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ミクリル遊撃隊

 立腹したヨキにわけを尋ねると。


 ――余計な荷物はいらん。


 と一言。どうやらヨキは軽装派らしい。珍しいな。剣士だからかもしれない。


 「わかりました。ですが生活用品だけは持って行ってください。調理器具なんかがないと苦しいでしょう?」

 「いらん。小刀一本あれば事足りる」

 「そうですか……。じゃ薬類はいりますよね?」

 「いらん」

 「資産は? 資産はいりますよね?」

 「最低限でいい」


 こんな感じで揉めた。揉めに揉めた。


 ヨキは軽装派かもしれないが、リズはなにかと必要な物があるだろう。女の子だし若いし。


 じゃあこれは持って行きましょうか、いらん、ならこれは、いらんと言っているだろう。こんな思春期の息子と母親みたいなやり取りを結構長い時間した結果、犬車を一台とリズが希望した化粧品セットと調理器具、ヨキの体のスペア、弾丸製造機、バドミントンセット、薬を少々、貨幣や宝石類、金属を少しだけ持って行ってくれることに。


 黙って全部もって行ってくれたら良かったのに。まったくわがままな奴だ。


 こうやってバタバタしながら旅支度をして、いよいよ明日出発という日の晩、俺たちはささやかな送別会をした。


 話の種は尽きなかった。初めて会った日の事。初めてライフルを握った日の事。新しい体になった日の事。日々繰り広げられていた俺とマクレリアのレースの賭けの事。ルゥの著書の事。


 思い出はどれも輝かしくて、そして暖かかった。


 「本当になにからなにまでありがとうございました。ファウストさん」

 「こちらこそ。あっ、これ」

 「ん? これは?」

 「ゲノム・オブ・ルゥの紋章を造ってみました。魔術の陣と怪鳥。僕たちを引き合わせてくれた物です。リズさん、ヨキさん、ゴマ、皆さんの旅が恙無(つつがな)く終わるように祈りながら造りました。確かに僕たちの距離は離れてしまうかもしれない。でもずっと仲間です」

 「ファ、ファ、ファウジュドじゃ〜ん」


 この悪魔はホントいっつも泣いてんな。


 「ヨキさんも達者で」

 「あぁ」

 「寂しかったら泣いてもいいんですよ?」

 「斬るぞ」

 「このやりとりも出来なくなっちゃいますね」

 「あぁ」


 この人も変わらない。


 「ゴマ」


 クゥーン


 「お前は盾だ。二人をしっかり守ってあげてくれ」


 ワウ


 「でも絶対に無理はするなよ?」


 ワウワウ


 またフリスビーをしたい。無駄に体がデカくなったけど、中身は可愛い可愛いゴマのままだ。


 「皆さん、呉々(くれぐれ)もお体に気をつけて」

 「あぁ」「はい!」(gまnoるjo)


 これで良かったんだ。


 そもそもリズなんて最初は戦闘要員として数えてなかったしボロボロになって不干渉地帯に来た時だって体が治ったらバイバイする予定だったわけだしヨキだってレイスを殺すのが嫌で知性を与えただけだからそんなに思い入れないしゴマも成り行きで拾っただけだからそりゃまぁ可愛いは可愛いけど本来自然に返すつもりだったんだから今さら離れて寂しいなんてことはない。ないったらない。




 そんなこんなでリズたちを見送った直後、今度は魔術師三人が不干渉地帯を出ると言い出した。


 「もうちょっといいじゃないですか!」

 「「やだー」」

 「なぜです!?」

 「「飽きたー」」


 飽きた?


 「最初はファウストさんが物を造ってるのを見てるのが楽しくてー」

 「ワクワクしてたけどー」

 「毎日毎日見てるしー」

 「もう見慣れたっていうかー」


 ……。


 そ、そうっすか。


 「ルドさんは? ルドさんはもう少し滞在しますよね?」

 「いや、(わし)もある人物から呼ばれていてな、そう長居は出来ん」

 「呼ばれてる? なぜ? 誰からですか?」

 「仕事の依頼でな。相手は言えん」

 「仕事ですか……。仕事ならしょうがないですね……」


 いやね、そもそも魔術師の三人もさ、今回のデ・マウ打倒のために集まっただけだからね、そんなずっと一緒にいるなんて最初から思ってなかったからね、双子ちゃんとルドおじさんがいなくなるのは想定の範囲内だったわけだからさ、実質ノーダメージ的な感じの雰囲気ではあるけどね。うん、寂しくなんかないよ。


 「「ばいばーい」」


 双子ちゃん。


 「また会おう」


 ルド。


 はぁ。




 そしてその数日後。


 (すまんがファウスト、我の願いを聞いてはくれぬか?)

 「えぇ、僕に出来ることなら」

 (うむ。実はのう)


 亀仙が新しい予知を見た。


 世界を滅ぼそうとする勢力と、世界を守ろうとする勢力の熾烈な決戦のビジョンだ。


 世界を守ろうとする勢力の中心にいるのはフューリー、ルーラー・オブ・レイス、俺、水の代表者と明暗の代表者の天使エステル。


 世界を滅ぼそうとする勢力のメンバーは侵略者を中心に死霊術師ドミナ・マウや巨人、一部の獣人と巨大な虫や双頭の蛇が確認された。敵軍の予知はまだ不安定であり、映像はひどくボヤけていて鮮明ではないが、一つだけ、どの未来にも確実に存在し、侵略者に感化された生物をまとめ上げる個体がいることがわかった。


 (囁く悪魔。そう呼ばれておる)


 囁く悪魔の大きさはマグちゃんほど、つまり手乗りサイズで、戦闘能力は皆無、飛翔能力もマグちゃん以下。


 「聞いているだけでは脅威には感じませんが」

 (やつは耳元で囁く。不満を、不条理を、悲嘆を。囁かれた者たちは世を呪い、行く末を憂い、侵略者の虜になるのう)

 「なるほど」


 そっち系か。厄介な非戦闘員。このまえまでそのタイプの奴と揉めてたから面倒臭さはよくわかる。


 フューリーは囁く悪魔を始末する決断をする。亀仙の感知で知り得た位置情報を元に追跡、囁く悪魔を殺害することにした。


 「話は理解しました。それで願いとはなんですか?」

 (うむ。我は虞理山に戻り出撃準備を整え、囁く悪魔を討伐する)

 「なるほど僕に協力して欲しい、と。いいでしょう! いまこそ報恩の時。このファウスト・アスナ・レイブ、フューリーさんから受けた恩に報いるため、身を粉にして働きましょう!」

 (いや、そうではない)

 「ん?」

 (現在(いま)この不干渉地帯はとても不安定な状態だと言える。壁の一部が崩れ、主も消えてしまう。誰かがこの地を守らなければいけない。だが囁く悪魔を放置して捨て置けば敵の兵力は増殖するばかり)

 「はぁ」

 (ファウストよ、お主はこの地に残り、新しい主が充分に賢く、強くなるまで見守ってはくれぬか)


 それはつまりフューリーとジェイもいなくなっちゃうってことかな? はぁなるほどなるほど。そうですか。わっかりましたー。だいたいフューリーとジェイだってさ、デ・マウと戦うためにここに来てくれただけだからいつかはいなくなる予定だったわけだから別に離れたからって悲しいとか寂しいとかそういうのは全然ないし。


 (またのう、ファウスト)


 フューリー。


 「今度会った時はちょっと位ならデートしてあげてもいいわ。上質な麦と綺麗な花を準備しときなさい」

 

 ジェイ。


 ……。





 「わわわわわ! ファウストさん? どうしたんですか!?」


 誰だろう。この慌ただしい声はあれか。ワイズ君かな?


 「やぁワイズ君、なんだかやる気が出なくてねぇ」

 「いくらやる気がないからってどうしてそんな風になるんですか!」

 「そんなふうぅ? どんなふうぅ?」

 「どうしたらそんな溶けたみたいになるんですか!? マンデイさん! ファウストさんは大丈夫なんですか、コレ」


 ルゥの著書を読んでいたマンデイが答える。


 「ファウストは時々変になる」

 「変になる? いつもこんな風になるんですか?」

 「そう。変な人だから」


 ふぁ〜。そんなふうぅに思われてたのかぁ〜。ショックだなぁ〜。


 「マグちゃんさん! これは普通なんですか?」

 「ファウストは変だかラ」


 マジマジと俺をみつめるワイズ君。


 「ミクリル様からの依頼あって来たのですが、ファウストさんがこれじゃ無理そうですね……」

 「依頼ぃ? なんですかぁ〜?」

 「あっ、えぇ、デルア王国はこの世界を蝕む者を討伐するために特殊部隊を編成することになったんです。少数精鋭の強襲部隊。メンバーは部隊長の王子、新しく選定された五将と僕、あと本人の強い希望でキコリのアレン君」


 アレン君? あぁ捕虜のアレン君か。


 「それでぇ、僕はなにをするんですかぁ〜?」

 「はい、特殊部隊、ミクリル遊撃隊を強化して頂けないかと……」


 きょうか? あぁきょうかか。あの強くなる細胞を入れるやつか。


 そうか……。


 まったく……。


 まったくミクリルって奴は……。


 あいつは俺がいないとなんも出来ないな! しょうがない奴だ! あぁしょうがない奴だとも!


 「いいでしょう! 引き受けました!」




 ミクリル遊撃隊。


 隊長ミクリル・クレン・フェルト。武の才に秀で、頭脳も明晰、見目麗しい主人公的キャラ。得意の武器は槍。


 この人は前線寄りの中衛的な立ち回りがよさそうだ。前線に立つと指揮がしにくいし。


 そしてミクリル王子に付き従う新しい五将。


 闘将クラヴァン・ソロヴィン。ユキ・シコウと同門で朱恩寺の筆頭、ヤァシリ・ソロヴィンの孫。俺がデルアと争っていた時は出稽古に行っていたらしい。朱恩寺屈指の強化術の使い手。極度の女好き。長身赤髪。


 舞将はベル・パウロ・セコという女性。アシュリー教の信徒の一人で、天才剣士。元々は剣など一度も握った事のない踊り子だったのだが、巡業中に賊の襲撃に遭う。彼女は仲間が次々と襲われていく中、自衛のために賊が落とした剣を拾った。危機的状況の中、突如として彼女の才能は開花した。踊るように人を斬る。ヨキとはまた違った剣の形、らしい。第一印象は暗いイメージ。


 竜将はウェンディさん。言わずと知れたワイズ君の嫁である。ワイズ君は現国王の五将であるため、ミクリル王子世代の竜将にはなれないらしい。で、ウェンディさんが選ばれた。


 ――ウェンディさんと離れる位なら死んだ方がマシ。


 というワイズ君の主張で現国王世代の彼は、だだをこねる感じでミクリル遊撃隊に編入させて貰ったらしい。


 良かったね!


 弓将は前弓将ルベルの甥っ子ちゃん。盲目の弓使いのルート・アダム・ステイン。


 生前ルベルはこんな言葉を残している。


 ――ルートは自分より強い。


 と。


 盲目の弓使いって大丈夫なのかな? ただひたすら怖いからルート君のまえには出ないようにしよう。


 そして魔将が……。


 「ルドさん? そんな所でなにをしてるのですか?」

 「王子にスカウトされてな」


 あっ、仕事ってそれね。なるほど。


 「意外でした。ルドさん軍人って感じじゃないので」

 「デルア王国の初代魔将は誰か知っているか?」

 「まさか……」

 「ル・マウだ。つまり(わし)はル・マウがかつて担っていた役割を仰せつかったわけだな。ふふふふふ。ふはははははははははは」


 ……。


 良かったね!


 というわけでデルアの新しい五将が滞在する運びになった。やっぱりすることがあった方がいい。少しだけ気持ちが上向いた。

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