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入試

いよいよ本番です。

年末年始は最後の追い込みで、お正月どころではなかった。


1月の13日と14日にある大学入試センター試験に向けて、誠二くんもお正月休み返上で由紀恵に付き合ってくれた。


「なんか懐かしい、5年前を思い出すよ。受験勉強の休憩時間になると、君はどうしたんだろう、元の時代へ帰れたのかなぁなんて、何度も思い出していたからね。そんな君と一緒にセンターの勉強をしてるなんて、どうも変な感じだ」


「あの時、雪の降る中で山岡君に出会わなかったら、私達全然違う人生を歩いていたかもしれないね。そう考えると不思議だな」


「後悔してる?」


「まさか。毎日が充実してるし、最近は受験さえ楽しいと思えるようになってきた」


「おおーっ、余裕だねぇ。12月の模試の判定がやっとBになったからか?」


「へへっ、Aじゃなかったけどね。でもBなんて初めてだもん。島田先生もびっくりしてた」


「数学は一度基礎ができると点を取りやすいからね、特にⅠAは。由紀ちゃんは受験科目を3教科に絞ってきたから強いかもしれない。なんとかこの調子で頑張ろう!」


「うんっ!」




センター試験は土日だったので、山岡君が恵子と由紀恵を入試会場になっている大学まで、車で送ってくれた。


試験会場である安達(あだち)国立大学の入り口を入ったところに、うちの高校の人たちが集まっていた。

真剣な顔をした島田先生が、皆と握手をして、最後の注意事項を言いながら励ましている。


「いよいよだね、恵子」


「うん、でも私は由紀恵と一緒にセンターが受けられるのが嬉しい。もし二人とも第一希望に受かったら、地元だし、ずっと会えるでしょ?」


恵子は試験会場になっている安達国立大学の文学部を受ける。

図書館司書になりたいと言っていた。


恵子と私、二人の夢が叶うといいな……



島田先生の前が空いたので、私達も握手してもらいに行った。


「名前と受験番号を書いたか確認しろよ。最後にマークシートの塗りつぶしの見直し。わかってるな!」


「「はい!」」


「遠坂は、問題番号と記入欄が合ってるかちゃんと見とけよっ」


「わかってるって、11月の模試みたいなヘマはしないから」


「お前は……うっかりが心配なんだよなぁ」


「け……長峰のほうは緊張し過ぎないこと。トイレはちゃんと行っとけっ」


「失礼なっ。セクハラだよ、先生」


島田先生は笑いながら、私達の頭をポンッと叩いた。



私達が試験を受ける場所は階段教室の大きな部屋だった。


恵子とは受験番号が近かったので、同じ列だった。私が前の方で、恵子は七人ほど後ろの席だ。

恵子が言うこともわかる。

近くに知り合いがいるというだけで心強い。


会場には高校の制服を着ている人だけではなく、一般の社会人や浪人生の人たちもいた。

真ん中の辺りに座っている髪が真っ白になったおじいさんは、若い人たちが多いこの教室の中で、とても目立っていた。


うわぁ、あんなに歳がいっている人も受けるんだ。

……頑張らなくちゃ。



「それでは、始めて下さい。」


シンと空気が張り詰めている静まり返った教室に響いた試験管の声で、皆が一斉に問題用紙を開いた。そしてすぐに鉛筆の音が聞こえだした。


由紀恵は胸がドキドキして、一瞬、武者震いをおぼえたが、一問目を見た時に「できる!」と思えたのが良かった。

後は集中して問題を解くことが出来た。



一時間目の地理は由紀恵の選択科目ではなかったので、まだ気楽に受けることが出来た。

勝負は二時間目の国語と三時間目の英語だ。

国語は古文の問題が見たことのある文章だったので「やった!」という高揚感を押さえるのが難しいほどだった。


11月の模試を失敗してくさっている時に、誠二くんの家にあった古文の本をパラパラと読んだことがある。

たぶんお義母さんが若い頃に読んだものだったのだろう。

その内容について、お義母さんと話をしたことを思い出す。



二時間目が終わって、恵子と話した時にその事を言うと、いいなぁと羨ましがられた。


恵子は地理の計算問題が心配だとは言っていたが、他はまずまず出来たようだ。


後は英語だ。


英語はこの夏からの付け焼刃なのでドキドキする。

長文の解き方のコツをだいぶ誠二くんに教えてもらった。


休み時間には、軽く単語の復習だけをして試験に挑む。



長文の一つが難しかった。

出来たかどうかわからない。

一応全部の問いにマーキングはしたのだけれど……


帰りに誠二くんの車に乗ってから恵子と答え合わせをしたのだが、二人の答えが違うのが、最後の問題だけで三問もあった。


「答え合わせは明日にした方がいいよ。どうせ学校でやるんだろ? 終わった英語よりも、明日の数学だよ。恵子さんの場合は生物の暗記をやっときな」


「はーい」


「わかりました」


先輩のアドバイスを受けて、頭を切り替える。

後、残り一日だ。


笑っても泣いても明日が最後。

もうひと頑張りだ。





**********





センター試験が終わって、学校で答え合わせをした結果がでた。


桜花(おうか)女子短大の試験をセンター利用のA日程で出せるかも知れないと島田先生に言われた。

それが出来るのだったら、県立短大の前期日程の小論文と面接の準備にすべての力を注げる。


お母さんたちと相談して、A日程で出してもらった。

ダメでも一般を受け直せばいいしね。

センター利用だと桜花は点数の良い二教科を選考基準にしているので、国語と数学で出してもらった。



学校で面接の試験をしてもらったら、先生たちに笑うぐらい上出来だと言われた。


三年間の演劇部活動の成果が出ているようで、姿勢も話の受け答えや声の明瞭、活舌どれをとっても心配ないらしい。

島田先生には、天然を出してウケだけはとるなというおかしなアドバイスを受けた。


小論文の方も心配ないと誠二くんに言われている。

言葉を変えて最後の一字まで書くことなどはお手の物なので、お終いの頃は漢字の復習ばかりをしていた。



そんな中、桜花女子短大のA日程の合格がわかった。


嬉しい。

嬉しいが、どこかしみじみした嬉しさだ。


これで幼児教育の勉強ができる。

「夢へ一歩踏み出したぞ」と心がじわじわと熱くなった。



2月25日の日曜日、県立大学の前期日程の試験があった。


昨日、近所の氏神様に誠二くんと二人で参って来た。


なにか神様が側に立って「大丈夫よ、最後まで頑張って」と励ましてくれているような気がした。 



面接では志望動機を聞かれた。


「祖母の家を片付けに行った時に一冊の本に出合って、子どもを育てる仕事をしたいと思うようになったからです」


そう簡潔に話したら、女の先生に本の名前を聞かれた。

由紀恵が本の題名を答えると、頷かれていた。

有名な本だったんだろうか?


自分の得意なことも聞かれた。


演劇部だったのでパペットの人形劇の本を買って読んでいることを伝えた。


「本が好きなので、読み聞かせの仕方も勉強したい」と言うと、目の前にいた眼鏡の男の先生が頷いて、何か書類に書いていた。



小論文の方は予想の範囲内の出題だったので、書けた……と思う。

最後に誤字と脱字のチェックをした。



外に出て、学校に近いコンビニで誠二くんにメールをすると、近くで待ってくれていたようで直ぐに迎えに来てくれた。


「あーーーっ、終わった。ベストは尽くせたと思う。心配は、センターの英語だけだね。信じられないことに数学は出来てたからねぇ」


「そうだな、書いてる欄を間違えてなかったらね」


「もぉー、誠二くんもそれを言う? 島田先生もそればっかり言うんだよ」


「先生がそれを言うという事は、結構いいとこまでいってんじゃないの?」


「はぁー、それだったらいいんだけど……でも、どっちにしてもこれからは幼児教育の勉強の事だけを考えられるからいいや。数学は、もーたくさん、二度とやりたくない」


「ハハッ、それだけじゃなくて僕のことも考えてよ。6年も待ってたんだからね」


「……ありがとう、ずっと待っててくれて」


「ん、待つ価値のある人だよ、君は」


おおーーーーっ!

誠二くん、ズキュンときました。

今のセリフ、もう一度プリーズ。



車は、由紀恵の実家に向かっている。

実家に住むのもあと少しだ。


3月1日には卒業式。

3月6日の合格発表の日には、もうおばあちゃんの家に住んでいる。


これからずっと一緒にいられるんだね。


夜になっても帰らなくていいんだね。


お疲れ様。ゆっくりしてね。

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