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パンダは宇宙兵器の夢を見るか

 勇者時代の仲間の中で特別な存在を一人選ぶのなら間違い無く他は論外でシルヴィアなのですが、他の三人から選ぶとなるとナターシャになります。他の二人も子孫の様子を時々窺う程度には大切に思っているのですが、彼女の神相手でもズバズバと物を言う所や屈託の無い笑み、この世界に来たばかりで地球との常識や何やらとの違いに戸惑う私を助けてくれましたからね。


 だから、イエロアでの旅の途中、彼女が設立した学校の様子を見ていたら不審者扱いされたのは傷付いています。




 私の目の前で砂浜に突き刺さった少女、そして突き刺した妻。私が見事なジャーマンスープレックスを決めた彼女の勇姿と美貌に見惚れて心を奪われる中、背後より忍び寄る気配が一つ。


「はぁい! 久し振りね、ベッドに行かない?」


「シルヴィアとだったら喜んで。貴女となら謹んでお断りしますよ、イシュリア様」


 何というか予想通りに気配の正体は小姑のイシュリア様でした。相変わらずの色ボケ女神っぷりで、普段から下着同然の服装ですが、今は浜辺なだけあって水着姿です、違いが分かりません。寧ろ服装を場所に合わせるなら、言動を立場に合わせて下さい、偶には。私は何時もの様に誘惑を拒絶しますが、その程度で諦める方でないのが困りものですね。実際、私の背後から密着して胸を押し当てる気で腕を伸ばして来たのですから。


「あら、私は妹と一緒で構わないって何度も言っているでしょ? 折角ビーチに来たんだし、もっと開放的になっても良いと思うわよ?」


 これが何時ものパターンなのですから好い加減うんざりなのですよ。ですが、毎度毎度私を誘惑してはどんなオチになるのか、それを忘れた訳でも無いでしょうに。私に抱き付き胸を押し当てる瞬間、私の頬の直ぐ横を疾風が吹き荒れ、豪腕がイシュリア様自慢の顔を正面から掴む。憤怒の表情も美しいシルヴィアのお出ましです。


「ほぅ、そうか。ならば……五臓六腑をさらけ出せ!!」


「ちょ、ちょっとっ!? なんか今回はシャレにならない気がするんですけど!?」


「良く分かったな、姉様。丁度泥棒猫を一匹沈めた所でな。気が立っているのだ、死ね!」


「ぶへらっ!?」


 ジャーマンスープレックスに引き続き繰り出される見事なボディアッパー。直撃を食らったイシュリア様は口から出る物を全て出し、ギリギリ内臓を吐き出さずに済んで気絶する。乱雑に姉を放り出したシルヴィアは大の字で気絶するイシュリア様には目もくれず、私に抱き付いて来ました。


「ムカムカしていたらムラムラして来た。抱いてやるからベッドに行くぞ」


 何とも男らしい誘い文句を口にしながら親指で馬車を示されては拒否など出来ません。少し部屋の時間の流れに干渉する魔法を使うとして、ちょっとだけ言わせて貰いましょう。私にだって譲れない物が有る。


「何とも魅力的なお誘いですが……先ずは砂を流しましょう。貴女に触れる際に余計な物を間に挟みたくない」


「……私はベッドの気分なのだ」


「なら、ベッドに参りましょうか」


 私の提案に頬を膨らませたので指先で突っつき、腰に手を回す。妻の願いなら譲れない物でも譲るのが夫の役目。まあ、偶には砂と海水にまみれた彼女と絡み合うのも良いでしょう。〆はシャワーを浴びながら行うとして……。


「アンノウン、二人の世話を頼みましたよ。それと、捕まえた奴ですが調べておいて下さい。その後で好きにして構いませんから」


「分かったー」


 素直に返事をする姿は可愛らしく、本当に賢くて優しい子に育ったと嬉しく思います。アンノウンを危険視する神も居ますが、私にはそれが理解出来ない。


「おい、私以外の事は考えるな」


「おっと、失敬」


 少し不機嫌になったシルヴィアの頬にキスをして、そのまま寝室に向かう。部屋に入り、鍵を閉めて時間を引き延ばした瞬間、私の視界は回転し、背中からベッドに落ちる。指先一つ動かす暇も与えられず、気が付けばシルヴィアが私に跨がって舌なめずりをしていた。


「では、存分に貪らせて貰おうか」


 シルヴィアは私を力で押さえ込みながら器用に水着を脱ぎ、何時の間にか私の水着も脱がしていた。覆い被さり獰猛な瞳を至近距離で私の瞳と合わせるとキスをするなり舌をねじ込む。


 正に蹂躙、補食される者とする者。怒りで高ぶり武神としての性質が強く出た今の彼女には敵わない。どれだけ動いてもベッドは軋まず、動きは激しさを増して行く。結果、随分と搾り取られました。




「……それでだ、何故仕事をサボったのだ、姉様? グリエーンの復興を任されていた筈。私達の娘が住まう土地だ。返答次第では私もキリュウも容赦せんぞ」


「サボってないわよ!?」


「サボってないのですか!?」


「あんた達、夫婦揃って私を何だと思っているのよ!?」


「「問題児の色ボケ女神」」


 いや、そうとしか言えないのですよ、普段の行動からして。ですが今回は本当にサボリではなく、用事があって来たらしい。訊かれたから素直に答えましたが、少し失礼だったでしょうか?


「グリエーンの聖都『シキョウ』の復興が完了したから儀式を受けなさいって伝えに来たのよ。ついでに義弟を摘まみ食いに来たの。いやね? 獣人とかって男臭いのが多いし、童貞を何人か食べてあげたんだけれど、同じタイプばかりじゃ飽きるじゃない。だから他の世界に行く口実が欲しくて急ピッチで進めさせたのよ。でも、この世界も同じタイプが多いし、キリュウなら楽しめそうかなって」


「そうか、ビッチめ」


「本当に姉に向かって容赦ゼロね!?」


 ……うん、少しも失礼じゃ有りませんね。そう思わざるを得ない言動に呆れるを通り越して諦めるしか無いとさえ思えて来ます。


「本当に既婚者を誘惑するのは止めて下さい。仮にも愛を司る女神でしょうに」


「仮じゃないわよ、仮じゃ! ……あっ、所でこっちの子は誰かしら? 可愛いし、ベッドに連れ込んで良い?」


「そればっかしかっ!」


 本当に浜辺に私達だけしか居なくて助かりました。そう思う位に酷い女神の姿を見せられ、あまつさえ矛先を向けられた彼女ですが、平然とした様子で顔の前で腕を交差させてバツの字を作る。


「無理ね。だって私、賢者様の愛人候補だもの」


 この瞬間、沈黙が周囲を支配し、続いて怒声が響き渡りました。


「はぁああああっ!? ふざけるんじゃないわよ、この小娘! 私が何度誘惑しても断られているってのに、他の女が受け入れられる筈が無いでしょ!」


 まさかの爆弾発言に真っ先に反応したのはシルヴィアではなくイシュリア様でした。この人、母であるフィレア様ではなくて自分こそが美の神に相応しいと公言していますからね。私からすれば姑や小姑ではなく、嫁であるシルヴィアこそが誰よりも永劫に美しいと思うのですが。


「だから予定だって。でも、少なくても貴女みたいに雑な対応はされた事は無いわよ、私」


 そして彼女は相変わらず神相手にでもズバズバと物を言う気質は変わっていない。鼻息荒く食って掛かるイシュリア様に対して、屈託の無い笑みを浮かべて悠々と受け流す。その姿に私はナターシャと出会った頃を思い出しました。本当にあの頃の彼女そのままです。


「……さて、止めますか」


 これ以上言い争いを続けさせても不毛ですし、シルヴィアだって不機嫌になってしまう。怒る姿も美しい彼女ですが、私は笑っていて欲しいと願いますから。ですが私が割って入ってもややこしい事になりそうな予感が。


「アンノウン、二人を止めて下さい」


「良いよー! じゃあ、新技をお披露目するね、マスター」


 本当に素直なアンノウンには癒されます。具体的に言うとシルヴィアとティアの次、私が知る中で三番目に癒しを与える存在ですね。私に頼られるのが嬉しいのか随分と張り切った様子で頭の上のパンダが飛び上がり、目に光が点る。その輝きは音を立てながら増し、上空へと放たれました。


「おや、外しましたか?」


「ううん。見ててよ、マスター」


 言われた通りにビームの様子を魔法で見ればグングン速度を上げて上昇、数秒で大気圏外まで突き進む。その向かう先、そこに浮かんでいた物はファンタジーな世界観では異質な存在、パンダの頭を模した人工衛星でした。その衛星のパネルにビームが命中する事でエネルギーが充填され、全体が光り輝く。その光はやがて下部から出現した砲口に集中しました。


「サテライトパンダビィィィィィィムッ!!」


 響く掛け声と共に砲口の先の光が圧縮され、地上へと放たれる。標的になった二人が気が付いた時、光の柱は目前まで迫っていました。


「何のこれしき!」


「ちょっと速度がたりないわ!」


 二人が選んだのは迎撃と回避。イシュリア様はビームに向かって神の魔力を放ち、その隙に彼女の方は射程範囲内から脱出します。。あの魔力なら随分と威力を削れるでしょうし、あの速度なら逃げ切れるでしょう。


「ふっふっふ、甘いね、甘いよ、甘過ぎる。パンダビームは完璧なのさ」


 アンノウンの余裕の笑い声が聞こえ、上空から落ちてくるビームが宙に開いた穴に吸い込まれて消えて行く。あの穴は異空間への入り口で、二つの出口が二人の真横に開きます。そして、二人はビームに飲み込まれてしまいました。


「マスター、二人を止めたよ! 誉めて誉めて!」


「偉いですね、アンノウンは。ほら、ご褒美をあげましょう」


「わーい」


 尻尾を振って寄って来るアンノウンの頭を撫で、大好きなお菓子をあげる。ビームを食らった二人は仲良く一つのキグルミを分け合って着た状態で白目を剥いていました。


「おい、起きろ。少し話がある」


 ですが私の愛しいシルヴィアには容赦など似合わない。二人を無理矢理引き起こし、目を覚まさせると砂浜を指さし、決して拒絶を許さない声で告げます。


「正座しろ、今直ぐにだ」


 その様子を黙って見ているしか出来ない中、師匠がゲルダさんを連れて戻って来ました。何故か魔族と一緒ですが。





「……私達の家で監視下に? まあ、アンノウンの遊び相手が出来ますから構いませんが。……あっ、そうだ。先に紹介しておきましょうか」


 師匠から諸々の説明を受けた後、私は未だに正座で説教されている彼女が被るパンダのキグルミの頭を引っこ抜きました。



「彼女の名はナターシャ。私の仲間だったナターシャの血を引いていて、顔もそっくりな子です」


 そう説明したのですが、目を向ければパンダの頭の下は少し小さいパンダの頭でした。


毎日投稿継続中


アンノウンのコメント  ギャラクシーパンダビームなら国一つキグルミに出来るのさ

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