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1話:ここをキャンプ地とする!

 砂利道を走る感覚はいつぶりだろう。

 どこの道も舗装だけだと思っていたが、やはりキャンプ場に続く道は舗装されていないようだ。

 車1台走れる程度の土の道だ。細い窪みが幾重にも重なっていることから、自転車の通行も多い道なのだろうか。

 右手には山並みをかたどるように太い広葉樹が並び、土の隙間を埋めるように赤い木の実のなる小ぶりの植物が鬱蒼と茂っている。

 左手には先ほどから大きな湖が太い樹木の間からのぞき、初夏の今日の日差しを受けて、宝石でも散りばめたように、白く美しい光が舞っている。

 フロントガラス越しの空は細い雲が泳ぐ、澄んだ空だ。


 窓を開けて半分体を乗り出してみる。

 思ったよりも気温は低く、カラッとしていて、尚且つ空気がうまい。


「やっぱ、街ん中って汚いんだなぁ」


 自然のありがたみを肌で感じながら、彼は呟いた。

 砂埃を巻き上げながら走る彼の車は、さらに奥へと進むが、正直不安でいっぱいだ。

 初めての1人キャンプ。

 大人だからと金にモノを言わせて、軽自動車ではあるが、車高が高めの燃費のいい四駆をキャンプ仕様に改造し、意気揚々と走ってきた。

 心配性なのが悪いのか、もうすぐキャンプ場だと思っていたのだが、なかなか目的の場所が見えてこないせいで焦りが出て来る。これがよく言う「農家の隣は数キロ先」みたいなものだろうか?


「……ほんと、たどり着かない……道間違えたかな?」


 思い返してみるが、ずっと一本道だった。間違えようがない。

 ナビに合わせて看板を曲がった時には「しばらく直線です」と喋ったきり、無言である。


 ………無言?!


 近くまで来れば「目的地周辺です」など喋るはずだ。だが、周辺にも来ていないといことになる。

 慌ててナビを見ると、赤い矢印が中央に浮いている。

 それだけ。


 一度車を停めて操作しようとするが、拡大しようが縮小しようが、何も出てこない。

 真っ黒な画面のみである。


「こんな時に壊れるなよっ」


 焦りながらスマートフォンを操作しようとするが、これも圏外である。


「……は?

 はぁ?! マジでありえないんですけどっ」


 車の中で怒鳴ってみるがナビでの解決は難しいだろう。

 彼は携帯を放り投げ、ガソリンの減り具合を確認するが、キャンプ場手前のガソリンスタンドで入れただけある。目視する限り、ガソリンのメモリはまだ1メモリしか減っていない。

 これだけでも少し心に余裕ができた。


「……少し広めの場所でUターンするか。……はぁ、情けない」


 彼は小さくため息を落とすも、ここの景色の素晴らしさに感動していた。

 音楽を消したことで初めて聞こえた外の音が本当に新鮮だったのだ。


 さざ波のように走る葉音、あちこちで響く小鳥のさえずり、土を削るタイヤの音———

 

 どれも街のなかでは感じられない世界で、そして美しい景色だ。


「2時間ドライブも悪くないな」


 喋る相手などいないため、自身に語るしかないのだが、心からそう思った。

 正直、休日にわざわざ外へ行き、アウトドアをする人間の気持ちが全くわからなかった。

 ただの好奇心と、ちょっとしたきっかけで、自分はここまで来てしまったが、全く後悔はない。

 むしろ、なぜ今までこういった休日の過ごし方をしなかったのだろうと思うほどだ。


「……どっかいい場所ないかなぁ」


 実は彼は大きなキャンプ場よりも、この辺りで一泊できないかと考えはじめていた。

 調べたところによると、キャンプ場は広い野原のような場所で、水道、トイレが完備とはあったが、ネットで見た限りでは景観的にはそれほど良いとは思えなかった。


 しかしここならどうだろう。

 街灯もないし、ましてや人影もない。

 だいたい自分は車中泊ができるカスタムをしてある。携帯トイレも準備しているし、男であるので尿ぐらいはどうにかなる。


 のろのろと進ませていくと、空間が広くなった。

 ちょうど木々もなく、ぽっかりと空いている。


 水辺の方へ車を進ませていくと、焚き火のあとが見えた。

 彼は車から降り、焚き火の炭に手をかざし、


「まだ温かい」


 立ち上がりあたりを見渡した。


「近くに人がいるはずだけど」


 さらに注意深く周りを見渡すと、切り株がいくつもあるのがわかった。

 なるほど。ここを宿泊地とできるように拓いたに違いない。


 彼は高らかに宣言した。


「ここを、キャンプ地とするっ!」


 宣言はできたが、彼が夕飯までたどり着くのは、長く険しい道のりが待っていた───


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