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拾イ物

 マンデイ先生が診察した結果。


 (ケガをしていない)

 (別の生き物の血か親兄弟の血かもな。ところでこの子ってどういう生き物か知ってる?)

 (ラビッシュ・イーターの幼体。首が長くて、毛は黒、カールした尾。とくちょうは近い)

 (なに食べるんだろう)

 (ふにく食。なんでも食べる。でもこの個体が乳離れしているというかくしょうがない)

 (群れで行動するの?)

 (ラビッシュ・イーターは母系しゃかいで幼体がむれの中心)

 (なんで一匹でいるんだろう)

 (わからない)


 群れからはぐれたか群れが壊滅したか。


 壊滅したパターンだったら問題ない。親がこの子をとり返しにくる危険性を考慮する必要がないからな。


 だがはぐれた方だったら面倒かも。この子の家族が取り返しにくるだろうからな。


 ラビッシュ・イーター側からすると俺は誘拐犯。非は完全にこちらにある。誘拐したうえ、その子を救いに来た家族を迎撃した、とか超極悪人だ。闇落ち確定コース、侵略者サイドの人間になってしまう。なにより、この土地の生き物と戦うのはリスクがデカすぎる。


 (弱ってる感じはしないんだけど、どう?)

 (生命力が落ちてる。ほうっておけば……)

 (死ぬ?)

 (そう)


 といって放置も出来ん。ラビッシュ・イーターの成体とコミュニケーションが取れればいいんだけど……。


 一時的に保護しただけだと伝えることが出来れば戦闘は回避できるか? この子も本来の群れに戻れるし、みんな幸せ。


 ウダウダ考えててもはじまらないな。とりあえずミルクでも造るか。最近めきめき力をつけてるマンデイ先生監修の元なら、完璧な栄養を含んだ擬似ミルクが造れるはず。


 その辺に散乱している木々を変質させて魔力を遮断する特徴をもった大きめの(おけ)を創造、地面に埋め込む。発電機から流れてくる魔力の流れの一部を桶の方に繋げて簡易のカプセルを造る。


 子犬の体に付着した血液が親や群れのものならば母乳に近いものが造れるかもしれないと考え、子犬の毛についていた血を元に成長する因子(グロウ・ファクター)でミルクを造ろうとした。だが血液に含まれていた細胞は死滅してしまっていたようで、残念ながら成功しなかった。しょうがないから俺の血液を元に培養することに。


 毎日造るのが面倒だったから発酵食品をイメージして日持ちするようにしてみた。これなら放置しておくだけでもいいし管理も楽だ。


 急ぎで一食分だけ造ってしまって飲ませてみた。


 ぺろぺろぺろぺろ。くーん。


 可愛い。なんて可愛いんだ。えげつない破壊力だ。


 (可愛いな)

 (かわいい)


 さてどうするか。ここに放置しておいたら確実に他の生物に捕食される。しかし群れのことを考えると安易に連れて帰れない。悩ましい。実に悩ましいなぁ。


 うんうん悩んでいたら、思わぬところから助け舟が。


 フューリーが現れたのだ。


 (おぬしの生活に興味があってのう)


 なんかやつれてる? どんな準備をしているのかはわからないが、それなりにタフなことをやってるらしい。ホントなにしてるんだろ、このわんこちゃん。


 しかしやはりフューリーは出来る男、頼れる男だ。こうやって必要な時にすっと現れるもん。カッコいい。さすがイケメン。


 餅は餅屋、病は医者、獣のことは獣に。


 「いまこの子を保護したんですが、どう扱っていいものか迷ってます」

 (飼うのか?)

 「もし家族がいれば返してあげたいと考えています。きっと心配しているでしょうし。でもこの子を保護する家族がいないのなら、僕が保護してあげてもいいかなとも」

 (ラビッシュ・イーターの群れで最後に残るのが幼体じゃのう。これしかおらんとすれば、もう群れは壊滅しておろう)

 「そうなんですか?」

 (奴らは執拗、執念深くて面倒臭いのだがのう。家族を大切にする、という一点だけは他にない美質といえる。身を(てい)してでも幼子を守り、最後の一瞬まで諦めない。その性格が原因で乱獲されたんじゃのう)

 「なるほど」

 (なんなら我が周囲を偵察してこよう)

 「お願いします」


 群れが全滅しているんだったら連れて帰ってもいいかな。保護なしで生きれるとは思えない。置いておくのはリスクが高すぎる。可愛いしな。保護してあげるのが、この子の家族のためでもあるだろう。無念だっただろうな。なにより家族を大切にする種族だ。この子の成長を最後まで見たかったはずだ。俺が親代わりになってあげよう。この子の群れの意志を、俺が継ぐんだ。それに可愛いし。俺だったらミルクを造れるし、飢え死にすることはないだろう。立派に育ててあげるんだ。たっぷり愛情を注いで家族を失った悲しみを思い出さずに済むように。にしてもこいつ可愛いな。




 「可愛くない」

 「どこに目をつけてるんだマクレリア! 正気か!」

 「なんか豚みたいだし。それにぃ、マグちゃんに危害を加えない保証はないでしょう? 噛みついたらどうするの? いますぐ捨ててきてぇ」

 「あんまりだ! そんなのあんまりだよ! 散歩だって僕がするし面倒もちゃんとみるから! (しつけ)だってするから!」

 「でもねぇ……」


 俺に抱かれた子犬はあくびをしている。少しは危機感をもちなさい。君はいま捨てられようとしてるんだぞ。


 「そもそもラビッシュ・イーターってそんなに強くないよ? ただ持久力があってタフなだけ。知能はそこそこだけど、目立って高くもない。それでもいいのぉ?」

 「ちゃんと一頭で行動できるようになったら自然に返してあげる予定です。そもそも僕、マンデイ以外は連れて行くつもりないですから」

 「そうなの?」

 「あたりまえじゃないですか。侵略者って凄く強いんですよ。そんなところに連れて行けません。本当はマンデイだって連れて行きたくないんですけど」

 「ヨキ君とかこの子は戦力じゃないの?」

 「侵略者を討伐したいという意思があるのなら一緒に行動してもいいですけど、無理矢理連れて行くなんてことは出来ませんね」

 「じゃあなんで助けたの?」

 「成り行き、ですかね」

 「あいかわらず君は甘々だねぇ」

 「返す言葉もございません」

 「まぁ飼ってもいいけどマグちゃん傷つけたら殺処分だからねぇ」


 さらっと言ったけどマクレリア、本当に殺処分するんだろうな。マグちゃん関係になったら性格変わるし。


 君、ガス室送りになりたくなかったら、あの美味しそうな芋虫には手を出すなよ。フリじゃないぞ?


 なんとか許可を得て子犬を離してあげると、トテトテと歩いて部屋の匂いを嗅ぎはじめた。すごく癒される。あぁ、おしっこしちゃったよ。ダメだなぁ、お前は。しょうがない奴だよまったく。創造する力で尿を分解してあげような。


 買い方は……、猫とそうかわらんだろう。


 おしっこ用の砂場を造ってあげよう。爪とぎ用の保護シートも必要だな。あっ、タワーもいるか。遊びたい年頃だろうし。


 よし、部屋の改造に着手しよう。


 それから一時間ほどかけて俺の部屋を子犬用にモデルチェンジした。


 部屋の隅にはおしっこ用の砂場。もちろん消臭効果つき。壁には爪とぎ用のヤスリをとりつけた。ヤスリのキメは好みがあるだろうから、あらゆるタイプの物を準備。


 最大の目玉はタワーだ。遊んでいて飽きないように天井に届くほど高く、そして様々なギミックを施した。一階は犬じゃらしゾーン、二階はボールゾーン、三階は動く床。これ、一生遊べるのでは? この子の成長に合わせてグレードアップしてあげよう。体も大きくなるだろうしな。


 創造する力はなんのためにあるか、それは犬小屋を造るためだ!


 作業を終えた俺は、一度カプセルに戻ることにした。ミルクの出来を確認したい。


 子犬がトテトテとついてくる。なんだ、俺がいないと寂しいか? 可愛い奴め。よしついて来い。


 声をかけたらマンデイもついて来るとのことで、一緒することに。犬派のヨキも当然のようについて来る。


 ヨキは本当にこの子が好きなんだろう、チラチラと子犬の方へと視線を送っているし。


 ナデナデしたくても出来ないのは辛いだろう。


 体造り、頑張ろう。


 発酵ミルクの出来は問題なさそうだ。子犬は嬉しそうに飲んでいる。一応味見してみたけど、それなりにいける。薄い牛乳といったところか。少し脂っこくてクセのある臭いがするしわずか酸味もある。しかし気にならない程度だ。


 「あっ、名前決めないとな」

 「そうだな」

 「ヨキさん、なんか案、ありますか?」

 「いや、ないな」


 ヨキが一番可愛がってるぽいから決めてもらってもよかったんだけど。


 (マンデイ、この子の名前を決めようと思うんだけど、なんかアイデアある?)

 (マンデイとおなじでいい)

 (曜日で、ってこと?)

 (そう)


 曜日か。マンデイもそのパターンだったし、別にそれでもいいかな。


 えぇっと、今日は……。何曜日だ? こっちにきてから曜日なんてまったく気にしてなかったな。じゃあ獣の日に該当する曜日でいいか……。えぇっと……。木曜日。サースデイ。サースデイ。うん、言いにくい。


 (曜日は止めとこう。この子って大きくなったらどうなるの? いまの感じで大きくなる?)

 (見た目がかわる。水玉もよう、灰色の毛に、黒いはん点)

 (なるほど)

 (えものをずっと追いかけて、相手が疲れたところをほ食する。ふにくも食べる)

 (タフだって言ってたもんな。えぇっとどうしよう。模様からとってゴマかブチにしようか。どっちがいい?)

 (どっちでもいい)


 じゃあ最終決定をヨキにまかせるか。


 「ゴマかブチにしようと思ってますけど、どっちがいいですか?」

 「意味は」

 「成体になった時の模様ですね。昔僕が住んでいた場所の言葉です」

 「ゴマがいい」

 「了解です」


 家に戻って休む準備をする。今日もそれなりに忙しかった。明日も頑張ろう。


 ゴマが俺の布団に潜りこんでくる。


 毛を撫でているうちに、うとうとしてきた。ゴマも静かに寝息をたてはじめる。


 この子、本当に野生の生き物なのかな。いくらなんでも懐き過ぎなような気もするが。まぁいいか。こういう生き物なんだろう。


 そのうち読書に飽きたマンデイも俺のベッドに。三人で使うならもうちょっとサイズアップしなきゃな。


 あっ。


 (マンデイ)

 (なに)

 (そういえばマンデイの体を軽くしようと思ってたんだ)

 (どうして)

 (いま、歩きにくいだろ? 軽くなったら少し楽になるかもしれないぞ)

 (そう)

 (いまやってもいい? 先延ばししたらまた忘れそうな気がするから)

 (いいよ)


 魔力もまだ余ってるしな。


 よし。《軽量化》の特徴を付与。


 ……。


 …………。


 出来ない? 反応しない。


 もう一度。


 ……。


 …………。


 やっぱダメだ。


 なぜ?

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