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成長スル 因子

 マンデイの処置をしている間、ルゥに延命用の魔術結界を張ってもらっていた。彼の魔術のクオリティはやはり格が違う。精密で正確、無駄が一切ない。


 俺が乱したエネルギーの流れはすぐさま調整され、正常化されてしまう。やはり他の世界から選ばれた勇者の可能性、ありうる。


 あれ? もしかして管理者の言う《老いた個体》ってルゥのこと? だよね?


 「ねぇファウスト君」

 「なんですか」

 「あれってなにをやったの? なんか球みたいなの入れただけだったけど」

 「なにって成長する因子を創造してマンデイの魔核に結合させたんですよ。これが正解なんでしょ?」

 「うぅん。違うんだなぁ、これが」

 「なに!? じゃあマンデイは助からないのか?」

 「いや、助かるんじゃないかなぁ? 知らない。ルゥがなにも言わなかったから、たぶん助かるんだと思うよ」


 なんだその曖昧な感じ。これでマンデイが死んだらどうするんだ。


 「大丈夫だよぉ。私はもう五百年近く生きてるけどルゥほど優しい人間を見たことがないんだ。知識欲の塊なのに無知、人嫌いなのにお人好し、規格外の一般人。ルゥってそんな感じの人なんだよ」

 「まったくわかりませんが、もしマンデイが危なくなったらルゥが止めていた、とこういうわけですか」

 「そうだねぇ、その通りだよ」

 「正解はなんだったんですか?」

 「まぁ、とりあえずルゥのとこに行こうかぁ。今回ファウスト君がやったことをルゥに説明してあげて欲しい。あの人いま、思春期の子供みたいにワクワクしてるの。面倒くさくてしょうがないんだよ」


 ルゥの私室、無駄にデカい図書室に行くと、俺はルゥに頭を差し出した。が、ルゥは手を伸ばそうとしない。


 「もうファウスト君のことを信頼してるんだよぉ。言葉で説明してあげなよっ」

 「わかりました。じゃあ」


 俺は成長する因子(グロウ・ファクター)発見までの経緯を説明をはじめた。想像以上に長い時間がかかってしまい、終わった頃には深夜になっていた。


 まずいくつかの前提。


 1, 創造する力とは魔法の一種である。


 これは初めて創造する力を見た時の両親の反応、力の行使に魔力を使用すること、自然界で物質が生まれる様を模倣しているという解釈が可能なこと、以上の三点からそう結論づけていた。その点に関しては間違いがないと確信している。


 2, 魔法には適性がある。


 俺には風と電気の魔法の素質がある。特性がなくても適性外の魔法を使用することが可能であるが、コストが高い。


 基本になるいくつかの魔法、俺に適性がある風と電気、マンデイの使う水、他にも植物や土の魔法などがあるのだけれど、これらの他にも特殊な魔法というものがある。


 マンデイの使う光、その対になる闇、俺が使う創造する力。本来、基本の魔法を使用する者は特殊な魔法を使うことが出来ない。仕組みが根本から違っているからだ。核と体がまったく別物であるマンデイや、別の世界の神《名のない世界》の管理者から能力を与えられた俺のようなケースがあるものの、これは例外中の例外といっていい。


 3, 魔法には使用者の偏りや得手不得手がもろにでる。


 俺の母・アスナは凄腕の魔法使いだった。教えのために国境や海を越える者がいるほどの実力者だったのだ。


 しかし彼女が得意としていたのは広範囲の大魔法。近くに俺やマリナスがいるとうまく攻撃できなかった。それがアスナの偏りだったのである。そして俺には普通の人にはない特徴的な偏りがある。


 4, 創造する力は生物には通用しない。が、生物を模倣することは可能。


 そもそも創造する力は複雑すぎるもの、俺がまったく理解していないものには反応しないのだ。


 生命というのは、いまこの瞬間にも細胞分裂を繰り返し、破壊されている。この能力でロスなく生命を創造しようとしたら、まず細胞の構成要素から器官の働き、いままさに死滅していく細胞と生まれる細胞、そのすべてを把握していなければならない。しかも一瞬で造ってしまわないと創造途中の生物は死滅してしまう。


 しかし細胞と似た働きをするものなら造りだすことが可能である。なぜなら、魔法とは自然の模倣、自然にはなりえないが、自然に近い現象を生みだす術なのだから。


 5, 厳密にはマンデイは生き物ではない。


 マンデイは人形である。魔核は生命の特徴を有してはいるものの、生命でない。生命として必要な特徴のいくつかが致命的に欠落している。


 まず自力でエネルギーを獲得する能力がない。俺が魔力の供給を停止すれば、マンデイはそのうち壊れて再起不能になるだろう。誰かに依存しなくてはマンデイは普通に生きていくことも出来ないのだ。


 そして自己複製能力もない。人間の様な哺乳類から魚類、菌に至るまで、生物というのは子孫を残し、あるいは自分と同一の遺伝情報をもつ個体を生みだして伝達していこうとする。しかしマンデイにはそれが出来ない。


 このようにマンデイには生物になくてはならない能力が、いくつか欠落しているのだ。


 そしてマンデイのボディは俺が造りだした無機物である。もちろん生物でないマンデイの体には、破損した自らの体を修復するような機能はない。


 6, 成長に関する改造は、成長を促進させるということではなく、よりよく成長する能力である。


 この点に気がついたのは、マンデイを救うために様々なことを考察している時だった。


 俺は魔法の習得が早かった。が、体の成長は一般的だ。飛び抜けて背が高いわけでもないし、たくましい骨格を有しているわけでもない。ごく普通の七歳児の体格である。


 なのに一時的とはいえマンデイを抱えた状態で熊から逃げることが出来た。魔力が切れて捕まってしまったが、それがなければ逃げ切れたかもしれない。つまり、俺の身体能力は普通の七歳児のそれではない、ということだ。


 普通の人ならバイタルや攻撃力が一ポイントずつ加算されているところを俺は、二ポイントずつ加算されている、という認識でいいだろう。


 魔法の練習の時、俺は魔力操作の精密さ、エネルギー残量の管理、魔力の流れの把握、これらのすべての点に人より多くポイントが加算されていたことになる。よって人より短い期間で美しい魔法を習得したのだ。


 以上の点を混ぜ合わせ、煮詰めれば答えは出る。


 マンデイの体はいわば魔核のための義足そのものだったわけだ。


 マンデイの体、俺の創造した無機物は、核の刺激を伝えて動く器でしかなかった。つまり俺は魔核のための義足を一度造っていた、ということになる。しかし一度造った実績があったとしても複雑すぎる魔核を創造するのに時間がかかりすぎるという問題の解決にはまるでなっていない。


 魔核の修繕を俺自身がしようとすれば、作業の途中に魔力が漏れだして壊れてしまう。なら、俺じゃない│なにか《・・・》が結界の内部でその役割を果たせばいいのだ。そのなにか、そう、成長する因子(グロウ・ファクター)である。


 俺にしかない偏り、特徴。成長に関する改造を施されているという点。この側面は、もちろん俺の魔法に影響する。相性がいいのだ。


 《成長する》という特徴を付与した場合、他の指示に比べて格段にコストが低いうえ、高いパフォーマンスが期待できる。


 あのドジっ子神様は俺に長生きさせるように、この二つを選択するよう誘導したのだろう。創造する力に成長する力をミックスさせることに気がつけば、俺はなにもせずとも最強の装備が手にはいるのだ。


 しかも創造する力は汎用性が高く、成長に関する改造にはデメリットがなくて将来性がある。個々でみても優秀な能力だ。


 時間さえかけることが出来れば、装備が充実し、侵略者との戦闘に勝利する可能性が高くなる。もし王の襲撃というイレギュラーがなかったら、俺は金持ちの両親に手厚く育てられ、知らないうちに勝手に強くなっていた、というわけだ。


 神の意図を汲み取れ、つまり、俺を生かそうとする管理者の思いを汲み取り、魔法を行使しろ、という意味だったのだろう。


 生物を造るのは無理。なら生物の特徴をもった無生物を造ればいいのだ。


 俺は疑似細胞を内包した球を創造。そこにいくつかの特徴を付与した。


 《対象の内部に入ると破れる殻》《対象のエネルギーを利用し増幅させる機構》《自らを成長させ、分裂、増殖するという仕組み》《損傷した部位を治療する働き》《役目を終えれば核の一部となって機能を代行する》これだけの特徴を付与した物体を造れば、高いコストのせいで気を失い、次の作業をする頃には疑似細胞は死滅していただろう。だから俺が造った疑似細胞は一つだけ。


 その細胞は活動しながらマンデイの核のなかで増殖するのだ。役目を終えた成長する因子(グロウ・ファクター)は、マンデイの核の一部になり、破損する以前の状態に戻る。


 瀕死のマンデイから魔力を吸収してしまえば、マンデイは壊れてしまう。しかしこの細胞は新しくエネルギーを生みだしてくれる。


 俺と相性のいい、成長する、という特徴は、細胞そのものを強くするうえ、増殖する度にその性能を上げていく。そして、核の破損部位を治し続ける。


 一人で生きているのではない。そう、俺は信じなくちゃいけなかったのだ。マンデイの生きようとする力を。俺に出来るのは、その補助でしかない。


 この構想のきっかけになったのが指の傷だった。肉が盛り上がり、次第に傷を塞いでいく。最終的には以前となんら変わらない形になる。この動態を創造する力で模倣すればいい。


 すべてを説明し終えると、マクレリアは俺の周りを飛び回り、パチパチと拍手をした。


 「すごいねぇ、ファウスト君。なんだか学者みたいだよぉ」

 「いや、お二人のお蔭です。さり気無くフォローしてくれてたでしょ?」

 「あっ、ばれてたぁ?」

 「ばれますよ。食事になんか混ぜてましたよね?」

 「そうそう。だからずっと元気だったでしょ?」

 「それに本。医学系やら魔道具に関するものだけが、いつも机のうえに置かれてたり、床に落としたりしてましたよね?」

 「あははは、それはルゥの仕業だねぇ。あぁ、ルゥが照れてる! もぉ、可愛いんだからぁ」


 それは照れてるのか? まったく変わらないように見えるんだが。


 「それで、ルゥの正解ってなんだったんですか? 俺のやり方と違ったみたいですけど」

 「あぁ、それはねぇ。魔核の不足する部位を補うパーツを造るってことだったんだよぉ」

 「え? でもそれじゃあ時間がかかりすぎてマンデイの体に負担をかけます」

 「ファウスト君が作業している間、魔力が漏れないようにルゥがコントロールしてればいいんだよぉ」

 「まさか。あんな緻密な魔法を長時間し続けるのは不可能ですよ」

 「忘れてなぁい? ルゥは規格外なんだよぉ」


 な・ん・だ・と。


 そんな簡単なことでよかったのか。


 つまり、一人で生きているんじゃないってのは、ルゥに協力してもらうって意味だったのか! そんなの詐欺だろ! 積極的に協力してくれる感じじゃなかったじゃん! わかるか、そんなの!


 「じゃあ神の意思を汲み取るってなんだったんですか?」

 「あぁ、作業を続けていれば能力が上がっていくでしょ? だから続けていればぁ、いつかは成功する、って意味だったんだよ」


 この人たちはまぎれもなく命の恩人だ。なのにどうしてだろう。時折無性に殴りたくなるのは。

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