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クルースニク外伝 ⑥

評価あがった 嬉しい!

 ……言い訳はしねぇ。アレは紛れもなく敗北だ。俺は治療の為に寝かされたベッドの中で拳を握りしめて震わせる。俺は自分が最強とは思ってはいなかったが、それでも上の方にいるって思ってたのによ……。


「こりゃ鍛え直しだな……」


 努力はして来た。才能だって有るはずだ。だが、今の俺じゃあ頂上に手が届かない巨大な壁が沢山有るって知った。上等だ。今の俺が届かないなら、届くまで強くなれば良い。負けは認める。だが、それは今回だけ。何せ俺は生き残ったんだから次が有る。途中で勝った奴が勝者なんじゃねぇ。何度打ちのめされても最後に勝った奴が勝者だ。……まあ、何度も負けるのは流石に御免被るがな。


「……見ていろ。次こそやってやる」


 天井にあの女達の顔を思い浮かべ、拳を突き出す。そうと決まりゃあ体をさっさと治して修行だ。今は大人しく治療に専念して、万全の状態で強くなってやる。


「次はヤってやるって、あの女みたいのが好きなのね、男ってさ。まあ、賢者様は別だけど」


「いや、誤解だ!?」



 俺の言葉に対してとんでもない勘違いをした女がドン引きした顔を向けて来る。あれか? この状況であのレリルって女相手に発情してると思われているのか?


「男って結局スケベなのよね」


「頼むから話を聞いてくれ……」


 …いやいやいやいやっ!? 俺はリベンジを誓っただけだからな!? 確かに魅了されちまったんだけど、途中で目を覚ましたよな、俺!? あー、糞! 此奴が命の恩人じゃなかったら怒鳴ってる所だぜ。アホか、テメェ! って言いてぇ。でも、それしたら義理が立たねぇ……。


「まあ、再戦の近いって所でしょうけど」


「分かって言ったのかよっ!? アホか、テメェ!」


 ……あっ、言っちまった。でも、俺悪くないよな?





「いやー、はっはっはっはっ! ズタボロにやられたね、レリック君。暫くは首をギプスで固定しないといけないし、脚の怪我だって毒が入ったよ」


「……ちっ!」


「まあ、最近は忙しかったし、休暇だとでも思いなよ。オジさんはサンジさんの知人から気になる話を聞いたし、この辺のコンドルモグラの巣を見て回るよ」


「気になる話?」


「駄目駄目.君の場合、聞いたら気にしちゃって無理するんだからさ。君の保護者を八年もやっているんだし、丸分かりだからね?」


 何やら騒がしいから見に行って見たけれど、レリック君が以外と落ち込んでいなくてオジさん安心だよ。普段から強気な分、挫折が堪えるんじゃないかって心配だったんだ。


「……さてと。この度は私の仲間を助けて頂き感謝します。改めて自己紹介をば。私の名はレガリア、傭兵紛いの事をやっている者です」


 帽子を脱ぎ、レリック君の命の恩人だという少女、ナターシャさんに頭を下げた。一見すると首についた手の跡以外は傷が浅く見えたレリック君だけれど、首の筋肉を酷く痛めていた上に脚の怪我は毒に犯されていて……若者の特権だとしても無茶は駄目だって。本当に心配なんだからさ。


「私はナターシャよ。さっきも言ったけど、魔族を倒して世界を回ってるの」


 この少女との付き合いが思ったより長くなるだなんて、人生は分からないものだねぇ。まあ、この時のオジさんは直ぐに別れると思ってたんだけれどさ。だって初対面だし、レリック君の代理で付き合って欲しいとしか思っていなかったんだ。





「いやぁ、悪いねぇ。オジさんに協力して貰ってさ」


「良いわよ。私だって魔族を退治する旅の途中だし、例の誘拐事件に関連しているなら無関係でも無いわ」


 レリック君に留守番を任せて向かった先で得た情報、それは近辺のコンドルモグラが取引に現れなくなった事、そして人里離れて暮らしている人や小さな村から人が一斉に消えた事だったんだ。どうも妙な話だと思っていたんだけれど、ナターシャちゃんの話では魔族が関係してるんじゃないかって誘拐事件が他の世界でも多発しているらしくってね。その調査に出た時に偶々レリック君を助けてくれたって訳さ。


「それにしても初代勇者パーティーの子孫とは驚きだよ。実はオジさんの娘もナターシャ学園に通っていてね」


 初代勇者キリュウ。出身世界が不明であり、各世界から順番に出ている二代目三代目とは違う謎の多い存在。だからこそ人気があって演劇の題材にもなっているんだけれど、仲間の中で一番有名なのはナターシャだろうね。身分も貧富も種族も関係無しに学べる学校を設立した人物。……その子孫かぁ。


 おっと、危ない危ない。常に持ち歩いている手鏡で自分の顔を確認すれば、何時も通りの人の良い中年男の顔が映っている。うん、大丈夫。オジさんの仮面は万全だ。ふと空を見上げれば夕焼けが星空に変わる頃合い。太陽が空から完全に姿を消せば夜が来る。……闇の住人である俺の時間がね。


「ねぇ、レガリアさん。怒ってるよね?」


「……何でそう思うんだい? オジさん、ずっと笑顔なのにさ」


「勘」


 ……勘かぁ。オジさん、感情を隠すのは得意だと思ってたのになぁ。そうだよ、オジさんはさぁ、腹が立っているんだ。だって、レリック君はオジさんの中では息子同然なんだもん。本人は照れて隠しているけれど、互いに家族だと思っているんだ。



「家族に手を出されて怒らない奴は居ないって。少なくてもオジさんはそう思ってる。……そして手を出した相手にケジメを付けさせるのは父親の役目さ」


「そっか。格好良いね。賢者様には負けるけど」


「……いや、賢者様ってあの賢者様でしょ? 流石に伝説になってる人には勝てないって。……てか、知り合いなの?」


「知り合いよ。更に言うなら初恋の人よ。聞きたい? 聞きたい? 詳細聞きたい?」


「いや、別に良いや」


 だって絶対長くなるって勘が言っているもん。やれやれ、オジさんだってまだ三十代だけど年食った気分だよ。若い子って良いねぇ。目を輝かせて語りたがるナターシャちゃんをあしらいつつ進み続けると岩肌に大きく口を開いた洞窟が見える。あれがコンドルモグラの巣で間違い無いんだろうけど面倒なのが居るなぁ。


「イノシシフラワーね。大体五十頭って所かしら?」


 洞窟の前を頭から毒々しい色合いの巨大な花を咲かせたイノシシの群れがウロウロし、頻りに鼻を動かして匂いを探っている。風上じゃなければ気が付かれていたかもね。


 イノシシフラワー。その名の通り、イノシシじゃなくて花が本体の面倒な相手なんだ。イノシシの脳に寄生して体を乗っ取るんだけれど、雑草と同じで根っ子をどうにかしないとイノシシの腹に大穴開けても動くんだよ。しかも損傷箇所を蔓で補強するしさ。イノシシだって火事場の馬鹿力かって位に力が強いし、兎に角タフで面倒な相手だよ。


「でっ、どうするかい? オジさんが魔法で一掃する?」


「ううん。私が行くわ」


 え? ちょっ!? 止める間も無くイノシシフラワーの群れに突っ込んだナターシャちゃんは向こうが反応するよりも前にナイフを抜く。柄に巻いた布は随分とボロボロなのに刃は白く光り輝き、イノシシの堅い頭蓋骨を簡単に切り裂いて根を刈り取った。突然の襲撃だけれどイノシシフラワーは慌てない。植物故の強みだね。その代わり連携もへったくれも無い動きで突き進み、ナターシャちゃんはそれをヒラリヒラリと避け続ける。


「さっさと行って父親の役目を全うして来て! 私、存分に利用されてあげるわ!」


「……ありゃま。見抜かれてたのね」


 育ちと才能だけで世間知らずなお嬢さんっぽいし、利用出来そうだと思っていたんだけれど、向こうの方が上手だったのね。でも、今はお言葉に甘えさせて貰うとしますか。


 イノシシフラワーの意識がナターシャちゃんに向かっている隙に洞窟の中に駆け込む。あの様子じゃ全滅させるのに時間は掛からないだろうし、どうせだったら二人で進んだ方が良いんだけれど……オジさんだって意地が有るのさ。


「さてと。息子と娘が自慢する様な父親になるのは大変だっと」


 既に月明かりも届かない闇の中を迷わず進む。どうも侵入者の相手は任されていないのか、横穴から此方を見るコンドルモグラは元来の大人しさを発揮していた。


「モキュモキュ?」


「モッキュ!」


 はっはっは! まさかコンドルモグラと話が出来るだなんて思っていなかったんだろうね。簡単に魔族の居る場所を教えてくれたよ。今居るのは一人だけ……そっか、一人か。モグールの話では二人だって話だし、レリック君に毒を与えた子じゃないんだろうねぇ。



「ははっ! こんなに早く侵入者が……」


 通路の先、開けた空間で待っていたのは髪の色が左右で金と銀に分かれている少女。オジさんが来たのが随分と嬉しそうだったよ。


「喋るな」


 でも、オジさんからすれば不愉快なんだよね。どうせ仲間が居るんだしって事で話も終わらぬ内に魔法で付くっておいた影の刃で両断する。手応え有り!





「ははっ! 凄い凄い」


「此奴なら楽しめそうだ」


 ……うへぇ。声がしたので振り返れば、魔族の少女は金髪と銀髪の二人になっていた。面倒だなぁ。




「私の名前は斬一倍刀南(きりいちばい とうな)!」


「中級魔族だ!」


 ……どうして交互に話すんだろ?

応援宜しくお願いします  新作も毎日投稿中


アンノウンのコメント  レリ君ったらこの時から打てば響くんだ



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