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予習 ト 復讐

 不干渉地帯での俺の仕事はただ一つ。創造だ。


 まずは生物兵器。


 ほぼ完成した。簡単なわりに、えげつない性能をしている。おそらく俺が保有する武器のなかで最大の攻撃ソースになると思う。なんたって相手の体のどこかに傷をつけることが出来れば勝てるのだ。普通の生物なら針を刺すだけでゲームオーバー。クソゲーすぎる。


 このまま研究を重ねていけば吸入式や錠剤式、水薬式のやつを造れたりするかもしれない。体の内部から壊していく最強の毒の完成。問題があるとすれば倫理面かな。


 魔力感知のゴーグルだが、これはたぶん間に合わない。時間が足りなすぎる。あればデ・マウ攻略が楽になるとは思うが、出来ないものはしょうがない。まぁ一応ギリギリまで粘ってみようか。


 次、魔力を遮断する防具。


 付与魔法というのは相手の魔力の流れを阻害したり活性化させたりするものであるから、体内で悪さをするまえに吸収してしまえばいい。よって使用者以外の魔力を吸収して無力化するような仕組みのボディリングやヘルメットのようなものを造ってしまえばいいのかもしれない。


 魔力系の創造物は俺の十八番だから、方向性さえ固まればすぐに出来そうだ。


 新しい攻撃ギアは、大型生物や、いままでのギアで突破できない相手が仮想敵となる。外皮を損傷させて出血を狙うみたいな形が理想的かもしれない。パッと思いつくのは斬る、刺す、(ねじ)る。斬るなら剣やナイフでよくないか? という話になるし、刺すなら突剣、槍、針を装備すればいい。魔力を直接エネルギーに変換させて攻撃するギアとの相性を考えると、捩るのがいいかもしれない。とりあえず造ってみよう。


 あとは二匹の犬用のスーツが欲しいな。ただでさえ目立つあの子たちには、顔や毛の色といった身体的特徴を隠すようなスーツが欲しい。


 耐久全振りのゴマには長所を伸ばすような物がいいかな。壁役みたいになれば他が動きやすくなる。


 鎧のようなイメージでいいかもしれない。動きが鈍くならないようにアシスト機能をつけよう。あの巨体で敵のヘイトを受けてくれれば周りが動きやすくなる。早め早めに離脱するように言いきかせないといけない。回復できるマンデイかヨキをくっつけておくのもいいだろう。ヨキの回復は回数制限があるから、マンデイとのペアの方がシナジーは良いか。


 うまく魔法を使えて、かつ俊敏なハクに造るのは魔法系のスーツになるだろう。俺の風やマンデイの水のように適性魔法をうまく利用して機動力や攻撃に生かせるようにな。


 でもなぁ。氷の魔法ってどうやって利用すればいいんだろう。要考察。


 マグちゃんの洋服はほぼ完成して、ガスマスクはイージー。


 創造系のお仕事はこんな感じ。


 あとはデルア王国領の拠点や都市をいくつか半壊させなくちゃいけない。しっかり脅迫して、壊して、俺たちの存在をアピールしする。ヨキたちに向く敵意を減らすためにも頑張って暴れよう。


 爆弾も欲しいかも。高高度から安全に圧をかけれる攻撃ソース。魔力に反応して起爆する爆弾にすればデ・マウの能力を解析するうえで役に立つ立つはずだ。


 爆弾はどこかで実験してみたいんだが、都市を襲う時でいいかな? 関係ない人は巻き込みたくはないから建造物を破壊する時にでも使ってみるか。


 火災を起こして使用人とか一般人が犠牲になるなんて鬱展開は避けたいから、建物だけに効果があるような物にしたい。圧力鍋爆弾みたいなのがいいかも。サーモグラスできっちりリスク管理をして金属片を散らそう。


 本番は焼夷弾みたいなのでもいいか。王城は石造りだし被害は最小限に抑えられるだろう。


 別に俺はテロをしたいわけではない。テロを偽装して、こちらの思惑を悟らせないことが肝要なのだ。


 爆弾と魔力阻害用のリングは早く検証しておきたい。間違いなく今回の計画の土台になるから。


 次回の王都訪問で試そう。


 さて、創造系の作業はおおむね終わった。あとは成長をまつだけだ。次のヨキ隊との連絡まで時間があるから都市でも襲うか。


 「ファウスト」


 スーツやギアの確認をしているとマンデイが。


 「どうした」

 「ジェイの様子がおかしい」


 なんだと。


 未発達な細胞(ベイビー・セル)が活動するには早すぎる。なんだ? なにがあった?


 とりあえず診てみないことには。


 「ジェイさん。どうしました」

 「どうもしてないわよ。大袈裟ね」


 と、ジェイ。


 だが明らかに弱っているように見える。床にへたり込んでるし、どうもしていないということはないだろう。


 ん? 瞳が変だ。揺れてる?


 「正直に話してください」

 「ちょっと立ち眩みがしただけよ」

 「いまはどうですか」

 「だからどうもないって言ってるじゃない」


 ジェイが立ち上がろうとする。が、足に力が入らないのか、そのまま転倒する。そして嘔吐。


 なにかよくないことが起こってる。


 すぐさまジェイの体に電気を流し、未発達な細胞(ベイビー・セル)の活動を止める。


 体が小さいからか? マグちゃんはマッチングしなかったから、こういう現象が起こらなかっただけで、小型の生物への細胞の打ち込みは危険だったのかもしれない。量は加減したつもりだったのだが……。


 「ジェイさん。なにも隠さずに、正直に話してください」

 「……」

 「ジェイさん!」

 「なによ! そんな大きな声を出さないでも聞こえてるわよ! うっ……」


 そこでまた嘔吐する。もう胃液しか出ない。


 「興奮しないで。なにが起こっているのか知りたいので正直に話してください。マンデイ、原因を探ってくれ」

 「うん」


 なにが起こっているのかはわからんが、弱りきっているルゥには頼めない。


 毒でなんとかなる感じでもないし、ルゥと魔力をシェアしているマクレリアにも魔法を使ってもらいたくない。


 俺がなんとかするしかないか。


 「ジェイさん。教えてください」

 「昨日の夜から、めまいがしてる。魔力がうまくコントロールできないし体がフワフワしてうまく動けない。それだけよ」

 「なんでいままで黙ってたんですか」

 「アンタが言ったんじゃない! これに耐えたら強くなるって!」

 「危険性も伝えたじゃないですか! なにかあったら言ってくださいと何度も何度も言ったじゃないですか! まだ症例が少ないんです。どうなるかなんてわからなかった。だから……。だから何度も……」


 バシン、と床を叩いくジェイ。そして揺れる瞳で俺を睨みつけてくる。


 「アンタにはわからないわよ! 移民が地位を築くためにどれだけの苦労をするか。やっとここまできたの。血の滲むような訓練をしてここまで。なのにいつも仲間のお荷物で、助けられて、足を引っ張って、そんな惨めな思いをしている私の気持ちがわかるはずない! 最高の魔法使い? 笑わせないでよ。不死身の狼がいて、一撃で巨木を倒す猪がいて、格闘で負けなしの猿のなかに入ってなにが出来るっていうの? 気づいたら全部終わってる。私の出番なんてない。こんな体に生まれたから……。こんな体に生まれたから私には魔法しかないじゃない! 一生懸命頑張ってるのに。みんなより頑張ってるのに。なのに誰にも追いつけなくて……。神様に力を貰ってぬくぬく生きてるアンタに私の気持ちがわかるはずないじゃない! 強くなるって言われたら……。そんなこと言われたら、すがりたくなるじゃない……」


 なるほど、そういう事情が。


 「わかりますよ。ジェイさんの気持ちが痛いほど」

 「!?」

 「ここにいるマンデイは、僕がまったく理解できそうにないルゥの書物を完璧に理解して記憶しています。そして普通に殴り合ったら、たぶん僕は瞬殺されるでしょう。それくらい圧倒的な力の差がある。最初は目も見えないし耳も聞こえない、ただの人形でした。でもいつの間にか手が届かないほどに強くなってしまった。

 マグちゃんはいつもチームの中心になっています。相性的に厳しい生物というものが存在していることは事実ですが、それでも場の制圧力や、カバー性能は頭一つ抜けてる。

 ここにはいませんがヨキという剣士は卓越した技術で敵の攻撃をさばき、いとも簡単に相手を無力化します。しかも物理無効の体なので生半可な攻撃じゃどうにもなりません。そして一瞬で味方の傷を塞ぐ仕組みを内蔵しているから僕より的確に仲間の救助が出来る。

 ゴマはシンプルに体が強く、ハクの魔法は脅威です。生物的に索敵能力に優れているので、その点でも優秀ですね。この二匹と戦うとするなら深手を負う覚悟がいるでしょう。

 悪魔のリズベットは条件を整える必要がありますが、それさえしてしまえばメンバーのなかで最強だ。

 正直、嫉妬してばかりです。メンバーにも。他の代表者にも。だから行動してます。少しでも追いつけるように。ジェイさん。この世界でいま、あなたの気持ちが最も理解できるのは、たぶん僕ですよ?」

 「私も頑張ってる! これで強くなるって言われたから、だから……」

 「それは間違った努力です。確かに未発達な細胞(ベイビー・セル)には強くなる可能性が秘められてる。でも同時に危険も(はら)んでいる。そう伝えたはずです」

 「……」

 「強くなる方法なら他にもあるはずです。スーツを造りましょう。ジェイさんなら僕のフライングスーツもマンデイのパワードスーツも使いこなせるかもしれない。僕の保有している兵器をいくつか差し上げても構いません」

 「なによ。なによ……」

 「だから、今後はなにかあったら、すぐに伝えてください。ゆっくり強くなっていきましょう」

 「あんたみたいな奴に……」

 「とりあえずいまは休みましょう。その間に原因を探ってみます。マグちゃん、寝かせてあげてくれ。かなり少なめで頼む。ジェイさん、少しチクッとします。ゆっくり眠りましょう」


 都市破壊計画は棚上げだな。こっちが優先だ。

 



 「マンデイ。どうだ?」

 「異常はない。わからない」

 「そうか」


 もしかすると未発達な細胞(ベイビー・セル)の影響じゃない? マンデイの診察で異常がないとすると感染症とかの線は薄いか。あるいは成長の段階の一つなのか?


 嘔吐を伴うめまい、浮遊感。


 心当たりがある。改造だ。だとすると強制的に止めてしまったのはマズかったかもしれない。たしか神経と体が釣り合わないと、その個体は死んだはず。リミットは何時間って言ってたかな。忘れた。


 だがやはり病気系の可能性は捨てきれない。前世での難病みたいな。


 うぅん。タイミング的に未発達な細胞(ベイビー・セル)が原因臭いけどな。改造説が有力か。


 「なぁマンデイ。俺の意見を言っていいか?」

 「うん」

 「ジェイの症状は俺が経験した改造にそっくりだ。もしかすると似たような現象が起こっていたのかもしれない。とすると途中で止めたのはマズかった。下手したら死ぬ。だが他の可能性も捨てきれない。前者だとすると処置は続けなくてはならない。後者だと処置は中断すべきだ。どっちを選ぶべきかがわからないが、死を回避するなら処置を強行したほうがいいかもしれない。マンデイはどう思う」

 「続けたほうがいい」

 「最悪のケースを考えるとそうなるな。目を覚ましたらジェイの感覚を俺に送ってくれ。改造かどうかを判断する」

 「うん」


 出来ればジェイのそばを離れたくないが、ヨキ隊との連絡は欠かせない。爆弾の投下も早めに済ませなくてはならない。難しい選択。


 なんとなく、そうじゃないかとは思ってはいたが、たぶん成長する因子(グロウ・ファクター)による身体強化の方向性は、その個体のもつ理想、イメージで決定される。


 万能になりたいと思っていた俺は万遍なく強化され、純粋に強くなりたいと思っていたマンデイは身体能力が飛躍的に伸びた。速さにプライドをもっているマグちゃんは速度、優しく家族想いのゴマは味方を守れるように頑丈に、魔法を得意としていたハクはそっち方面が強化されて、フォロー寄りの思考回路のリズは感覚や情報処理能力が。


 そう考えると、誰よりも強さに飢えていたジェイに劇的な反応が現れたとしてもおかしくはない。彼女にはスーツを創造するなんて逃げ道的な発想はないわけだから、強くなりたいという執念は計り知れないものがある。


 ジェイが目覚めてからすぐに感覚を共有した結果、これは改造だと判断した。


 間違いない。俺が経験したものよりは弱いが酷似している。


 ここで中断は出来ないな。苦しいだろうが……。


 「ジェイさん。あなたの体はおそらく根本から変わろうとしているのだと思います。強制的な中断は死を招く可能性がある。かなりつらいでしょうが続けて欲い。耐えられますか?」

 「私を誰だと思ってるの?」


 ベッドに横たわったままジェイは、ニィっと口角を上げる。強る表情が、ひどく痛々しい。


 俺も経験したからよくわかるぞジェイ。つらいよな。


 それに耐えても強さを求めるか……。


 その望み、俺が叶えてやる。


 「タイムリミットがあるので、いますぐにはじめます。頑張ってください。どうしても無理そうなら電気を流して中止します。マンデイ。俺は王都に飛ぶ。急ぎたいから一人で行く。リスクマネジメントは最大限にするから安心しろ。お前はジェイを診て欲しい」

 「マンデイも――」

 「なにも言うなマンデイ。必ず戻ってくる。デ・マウの射程には絶対に入らない。俺を信じろ」

 「……」

 「俺がジェイに出来ることは全部マンデイにも出来る。彼女を支えてやってくれ。全身状態をしっかり見極めて、無理そうなら止めて欲しい。いいかマンデイ、この仕事を完璧にこなせるのはこの世界に俺とマンデイの二人しかいないんだ」

 「うん」

 「これが改造なら治癒術は効果がないだろう。だがマンデイ、お前に出来るのは治癒魔法だけじゃない。瀕死のリズを支え続けたマンデイの献身を俺は知っている。お前の優しさを、俺は誰よりも知っている。マンデイなら必ずジェイを救ってあげられる」

 「うん」


 辛い時ほど気張るんだ。手を休めるな。


 俺は急ピッチで爆弾と魔力を吸収するリングを創造して、王都に飛んだ。




 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 



 その日、王城シャム・ドゥマルトにいくつかの爆弾が投下された。


 奇跡的に負傷した者はおらず被害も軽微であったのだが、その功績はデルアの陰の実力者、デ・マウに依るところが大きかったという。


 この爆撃が全てを奪われた、とある少年の反撃の狼煙であるという事実は、この広く偉大な世界に住む、ごく一部の生物しか知らない。

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