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まずはやってみよう

挑戦かな・・。

翌朝、由紀恵が生ゴミを出しに行って、その後で庭の草取りをしていたら、達樹が眠そうな顔をして帰って来た。


「アネキ、何やってんの? 珍しい……雪が降るんじゃね?」


……………………


達樹は見た目はお父さんに似てるけど、中身は完璧にお母さんだね。

同じこと言ってる。


「達樹も手伝ってよ。ここの角までやっときたいの」


「えーー、しょうがないなあ。なら、昼飯作ってよ」


「はいはい、冷やし中華だけどいい?」


「おー、いいじゃん」


達樹が手伝ってくれたおかげで、あっという間に草取りが終わった。

掃除だと思ったらめんどくさいけど、土いじりだと思ったら楽しいね。


草を取りながら、達樹が歌ったカラオケの歌の話とか、おばあちゃんちを私が買おうと思っている話なんかをした。


「アネキもそんなこと考える年になったのか」


「うん、でも今まで、ドラマや映画を見たり、本を読んだりすることしかしてなかったんだよね。でもこれからは勉強を頑張らないと駄目みたい。今日はこの後、本屋に行ってこようかと思ってるんだ」


「ひぇー、マジ? だらだらしてた夏休みが一変してるじゃん」


「へへ、だよね。目標が出来ると、なんか楽しくなった。そうか、ということは、今までの目標って漠然と考えてただけで、本気じゃなかったのかも?」


「目標ねぇ……」


「達樹もなんか考えてみたら?」


「ま、ぼちぼちそのうちにね」




大きな本屋に行きたかったので大賀(おおか)市まで電車で行って、ついでに学校に寄って、桜花(おうか)女子短大の募集要項も貰って来た。

お母さんが言っていたので、ここも検討しておいた方がいいだろう。


城下(しろした)にある商店街の行きつけの本屋さんに行こうと思って路面電車に乗ると、夏休みだからなのか家族連れがたくさん乗っていた。

大賀市は地方都市ではあるが、旅行ブームなのか最近は外人さんの姿をよく見かける。


由紀恵の前にいた白人女性が、隣の旦那さんにキャッスルがどうのこうのと話しながら窓の外を気にしているようだった。

声をかけたほうが、いいのかな?

城下の駅に着いた時に、由紀恵が「ここで降りたほうがいいですよ」と教えてあげたら、外人さんはとても喜んでくれた。


ふー、英語の勉強というのはたぶんこういう時のためにあるんだね。



本屋に入り、最初に幼児教育のコーナーに行くと、幼稚園や保育園の先生用の雑誌などがたくさん並んでいた。

可愛い! なんだかワクワクする。


その中に「パペット、手作り人形劇の作り方」という本があった。

わー、これは演劇部の経験を生かせるかも。

中をパラパラと見ていると、先生がパペットを手にして演じている写真があって、子ども達がキラキラした目で人形劇を見ている。後ろの方には脚本も何話かあって、中身もなかなか充実していた。


これは買いだね。


次に、園芸本のあるところで、庭の草花や植木の手入れがわかる本を一冊買った。

花の名前はおばあちゃんによく教えてもらっていたけど、桜の木やサツキなどの手入れ方法がわからない。


こういうこともこれから勉強していかないといけないな。


最後に……料理の本が置いてあるコーナーにやって来た。

ここに来たという事は、由紀恵も少しは結婚を意識しているのかもしれない。


一人暮らしでも料理は覚えとかなくちゃ困るもんねー


ここ何日か出来合いのお弁当と野菜のまるかじりばかりだったし、少しは料理が出来ないと。


ブツブツとそんな言い訳をしていた、がしかし、一人暮らしの料理本じゃなくて、なぜか、二人分のレシピが載っている、初心者向けの本を買ってしまった……



結婚か。

結婚生活って、ご飯を一緒に食べるだけじゃないよね。


うーん、どうしよう。





**********





恵子にメールをしたら、家に来てもいいというので、由紀恵は昨日に引き続き、恵子の家に寄ることにした。


けれど家の前まで来てみたら、見たことがない車が止まっていた。

お客さんが来てるのかなぁ。

もう一度確認のメールをすると、恵子が玄関まで出て来てくれた。


「入って。由紀恵には話そうと思ってたから、丁度いいの」


「何の話?」


「まあまあ、入ってからのお楽しみ」


恵子の部屋に入ると、そこには、予想外の人物が由紀恵を待ち構えていた。



「島田先生? 今日は、家庭訪問だったの?!」


なぜか由紀恵たちの担任の島田先生が、すっかりとくつろいだ格好で部屋の中に座っている。

由紀恵が叫んだので、二人ともどっと笑いだした。


「いいキャラしてるな遠坂は」


「でしょう? 側で見てると飽きないのよぉ」


「これって、どういうことぉーーー??」


家庭訪問じゃなかったら、なんなんだ?


「実は内緒にしてたけど、私たち付き合ってるの」


「はっ?!」


恵子の言葉に、由紀恵は目が点になる。


「ええっ? 恵子の片思いだって、言ってたじゃん!」


「最初はね。でも……この夏から付き合うことになっちゃったのよ。由紀恵に言いにくくて……報告が遅くなって、ごめん!」


そうだったのか。

それは教師と生徒の関係だし、まずいことに島田先生はうちらの担任でもある。

バレだら、PTAだの教育委員会だのが(うるさ)そう。


「はあーーっ……これ、おめでとうって言っていいのか、どうなのか……なんか混乱」


「私が卒業するまでは、(おおやけ)に出来ないの。なんせ担任だし」


「だよねー。はいはい、みんなには黙っとく。しかし、泣く子が多いよ。島田先生狙いは多かったからねー」


「おっ、俺は陰でそんなにモテてたのか?」


幸次(こうじ)ーーっ!」


「冗談だよ。冗談」


うわぁー、先生を呼び捨てなんだー。

本当に付き合ってるんだね、驚きっ。



3人でお茶を飲みながら話をしていると、由紀恵の進路変更の話題になった。


「桜花女子短か。あそこは県短とは違って、国語と英語の配点が多いからなぁ。遠坂は国語だけは出来るから、そこは気にしなくていい。ただ問題は英語の得点だなぁ。それに県立短大の方は数学と英語のレベルがケタ違いだぞ。つまり、これからの課題は数学と英語、この二教科の攻略がどこまでできるかだな」


思わぬところで担任から進路指導を受けてしまった。



アッコとカッちゃん、それに恵子、由紀恵の周りにいる友達には、今まで男の人と付き合っている人がいなかった。だから男女交際なんて、遠くの方で起こっている出来事みたいで、現実感がまるでなかった。


でも今、目の前で繰り広げられている光景は、現実のものだ。


恵子と島田先生、二人の親密な様子をぼんやりと見ながら、由紀恵は色々と考えを巡らせていた。


この二人より完全に糖度は低めだけど、山岡君と私も、知らない人から見たらお付き合いしているように見えるのかもしれない。


お互い何でも話せるし、信頼もしている。


でも私は、恵子が島田先生のことを好きだったみたいに、山岡君を好きな感じはしないなぁ。

頼りになる親戚のお兄さんな感じなんだよね、山岡君って。


ふーむ、男女交際ってやっぱり難しそう。





**********





ずっと一緒にいるのもお邪魔なのかなと気をつかって、由紀恵はいつもより早めに家に帰って来た。


こうやって恵子に彼ができたら、これからはなかなか一緒に遊べなくなるのかなぁ。


あ、そうか。

これからは遊びより勉強なんだから、これって丁度いいのか。


よおっし!

気合を入れて英語の宿題から取り組むことにしましょうか。



由紀恵は今までのやり方とは違って、ただやっつけ仕事の答えの穴埋めをしていくのではなく、自分が覚えていない所にマーカーを引いていき、何度も繰り返して頭の中に叩き込んでいった。


今日、実際に英語を使ってみて感じた不安感を、どうしたらなくせるのかな?

この構文やイディオムは使える?

もっと外人と話したい時には、どんな単語を覚えていったらいいんだろう?


自ら考えて勉強していくと、いつもの宿題が違った代物に見えてくる。


なんだ、勉強って、面白いじゃん!



集中することに疲れたら、ベッドに寝転んで、買ってきた本を読んで気分転換をした。



けど次に数学をやり始めると、途端につまずいた。


どの公式を使って解けばいいのか、さっぱりわからない。

これは……基本問題ばかりの問題集から始めないと、どーにもならないわ。


役者には数学はいらないと信じ込んでたから、今までちっとも身を入れてやってこなかった。

これって、高校入試の時点で記憶がストップしてるかも……


島田先生が、県短は難しいって言うはずだよ。




夕食は、野菜炒めを一人で作らせてもらうことにした。


買ってきた料理本を読んでみたら、野菜を切って準備しておくことと、火加減と、だしを入れたりする隠し味がポイントだと書いてあった。

やってみたら、意外とうまく出来たような気がする。


お父さんは「美味しいよ」と言ってくれたが、達樹には「塩が足りない」と言われた。

やれやれ、料理も勉強と同じで、一朝一夕にはいかないね。



とにかく続けることだ。

「継続は力なり」って、誰かが言っていたような気がする。


毎日の積み重ねだよねー



でも……数学。

こいつは、どうしたらいいんだろう?

由紀恵、頑張っていますね。

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