震えた指先。
一目惚れなんて、ありえないと思ってた。
見た目の好みはともかく、中身知らなかったら好きも嫌いも無いだろう?ってずっと思ってた。
だから、4月に入ってきた女子社員には興味も無かったし、まさか自分がこんなに簡単に恋に落ちるとか、考えても見なかったんだ。
ネクタイを触る俺の手を見て、頬をほんのり赤く染めて、目を大きく見開いて唾を飲み込むとかエロ可愛くて、けしからんと思った。
ちょうど自分が教育担当だから、距離を縮めるのだって自然なことだし、私情挟みまくりで堂々と世話を焼いた。焼きまくった。
そしたら素直になついてきたし、若いのに落ち着いた少し低めの声が、俺を呼ぶときにだけトーンが上がるのもツボだった。
これは運命だろう。
だから他の男にくれてやる気は少しも無かった。例えそれが同期でいいやつだと分かっている早川だとしても、だ。
お菓子ごときで餌付けされた高木には、後でお仕置き決定、と。
とりあえず自覚無く距離感詰める早川は、排除排除。
そんな時、早川の後輩の榊が俺の周りをうろちょろし始めた。困っていたから少し手を貸したらこれだ。
俺は早川とは違って好きなやつ以外は割とどうでもいいから、いちいち絡まれて面倒だった。
仕事しろ、仕事。
うちの高木を見習えと思いながらも、榊が仕事で頑張ってる雰囲気を醸し出してたら、
「早川が榊のこと、頑張り屋だって誉めてたぞ。」
とか、榊の前で、
「榊の雰囲気、お前好みだもんな。」
と早川に言ったら、そこらへんも自覚無い早川が、
「榊さん、いつも可愛くしてるよね。」
とか言って榊を喜ばせたりして。
お?意識し始めたか?と思ったら、勝手に盛り上がって勝手にくっついた。
まぁ、まさか結婚するとは思っても無かったけど、幸せそうだし、結果オーライだろ。
とか、軽い気持ちで思っていた頃もありましたよ。
まさか、高木があんなに落ち込むとは思わなかったし、こっそり健気に早川を思い続けるとは思わなくて。
いや、めっちゃ落ち込んだわ。
いい年して、みっともないけど目を合わせられない時もあった。
なのに、こっちを見ろよとか思ったり。ガキか。
とうとう感情を爆発させそうな高木を見ていられなくて、会議室に呼んだけど、無理。
可愛すぎる。
ダメだ、好きだ、無理だ。
いろいろ勘違い?すれ違い?
早川がマヌケ?とにかく、
「好きだ。」
初めて触れる高木の唇に、指先が震えるのは仕方がないだろう?
あぁ、やっと俺のもん。