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17話:パンの収穫

 スルニスに引きずられながら着いた場所は、パンの木の群生地だという。

 見た目にはガジュマルにそっくりだ。

 細い枝が幾重にも重なり、大きな大木となって一面に広がっている。枝葉の高さも3メートル程度で、それほど高い木ではない。ただみっちりと地面から幹を伸ばし枝を生やしているため、あたりは薄暗く、さらに地面にはぬかるみがある。


 泥をかかとで削りながら振り回されるのにも慣れた頃、スルニスは素早く身を隠した。

 どう考えてもパンの木への警戒だ。

 至はどうすることもできないため、ただ脱力し、スルニスに引きずられるのを待つ。

 彼女はじっくりあたりを確認したあと、小声で至に言った。 


「ここは大きめの群生地なので、少しはずれのパンの木を狙いましょう」


 再び歩き始めたスルニスだが、木陰を伝うように身を屈めて進んでいく。

 これは引きずられた方が安全だと至は思い、さらに脱力したまま死体のように引きずられていくのだが、幸いスルニスは背が高いので、至のかかとしか地面につかない。ただ彼女が屈むと多少尻を擦ることになるので、そこは器用に腰を持ち上げかわしていると、掴まれた手首が急に落とされた。

 至は到着したのかと土をほろいながら立ち上がろうとした時、ぐいっと首を押さえつけられる。


「あの目の前のパンの木が狙いです。1本だけで大木となっております。

 それと茶色い房がぶら下がっているのがおわかりになりますか?」


 至は隠れた葉っぱの隙間から言われたそれを確認していく。

 スルニスの言うとおり、丸く空いた空間にぽつりと大きな木がある。

 木の枝からは男性の腕程の房がいくつもさがり、それの見た目となり方はこげ茶のひょうたんといっていい。クルミの殻に似たシワのある固そうな房だが、木からぶら下がる姿は色の違うひょうたんそのものだ。それが地面のスレスレでぶら下がり、風を受けて揺れている。

 だが、走り込んで千切れば取れなくはなさそうだ。


 至はナイフを手に持ち、走りこむ体制を整え、

「あれをもげばいいのか?」

 いつでも行ける体制を取るが、


「もぐのは簡単ですが近づくのが難しいのです」


 スルニスが指差した場所に鳥が飛んでいる。

 少し大きめの鳥だ。鳩ぐらいだろうか。それが木の横をかすめ過ぎようとしたとき、一瞬で消えた。

 次に鳥が現れたのは、反対側の枝の上だ。

 よく見ると体にぐるりとツルが巻きつき、鳥を振り回している。左右上下に振り回される鳥を眺め、至は思わず呟いた。


「……子供か、あれ……」


 力任せに掴んで振り回す、そんなイメージだ。

 目的のない振り回し方のため、子供がオモチャを掴み、喜ぶ姿と重なるのである。


「遊んでるのか……?」


「遊んでいるかはわかりかねますが、動くものがあると捕らえる習性があるのです」


 動くと捕まる。至は一度繰り返してみる。


「人間だったら、肢体をもがれる、とかある?」


「いえ、決して動物を殺すことはありません。それはヒューマンも同じです。あの鳥もそのうち離されるはずです」


「じゃあ、あのツルを解く方法は?」


「飽きるまで、といったところでしょうか」


「……本当に、習性なんだね」


「そうなんです。

 なので、この木からパンを取るときは人型の人形を投げ、それに気を向かせているうちに収穫するのが方法のひとつなのですが、今回はあいにく人形がありませんので、イタル様、失礼いたします」


 スルニスは立ち上がると、至の襟首を掴み、木に向かって放り投げたのだった───



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