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永久の敵 永久の味方

 これはゲルダ達がグリエーンの封印を行った頃、人気の無い深夜の波止場、多くの船が集う場所から少し離れた所を、千鳥足で鼻歌交じりに歩く者が居た。


「うぃ~、ひっく! 酔っぱらっちゃったよぉってか!」


 既に随分飲んだのか顔は真っ赤で酒臭いにも関わらず、彼の手には未だに半分以上中身の残った酒瓶が握られている。だが、随分と飲み歩いている様子ながら、どうも服装からしてそれ程裕福には見えず、その日暮らしの貧しささえ伺えた。なけなしの金を注ぎ込んでまで酒に逃げる、その理由は彼の目の前に有る。


「……畜生。あの糞領主がよぉ」


 髭も伸ばしっぱなしで服もよれよれの彼だが、ほんの一ヶ月前まではそうではなかった。彼の目の前には封鎖された建物と廃船から出た廃材山。彼が経営していた解体屋が有った場所だ。廃船を引き取り、使える部分を船大工に売る。小規模ながらも気心の知れた者達との労働の日々は充実しており、亡き妻の忘れ形見である娘は口うるさいが宝だった。


 それが奪われたのが一ヶ月前。建物が僅かに彼の土地からはみ出していると難癖を付けられ、長年の土地の使用料として法外な金を要求されたのだ。ほんの指先程度に大袈裟だと訴え出ようにも、その訴え出る相手こそが訴えを聞く者のトップである領主。他の土地に助けを求めに行った部下達は帰って来ず、遂には分割での支払いの願いも通らず建物も娘も奪われてしまった。


「……母ちゃん、俺はどうすれば良いんだ」


 海を向き、亡き妻に問い掛けるも聞こえて来るのは波の音。自暴自棄に陥り、絶望の最中のこの男、このままの生活が続けば体を壊すか、それこそ自ら命を絶ってしまいそうだ。だが、彼は死は選ばない。絶対に有り得ないと思っているからこその現状だが、連れ去られて行方知れずの娘が生きて戻って来る可能性を捨てきれないのだ。


「もうその辺にしなよ、父さん」


「……え?」


 男は酒瓶の口を口に当て、一気に流し込もうとする。その時、幻聴がした。飲み過ぎだと何度も注意して来た娘の声。分かったと言いながら飲み続ける自分に対して諦めず怒り続けたものだ。鬱陶しいと思っていた声だが、今は何よりも聞きたい。酒瓶を持つ手が止まり、震える。何度も傾け様として、口から離すと振り被った。


「畜生!」


 投げられた瓶は中身を撒き散らしながら廃材の山に当たって砕け散る。何もかもが嫌になり、自分が何よりも嫌いになりながら彼は踵を返す。酒を買いに行くのではなく、仮の住処にしている安宿に戻るのだ。その背後から何か音がした。重く巨大な物を引き擦る音だ。


「何……だ……?」


 彼はそれが気になり足を止めて振り返る。これで彼の運命は結した。この時、気にせずに一目散に走り出していれば彼の人生は続いただろう。生きて娘と再会し、解体屋を再び始める事も可能だったかも知れない。幸せな未来の可能性は確かに有ったのだ。



 だが、それは仮定の話。どれだけ話しても現実は変わらない。彼の生涯はこの日の内に幕を閉じ、翌朝に何かに圧し潰された死体が発見される。但し、彼を潰した物が何か、事故か事件かは噂ばかりが広まるだけだった。何せ凶器になり得る物など周囲には存在しないのだから。周辺の海に潜って確かめても何も沈んでおらず、不気味な噂だけが残り、人々は不安を募らせるばかりだ。


 目撃者は居ないこの一件だが、重い物が激突する音に混じって声を聞いた者が数人居た。その声は子供の様だったという。ケラケラと無邪気ながらも虫を遊びで殺す残酷さを感じさせる笑い声の主が誰なのか、臆測ばかりが広がっている……。





 数値が増えるのは基本的には良い事よ。羊毛の買値に収穫量、通ってはないけれど学校のテストの点数や成績だって素晴らしいわ。でも、増えてはいけない数値存在するのよ。それは血圧だったり借金だったり、そして……。


「た、体重が……」


 休暇中でも勘が鈍ったり体が鈍らない程度の運動はしている私なのだけれど、お風呂上がりに脱衣所で目にしてしまった対乙女用最終兵器『体重計』。暫く乗っていなかったけれど、運動だって沢山しているから気軽に、ではないけれど乗った私、結果はお察し。何かの間違いだと思って一旦降りて、大きく息を吐いてから、爪先からゆっくりと乗る。結果、変わらない。


「あっ! タオルを巻いてたわ。体を拭いて湿っているし、うっかりね」


 バスタオルを外して、体中の水滴念入りに拭き取って、それでも変わらない。体重は前回乗った時よりも○キロ増えているままだったわ。


「ど、どうして!? ○キロも増えるだなんて……」


「うわー、今の僕の体重と対して変わらないね。ゲルちゃんも胸の厚さは他の部位と大して変わらないけれど」


「ア、アンノウン!? お願い、恥ずかしいから賢者様達には秘密にしておいて!」


「うん、マスター達には秘密にしているね」


 頭の上から聞こえて来る声、それは当然アンノウンよ。お風呂上がりには乗っていなかったのに、子猫サイズになって何時の間にか私の頭の上で寛いでいるわ。まあ、言葉が通じても所詮はアンノウンだし裸を見られても何とも思わないけれど、体重を知られたのは乙女として恥ずかしいわ。でも、今日は普通にお願いを聞いてくれるのね。何時もだったらオカズを譲れって交換条件を出すのに……まさか!


「……部下の人達にも神様達にも他の知人にも、当然だけど見知らぬ人相手でも駄目よ?」


「……はーい」

 

「今の間、絶対に話す積もりだったわね」


「うん! そんな事よりも朝御飯を食べに行こうよ!」


 朝御飯と聞いた途端に私のお腹が軽く鳴る。確かに運動してお腹が減ったし、朝御飯は一日の元気の元だもの楽しみね。今日のメニューは何かしら?



「それにしても体重が急に増えるだなんて」


「え? まさか気が付いていないの?」


「え? まさかアンノウンは分かっているの?」


「だって僕だもん! じゃあ、先に行くねー」


 アンノウンは私の頭から飛び降りると脱衣所から出て行った。本当に意地悪ね、あの子。それにしても何時の間に頭に乗ったのかしら? 勇者として得た力が有るから子猫サイズになったアンノウン位の体重が頭に乗っても気が付かないのだもの。鼻を誤魔化されるし、鼻に頼り切るのも考え物ね。気配探知とか出来ないかしら? 


「……いえ、止めておきましょう」


 ふと、嫌な事を思い出した。それは今と同じく気配探知の魔法について賢者様に質問したのだけれど、もっとコントロールに慣れないと大変な事になるって聞いたもの。あの時、賢者様のお顔は青ざめていたわ。



「軽ーい気持ちで使ったのですよ、勇者時代の私は。そうしたら……」


「そうしたら?」


「ゴキブリやネズミ、宿のベッドに潜むダニまで感知してしまいまして……」


 うん、過ぎたるは及ばざるが如しって言うし、気配探知は今は忘れましょう、そうしましょう。


「でも、本当にどうして?」


 鏡を見てもお腹に余計な脂肪は着いていない。二の腕だってバッチリよ。背は、少し伸びたわね。胸は……うん。運動だってしているし、本当に理解出来ないわ。


「って、朝御飯に遅れちゃうわ!」


 兎に角、私は増えた体重の謎に悩みながらも服を着てキッチンに向かったわ。……でも、どうして体重が増えたかだなんて簡単な話だったのよ。本当に体重計は乙女に対する兵器よ。冷静な判断を失わせるのですもの。





「うわぁ! 今日も美味しそうね。いただきます!」


 朝から嫌な事があったけれど、目の前に並んだ朝食が明るい気分にさせてくれるわ。小麦色に焼けたトーストは外はカリカリ、中はモチモチ。二枚有るから、賢者様特製のイチゴジャムを塗ったのと養蜂の神様から貰った蜂蜜を塗ったのを交互に食べるわ。カリカリに焼いたベーコンやソーセージ、チーズを乗せたハムエッグ、サラダだってバジル香るドレッシングを沢山使ったシャキシャキ野菜。スープは粒の大きいコーンのポタージュ。デザートのフルーツだって色鮮やかな沢山の種類の物が並んでいるわ。


「ご飯が美味しいと幸せよね」


「ゲルダさんは子供ですし、沢山食べるのは良い事です。あっ、ブルーベリーのタルトと紅茶は如何ですか?」


「勿論食べるわ! お砂糖も沢山入れて」


 お代わりも沢山して少しお腹が一杯だけれど、甘い物は別腹よ。サクサク生地に甘酸っぱいブルーベリー、それを甘い紅茶で食べるだなんて最高よね。……あれ?


 二切れ目のタルトを食べて、三切れ目に手を伸ばした所で私は気が付いた。


「思いっきりこれが原因じゃない!」


 うん、少し考えれば分かった事よ。アンノウンだって、何故体重が増えたのか分からない事を不思議そうにしていたし、気付いてみれば簡単だったわ。運動していても、食べ過ぎれば意味が無いって。……最近買い食いも増えてたし。美味しいのよね、屋台のメニューって。



  よし、ダイエットしよう! 私はそう心に強く誓い、三切れ目に伸ばした手を引っ込める。未だ口の中に残っている味が私を誘惑していたわ。



「おや、食べないのですか? 子供が遠慮などしなくて良いのに」


「えっと、ちょっとあって……」


 言葉を濁し、誤魔化そうとするけれど、賢者様の言葉は私を誘惑していたわ。一切れ位食べても良いじゃないかって、体重が増えたのを誤魔化す為にも食べろってね。


「じゃあ、私はソリュロ様との約束があるから準備するわ。ご馳走様!」


 私は弱い人間ね。結局、三切れ目に加えて紅茶のお代わりにも砂糖を沢山入れてしまったの。後悔はしている、でも舌と胃袋は凄く満足しているわ。


 さて、気持ちを入れ替えましょう。朝御飯を食べ過ぎたなら、昼と夜で調整すれば良いのよ、ゲルダ。ソリュロ様とのお出掛けを楽しみつつ買い食いを控えて、お昼と夜は少し減らせば良いわ。それと運動ね。どうせ夜にもお風呂に入るのだし、思いっきり汗をかきましょう。


「ソリュロ様、お待たせしました」


「大丈夫だ。待たされていないさ。さて、先ずは服でも見に行って、露天を巡ろうか」


 神様達が私にくれたお休みだけれど、その間に派遣されたソリュロ様にお休みを取らせるって目的も有ると聞いているわ。だってソリュロ様って自分の事を人が怖がるからって仕事以外じゃ神の世界に閉じこもっているらしいもの、勿体ないわ。


 だから私も楽しむけれど、ソリュロ様も楽しめたら嬉しいわ。私は水色のワンピースに何時もの麦わら帽子、ソリュロ様は相変わらずのアマロリファッション。二人並んで服屋さんまで向かったわ。



「おぅ!? 最近の子供はこの様な服を好むのか……」


「こっちなんて水着みたいだわ」


 早速やって来たのだけれど、おへそが丸出しだったり、上がビキニだったり、見ているだけで恥ずかしくて試着する気にはならないわね。でも、折角のお買い物だし、一着位は買いたいわ。


「えっと、ソリュロ様は普段は新しい服はどうやって決めているのですか?」


「私か? 服飾の神に頼んで作らせている。こうフリルが多めの可愛い物を頼んでいるぞ」


「私は似た服ばかり買っています。どうも動きやすい服が良いです。……あら、店員さんが居るわ」


 このお店少し前までは結構な規模の魔法使い団体の本部だったけれど、全員が謎の失踪を遂げたから安く買いとって店にしたって聞いているわ。あっ! 欲しい服が見つからないのなら、詳しい人に聞けば良いのよ。ついでにコーディネートも頼みましょう。


 私は店の名前が刺繍された服を着て、髪を後ろで束ねている子に声を掛ける。振り向いたのは私と同じ位の女の子だったわ。……あれ? 何処かで会った気がするわね。


「あの、店員さん。少し良いかしら?」


「はい、いらっしゃいませ。何のご用です……か」


 向こうは私たちの顔を見て固まり、声を聞いて私も気が付く。この子、カミニちゃんよ。


「……ちょっと此方へ。お連れ様も」


 カミニちゃんは私の手を掴み、そのまま私は手を引かれて人目の無い場所まで連れて行かれたわ。




「……分かってると思うが余計な事は言うなよ? 私が泥棒だとかをな」


 低い声で脅してくる彼女が言うには、このお店の店長さんは余所から来たばかりで、アンノウンの力で綺麗になったカミニちゃんを雇ってくれたらしいわ。長い間汚い姿で居たから自分が誰か町の人は気が付かないだろうし、偶々出会った私達さえ黙っていれば良いのね。


「ええ、別に構わないわ。バラす理由も無いし、そんな事よりもコーディネートをお願い出来るかしら?」


「お、おう。任せておきな。好きな格好を教えてくれりゃあ選んでやるよ。……本当に頼むぜ? 流の、たった一人しか居ない血の繋がった妹の為に仕事が欲しいんだ」


「ええ、勿論。じゃあ、私の好きな服だけれど……」

 

 カミニちゃんは不安そうにしているけれど、悪い事をするんじゃないのなら私は邪魔なんてしないわ。だって、真面目に働いている人の邪魔をするなんて悪い事だもの。私が少しは脅してみせるとでも思っていたのかビックリした様子の彼女だけれど、お仕事はちゃんとしていたわ。少し露出が多い服ばかりだと思っていたけれど、端の方にちゃんと私やソリュロ様の好みの服が置いてあったし、カミニちゃんのコーディネートも素敵ね。


「色々とありがとう! お仕事頑張って」


「世話になった。ほら、少ないがチップだ。遠慮せずに受け取ってくれ」


「……お前達って変な奴らだな。私みたいな奴に親切にしてさ。……色々悪かったよ。時計は売っちまったから手元に無いけれど何時か弁償する」


 最後の方には少し照れた様子のカミニちゃんに見送られて私達はお店を出る。それにしてもカミニちゃんって偉いわね。妹の流ちゃんの為に頑張っているんだもの。それも今みたいに泥棒じゃなくて働いてお金を稼ぐ道を選んだしね。


 ……あれ? 流って名前はパップリガの名前よね? カミニちゃんのご両親のどっちかが出身だったのかしら? 彼女自身も顔立ちがそれっぽいし。でも、亡くなっているみたいだから興味本位で聞くのは悪いわ。私達が服を選ぶ最中、カミニちゃんの身の上話を少しだけ聞いたのだけれど、働く事を選んでも次々に不幸に遭遇して働けなくなったらしいわ。その時に少し辛そうにしていたし、詮索は止しましょう。……アンノウンだったら詮索していたわね、絶対に。


 こうして私達はカミニちゃんと別れたわ。彼女の妹の名前の理由、何よりも彼女の周囲で不幸が絶えなかった理由、それを知るのは少し後になるの……。



「さて、アクセサリーを見に行った後はケーキバイキングに行くぞ!」


「……え?」


 ソリュロ様の提案は普段だったら素晴らしい事よ。モンブランにイチゴのショートにチョコケーキ、想像するだけでお腹が減るけれど、今の私が減らさなくちゃ駄目なのは体重だもの。甘い物は別腹だけれど、別のお腹は私の体の中に有るのよ。


「えっと、私、今はちょっと……」


「何だ、金なら私が出そう。……いや、そうか。お前も女の子だったな。神は基本不変だから忘れていたが……体重解析」


「ひゃわんっ!?」


 思わず出てしまった声に周囲の人が振り向くけれど、ソリュロ様がいとも容易く行ったえげつない行為の方が重要だったわ。だって女の子の体重を勝手に調べるのですもの。


「ん? ……○キロじゃないか。別に気にする事は有るまい」


「ほへ? だって私が朝に計った時はそれよりも○キロ……」


 この時、全ての謎が解けたわ。私の体重が増えた理由を何故知っているのか、私はアンノウンに問い掛けた。そして答えたわ、だって僕だもん、と。あの時は自分が凄いから、そんな理由だと思っていたのだけれど……。



「アンノウンが乗っていたせいなのね……」


 思い返せば理由は単純だったわ。これなら三切れ目を食べれば良かったわね。食べられなかった甘味を思い起こせば舌と胃袋が甘い物を強く欲する。よし、今日は沢山食べるわよ! ……ちゃんとその分、運動もするけれど。




「……申し訳御座いません。実は先程お帰りになったお客様が全て食べ尽くしてしまいまして」


「えぇっ!?」


 でも、折角食べる気になったのにケーキバイキングは臨時休業。聞いた話じゃ白髪で燕尾服を着たお姉さんが全て食べ尽くしたとか。……今の私の舌と胃が甘い物を早く食べろと訴えているのに。


「ソリュロ様、屋台巡りに行きましょう!」


 ……それにしてもバイキングの全てを食べ尽くすだなんて凄い人ね。私からすれば略奪者だわ。……本当に人間かしら?






「……さて、仕事に戻るか」


 私は自分が堕ち続ける一方だって思っていた。誰も助けてくれず、神様だって私を嫌っているんだって。そう思ってしまう程に不幸ばかりが起きて、何時しか私を雇ってくれる人が居なくなり、気が付けば泥棒だ。でも、今は上がる事が出来た、明るい道を歩き出した。これで父さんに謝らなくてすむな。だって、男で一つで私を……。


「あれ?」


 今、どうして妹なんて存在しないみたいな言い方だった? あの子は私の可愛い実の妹なのに。ほら、思い出すんだ。……記憶に靄が掛かり、父さんの言葉にノイズが混じる。楽しかった筈の、幸せだった家族三人の思い出が浮かばない。頭が割れそうな程に痛む。


「ぐっ! ……あれ?」


 堪えきれずに頭を抱えてうずくまった時、目の前で通行人が財布を落とす。かなり詰まっていそうな立派な財布で、昨日までの私なら迷わず拾っていただろうな。でも、今の私は違う。明るい道に戻ったんだ、真っ当に生きられるんだ。だから私は落とし主を呼び止めようとして、その声は店が崩れる音にかき消された。


「は……ははは……」


 地盤から崩れ、再起不能な程に壊れた店舗。拾ってくれた店長はあの中に居た。まただ、また私の周囲で不幸が起きて、真っ当に生きる邪魔をする。通行人達が唖然として建物を見る中、財布を懐に隠した私は路地裏に消えて行った。


「畜生、畜生!」


 矢張り私は堕ち続ける運命で、神様に相当嫌われているだ。そうじゃなくちゃ不幸が続く筈が無い。私の頬を涙が伝い、口からは嗚咽が漏れ出る。今は妹に、流に会いたくて仕方が無かった。





「お姉ちゃん?」


「流!」


 ねぐらにしている廃屋で私の帰りを待っていてくれた妹の姿を見た途端、私は急いで強く抱きしめる。そうじゃないと私の目の前で消えてしまいそうだったから。



「また何かあったの?」


「……うん」


「どうしてお姉ちゃんばかりそんな目に遭うんだろうね。私、思うの。世の中の幸せの総量は決まっていて、それを奪い合っているんだって」


「奪い合ってる?」


「うん、きっと」


 ……そうか、理解出来たぜ。他の奴、特に幸せな奴が居るから私達は不幸なんだ。なら、どうすれば良い?



「お姉ちゃん、私は何があっても味方だからね」


 その言葉は甘い毒になって私の心に染み渡る。そうだ、奪われたなら奪えば良い。誰を敵に回しても、私には流が居るんだから……。



応援待っています


アンノウンのコメント  だから最初から言ってるじゃん

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