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12話:待ちに待ったカレーの登場です!

 ご飯もしっかり温まり、それを使い捨てのカレー皿へとあけるのだが、フィルムを剥がすだけでご飯の蒸気が頬に触れ、それだけで腹が減る気がするのは日本人だからだろうか。

 そこへ出来立てのカレールゥをたっぷりと注ぎ、スプーンをさせば完成だ。

 各々にワインとカレーを準備すると、一斉にスプーンが走りだした。

 もう、香りに急かされている気がするほどだ。


「ヒューマン、このカレー辛いなっ」


 言いつつ頬張るガンディアの額にはうっすらと汗がにじんでいる。それはスルニスも同じで頬を真っ赤にしながら頬張っている。


「イタル様、辛いですけど、すごく濃厚で美味しいですわっ」


 言う通り、ワインの味がいい意味で作用している。

 肉の臭みを消し、柔らかくしているのはもちろん、カレーの味がより濃く感じる。

 トマトの酸味がまろやかになったのも、ワインのおかげだろうか。

 しっかりと火の通った人参は舌でつぶすことができるし、コカトリスの臭い肉が口の中で美味しい脂といっしょに解けていく感覚は今までにない美味しさだ。

 さらにすりおろした芋の甘みが良い。

 味の濃さを芋の淡白な味がちょうど良い濃度に整え、さらにぼったりとしたこのトロミ。

 さらりとしたカレーももちろん美味しいのだが、この田舎くさいぼとっと落ちるほどのカレーは最近では家でしかお目にかかれない。このルゥすらもすくえるほどの固さがご飯とよく絡まる。特にインスタントのご飯だからこそ、このトロミが欠かせない。多少芯を感じたり、インスタント独特の香りがあったとしても、このトロミがすべてをカバーしてくれる。すべて包み込んでくれるのだ。

 この包容力は絶大の安心感を与え、さらに満腹かと思わせた胃袋にどんどん隙間を開けてくるのだから見事である。


 しかしながらしっかり飯盒で炊いたものなのなら、もっとふっくらと甘いお米でカレーと合っていたかもしれない。

 少ししょんぼりしてしまう至だが、ユルく簡単にソロキャンをするのが目的であれば、これだけでも上出来ではなかろうか。


 切り取るようにスプーンを入れ、口に運ぶと、やはりパンチのある胡椒と辛味がどかっと殴り込んでくる。ここにワインを口に含むと、カレーの辛さがスッと引き、さらにカレーの風味が増したではないか。

 果実味はもちろんだが、香辛料の香りがより余韻となって残るのだ。

 この簡単ルゥで作ったカレーが一瞬にして高級カレーの雰囲気をまとうとはどういうことだろう。


「これは面白いかも……」


 進んでしまうスプーンを見ながら、もしかすると火を囲んでの食事がそこまでの味に見せかけているだけなのかもしれない。

 そうだとしても、美味しいカレーだ。

 至はこの美味しさの理由を考え考え口に運んでいく。

 一方のエルフ兄妹だが、2人は最後の1パックを半分に分けて食べているではないか!!!!

 至のおかわりご飯はもうなくなったと確定した。

 死んだ目をしながら2人を睨むが、あまりの幸せそうな笑顔と美しい瞳に気圧され、至はワインを飲み干した。


 今日はカレーをつまみにワインを飲もうかな……


 至は心を少し切り替え、ご飯をちびりと食べてワインを飲んだとき、「あ」一言つぶやき、携帯を取り出した。

 先ほど車を漁った際にポケットにしまっていたのだ。


 がむしゃらに食べ続ける2人を一度撮影してみる。

 見事な食いっぷりがしっかり画面に収まったので、


「せっかくなので写真を撮ろうよ」


 至は皿を掲げて2人を誘った。

 ああ、と納得しながら2人は至に近寄るが、


「どれで撮るんだ?」

 というガンディアに薄いスマートフォンを見せると、奇声を上げた。


「もうケイタイがこれほどに薄くなっているのか!?」


「え? そういう驚き方!?」


「パカっと開くケイタイまでは見たことがある」


 興味深そうにスマートフォンを触るガンディアにスルニスも覗き見しながら、


「イタル様、そんな薄くなって持ち運びが簡単になったのですね」


 2人は感心しつつ、至の世界について何やらわーわーと話しているが、

「……なんか普通の反応と違う気がする…いや、俺が求めている反応と違う気がするのか……」

 ぶつぶつと声をこぼしてしまうのは仕方がない。


 気持ちを切り替え、至が中央に立つと写され慣れているのか、2人が至の後ろにくっついた。

 カメラの切り替えをし、3人の姿を画面で確認すると、パシャリという機械音とともに撮影する。

 数枚撮り終え3人で確認するが、綺麗に撮れている。

 どれも美味しそうなカレーを掲げた3人の素敵な笑顔が撮れている。

 至は満足そうに頷きながらも、


「これ、向こうに帰ったらデータ消えてるとかあるのかな?」


 ふと思った疑問を口に出してみた。

 3人並んでスプーンを口に運んでいたが、ガンディアが至の疑問にスプーンで指差しながら説明を始めた。


「もしヒューマンがここの世界を自身の世界で発表しようとしたりすると、データごとお前も消えるだろう。

 お前の腰の鈴がそれをおこなってくれる」


「へ? 意味わかんないんだけど」


 あまりの壮大な話についていけないと表情で訴えるが、


「簡単ですわ、イタル様。お互いを干渉しないのが一番の決まりなのです。

 それを脅かす行為は、知った存在そのものを世界が消してしまうのです」


「俺、聞いてないし。つか、そんなことしたら俺がいなくなるの?!」


 焦る至だが、2人はいたって普通であると言わんばかりの顔つきだ。


「そうだ。お前の世界からお前が全て消える。存在がなくなるんだからそういうことだ」


「えー……なんか怖いな」


「それで自滅した者を我々は知っています」


 とても寂しくも悲しげな横顔だ。膝に目を落とし言うスルニスに至は素直な質問をぶつけた。


「スルニス達から存在の記憶は消えないのか?」


「こちら側の記憶は無くなりません。ただ存在が消えたのは感じることができます。

 ……とてつもない虚無感です。

 なので、イタル様、決してこちらの世界のことを世には出さないでくださいませ」


 スルニスの瞳は懇願に近い。

 至は小さく頷くが、その頷いた意味は大きい。


 スルニスをこんなに悲しい目にさせたくない。


 至は純粋にそう思った。

 これほど辛そうな美しい顔はないだろう。

 至はすがるように手を伸ばした彼女の手を取り、


「したら俺個人で楽しむ分には問題ないんだよな?」


「そういうことですわ、イタル様」


 優しい顔つきに戻ったスルニスの表情に至は安堵した。

 彼女を不安がらせるようなことはしてはいけない。

 思いながら改めてデータを見るが、今の時代どこからデータが漏れるかわからない。

 帰ってからすぐデータをロムに焼いて、さらに現像しておこうか。

 現物はデスクの奥に閉まって、時折見るなら問題ないだろう。


 時折、見たくなるのは仕方がないだろう?


 そう目を落とした携帯には、嬉しそうに頬張るスルニスの姿が映っている。

 短い動画ではあるが、「おいしいですわ」という彼女の声と、その横で目をらんらんにして頷くガンディアがいる。


 これぐらい持って帰ってもいいよな?


 至は心の中で呟き、空を見上げた。

 星々は降るほどに散りばめられ、耳をすませばハーピーの歌声にまざって、鳥の声や水の流れる音が聞こえてくる。

 時折ボウと唸るのは風の精霊が踊っているからだという。

 視界の端から端まで広がる空に散らばる光の数に目が痛くなる。

 こんな景色など、日本のどこで見ることができるのだろうか。

 葉が擦れて鳴く木々や、水が踊って渦を巻き、風が季節を運んでいく───


「……俺、キャンプ来てよかったわ」


 その言葉にエルフの国王の2人は、優しく微笑むのだった。

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