クルースニク外伝 ⑫
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世の中、上下関係ってのは大切なモンだ。別に敬う理由の無い奴だって一度上に置くって決めたんなら敬うのが筋だからな。腐れ外道と違って俺は筋を通すって事を大切にしてるんだよ。
……だが、それと勝負は別だ。勝負するって決めたんだったら全力で挑む。一切の手加減はせずに叩き潰すのが俺の流儀だ。隊長は競争だって言った。つまりは速さを競うって事で、悪いが俺は速さで勝ちを譲る気は毛頭無ぇ。
……遅い奴は何も出来ないからな。強い弱い、有能無能以前に間に合わないなら問題外、億が一の奇跡すら期待出来ない。あの日、俺は遅かった。弱くてちっぽけで臆病な餓鬼。それでも間に合っていれば何かの役に立てて、運命が……此処までだ。何の意味も無い感傷に浸る時間は終わった。
俺がすべき事は一つだけ。俺の誇りの為に勝利を掴む、それだけだ!
「待ちやがれぇええええええっ!!」
「おっ! 速い速い。でも、砂漠を走るのに慣れていないわね」
足に力を込め、全力での激走で隊長の背中が近付いて来た。勝手に勝負を初めて、勝手にスタートした人だが単純な速度だったら俺の方が上なんだよ。一歩踏みしめる毎に砂が舞い上がるし、レガリアさんを置き去りにしちまったが今は気にするな、俺! 勝て! 勝って誇りを守るんだ!
そんな俺の追走に気が付いた隊長だが、急に身を低くすると軽快な動きで飛び跳ねる。ジグザグに動くその速度は普通に走っていた時より上だろうさ。でもよ、それでも俺の方が幾分か速いんだよ!
「この勝負、貰っ……!?」
更に速度を上げるべく足に力を入れた時だった。突然俺は横に倒れそうになる。踏み込んだ拍子に足元の砂が流れ、大きく体勢を崩す間も隊長には先に行かれちまった。こりゃ経験の差だな。確かに俺は砂漠で動くのには不慣れだ。普通に考えて勝ち目なんざ有る訳が無い。
……でもよ、それがどうした? 戦っていれば相性の悪い相手やら相手に有利な戦場やら普通に有る。それで不利だと勝負を諦めるのか? 諦めねぇよな、戦士だったらよ! 良いぜ、燃えて来た。相手の土俵で打ち勝ってやるよ。足場が崩れて速度が落ちる?
「なら、その分速く走れば良いだけの話だろうがっ!」
もっと、もっと速く! 一秒でも速く足を動かせ。足下が崩れても、バランスが崩れる前に離れれば問題無い。走れ、走れ、走れ! 目の前の道を駆け抜け続けろ!
俺が、俺こそが最速だ。この勝負、俺が一位になるんだぁあああああああ! 俺よりも砂漠での移動に慣れている隊長は悠々と飛び跳ねて俺の先を進む。猫の尻尾が得意そうに揺れていた。
「あははは! このまま行けば私がトップ!?」
……その尻尾にグレイプニルを絡み付いた。って言うか絡み付かせた。空中でバランスを崩し、顔面から砂に突き刺さる。俺はその横を楽々と通り過ぎた。はっはっはっ! 勝てば良いんだよ、勝てば!
「おっと悪いっすね。手が滑ったんで勘弁っす」
どんな勝負でも俺は全力を尽くす。こんな仲間内の勝負なんだから卑怯も糞も無いってか、隊長の方が先にズルをしたんだ。つまり俺は全く少しも微塵も悪く無ぇ! ははははは! これで俺が一位………。
「あっ、ごめん。足が滑った」
「へぼっ!?」
かと思ったら背中に隊長の蹴りが叩き込まれて今度は俺が顔面から砂に突っ込む。勢いは殺し切れずに砂の上を滑って行った。熱っ! 砂漠の砂熱っ! や、火傷しちまいそうだ……。だが、負けるかよ。俺は絶対に負ける訳には……。
「ごめん。また足が滑った」
起き上がろうとした所で頭を踏まれた。
「へぶっ!?」
「じゃあ、お先に……ひゃわっ!?」
俺を踏み台に更に先に行こうとする隊長。俺は咄嗟に手を伸ばして尻尾を掴む。大の字になって顔面から砂漠に突っ伏す隊長。はっ! 今度は俺が踏み付けて進んでやるよ。俺は隊長の背中に向かってジャンプ!
「じゃあ、一位は俺の物って事で……」
まあ、ちょいと力を抜いて足を伸ばすんだが、足先が触れる前に反転した隊長と目が合う。俺の足を隊長の手が掴み、そのまま俺を投げ飛ばした。うおっ!? 俺が飛ばされた先にサンドスライムがっ!? 飲まれるっ! このままじゃ飲み込まれるっ!?
「貴方なら簡単に逃げられるでしょ? じゃあ、私が一位を貰うから」
「させ、るかぁああああああああああっ!!」
再び隊長に絡みつく鎖。今度は足じゃなくって体全体に絡んで何かエロいな。まあ、俺の好みは知的クールなお姉さん系だからな。さてと、悪いが道連れだ。サンドスライムを倒したら再スタートと行こうぜっ!
「この勝負、絶対に俺は……」
「こんな仲間内の勝負如きで……」
「「負けない!!」」
一方その頃、すっかり存在を忘れていたレガリアさんが転移魔法を使って一位になっていた。
「ぬぉおおおおおおおおおおっ!」
「負けるかぁあああああああっ!」
せめぎ合いはデッドヒートです互いに妨害無しを条件にした一位になる為の競争は抜かし抜かされの互角の勝負。このまま全力で突っ走れば勝機が……って、臭っ!? オアシスが近付いた時に急に変わった風向きによって鼻に届いた、水がドロドロに腐った様な悪臭に俺は思わず動きを止め、隊長も同様に鼻を押さえる。おいおい、まさか折角互角の勝負で一位を決めようって時に敵襲かよ。
……舐めた真似してくれるな、おい! 気に喰わねぇ。何処の誰かは知らないが絶対にぶっ飛ばす! 符術で周りの気温を下げる余裕すら無かった事もあって暑さでイライラしてるってのに。横を見れば隊長も勝負を邪魔されて怒ってるらしい。
「……一旦勝負はお預けね。無粋な真似してくれた奴を相手にクルースニクの初陣と行きましょう!」
「了解、隊長! 男同士の勝負を邪魔した奴に目にもの見せて……やっべ」
やっべぇえええええっ! 今までレガリアさんとだけ組んでたから男同士ってうっかり言っちまったっ! 恐る恐る隊長の方を見れば……良かった、笑ってる。こりゃ助かったな。でも一応謝っておくか。
「えっと、すいません、隊長」
「大丈夫。何もする気は無いわ。……今はね」
助かってねぇえええっ!? ってか、よく目が笑ってねぇっ! ……許さねぇ。これも全部余計な真似をしやがった奴のせいだ。
いや、自分でも八つ当たりだって分かってるんだがな。まあ、現実逃避って奴だよ。あー、糞。こんな時こそレガリアさんの出番だってのに、何やってんだ、あの人。
俺達は鼻を押さえ涙目になりながらも悪臭が濃くなっている方に向かい、巨漢に腹を貫かれたレガリアさんの姿を目撃した。
「ふははははは! 所詮は人間、我が輩の敵では無いな。……おっと、屁が」
爆発でも起きたのかって位の轟音と共に灼熱と悪臭のガスが巨漢のケツから放たれる。咄嗟に避けたが鼻の中に針を突き刺されたみたいな刺激臭。あの野郎、何食ったらこんな屁が出るってんだよ。ってか、矢っ張り魔族だよな? 魔族に間違い無いよな? よし! 魔族だ、ぶっ殺す!
俺達に背を向けていたからか未だに気が付かずに大笑いしている野郎の首筋目掛けてグレイプニルの切っ先が迫る。何時もはジャラジャラ鳴っている鎖も今日はコントロールして鳴らない。こうやったら少し威力は変わるが、急所狙いだ、構うもんかよ!
グレイプニルの切っ先は一寸の狂い無く巨漢の首筋に命中、皮膚を貫く事も出来ずに弾かれた。……はぁっ!? おいっ!? 幾ら威力が下がるっつっても限度ってモンが有るだろうが! 俺は直ぐにグレイプニルを引き戻そうとするが、流石にこっちに気が付いた巨漢が振り向いて鎖を掴み、強く引っ張る。結果、俺が鎖を伸ばしたので勢い余って後ろに転んだ。
その勢いによってレガリアさんの腹から腕が抜け、血溜まりに彼の体が落ちて力無く転がった。……ああ、駄目だ。我慢を覚えろ、怒りを抑えろ。そんな風に習って分かった気で居たってのに、流石に限界だわ。きっと今の俺の体は震えてるんだろうな。声だって冷静なつもりだが、別物だろうよ。
「隊長、レガリアさんを任せます! あのデカブツは俺が叩きのめす!」
「ふははははは! 汝の様な小僧が我が輩を叩きのめす? 片腹痛し! そして心意気や良し! このギャード・タラスクが胸を貸してやろう! その事を誇りに逝くが良い!」
「五月蠅いんだよ、デクが。一々叫ばねぇと喋れねぇのか
両手を左右に広げ、胸筋を誇示するみてぇに胸を突き出すギャードを睨みながら俺は考える。今ので分かったが、此奴は異常に固い。正攻法で勝つのは難しいが……そんなの関係無いよな。
ギャードの爪先が触れ、波紋が中心から起きているレガリアさんの血溜まりを見ながら拳に力を込める。目の前の此奴だけはぶっ飛ばさねぇと気が済まないんでな!
応援よろしくお願いします
アンノウンのコメント ズルが手ぬるいよ 僕ならもっと凄いの仕掛けるのにさ ふふふふ




