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ルゥ ノ 進路

「なんか疲れてるみたいだけど、大丈夫?」


 と、マクレリア。


 問題ない。少し徹夜で作業したせいで、めまいと吐き気と頭痛がして、異様にテンションが高いだけだから。


 「ちょっと夜更かししてしまっただけなんで」

 「明日でもいいけど」

 「いや今日行きましょう。レジャーシートとバスケットと水筒とフリスビーとグラブとボールとシャトルとラケットとネットと組み立て式のポールも創造してます」

 「またいろいろ造ったねぇ」

 「えぇ、深夜テンションで」

 「そうなんだ……」

 「それと報告があります」

 「なに? なんか目がギラギラしてて怖いんだけど」

 「僕、空を飛びます」

 「ん?」




 ヨキとリズベットは自室で休んでいて、ゴマは就寝中、俺についてきたマンデイは読書、ハクはマンデイの横で丸くなっている。そんな静かな夜。俺は一人、フライングスーツについて考えていた。


 持久力はどうしよう。


 そうだ、スーツに発電機を搭載すればいいじゃん。ヨキの体に使用した魔力を溜めこむパーツも使えるわ。ヒダに使った技術とのシナジーもいいのでは? 速く飛べば飛ぶほどエネルギーを生み出せる。そしたら推進力がなくなるか? しかし可能なら風力発電だな。成功したら滑空している間はタダで魔力が稼げる。


 でも空を飛ぶって普通に考えたら難しいよな。人間の体って鳥に比べたら格段に重いだろうし。


 そうだ。背中にジェットつけよう。発電機で得たエネルギーを風に変えて噴射すればいいじゃん。風の魔法で飛行の補助、揚力を生み出したら、安全に飛行が可能だ。


 翼は自在に動かせるようにしないとな。それこそ、体の一部みたいに。


 ん? 体の一部?


 あっ、そうだ。リズベットに使った技術だ。俺の背中に情報を送り出す器具を取り付ける手術をして、スーツに信号を受信する特徴を付与する。出来るじゃん。いいじゃん。俺、飛べるじゃん。


 ジェットの出力をコントロール出来るように設計していたら、出力を上げてマンデイとかリズベットを抱えて飛べるのでは? 移動速度が速いうえに、上空からの広い視野を活用できるからカバーしやすいじゃん。


 勝ったのでは? もう侵略者に勝ったのでは? 


 空を飛んでいたらフューリーですら届かないし、水の代表者がピチピチ跳ねている間に俺は悠々と空の旅。エステル? 誰それ。


 エースじゃん。勇者のエースで神じゃん。他の代表者なんて目じゃないわ。俺、勇者のなかの勇者じゃん。


 「と、いうことです」

 「うぅん、よくわからないけど、良いんじゃない? 飛べるって便利だしぃ」

 「ラピット・フライより速く飛べるかもですね」

 「あはははは。冗談は顔だけにしなよぉ。私に勝てるわけないじゃん」

 「さて、どうでしょうね」


 マクレリアの瞳が燃えている。わかる、わかるぞ。飛翔能力には自信があるもんな? 負けたくないもんな?


 「それ、完成してるの?」

 「いや、まだですね」

 「じゃあ完成したら教えてよ。空の先輩として、飛行のなんたるかを教えてあげるからさ」


 随分と自信があるようだな、マクレリア。腕なんか組んじゃって。


 「勝負しますか?」

 「そうだねぇ、勝負、しよっか」

 「マクレリアさんのためにハンカチを創造しておきますね。どれだけ涙を流しても大丈夫なように、とびきり吸水性の高いハンカチを」

 「そのハンカチ、君が使うことになるだろうねぇ」

 「むむむ」

 「むむむむむむ」


 覚悟しろよマクレリア。こっちは何度も試作を重ねて性能を向上できるんだ。負けるつもりはないぞ。


 スーツの話はひとまず置いておいて、楽しい楽しいピクニックのお時間だ。


 面倒臭がり屋のルゥだが、マクレリアの頼みだからか、なんの文句も言わずに通路を繋げてくれた。もしかしてルゥって尻に敷かれてる?


 「あれ? ルゥは来ないんですか?」

 「ルゥはお昼ご飯の準備と書き物だねぇ。いまファウスト君の能力の考察と、同時進行で小説も書いてるから忙しいんだよ」

 「ルゥって料理できるんですね。知らなかった」

 「ん? 出来るもなにもいつもルゥが作ってるけど?」

 「へ?」


 ここにきて知った事実のなかで一番驚いた。


 日頃なんの疑問も持たずに食べていた食事、あれ、全部ルゥが作っていたらしい。


 いやね、なんか美味しいな、とは思ってたの。塩加減も丁度良くて、味にむらがない。鈍感な俺だけど、香草とかが使われてる形跡はわかる。パンもフカフカで、時にはベリーが入っていたり、アクセントとしてクルミらしきものが加えられていたりと、どれも高いレベルで食べてて飽きない。


 てっきりマクレリアが作ってると思ってた。


 「料理はルゥの研究の一部だからねぇ」


 そうなのか。まったく知らなかった。


 「ちなみに書庫のなかに料理本もあったりするんですか?」

 「うん、あるよ。いまマンデイちゃんも練習してるしねぇ。ルゥと一緒に料理したりして」

 「あ、そうなんですね」


 相変わらずマンデイは俺の知らないところで色々やってんな。


 もういいや、突っ込むまい。




 「まずはここだねぇ」


 俺たちが来たのは高原。山肌が薄紫色に見える。


 「あれは花ですか?」

 「そうだねぇ。知の世界の植物だって言われてる。こういう高い場所に群生していて、ある時期になると一斉に開花する。可愛いでしょ?」

 「壮観ですね。敷き布団みたい。どうだ、マグちゃん」


 マグちゃんは言葉を失っている。そして花に呼び寄せられるようにフワフワと飛んでいった。


 喜んでくれてるみたいだな。


 「なんかあったらいけないから私も行くねぇ」

 「そうしてください」

 「あっ、あとさっ、敷き布団って比喩はどうかと思うよ」

 「僕もどうかと思ってたんで突っ込まないで欲しい」

 「うん。ごめん」


 マグちゃんが花のじゅうたんを充分に堪能するのを見守った後、今度は滝へ行き、見事な虹を眺めた。それから渡りをする鮮やかなオレンジ色の蝶の群れを。光が集まって弾けるレイスの分裂にも遭遇した。


 ルゥが作った昼食をとった後、川で水遊び。マンデイが魔法で川の水を操作、さっき見た蝶や花の形を作ってあげると、マグちゃんや二匹の犬は大喜びではしゃいでいた。


 日が暮れると高原に寝そべって空を眺めた。こっちの世界の夜空も、まえの世界のように表情豊かで美しい。


 月らしきものが二つ、浮かんでいた。これはこれで好きなんだけど、月はやっぱり一個がいいな。


 今日は最高の一日だった。毎日がこんな風だったらいいのに。


 大満足で家に戻ってマンデイとゴマ、ハクと風呂に入っている時に、ふと思い出した。


 あっ、バトミントンもキャッチボールもしてない。


 これはまずい。


 夕食後。


 「ヨキさん」

 「なんだ」

 「剣の練習になるんじゃないかと思って、コレ」

 「なんだこれは」

 「この羽をですね。これで打つんです。で、地面に落とさないようにラリーを続けていくわけですね。慣れてくるとお互いの陣地を決めて、そこに落とされたら相手の点数になるというルールで勝負します。あっ、このネットを越えなくちゃいけませんよ? これはバトミントンと言います」

 「おい」

 「なんです?」

 「お前は剣をなんだと思ってるんだ」

 「ですよねぇ」


 その日は、不干渉地帯に逃げ込んだ日みたいにぐっすり眠った。なにも考えずに夢の世界へと落ちていく。


 朝方、とある騒動で起こされなかったら、昼過ぎまで眠っていたのではないだろうか。


 とある騒動。フューリーが帰還したのだ。


 「おかえりなさい。長旅でしたね」

 (さすがに骨が折れた。クタクタじゃのう)

 「まだ寝足りない気もしますが、フューリーさんの話が気になって眠れないでしょうね。もし良かったら簡単に話してくれませんか? なんなら休んだ後でもいいですが……」

 (構わん)

 「ありがとうございます」

 (あぁ、まず我はな……)


 フューリーは《魂の世界》の代表者、ルーラー・オブ・レイスと面会した。レイスの支配者は柔和で優しい性格だった、とのこと。


 (能力は全魔法適性、レイスの支配、融合、分裂じゃったのう)

 「それだけですか?」

 (それだけで充分じゃのう)


 ルーラー・オブ・レイスが消滅しても、他のレイスの自らの一部を移植しておけば存在自体がなくなることはない。しかもレイス特有の能力、物理無効のうえ全属性に適性があるから魔法もほぼ無効。しかも大量のレイスをけしかけて一気に魔力を吸い上げるなんて戦法もとれる。


 さすが勇者だ。チートじみてる。フライングスーツを思いついただけで代表者のエースだなんて浮かれてた過去の自分を殴ってやりたい。


 ルーラー・オブ・レイスは、それぞれの代表者が力をつけ連携可能になるまで侵略者との交戦は避けた方がいいというフューリーの意見を受諾、今後の共闘を約束した。


 イケメンとチート幽霊の平和的な面会から少しした頃、亀仙から連絡がくる。我が儘わんぱく代表者、水の世界の巨大生物が侵略者と戦うという予知をした、と。


 幽霊と犬の超強い勇者コンビは共に、水の代表者をフォローすることに。


 「でも水の代表者には侵略者の危険性は伝えていたんでしょう?」

 (あれは心が幼い)

 「なるほど。で?」


 現地に到着すると、地形は完全に変形していた。クレーターみたいな穴があき、山は崩れ、木々は倒れ、あらゆるものが破壊されつくしていた。


 荒れ果てた大地にいたのは水の代表者と、それに向かい合う侵略者。


 水の勇者は尾びれや体当たりで粉々になるほど侵略者を壊す。だが相手は不死身。すぐに立ち上がり反撃をする。


 侵略者の攻撃は、水の代表者の厚い皮に阻まれてまったくダメージにならない。互いに有効打がないまま時間だけが過ぎていく。


 「消耗戦ですね」

 (あれとの戦いは終わらない)


 フューリーとルーラー・オブ・レイスの登場で、形勢が不利に転じると判断したのか、侵略者を信奉する生物がワラワラと集まってくる。水と獣と魂の勇者は協力して取り巻きを一掃した。


 「相変わらず勇者してますね。ところで水と侵略者が一対一で戦闘していた時、取り巻きはなにをしてたんですか?」

 (見ていた)

 「それだけ?」

 (あぁ)


 そもそも侵略者に仲間意識はない。ただ破壊し、生物を殺すために活動している。だから相手が自分を信奉している生物でも、視界に入れば殺してしまうのだ。


 そういう理由もあって、取り巻きも一定の距離を保ち、侵略者を見守っているしかない。まるで反抗期の息子と母親の関係である。


 取り巻きを全滅させた後、ルーラー・オブ・レイスが魔力を吸い、フューリーが喉元を食い千切り、水の代表者が叩き潰した。それでも侵略者は立ち上がる。水で窒息させても、頭部を千切って埋めても、死体から魔力を吸い続けても立ち上がってくる。三つの世界の代表者は手をかえ品をかえ、休むことなく殺し続けたが結果は変わらない。


 殺し切ることが出来ないと判断した彼らは最終手段に出た。


 強制的に戦闘を終了したのだ。 


 「逃げたんですか?」

 (いや、殺されることにしたんじゃのう)


 侵略者は最後に攻撃を加えた者、視界に入ったものを執拗に追いかける。それは相手が死ぬまで変わらない。フューリーは水の代表者とルーラー・オブ・レイスに戦闘から離脱するように指示。一匹で戦闘し、その後、殺された。


 やっぱイケメンは行動からイケメンですわ。フライングスーツを考案しただけで浮かれてたどっかの洋服屋さんとは大違いだ。


 「でも殺されてないじゃないですか」

 (神の恩恵じゃのう。我は条件を整えた場合に限り、再生できる)

 「なるほど」


 そういえばそんなこと言ってたな。再生(リ・スポーン)だったか。このワンコも大概チートだからな。


 (だが取り巻きもおらんし、この世界もしばらくは安全じゃろうのう)


 まぁ、そうだな。侵略者に感化された生物を全滅させたんだ。脅威度は下がるか。


 「大変でしたね」

 (あぁ)

 「ちなみに水の代表者はなんで侵略者と戦ったんですか? 水の領地を守るため?」

 (なんとなく、だそうだ。俺に勝てない相手はいない、とも言っておったのう)

 「なるほど。今度会ったらお尻ペンペンしてあげましょう」

 (お尻まで手が届けばのう)


 クククと笑うフューリー。巨大生物だからな。体高もあるんだろう。まぁ、俺、飛べるようになる予定だから関係ないんだけどねっ!


 フューリーはしばらく滞在した後、亀仙の元へ帰っていった。


 (またのう。知の)


 走り去る後ろ姿は完全に勇者のそれだった。


 またフラッと世界を救いやがって。


 差が埋まらないなぁ。実績も実力も。


 はぁ。


 少しだけ平和になった世界で俺は、自軍の強化を続けていた。いつか他の代表者と肩を並べて戦えるようになるために。


 気がつくと半年が経っていた。


 マンデイは喋れるようになって、見た目も人に近づいた。完成形は人魚になるんじゃないかと思っていたが、普通に可愛らしい女の子になった。透き通るような白い肌、ラピスラズリのような青い瞳、青みがかった暗い色の癖のある髪。大人になったらモテるだろうなぁ。


 尾びれで泳ぐという人魚の特徴のせいか、足の力が異常に強い。普通に走るだけで、すぐに置いていかれる。スプリンターみたいで格好いい。そのうちランニングウェアと軽くて柔軟なシューズを造ってあげようと考えている。

 

 マグちゃんの瞳と髪の色は薄紫になった。高原に咲いた愛らしい花の色だ。楽しい色になってくれて良かった。


 彼女は日々、毒の魔法や飛行の練習をしている。組み込んだ未発達な細胞(ベイビー・セル)の効果で飛行の最高速度はマクレリアを上回っているが、飛行の巧みさや経験ではマクレリアに軍配が上がるため、レースをするといつもマグちゃんは負けてしまう。


 だが今後、もっとうまく飛べるようになったら、どんな生物も捕まえられないくらい速くなるだろう。

 

 ヨキは……。変わらない。ヨキはいつもヨキだ。


 ぶっきらぼうで冷淡な印象を受ける場面は多々あるが、基本的には紳士だったりする。リズベットに稽古をつけてあげたり、犬の面倒をみたり、自分の剣の練習をしたりして日々を過ごしているようだ。手足が長く、反射神経が良く、体の動かし方を熟知している彼は、とにかくバドミントンが強い。


 フューリーから貰った細胞の一部で犬用の未発達な細胞(ベイビー・セル)を造りだすことに成功してからは二匹の犬の成長も目覚ましい。いつか野生に戻っても(たくま)しく生き抜いてくれるだろう。ちなみにフリスビーはゴマの方がうまい。ハクはやる気というものが皆無だから、なかなか上達しないのである。


 リズベットは努力の日々だ。一日中、武器の扱いの練習と魔術習得のために勉強をしている。彼女はとにかくひたむきだ。優しくて気遣いが出来るから、皆から頼りにされている。


 ただ今後は二度とリズを厨房に立たせないようにしようという暗黙の了解が出来上がってしまった。彼女は食材を生ゴミに変える天才だ。もしかすると創造する力を使っているのかもしれない。食材が原型を留めていない料理というものを生まれて初めて見た。


 マクレリアは相変わらず。時々イラッとすることを言ったり、俺との飛行勝負に勝ってドヤ顔したり、触覚をピコピコ動かして挑発してきたりと、元気に過ごしている。近いうちに佃煮の作り方を学ぼうと思っている。


 最後にルゥだ。


 フューリーが帰ってからしばらくしてから、ルゥは歩けなくなった。老化が原因らしい。


 いままで五百年も普通に過ごしていたのに、どうして急にそうなるかはわからないが、とにかく彼は歩けなくなった。未発達な細胞(ベイビー・セル)を使えば若返りが可能だということを伝えたのだが、拒否された。


 「理を曲げるのは一度で充分、だってぇ」


 だそうだ。俺は家を改築、エレベーターを造ってあげて、室内をバリアフリーにした。椅子も改造、魔力で動く車イスに。


 やろうと思えば魔術で飛べるらしいのだが、いまは車イスで移動している。ものぐさなルゥのことだ、楽な車イスを気に入っているのだろう。


 そういえば、このまえルゥが笑った。俺とマクレリアの口喧嘩を見ていて、フッと息を漏らしたのだ。なんか新鮮だった。


 ルゥも、笑うんだな。

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