クルースニク外伝 ⑬
評価も感想も来てて嬉しい!
何だよ、此奴は? 明らかな罠に見えるんだが……あからさま過ぎるんだよな。勢い任せに怠慢を挑んだ俺だったが、ギャードの姿に早速困惑していた。巨体と頑丈さを活かした突撃は鈍重な感じはあるが巨大な壁が迫って来るみてぇなプレッシャーを感じさせる物だ。だが、だけど、それなのに……。
「これぞ超必殺ローリングギャードパーンチ!」
腕を振り回しながらの突撃とか、餓鬼の喧嘩じゃねぇんだぞっ!? 隙だらけだし、超必殺ってテメェの頭が死んでるんだよ! だが、それでも此奴は強ぇ。さっきは掴まれたが、今度は変則的かつ速度を上げた動きでグレイプニルを操って切っ先を向ける。鳩尾、顔、関節。どうしても筋肉が薄い部分は有るからな。実際、そんな所には刺さる。だが、少しだけだ。ったく、どれだけ堅いんだよ。
刺さったのはほんの切っ先だけ。そんな程度じゃギャードは大して気にした様子も見せずに腕を振り回しながら向かって来た。……成る程な。
此奴相手に刃物は通じないってんなら、やり方を変えるだけだ。俺は鎖を腕に巻き付け、ギャードに向かって駆け出した。彼奴自体はノロマだが、俺も正面から向かって行けば二人の距離は一気に縮まる。俺に迫る豪腕、当たれば只じゃ済まないって俺の戦士の勘が告げる。
堅くて重くて強い。ああ、本当に面倒な奴だ。舌打ちをしながら更に一歩踏み込み、束ねた鎖を顔面に向かって振り抜く。二人の速度と俺の腕力、ミスリル製の鎖の硬度が合わさった一撃。金属同士がぶつかった音と共に俺の腕に走ったのは痺れだ。
ギャードの予想以上の堅さに俺の動きは一瞬遅れ、避けた筈が僅かに引っかけられる。突進をマトモに受けたって訳でもないのに宙に投げ出される俺の方を向きながらギャードは膝を曲げて力を込めていやがった。
「空中ならば身動きが取れまい! 超必殺クロスギャードアターック!」
膝に溜めた力を一気に解放しての跳躍。交差させた腕を前方に構え、俺に向かって迫って来る姿は巨大な岩みたいだ。掠っただけでこうなんだから、正面から受ければどうなるかなんざ馬鹿でも分かる。……目の前の馬鹿でさえもな。
交差させた腕の隙間から見える奴の顔は笑っていた。
「……はっ!」
甘いんだよ、馬鹿がっ! ギャード同様、俺の顔にも笑みが浮かぶ。デカいってのは難儀するよな、おい! 何せ自分の体に何が張り付けられているのかさえも気が付かないんだからな。
そう、既に俺は勝利への布石を打っていた。はね飛ばされる寸前にギャードに貼り付けた札。それが今効果を発揮する。鳴り響くバチバチって音に漸く気が付いたみてぇだが遅い。
「さっさと死ねや」
ギャードに貼り付けた札から空に向かって雷が昇って行く。雷によって全身が痺れギャードの体勢が崩れた。そのまま落下すりゃあ多少は堪えるだろうが、それだけじゃ死なねぇよな? だから俺が手伝ってやるよ。死出の道行きをな。
グレイプニルを再びギャードに伸ばし、腕と首に巻き付かせる。軌道を締め上げられた事でギャードが暴れるが絶対に離してやるかよ。
「ぐ、ぐくぅ……」
腕に力を込めて鎖を破壊しようとするがミスチルの鎖は簡単に壊れず、そのまま顔面から岩に激突、岩の破片が周囲に飛び散る。その体から外れる鎖。俺は空中で空高くまで振り上げ、ギャードの頭に向かって先端を振り下ろす。ああ、テメェには刃は通じないんだよな。なら、鈍器はどうだ?
刃に鎖が巻き付き、それを核にして歪な球体を作り上げた。頭から岩に激突しても直ぐにギャードは起き上がろうとするが、頭がお留守だぜ! 鎖の塊がギャードの後頭部に激突、血飛沫を上げて前のめりに倒れるギャードの姿に俺は勝利を確信し、もう一度振り上げた。念には念だ。徹底的にぶちのめしてやるよ!
「……よもや、よもや此処までとはな」
耳に届いた呟く声、俺の全身に悪寒が走る。押してるのは俺の筈だ。だが、何だよ、この不安は。
「……剛雷よ、来たれ!」
ああ、そうだ。俺は何を調子に乗ってやがるんだ? 最初っから格上だって認識だっただろうが。それが相手が馬鹿で、偶々攻撃が上手く効いているってだけで勝った気だったのか?
直感ってのは大切だ。だから従い、今可能な最大規模の攻撃を出してやるよ。過ぎたるは及ばざるが如し? 格上相手だ、オーバーキルで丁度良い。懐から取り出したのは俺が同時に行使できる最大数五枚。しかも五枚全てが限界まで魔力を注いだ切り札。だから使う、今使う。
天に掲げた五枚の札は激しく放電して周囲を照らし、やがて雷は線となって五枚を繋ぐ。五枚の札を点にした五芒星。その輝きは俺が残りの魔力を注ぎ込む事で更に増す。
……足りねぇ。こんなもんじゃ到底足りねぇ。なら……体力も追加だ! 俺の体力の殆ども注いでやるよ。食らいな! 俺の最大最高最強の一撃をな! 急激に勢いを増す雷の五芒星の光は輝きを増し、雷鳴が轟く。ぐっ! 流石にキツいが……俺の身内の腹に穴を開けやがった糞野郎をぶっ倒おすまで倒れるかよ!
そして、特大の雷撃は放たれた。ギャードの巨体を飲み込み、砂漠に深い風穴を穿つ一撃。穴周辺の砂は雷熱で黒く焦げ、体力の殆どを術につぎ込んだ俺は無様な着地姿で地面に転がった。息を荒くして大の字になりながら穴を見る。
「おいおい、マジかよ……?」
ギャードから感じていた悪臭は消えていない。いや、更に濃くなって鼻が利かなくなった程だ。つまりギャードは生きていて、その上で温存していた力を解放したって事だ。ったく、どんだけ強いんだ、糞が! 勇者と戦う為に本拠地にでも居ろってんだ。
もう雑魚魔族にも負ける状態の俺だが、ギャードは殆どダメージを受けた様子も無く穴から飛び出して来た。三割り増しに巨大化した肉体、頭には湾曲した黒い角。絶対絶命のピンチの中、俺を見ながら浮かべたのは笑みだ。ギャードは歯を見せて笑っていた。
「我が輩をココまで追い込むとは見事なり! 賞賛に値しよう!
「はっ! 俺もレガリアさんも万全じゃ無かったんだよ」
こうなったらトドメを刺す時に指の一本でも奪ってやるよ。だから挑発したんだが、どうも様子がおかしい。おい、何背中を向けていやがる!
「で、あろうな。故に此度のみ見逃そう。もしも我が輩の居城を発見出来たのなら挑みに来い。今度こそ互いに全力での殺し合いだ! ふははははは!」
耳が痛くなる大音量で叫びながらギャードは走り去って行く。ちっ! 随分余裕な事だぜ。……まあ、助かったんだから良いが。
「殺し合いってのは最後に立っていた方の勝ちだ。……だから俺もレガリアさんも負けてねぇ。んで、お前をぶっ殺して俺達の勝ちにしてやるよ」
生き残るか矜持なら生き残る事だ。別に靴を舐め媚びへつらって生き続ける訳じゃ無いんだからな。遠目に接近する隊長の姿を確認し、俺は安心したからか目を閉じる。だが、あまりの悪臭に寝る気にはなれなかった。
「毒だぁ?」
「うん、そうなのよ。どうも水が毒で汚染されていたらしいの。……病人が多いのもその影響でしょうね」
戦い終わって日が暮れて、俺とレガリアさんはオアシスの町の診療所で治療を終えていた。流石は吸血鬼だけあって腹の穴は既に塞がり、今は軽い貧血だってよ。喜べば良いのか呆れれば良いのか分からねぇな、おい。
俺の方も一応の検査入院だったんだが退屈で退屈で死にそうだ。何か暇潰しになる事でもって無いかと思っていたら隊長が町の連中から話を仕入れて来たんだが、どうも体調を崩す連中が多いんだと。最初は熱病か何かだと思っていたが、ギャードが屁をして水源から出て来た事で毒の有無を調べてみたって寸法だ。
「魔族の能力による毒だろ? 治療法は無いんじゃねぇの? ……まあ、ギャードの奴をぶっ殺せばどうにかなるだろうがよ」
「本当っ!?」
うおっ!? 部屋の入り口付近で立ち聞きしてるのが居るとは思ってたんだが、俺の言葉を聞くなり十歳手前の餓鬼が飛び込んで来やがった。随分焦った様子だし……そうか。
「……親が毒にやられたのかよ?」
「うん! ちょっと前から体を壊しちゃって。母ちゃんの方は持病が悪化しちゃって眠ったままなんだ。だから毒をどうにかしたいんだけれど……」
……正直言って俺には関係無い話だ。裕福そうな感じでもないし、謝礼も期待出来ないだろうな。つまり、どうにかしてやるかなんて言う義理は俺には無いって事だよ。
「彼奴は俺達がぶっ殺す。決着が未だだからな。……言っておくが何の関係も無い奴の為じゃねぇからな」
「うん! ありがとう、お兄ちゃん達!」
そう、これはあくまで俺達の因縁だ。その結果、誰が助かろうと関係無いし、興味も無い。俺は俺が倒すべき相手を倒すだけだからな。
(不味いねぇ。倒すのは別に良いけどさ……)
この時、俺は気が付かなかった。レガリアさんが困り顔だった事にな……。
応援ありがとう 今後も宜しくお願いします
アンノウンのコメント ツンデレ乙www




