クルースニク外伝 ⑯
評価とかブクマ増えて本当に嬉しいです! がんばって増える作品にしよう
湿っぽくカビ臭い通路はボロボロで足場が悪く、おまけに空気が淀んでしまっている。俺が進んでいるのは王城の裏手から暫く歩いた先にある秘密の通路。臭いし狭いしボロっちぃ。王族でさえ知っているのは一人位で、運動不足の連中が緊急時に使えるのかって思うぜ。
……何故俺がそんな所を進んでいるのかって? そりゃ隊長ことなんちゃってお嬢様の頼みだよ。
最初は顔パスで城に入れるって自信満々だった癖に、実際に行ってみると入城拒否。まあ、何か事情があるみてぇだし、ドヤ顔での顔パス発言は一回位しか弄くる材料にしねぇよ。だが、だがな……。
「なぁんで正面から入れて貰うの次が不法侵入なんだよっ!? 捕まったら投獄だわ、普通に!
「いや、何か起きているんだったら死刑も有り得るわね」
「だったら提案するなっ! せめて隊長が行けや、英雄の子孫で王女様の友人っ!」
俺は我が耳を疑ったぜ。ったく、俺に無茶振りするんじゃねぇっての! ちょっと叫び過ぎたのか息が荒くなった俺だが、隊長が不意に投げて来た物をギリギリでキャッチする。いや、今の矢よりも速い上に顔面に向かって来てたぞ。てか、何を投げたんだ?
「水晶玉?」
「そう。それこそが王族でさえ殆ど知らない隠し通路の鍵よ。お城の内部に繋がっているからお願いね」
どう考えても王族の為に存在する通路だろうに、どうしても誰も知らないんだ? ってか、隊長はどうして知ってるんだよ。いや、そもそも……。
「隊長が行くのが一番良くないか?」
「それ、一人が使える回数に限度が有るのよ」
「……ん? じゃあ、隊長って限度一杯まで城に忍び込んだって事になるんじゃないっすか?」
「気にしない気にしない。お姫様が堂々と買い物に行けないからって買い物を頼まれていたのよ。じゃあ、私からの手紙を渡すから麗しの第三王女に宜しくね」
あっ、これ絶対ホン人が恥ずかしいと思ってる異名だな。今にも笑い出しそうな顔の隊長のせいで俺の中の第三王女へのイメージが崩壊して行く。い、いや、未だだ! お嬢様(笑)の隊長の友達だろうとお淑やかで清楚じゃないって決まった訳じゃないよな!
そう願おう。うん、お会いするのが凄く楽しみだぜ……。
「大丈夫! 私の親友だから安心して」
「何か不安になって来たっす」
「何でっ!?」
……蛇足だっけか? まさに今の隊長の言葉はそれだ。いや、逆に正反対の性格だから仲良くなれたって可能性も有るんだよな。うん、そう思おう。
そして街の外から遠回りしてやって来た目的地、俺の目の前には巨大な岩が有った。全く同じ形の岩が寄り添って居るみたいに中心に切れ目が入った四角い岩。自然にこんな綺麗な形になるのは不自然だ。周りの岩と違って苔むしていないしな。
本当なら最短ルートで行きたかったんだが、城の裏手だ。そりゃ警備が居るわな。寧ろ居なかったら無能……っと、考えが逸れた。どうもこの岩で正解らしく懐に入れた水晶が僅かに熱を持ち、隊長に言われた通りに岩に近付ければ風呂の湯位にまで温かくなる。後は呪文を言えば入り口が現れるって言ってたな。確か……。
「開けーゴマ! ……なんだこりゃ」
呪文を教えて貰った時も妙だと思ったが、実際に口にすると首を傾げたくなる内容だ。ったく、何処の誰が考えたんだよ、こんな呪文。隊長が言うには一度に入れる人数は1人の上に回数制限まで有るってんだから抜け道を作った奴の顔を拝んでみたいぜ。
正直言ってこれで何も起きなかったら隊長にビシッと文句を言う所だが、直ぐにその必要が無いと分かる。岩が振動しながら左右に分かれ、地面の下に向かう階段が姿を現した。……どうも中は本当に長い間誰も足を踏み入れてないらしく淀んだ臭いが漂って来たがな。……正直言って入りたく無いな。
「……糞っ!」
こうしてる間にもギャードの奴の毒で苦しんでいる連中が……いや、それは俺には関係無いんだが、随分と舐めた真似をされたんだ。情報を得て見付けて叩き潰して誰かが助かっても俺には興味無ぇ。感謝したかったら勝手にしろって話だ。
意を決して踏み込めば埃が積もりに積もっていて、俺が動く度に舞い上がる。辟易しながらも階段を下り切った時、何か音がした。……嫌な予感がするな。そっと音がする方向、上を見れば閉じていく岩。と、閉じ込められた? こんな臭い所に?
「……先に行くか」
仕方無ぇ。どうせ隠し通路だし、勝手に閉まって当然だ。入ったからには出る必要が有るし帰る時にはどうにかなるだろ。
……にしても、こんな通路を誰が何の為に作ったんだろうな。王族が存在を知らないってのがどうも引っ掛かる
大っぴらには中に入れない奴の為? だが、これだけ大掛かりなのを作れるのは余程の魔法使いじゃないと……。
途中で面倒臭くなった俺は考えるのを止める。いや、普通に分かる筈が無いだろ。確か三百年前位に作られたんだろ? じゃあ生きちゃいないだろうし、うっすら光って道を照らす壁には緊張を解す方法が色々刻まれている。……作ったのは絶対アホだな。魔法の腕前があってもアホで間違い無ぇ。
そんな風に進み、漸く俺は壁に行き当たる。確か目当ての相手の部屋に繋がる所が光るんだっけか? んで、他に誰が居る場合は赤く光り、居ないなら黄色く光る。だがよ……王女の部屋って普通は専属のメイドとかが居るもんじゃないのか? だから黄色く光る筈が……あったよ。
俺の目の前の壁は確かに黄色く光り輝いていた。……マジ? 俺の認識が間違っていたとか、そんな感じかよ。
「まあ、これで後は手紙を渡して情報と金を受け取れば用事は完了だ。面倒臭い仕事だが、美しいって評判の王女様の顔でも拝ませて貰うとするか」
直ぐに渡せる様に手紙を懐から取り出し、光った壁に手を触れれば通り抜けて……いぃ!? これ、通り抜けるっつーか吸い込まれてやがる! 咄嗟に踏みとどまろうとするが力が強過ぎる。そのまま光の中に吸い込まれる。おいおい、どうなってんだよ、隊長!? こんなの全然聞いちゃいないっての!
視界が光に包まれる中、俺はせめてもの抵抗と手を伸ばしてもがき、光が一層強くなった時に目を閉じてしまった。吸い込む力が無くなったのはその後で、それでも空中に投げ出された俺は止まらない。どうなったのか目を開けて確かめる前に伸ばした手が柔らかい物を掴み、そのまま柔らかい場所に倒れ込む。直後、柔らかい物が唇に触れた。
「一体何が……」
目を開け、状況を把握する。そう、最悪の事態をな。
「き、君は誰だ……?」
俺の目の前には青い短髪の美少女。多分さっき唇に触れたのは此奴の唇だろうな。俺の手の中にはその美少女の胸。思わず数度揉んじまった。俺は今、この国の第三王女らしい女を天蓋付きのベッドの上に押し倒し、胸を掴んで唇を奪っていたんだ。
「……えっと、先に言わせてくれ。悪い。そして全部事故だ」
「……なら、さっさと退けぇ!」
俺の肩に手が置かれ、無理矢理持ち上げられる。おっと、そりゃそうだ。呆けてるとか俺はアホか。一夜を買った訳でも無い初対面の女の上に何時まで居る気だ。
直ぐに退こうとするが、それよりも前に目の前の相手の足が動く。俺にはその動きが読めていた。だが、避けない。避ける訳には行かない。戦闘経験なんざろくっすぽ無い王族の蹴りだ。だがよ、この世には避けちゃ駄目な一撃ってもんが有るんだよな。だから俺は蹴りを甘んじて受けたんだが……。
その一撃は重く、身体の芯まで響く一撃だったんだ。寝ころんだ体勢から無理に放った一撃だってのに、その粗末な動きとは裏腹に威力は凄まじい。何せ俺の意識が一瞬飛んじまった程だからな。
「僕の蹴りは鉄をも砕く。戦闘経験は浅いけれど侮っちゃ困るよ。……おりょ? これはナターシャからの手紙?」
不幸中の幸いは俺が落とした手紙に直ぐに気が付いてくれた事。じゃねぇと警備を呼ばれて逃走劇が開始する所だったぜ。もう一つの幸いは……後少し下だったら俺は子孫を残せなくなったかもって事だ。まあ、衝撃は響いちまってるけどな。直撃だったら潰れていたぜ。
ベッドの上にまで蹴り飛ばされ、天蓋を突き破った所で落下をしながら少しだけ安堵していた。
「えっと、何々? 『久し振りね、お金貸して』?」
あっ、駄目かも知れねぇ……。
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アンノウンのコメント そうか、君はラッキースケベ系なんだね! ニヤァ




