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閑話  代用の恋と友愛による破壊

 種族問わず年代問わず、身分すら関係無く集められた者達を酷使して完成を目指す城の中、先代勇者の仲間であり、今は魔族に組みするウェイロンの部屋の扉が開き、部屋の主と共に美風が出て来る。


 扉の向こうから漂う臭気は嗅いだ者によっては直ぐに室内で何が行われたかを察するには十分な物であり、シャワー室など存在しないので二人からも漂っている。


「あ、あの、ウェイロン……君。また呼んでくれたら嬉しいな」


 着崩れを起こしたメイド服の胸元を正し、赤くなった首元を手で隠す美風は何かを期待する瞳をウェイロンへと向ける。それだけで羞恥心が刺激されたのか火照った顔は更に赤く染まり、そんな彼女の耳にウェイロンの吐息が掛かった。


「……ええ、当然ですとも。その代わり……分かっていますね?」


「……うん」


 少しだけ彼女の顔が曇るもウェイロンは気にした様子すら見せずに立ち去って行く。その背中を見送りながら手を軽く振っていた彼女は先程までの余韻に浸り、そっと自らを抱き締めた。顔を曇らせる理由から目を逸らし、幸福だけを甘受する美風。ただ、夢中になるあまりに背後から近寄る気配に気が付いていない。


「おい、何やってんだよ、廊下の真ん中でよ」


「ひゃわいっ!? あ、飛鳥ちゃん!? どうして此処にっ!?」


「いや、私もこの城に住んでいるからな? つーか、お前……彼奴とヤっただろ。それも最低三回は」


「ふぇっ!? どどどど、どうして五回もしたって分かったの!?」


 本人からすれば発覚する事など有り得ないと思っていた様子だが、飛鳥は呆れを更に顔に色濃く表し、そのまま平手打ちを行う、但し胸に。メイド服に窮屈そうに収められた胸が叩かれる度にぶるんぶるんと存在を主張する。それに視線を向ける時、少しだけ飛鳥の顔は憎々しそうに見えた。


「お・ま・え・は! 彼奴に関わるなって言ってんだろ! つーか、丸聞こえだったんだよ、ドアをちゃんと閉めてねぇから!」


「えぇっ!?」


「私言っているよな? 何時も言っているよな? 出したら仕舞え、ドアはちゃんと閉めろってよ!」


「ご、ごめん~!」


 胸への平手打ちは更に激しくなり、続いて両頬を摘まんで引っ張る。少し涙目になりながら謝る美風に対し、飛鳥は更に指先に力を込めて上下左右に頬を動かすのであった。


「うう、痛かったぁ」


「痛いのが嫌ならちゃんとしろ! 何が悲しくてダチと嫌いな奴の情事の声を聞かされなくちゃならねぇんだ!」


 漸く頬を解放された美風は頬を撫でながら涙目になるも飛鳥は未だに怒り醒めやらぬ様子。大声で怒鳴り、最後とばかりに胸を叩けば今までで一番激しく美風の胸が揺れ、ボタンが弾け飛んだ。


「ったく、色ボケやがって。……そういや気になったんだがよ。彼奴って基本的に感覚無いんじゃなかったのか? 感じるかどうか以前に役に立つのかよ? 使い物にならないんじゃねーの?」


「えっとね、生け贄を捧げれば一時的には大丈夫らしくって、南側の外壁担当の子供を五人位……」


 飛鳥の恥ずかしがる様子が一切無い物言いに美風は真っ赤になりながらも疑問に答え、飛鳥は何か思い当たる節が有る様子で空を仰いだ。


「あ~、どうりで作業が遅れてた筈だよ。見せしめに五人殺したんだが早まったな。何か言っていた気がするが無視してたんだが、その事だったか


「勿体無ーい! 飛鳥ちゃん、ちょっと人員の無駄遣いだよ」


「お前が言うな、お前が!」


 反撃とばかりの発言は虎の尾を踏んだだけで終わり、再び美風の頬は激しく引っ張られる。暫くの間、その様な遣り取りが続き、二人共息が上がった頃、飛鳥は少し言いにくそうにしながら呟いた。


「……なあ、お前ってヤってる最中は彼奴を呼び捨てだっただろ」


「うん! ウェイロンが呼び捨てにして欲しいって……」


「んで、お前の事は別の女の名前で呼んでただろ。私、知ってるぞ。先代勇者の仲間で、勇者と結婚した女の名だろ」


「……うん」


 嬉しそうに話し始めた美風の顔が再び曇り、飛鳥は怒気を隠そうともせずに拳を振り上げ壁に叩き付ける。少女の細腕からは想像も付かない怪力は分厚く頑丈な壁に易々と大穴を開け、外に向かって崩れ落ちた壁の破片は作業中の者達へと降り注ぐ。ある者は押し潰され、またある者は頭をかち割られ死んで行く。労働条件を考えれば運悪くとさえきすべき生き残りから悲鳴が上がるが飛鳥に気にした様子は無い。


「ざっけんな! 私のダチは代用品かってんだ!」


 何度も壁への八つ当たりが行われ、更に威力を増す拳によって壁の破片は更に飛距離を増して飛び、避難の為に距離を取った者達に降り注ぐ。骨が砕け肉がひしゃげる程の衝撃に悲鳴が上がる中、飛鳥はその姿に少し溜飲を下げた。気が晴れた様子で彼等を見ていた飛鳥だったが……。


「……あぁん? 何睨んでやがるんだよ!」


 それは本当に睨んでいたのか、それとも苛立つ心が睨まれていると見せたのか、少なくとも飛鳥には睨んでいると見えたのだ。元々が誘拐され過酷な労働を強制されている者達だ。睨まれて当然だと思っていたのも有るのだろう。但し、睨まれるだろうと思うのと、睨まれても構わないと思うのは別であり、飛鳥は睨まれる事を受け流せはしない性格らしい。今の彼女は非常に気が立っていた、それも理由に入るだろう。


「もうお前達は要らない。別のを調達するよ。だからさ……」


 飛鳥がそっと掲げた右手にはヤツデの葉が握られ、服装も活発な少女らしい物から山伏の物へと変わり、渦巻く風が彼女の周囲で吹いて黄色の髪を揺らす。飛鳥の姿を見て、遠くからでも何かが起きると察したのか慌てて逃げ出す者達。その背中に向かい、力強くヤツデの葉団扇が振り抜かれる。


「とっとと死んどけぇ!!」


 風が、いや、嵐が吹き荒れる。逃げ惑う者達を取り囲み渦巻く強風は人だけでなく建材すらも浮き上がらせて範囲を狭め脅威を上げて行く。悲鳴が上がっているのだろうが、風の音が大きく掻き消されて聞こえない。城すら超える大きさの竜巻となった嵐は周囲の物を巻き上げ、人や物が渦の中で激突し、砕き突き刺さる。その時間が何時までも続いていると中で生きている者達は思った事だろう。


 その風は突如止んだ。遙か上空に舞い上がった人や物は風から解放され、落ちて行く。固い地面に叩き付けられ、その上から落ちて来た物や人に潰され、今度こそ生き残りは居ない。その様子を眺める美風はと言うと…。



「うわぁ。蜃さんに怒られちゃうよ?」


「べ、別にあのオッサンとか怖くねぇし!? それにリリム達が頑張って集めてくれてるんだから補充は直ぐだろ」


「でも、城の完成が遅れちゃうんじゃ……」


 見下ろした先の光景は酷い物だ。壁には大穴、建設途中だった箇所は完全に破壊され、用意された建材もボロボロになって周囲に散らばっている始末。後から人材を補充するにしても工期に大幅な遅れが生じるのは目に見えていた。



「それも大丈夫だって。どうせ完成間近になったら生き残りの目の前で壊すじゃん。なんか気に入らないから建て直せって言ってさ」


「……え?」


「おい、まさかお前……」


 疑いの視線を向ける飛鳥と目を合わせない美風。この時点で肯定しているのと同義だ。計画についてど忘れしていたと。



「ちょっとぉー! 何なのよこれはぁ!」


「やっべ! オッサン怒ってる!」


 下から聞こえてきた野太い声のオネェ言葉に飛鳥はその場から逃げ出す。後には美風だけが残された。


「えっと、私も逃げ出した方が良いよね?」







 一方その頃、ゲルダ達が滞在するニカサラの浜辺では……。


「わっけ分かんねぇよ! いや、死ぬよりは遥かにマシなんだけれど、マジでわっけ分かんねぇよ!」


「じゃあ、鉄火巻きにしておく?」


「だからそれが訳分からないって言ってんだろうが!」


 何が起きたか不明だが、凄く騒がしい事になっていた。原因は明確である。

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