表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/251

とある女神への認識

 浜辺の空間に歪みが生まれる。まるで水面をかき乱したみたいに景色がボヤけ、全く違う風景が浮かび出されていたわ。綺麗な森の中、赤い屋根の小さな家。そして……。


「さて、クルースニクの連中が様子を見に来るかも知れんし、さっさと行くが良い。……これ、餞別の品の胃薬だ」


「何か凄い不安なんだがっ!?」


 そして、庭に置かれた安楽椅子や机の周りで寛ぐ六匹のアンノウン達。明らかにこっちを見て、何かを囁き合っている。この短時間でどれだけヤバい性格なのか分かっている流は一瞬怯み、ソリュロ様が差し出した瓶が更に不安を煽っていたわ。


 クルースニクの人達が来たら面倒な事になる、その意見に私は賛同するわ。一度は渋々納得して退いてくれたけれど、敵意って理屈じゃ無いのよね。私だって羊泥棒に少しやり過ぎた事が有ったのを思い出す。


 でも、魔族に対して敵意を持っているのは何も特別な事だとは思わないわ。あの人達は、その敵意を向ける相手に対抗できる力を持っているだけで、他の人達だって魔族には敵意を持っている。それは分かり合える相手も居るって知っている私も同じ。


 だって、そんな風に思える相手の一人だった流を呼び捨てにしているもの、人間だと思っていた時はカミニちゃんって呼んでいたのに、正体と本名を知った途端に呼び方が変わっていたわ。


 例えば歴史、例えば物語、例えば伝説。魔族が生まれ付き人間への敵意を持っているのと同じく、人だって育つ中で魔族への敵意を持ってしまう物に多く触れる。……‥あの人達が完全に拒絶するのはそれを理解しているからかしら? 例え向こうが歩み寄っても、拒絶を示され続ければ敵意が再燃して当然だからって。


「難しいわね」


 普段は人の営みの範疇だからと不干渉の神様だけれど、人の国同士の争いには口を出す。でも、魔族への敵意を煽る物に対しては何も言わないのは、神様の多くも魔族は人の敵であると決めているからなのね。


「ねぇ、ゲルちゃん」


「何かしら?」


「他と大きく違う少数派って目立つけれど、所詮は少数派だからね? 可能性の種があっても育つ環境に巡り会わないと芽吹かないし、大多数ってのは殆どを占めるから、そればかりってのを想定して動くのは当然なんだ」


 偶にアンノウンが分からなくなる。真面目な事は一切考えず、悪戯ばかりしていると思ったら、こうして心を読んだみたいな助言をしてくるのだもの。それで気持ちが楽になる私も私ね。


「じゃあ、さっさと行こうか。言っておくけれど、他の僕が見ているし、森から逃げても他の神が住んでいる所に出るだけだからね」


 静かな声、それでも呑気そうな声で告げるアンノウンだけれど、それが警告だって流も分かっている様子だったわ。そう、彼女は完全に見逃された訳じゃない。一旦身を預かり、私が世界を救った時、人間になるか消えるか、それを神様達に決められる。


「……ああ、了解だ」


 それは流だって理解していた。口調は変わらないけれど顔は随分と真面目で、少しだけ怯えている。行動次第でどうなるか、ちゃんとりかいしていたの。




「まあ、逃げても家の前まで強制的に転移するんだけどね、イクラ軍艦のキグルミ姿で」


「わっけ分かんねぇよ! マジでわっけ分かんねぇよ!」


「え? 鉄火巻きの方が良かった?」


「だからそれが意味不明だって言ってるんだろうが!」


 この時、流は理解したわ。これから自分を待つのは目の前の相手を六倍にしての生活だって。ソリュロ様が胃薬を渡して来た理由を知識じゃなく、経験で理解した顔をしていたの。



「……あー、不安だ。でもまあ、生き続けられるかも知れないんだ。我慢するか」


 私は願う。どうか彼女の道行きに光が欲しいと。ただ、それだけを願った。流は神の世界に続く空間の穴に一歩踏み込み、最後に私の方を無言で見ると直ぐに前を向く。私は彼女にしてあげられる事をちゃんと出来たのかしら?


「あっ、そうそう。他の僕と暮らす時の注意点だけれど……」


 そして向こう側に消える瞬間、アンノウンが声を掛けるけれども、流が一体何だと慌てた瞬間に向こう側に両足が着いて穴が消えたわ。多分、凄い不安になっているでしょうね。


「特に無いよって言おうとしたのに」


「そうですか。わざわざ口にするだなんてアンノウンは優しい子ですね」


「うん!」


 いや、絶対ギリギリのタイミングを見計らって言わなくて良い事を言ったに決まっているわ。賢者様は嫁と娘とペットが絡むと馬鹿になるから言っても無駄でしょうけれど。うん、もっとしてあげられた事が有ったわね。アンノウンにどれだけ注意しなくちゃ駄目かって助言、それをしてあげたかったわ。




「あの~、私の事、忘れていないかしら?」


 あっ! 何か忘れていると思ったら、イシュリア様の事をすっかり忘れていたわ。それは私以外の皆も同じみたいで、しかも顔に出ていたのかイシュリア様に気付かれてしまったみたい。


「グ、グレてやるんだから~!!」


「えぇっ!?」


 そのまま涙目で駆け出して行くイシュリア様。あの方、女神よね? けっこうな年月を生きているわよね? なのにあんな発言って……。


「完っ全に威厳がゼロだな」


「いや、姉様の威厳は既に負債の域だ、ソリュロ様」


「って言うかイシュリアがグレたらどうなるんだろ?」


「行き着く所まで行ったら逆にマトモに……いえ、イシュリア様ですから無理ですね」


 何と言うか、身内からの評価が酷いわ、仕方無いけれど。イシュリア様、変な方向に信頼が有るのね、気持ちは分かるけれど。あの方、女神様が関わった時の賢者様レベルが普通だもの……。


「あら?」


 砂煙を上げながら走り去ったイシュリア様だけれど、直ぐに砂煙を上げながら戻って来たわ。しかも怒ってるみたいね。さっきの評価が聞こえたのかしら?



「ちょっとっ!? 好みの男が居たからベッドに誘ったのに、この格好のせいで笑われたじゃない! どうしてくれるのよ!」


 指摘する前に走り去ったのだけれど、イシュリア様の首から下はパンダのキグルミのままだったわね。もうギャグ担当や汚れ役みたいに認識しているから他の人達だって言い忘れていたと思うわ。


「いや、未だ仕事の最中だろう、姉様」


 女神様の指摘に目を逸らし口笛を吹いて誤魔化しにならない誤魔化しをするイシュリア様の姿で私は悟る。頭のネジが外れた神様の中でもイシュリア様は別格だって。


「……取り敢えずこれ脱いでからで良いかしら」


 恥を知らない風なイシュリア様でもパンダのキグルミの胴体は恥ずかしいらしい。取り敢えず話が進まないから私達はイシュリア様が着替えるのを待つ事にした。





「次に儀式の準備が整ったのですね。そう言えばグリエーンの清女ってどんな人ですか?」


 これは少し気になっていた。オレジナやイエロアの聖女や清女の双子姉妹って……うん、口には出さないけれど、色々と劣等感を感じる人達だったから。私は先に知っておく事でダメージを和らげたいのだけれど、イシュリア様はニヤニヤ笑うだけで教えてはくれない。


「姉様、さっさと話せ。そして帰れ」


「シルヴィアっ!? 貴女、本当に私の扱いが雑なのだけれど!?」


「そうなる様な事をしたのは何処の誰だ、まったく!」


「はいはい、反省しているわ」


 誰が見ても絶対に反省なんかしていないイシュリア様。女神様も呆れた様子でそれ以上は何も言わない中、イシュリア様は人差し指を唇に当てる。



「まあ、会ってからのお楽しみ。実は清女の予定だった子が失恋が理由で塞ぎ込んじゃってさ、代理を頼んだの」


「成る程、姉様が恋人を寝取ったか。猛省しろ、愛の女神」


「寝取ってないわよ!? 貴女、私の事をどんな風に認識している訳? ……失恋の理由は恋した女の子がよりにもよって妹とくっついちゃって。まあ、その代理の子が誰かは会ってみてのお楽しみよ」


「ねぇ、ゲルちゃんは誰だと思う? 流石にもったいぶってティアだってのは安直過ぎるし、驚かせようってんだから絶対凄い子だよ!」


「……ティアです、勿体ぶってごめんなさい」


 ……うん、絶対分かってて言ったわね、アンノウン。そうか、ティアさんなのね。……ティアさんかぁ。私は自分の胸をペタペタ触りながらティアさんの胸を思い出していた。





「って!? 本来の清女の人とか、その妹とか、普通に女同士じゃない!?」


「あつ、いや、結構有るわよ? 貴女の出身世界の聖都だってそんな感じじゃない。まあ、愛の女神として私は否定しないわ。私も両方オッケーだし」


 旅に出て何度も思った事だけれど、世界って広いわね……。


応援よろしくお願いします やる気になるので感想とか欲しいです


アンノウンのコメント  僕の認識は変な奴 それだけ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ