガリアさん」
「……うん」
あっ! 何故かレガリアが落ち込んでいるって直感が告げているわ。……カレーとナンのセットでも買って帰ろうかしら?
その日の夜、臭うのは加齢臭の事じゃないとレガリアに何とか説明した私は彼と散歩に出ていた。まあ、軽い釣りよ。それなりに裕福そうに見せている中年男と若い女、鴨がネギと鍋を持って家まで来たって思う連中が居るでしょうからね。
「なあ、オッサン。そこの女を置いて消えな」
「当然だけど身包みを全部置いてな」
「姉ちゃんは俺達が脱がしてやるよ!」
ほーら、簡単に釣れた。レリックを残して正解だったわね。如何にも弱そうな獲物に食らいついたのは明らかに三下のチンピラ。禿げたのか剃ったのかは分からないけれど毛が一本も無いデブを先頭に頭の悪そうな連中が武器をちらつかせて寄って来た。ニヤニヤ笑って品性も教養も感じさせない下品な顔。ちょっと臭いし、水浴びすら禄にしてないわね。
「雑魚が釣れたけれど、どうする?」
「雑魚の相手は面倒だけれど、雑魚を追って来た大物が釣れるのが釣りの楽しみよ」
そう、こんな下の下の小悪党には興味が無い。どうせ大会目当てで増えた人達の対応で人手が足りなくなるのを見越して集まった連中だもの。でも、何処かの大物の組織の末端だったら釣りは成功。メンツを潰されて怒った奴から情報を聞き出すのが真の目標よ。
「ハズレばっかし、釣果は零かぁ」
「ボウズって奴ね」
でも、何奴も此奴も群れても少人数な雑魚ばっか。親友の住む場所の治安に貢献したのだと自分を慰めて帰路に就いたのだけれど、宿の前まで戻った時に違和感があったわ。
レリックの部屋の窓が開いている。それだけなら別に良いのだけれど、他の獣人よりも鋭い私の耳と鼻は第三者の存在を察知。レガリアに伝えると彼は一匹のコウモリを闇に紛れさせて偵察に出し、何故か直ぐに戻って来た。
「うーん、お邪魔したら女の人に悪いし、何処かで時間を潰そうか?」
「……把握した。そして思い出したわ」
そう。僅かに感じる匂いと声を私は知っている。一年以上会ってないので直ぐには分からなかったけれど、イーチャさんだ。
どうやら私の部下は、私の親友の専属メイドとお楽しみ中らしい。……けっ!




