なんでこうなるの
温かいその場所は・・・。
そこには……自転車は無かった。
「来たね」
背の高い男の人が、勝手口の側に立っていた。
「……誰?」
「桑南高校3年の山岡誠二って言ったらわかる?」
「えっ? ……山岡君のお兄さんなんですか?」
「ううん、本人」
「はぁ?!!」
目の前にいる男の人は、どう見ても社会人に見えるんですけど。
スーツ着てるし、身体つきもがっしりしてるし。
どういうこと?
また、足がガクガクしてくる。
「す、すいませんけど……」
「今はね、西暦2019年4月4日」
その人は、由紀恵が尋ねる前に答えてくれた。
本当に……山岡君……なの?
ちょっと待て。
2019年っていったら……
通り過ぎてるじゃないのぉーーーーっ!!
「……過ぎてる。……2年」
「うん、君には残念だろうけど、ここは2017年じゃないんだ。予定より、2年未来ということになるね」
「みっ、未来ぃー?!」
ふらついた由紀恵を、山岡君もどきが支えてくれる。
「ちょっと座ろう。庭にベンチがあるから」
そう言って連れて行ってくれたのは、南側の庭にある見慣れないベンチだった。
「こんなのなかった。あの、ここ、ここは、うちのおばあちゃんの家ですよね?」
「そうだよ、座って。震えてるじゃないか」
山岡君は由紀恵をベンチに座らせて、背中を優しくさすってくれた。
……違う。
おばあちゃんの病院で、私の背中を叩いてくれた、ぎこちない動きじゃない。
なんか慣れてる……嫌だっ。
「あのっ、背中、もういいです」
「あ、ごめん。つい」
つい、何だよ。
……山岡君、こんな手馴れた大人になっちゃって。
18歳の山岡君の方がいいよー!
なんか怒ったら、落ち着いてきた。
「えっと、二十歳の山岡君、あの……」
「僕は二十歳じゃないよ。25歳。この時代の遠坂由紀恵さんは、二十歳だけどね」
「えっ?……でも……」
「覚えてる? 君が中一、13歳の時代に僕は18歳だったんだからね」
「……あっ、そうか」
なんか、ややこしい。
「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」
「うん」
「どうして山岡君はここにいたんですか?」
「それは、君に聞いたから。……今の君じゃなくて、未来の君にね」
「なぜ?」
「それは、この写真を渡して欲しいと頼まれたからさ」
「写真?」
「このリュックサックに必要なものと一緒に入ってる」
「……必要な……もの?」
「そう。未来を知り過ぎたらよくないと思うんだ。これからの行動が縛られるからね。このまま帰った方がいい。……もう、時の段差をスライドするやり方は、判ったんだろう?」
「時の段差……そう言ったんですね。私が……」
山岡君にそう言われてなるほどと思った。
さっきの、あの段差を踏み外したようなヒヤッとした感じ。
時の段差……か。
「今度は、帰れるんですね」
「そうだね、やることをやったらね」
「えっ?」
「帰ったらわかるよ」
「はぁ……」
リュックを受け取り、その中にここまで持って来た夏服と食料袋も入れる。ベンチから立ち上がると、由紀恵は25歳の山岡君にお礼を言った。
「あの、いろいろとありがとうございました! 二十歳の私にもよろしくお伝えください」
「ああ」
ん?
なんか変な挨拶。
リュックを背負った由紀恵は、今朝ここに来る時にやったみたいに一旦すべてリセットした後で、東の勝手口の前で自転車を止める格好をして、蔵の鍵を開け、そこに入る前に後ろを振り返った。
25歳の山岡君が、心配そうに母屋の角から由紀恵を見ている。
親切なのは、変わってないのね。
由紀恵はにっこりと笑って、山岡君に手を振ると……ゆっくりと、蔵の戸を閉めた。
やっと帰れる・・のか。