独リボッチ ノ レイス
マンデイは俺が創造した絵本を完全にマスターした。
補助なしでも完璧に読めるし、自分の意思を文字にすることも出来るようになった。ルゥもマンデイの成長が嬉しいのか、比較的簡単な本を書庫から見繕ってきてくれたりしてくれる。
まだ一冊読むのに相応の時間がかかっているようだが、ちゃんと理解は出来ているようだ。
卵には変化がない。マクレリアの溺愛ぶりは落ち着いてきているように見えるのだけれど、時折でてくる愛の狂気には背筋が寒くなる。
ルゥの魔力が回復するのをまつ間、発電機の設計やイメージを固めることにした。
色々な仕組みを考えてみたけど、現実的に可能なのはいわゆる再生可能エネルギーだろうという結論に至った。確かに生き物や有機物、化石燃料をエネルギーにするのは直接的でコストも低いかもしれない。しかしそれには過剰な狩りや素材の採集をする必要がある。
過剰な狩りは主様の不興を買う可能性があるために却下。
素材の採集は時間がかかる上、地形を変えてしまうかもしれない。これも主様が嫌うかもしれないからダメ。
俺はあくまでも不干渉地帯にとっての異物なのだ。そこを忘れてはいけない。
真っ先に考えたのは太陽光発電。実際マンデイもそれをやっているし日が昇っている間ならコンスタントにエネルギーを獲得することが出来る。
まずは光の射す、ひらけた場所を探さないといけない。
「ここには色んな地形があるからねぇ。たぶん出来るよぉ」
とマクレリア。
他に考えられるのは風力か、水力か……。これは大規模な作業になる、保留で。
でも実際、光の発電ってどうなのかな。あんまり大量のエネルギーを生み出すって感じじゃないけど。
足りなそうならソーラーパネル的なものを増やすしかない。だがそんなことしたらやっぱ主様の目につくよなぁ。
「なにか造ったからって怒られはしないと思うけどねぇ」
「どの程度がセーフなんですかね」
「わからないねぇ。でも気に入らなかったら壊されちゃうよ」
「ですよね。ちなみに火山とかあったりします? 温泉とか」
あれば地熱発電が出来るかもしれないが。
「ないことはないんだけどちょっと遠いよぉ」
「どれくらいですか?」
「君の足で二日って所かなぁ」
「辿りつくのは難しそうですね」
「ルゥが完全復活したら魔術で通路を繋げてもらえばいい」
「出来るんですか?」
「ルゥの十八番だからねぇ」
そういえばマクレリアとルゥの体内で繋がってるんだっけか。おなじ魔術だろう。
地熱発電なら地表の建造物は巨大にはらない。太陽光より効率もよさそうだし、穴掘るの得意だし、魅力的だな。
よし、地熱発電にしよう。
そうと決まれば素材だな。熱に強くて変化させやすいものがいい。石材がベストかな。コンクリートみたいなのを造れたら一番いい。いちいち造っていくのも面倒だから成長する因子で造ってみてもいいかもな。型だけ造ってしまえば周囲の土砂と反応してくれないだろうか。魔力の節約になれば完成までの時間が短縮できる。
とにかくミニチュアサイズの模型でも造っとくか。
地熱を利用してエネルギーを造る機構の発想はなかなか良い線いってると思う。
問題はどうやって魔力に変化させるか、だ。エネルギーを魔力に変化させるという特徴を付与してもいいのだが、抽象的すぎてうまくいく気がしない。エネルギーとはなにか、魔力とはなにかを理解しないと厳しいっぽい。
エネルギーはなんとなくイメージ出来るんだけど、魔力がなにか、エネルギーと魔力の違いはなにかと尋ねられれば首を傾げるしかない。どうしたものか。
マンデイ先生、最近勉強してるし、なにか知ってるかもな。一応訊いとくか。後で(しってたよ)パターンってわりと萎えるし。
(なぁマンデイ)
(なに)
(エネルギーを魔力に変換するシステムを造りたいんだけど、なにかアイデアある?)
(うぅん)
(やっぱわかんないか)
(ルゥのほうほうをつかってみたらいい)
(ん? ルゥの方法?)
マンデイのアイデアは、生物の体内でおこっている現象を再現する、というものだった。
生物の体内では、エネルギーを魔力に変化させるための受容体が存在しているらしい。魔力を練り上げる段階でエネルギーはその輪郭を変え、魔力になる。かつてルゥは研究により、その事実を突き止めていた。
その受容体を造ればいいのか。まぁどっちにしろイメージ出来ん。直接ルゥに教えてもらうか。
「知識は自ら培うもの、だってぇ」
一蹴されました。
たしかルゥの信念だったな。
で、色々試してみたんだけど一番しっくりきたのは、いくつかの層のフィルターに区切られたパイプを造って、熱が通過するたびに魔力に近づけていく、というものだった。ミニチュアで成功しただけだから本物でうまくいく保証はないけどね。
熱源を再現するために蝋燭に火をつけてみる。
火がもつエネルギーは蜃気楼をイメージしてみた。で、魔力はいくつもの粒子の集合体。
一層目でエネルギーを凝縮させる。二層目から九層くらいかけてより細かく分断。最後の層で魔力の輪郭、実質を再現するための受容体を設置。パイプから排出させる頃には魔力に近いものになっていた。
受容体を創造する過程で思わぬ副産物も出来た。受容体とはエネルギーを魔力に変換する鍵である。俺は試行錯誤を繰り返し、熱から生み出されるエネルギーを魔力の性質に近づけていったわけだが、ある時、これ逆も出来るんじゃね? と思い至った。マンデイの魔力供給をしながらの作業であるため、あまり悠長なことをやっている余裕なんてなかったのだけれど、思いついたのだからやってみたい。ということで試してみたら結構簡単に成功した。
魔法の原理を再現する道具を造っただけの話なんだけど、これが意外とデカかったりする。出力の方向性を変えてみると、様々な属性の魔法が使えるではないか。相手の耐性外の魔法をローコストでバンバン使えるようになるって結構魅力的じゃないか?
すごい発見をしたゼ! とマンデイに自慢してみた。すると。
(それは、まどうぐだよ)
と返ってきた。
そうか。そうだな。
ちなみに魔力の輪郭は、歪みのない球体だった。その形が一番吸収効率がよかったのだ。
その事実をルゥ、マクレリアに伝えると、
「魔力の輪郭なんて考えたこともなかったよ、だってぇ」
これは凄い発見だったらしい。
よかった。なにかしらの成果が出せて。
このようにしてルゥの魔力が回復するまえに、必要と思われるすべての実験は終了した。後は地熱が貯留している層を探し出してパイプを通すだけの簡単なお仕事です。
貯留層はルゥが探してくれた。一応、不干渉地帯のなかにある土地だそうだ。不干渉地帯ってのは火山もあるらしい。
火山地帯は、俺が住んでいる場所とは植物の種類が違うような気がする。驚くような高木はないし、比較的明るい。標高が高いせいでちょっと肌寒い。今度はもう少し厚着してこよう。
俺は計画通り型を造って、なかに土砂を詰め込む。で、仕上げの成長する因子と魔力を流し込んであげて、その日の作業は終了。
ルゥが毎回通路を繋げるのが面倒くさいと言い出したので、管理は俺がすることになった。
具体的には通路が消えてしまわないように魔力を流し続けるというもの。発動には相当の技術がいるそうだが維持はそう難しくなかった。
次の日、パイプの進捗状況を確認しに行った。ほとんど進んでない。
成長する因子を仕込んだ箇所の砂がわずかに結合していたけれど、変化はそれだけ。魔力を流してみるが全く反応しない。
どうしたんだろう。
もしかしたら餓死したのかもしれないな、と。(緩やかな活動)の特徴を付与して、その日は終了。
次の日、結果は同じ。成長が進んでいない。
これは検証が必要だ。
家に戻っていくつかの実験をしてみる。結果、物質には成長の限界があって、ある程度まで増えると、あとは委縮していくということがわかった。寿命というやつだろうか。
まいったな。ある程度のエネルギーを確保するためにはパイプは太くしたい。それだけじゃない。フィルターの創造にはパイプの非にならないほどの魔力がいる。ミニチュアならいけたけど、巨大化するとなるとかかるコストが計り知れない。放置で造れたら最高だったんだが地道に創造していくしかないか。
(どうしたの)
(成長する因子に成長限界があるみたいなんだよなぁ。そういえばマンデイの核の活動はまだ続いてるよな)
(つづいてる)
(やっぱマンデイの核活動は成長する因子とは関係ないのかなぁ)
(かくをつかってるから、せいちょうがすいたいしないんだよ)
(ん? それは誰が言ってたの?)
(これ)
と、マンデイがテーブルに置かれた本を指さす。《受動的な魔核の活動、プロモーションの条件》なにそれ。
(これに書いてあったわけ?)
(ちかいことを)
(難しいの読んでるなぁ)
(なれる)
(そっか、参考になった、ありがとう)
マンデイは少しずつまえに進んでる。小さな歩幅で、ゆっくりと。
学ぶのは良いことだ。けれどこのまま賢くなっていったらマンデイが親離れする日も近いかもなぁ。嬉しい反面、寂しい気もする。
さて、どうするか。
マンデイの核を使うわけにはいかない。以前貰った壊れた魔核で試してみたがうまくいかない。といって生きた核を壊して使うのは倫理的にナシ。
生きた細胞を使えばいいんだよな? じゃあ俺の細胞でもよかったりするか?
と、採取した俺の血液に成長する因子を仕込んでみる。死滅してしまわないように《空気をエネルギーに変換する》特徴と、外界の微生物などから身を守るための《バイオシェルター》を付与して様子をみる。
翌日、様子を見にいってみると、型のなかの活動はまだ続いていた。俺が与えた魔力もしっかり吸収してくれる。いい感じだ。
フィルターを創造するのは苦労するかと思ったが、血液を利用した成長する因子が良い味だしてた。助かるぜ。
二週間かけてパーツを創造。組み立てはルゥの協力もあり、たったの二日で終わった。
最後に、貯留層に有毒なガスを含まれていた場合を考慮して、ガスが地上に漏れないように離れた場所に空気を逃がす回路、マンデイが入る用の魔力遮断をする内壁、緊急停止用のレバーをとりつけたカプセルを創造し、作業は終わった。
発電機のほとんどが地下にあり、地表に出ているのはカプセルだけ。これなら目立たないし環境の侵害も僅かだ。問題ないだろう。
早速、テスト開始。
まずマンデイをカプセルに入れず、魔力を吸収できることを確認した。カプセルのフタをしてしまうと、魔力を遮断するという性質上コミュニケーションがとれなくなる。安全第一だ。
緊急停止用レバーの説明をし、いざ運用開始、という段になってちょっとした問題が。
霧? 影? みたいなものが近づいてきた。影は俺たちと一定の距離をあけてそこに佇んでいる。
(あれはなんだ?)
(レイスだとおもう)
(なにしてるんだろうか)
(まりょくによってきたんじゃないかな)
(レイスは魔力を食うのか)
(そう)
(腹減ってんのかな)
(わからない)
まぁ攻撃してくるわけでもないし、放っておいてもいいか。後で少し魔力を分けてやろう。減るもんじゃないし。
地熱発電機の実験はうまくいった。というか、かなり効率良い。そのうちマンデイの耳とか口も出来るかもな。運動能力も戻ってくれるといいけど。
その日の終わりにカプセルのフタを開けて、レイスに魔力をあげた。手招きするとふわふわと近づいて来て、地下から涌き出る魔力を夢中になって吸っていた。
やっぱ腹、減ってたんだな。
「明日も来るからな」
レイスはふわふわと浮いているだけで反応はない。
「じゃあな」
やはり反応はない。聞こえないだけか? マンデイパターンかもな。耳ないし。
魔術通路に入るまえ、レイスの方を振り返ってみると、レイスはまだカプセルの周囲に浮かんでいた。




