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10話:カレー作りしながら、宴会ですよ

「このワイン、変わった香りがするのね」


 スルニスが言った言葉に過剰反応したのは、(いたる)である。


「ど、どんな香りがする!?」


 あまりの前のめりさに、彼女ですら身を後ろに引くが、その隙間を埋めるように至が顔を寄せて来る。

 ひきつりつつも、再度グラスに顔を近づけ、香りを嗅ぎ取っていく。


「ベリーの香りはもちろんだけど、胡椒のようなスパイシーな香りもするわ」


「すごいよ、スルニス!」


 言いながらボトルを掲げた至だが、彼は語りたいことが山ほどあるようだ。


「このワインはね、ちょっと個性的なワインなんだ。

 胡椒や八角っていったスパイシーな香りがする葡萄で造ったワインでね、今日のカレーは胡椒が効いたルーを使用するから、よく合うと思うんだよぉ」


「カレーに合わせて選んだってことか?」


「その通りだよ、厨二君」


 ふふんと鼻を鳴らし、

「今回、すべての材料はこのワインのためにあったのだよっ!

 特に今回のコカトリスの肉は、獣の香りが強いから、このワインはとにかく似合うよ」

 満足げにうなづいている。


「そこまで大掛かりだったのか」


 呆れ顔でガンディアは呟くが、確かに空気に触れると酸味がとれ、味が丸くなっていく。

 さらに香りにも変化がある。

 先ほどまではフレッシュな香りだったものが、今は革の香りが鼻腔の奥に漂っている。


「……あ、確かに。肉の臭みがすごく丸くなって、ワインの香りが深くなったな」


 いつの間にか焼いていたコカトリスの肉をガンディアは頬張り、飲み込んだ。


「ちょ、お前だけ食うなよ」


 木に刺し焼いたコカトリスの肉は淡白な見た目と違い、綺麗な焦げ目とともに、てらてらと脂がにじんでいる。

 香りを嗅ごうと鼻を近づけると、獣臭さと一緒に煙の香りに気が付いた。

 どうやら刺した枝が焦げ、それが肉にまとわりついたようだ。

 だがそれは煙く臭い香りではなく、甘い匂いだ。


「メイプルの燻製に似た香りだな……」


 ひと口噛み切ると、じわりとジビエ独特の臭みのある脂が広がるが、さらに鼻の奥にスモーキーな甘い香りが漂ってくる。そこへワインを飲み込むと、脂をきれいに流しながらも、このコカトリスの獣臭さがいいアクセントになっている。

 ワインの果実味が引き立っているのはもちろん、コカトリスの肉をさらに美味しい肉へと変化させ、それは旨味が増したと言ってもいい。

 さらにこのスモーキーなフレーバーがより肉の甘みを引き立て、樽熟成のワインの雰囲気ともぴったりマッチしたではないか!!!


「なにこのドンピシャ加減……」


 肉とグラスを見つめる至を置いて、焼きあがったところから頬張り続ける2人は、すでにワイン3杯目となっている。


「美味しすぎますわ、イタル様っ!」


「ヒューマン、すごいぞ、これはすごいぞっ!」


 残しておこうと言っていた肉をナイフで切り取り、ガンディアは次々枝に刺して焼いていく。

 彼らはどうしてこれほど味に深みが増し、美味しく感じるかなどおかまいましだ。

 ただウマイから食べ、ウマイから飲む!

 彼らの食べっぷり、飲みっぷりを見つめながら、至は改めて、これがしたかったんだ! そう思い、注ぎ足そうとした時、もうボトルが空である。今回面倒だからと6本入り1箱持ってきたのだが、すでに3本目も半分はなくなっている。


「ちょ、厨二もスルニスも飲みすぎたらカレー食べれないぞ?」


「イタル様、大丈夫です、大丈夫っ」


「ヒューマン、カレーは飲み物なんだろぉ?」


 2人の色白の頬が真っ赤だ。

 茹で上がったんじゃないかと思うぐらいの、赤さだ。

 よく見ると目も充血気味。間違いなく、酔っ払っている。


「お前ら飲みすぎだぞ」


 ボトルを取り上げようと腕を伸ばすが、やはりエルフ。腕が長い。身長も高い。

 至では届かないのをからかうように自身の眼前でワインを注ぎ、飲み干していく。


「そんな固いこと言わず、もっと飲みましょうよっ!」


 腕を絡めてくるスルニスはローブがなくなったため、より肉厚な胸を感じ取ることができた。

 クラゲが海を泳ぐ姿のように、たゆんたゆんと腕に寄せられ、これは夢なのではと思ってみるが、頬に熱を感じる。


「火傷すんだろ、厨二っ!」


 振り払うが、頬に突き立てられたコカトリスの肉はいい脂がにじみ、美味しそうだ。


「ヒューマン、肉が焼けたんだ」


「だからって顔につけなくていいだろっ!!!!!」


「今が一番美味しい。食え」


 無理やり口へと突っ込まれ、抗議の声をあげようにもあげられない。

 熱々の歯ごたえのある肉を噛み締めながら、確かにちょうどいい焼き加減だと至は思った。

 表面はカリッと、ひと口噛むごとに旨味の肉汁が染み出してくる。枝の焦げ加減もいいようで、このフレーバーがあるからこその、この肉の味と感じてしまうほどだ。塩と胡椒しか振っていないコカトリスの肉が、これほど高級な地鶏へと変化するとは、至自身も思っていなかった。

 だが何よりもガンディアの肉を焼く技術がかなり優れているのかもしれない。

 ひと口サイズに肉を切り刻みながら肉のスジを外し、さらに焼き上がりを考慮して肉を刺している。

 また枝を回しながら焼くことで、焼きムラをなくし、焚き火の火加減は小枝で調整するなど、真っ赤な顔で目も半分しか開いていないのに、素晴らしい集中力だ。


「火を見ていると落ち着くんだ……」


 唐突な独り語りを始めたガンディアに至は表情で何事かと訴えるが、彼の視線は火に落ちたままだ。


「よく、父と野宿をしたんだ」


 意外にも、哀愁のある言葉から始まった。

 つい、『闇の中の俺が火から炙り出される』とでもいうんじゃないかと至は少しビクついていた。

 その怯えに気づかぬまま、ガンディアは言葉をつないでいく。


「父と、そう、こうやって火を焚き、囲み、その日に獲った肉を頬張った……

 あの頃は何のしがらみもなく、私は自由だった……」


 自由だったんだ。そう言ったガンディアの瞳は少し潤んでいるように見える。

 国を治めるというのは、やはり並大抵の責任感ではないのだろう。


「……厨二…」


 何の言葉をかけたらいいかはわからなかったが、それでも声をかけたかった至はガンディアの肩に手を伸ばした。

 が、それが彼の肩に届くことはなかった。


「ヒューマン、肉を食え。大きくなれんぞ」


 枝が渡された。

 さらに肉である。そう、肉。


 肉。肉。ワイン。肉……ワイン……肉………


 延々と続くかもしれない、このコカトリスの肉祭り!!!!

 さぁ、彼らの胃袋はどうなる!?

 まだカレーは完成していない。本当に飲み物になるのか??


 次回、「カレーは食べ物です!」ご期待ください。

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