とあるメイドの絶望報告 ☆
また評価上昇 まずは七百目標
だって、私達も誇り高き魔族の一員。戦う力は僅かでも、魔族の役に立てるならこんなに嬉しい事は無いと、この時は思っていたの……。
「ひひっ! 嬢ちゃん、その格好はどうしたんだ?」
「誘ってるんだろ。おい! 野郎共、この嬢ちゃんの望みを叶えてやろうぜ!」
今回魔族が誕生したのは赤の世界レドス。六色世界では黄の世界イエロアと双璧をなす過酷な世界で、世界全体に荒野と火山が広がっていて、人は僅かに存在する住み易い場所に固まっている。だから、こんな盗賊みたいな連中が幾らでも存在したわ。
当然だけれど衣服を着て生まれて来る者は居ないし、仮に衣服を生み出す能力を持っていたとしても生まれたばかりじゃ扱えはしない。だから私は此処に来た。裸で現れた若い女の姿に興奮して不愉快な視線を向ける盗賊を皆殺しにして物資を奪い、そして連中が感じた恐怖や苦痛の感情で力を増して能力を得たら村や小さな町を襲う。
誕生した時点で強大な力を持つ上級魔族の皆様とは違い、私に可能なのはその程度。でも、逆を言えば小さな盗賊団程度なら今の私でも対処可能。まあ、魔族は人を超越した存在。無駄に多い数の中から稀に対抗出来る者が出て来る人と違い、平均値があまりにも違うのよ。
「……はあ? 人間に捕まっていたって?」
「そうよ。ほら、彼処に居る確か名前は……ルル・シャックスだったかしら? 十人も居ない盗賊団を襲いに行ったら捕まって、犯され続けたんですって。捕まってから二十日後辺りで向けられていた悪意で得た力で逃げたそうだけど……恥曝しよね」
自分より下の相手が居れば安心するものよ。後から目覚めた同胞、それこそ下級魔族でも、初期に目覚めてから力を蓄えていた私達よりも強い子が居る事に少し劣等感を感じていた時に耳にした明らかな格下の話は安堵感を得るのに十分だったわ。
明らかに鈍臭そうで気弱なのが通じるルルは何も無い所で転んで荷物を周囲に撒き散らしている。彼女を最下級魔族と陰口を叩き、直接的な行動は無かったけれど虐めに発展したのは当然の流れ。特に上級魔族のディーナ・ジャックフロスト様に面倒を見て貰い、友人みたいに接する事が許されてからは手が出し辛くなったけれど、それでも陰口は続いたわ。
そして運命の日が訪れた。魔王様の側近である最上級魔族のレリル・リリス様とリリィ・メフィストフェレス様。お二方のどちらかの指揮下に組み込まれるのか、それが決まる日が来たの。
「貴女はどっちが良い?」
「そりゃリリィ様よ。レリル様はちょっとね……」
先に配下になるのが決められる上級魔族の皆様だけれど、レリルは気に入った相手を誘惑し、閨に誘い込んでから正式に決めると噂されていて、その美貌と力への嫉妬も有るけれど、同じ女から好かれるタイプでは無かったわ。少なくても魔族の中ではそうだったの。
だから見た目は少女でもフレンドリーな態度で演説する姿を目にした事が有るリリィ様の指揮下に配属になった時は喜んだわ。でも、その喜びはその日の内に消え去った。
「今日から宜しく頼むよ、諸君」
レリル様の居城にて集められた配下の魔族達。椅子が用意されたのは上級魔族の方々だけなのに不満顔の子も居たけれど、私はその位は当然だと思ったわ。だって魔族は全員仲間だけれど地位を明確にするのは当然だって理解していたの。
「あっ、そうそう。椅子が無い事に不満顔の子達が居たけれど死んで貰うから」
リリィ様はそんな風な言葉を少女のあどけない笑顔で口にして、小さな人形の首を捻る。私の周囲から聞こえたのは何かが折れる音で、見たくないのに見てしまう。首が一回転してへし折れた仲間達の姿がそこには有った。
「静かにね。私、喧しいのは嫌いなんだ」
耳元で囁いたかに思える小さくてもハッキリ聞こえた声に悲鳴を押し殺す。恐怖に震え、口を手で押さえながらリリィ様を見れば気が付いてしまった。中級魔族と下級魔族に向ける瞳は石ころに向ける物でさえ無い事に……。
「先に言っておこうか。私にとって同胞は上級魔族だけだ。ああ、それと……魔族は絶対に滅びるし、自由にやって良いよ。私の命令を聞きながらだけど。……じゃあ、ビリワック。右端から真ん中迄の記憶を弄っておいて」
「はっ! 主の命とあらば」




