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方向

どんな方向に進むのでしょうか。

おばあちゃんの家を残す方向に一歩進んだ。

と思っていたけれど、なんだか話の方向が変わってきた。


今日は、お父さんが珍しく早く帰って来た。


お母さんは早速、私がプロポーズをされたというビッグニュースを話して聞かせて、お父さんを驚かせてやろうと思ったらしい。

夕食の時に、家の話をするよりも先に、今日、私がプロポーズをされたことを話し出してしまった。


「今日ねぇ、由紀恵ったらプロポーズをされたんだってよ!」


「ほー、そうか。えらく早いな」


しかしお母さんの思惑は外れて、お父さんは淡々とその話題を受け止めているようだ。

むしろ、由紀恵が手伝った煮物が気になるのか、変な顔をして食べている。


「えーっ、なんで驚かないのよっ。リアクション、それだけぇ?!」


残念だったね、お母さん。

うちのお父さんは、こういう人だよ。


「お母さんお母さん、そんなことより家の話をしてよ」


「そんなことってあなた……もーやだ、この二人。そういえば達樹はどこに行ったのよ」


「フミくんたちとカラオケだって。今日は向こうに泊まるらしいよ」


「受験生なのに?!」


「だよねー、でも私も、もしかしたら受験生をするかも。今日、県立短大の幼児教育科の募集要項を貰って来てみたの。だけど進学しないで就職した方が、早くおばあちゃんちを買えるかなぁ」


由紀恵がそう言うと、お母さんは酷く驚いたようだった。

お父さんの箸も止まって、由紀恵の方を注視している。


「ちょっと何なのよ、それ。そんな話は、お母さん、聞いてないわよ」


「うん、だから今言ってるじゃない。まだ何にも決まってないの。就職も県短もどっちも厳しいって、今日、島田先生に言われた」


お父さんは、何かを考えているようだった。


「由紀恵は東京の専門学校に行かせてくれと言ってなかったか?」


「うん。お父さんたちには嘘ついてたけど、本当は役者になろうと思ってたの」


「なんだ、そんなこと考えてたのか。それで急に方向が変わったのは、そのプロポーズをしたという彼が出来たからか?」


「違う。今朝、おばあちゃんちに行ってみて、あの家や庭を残したいと思ったの。それで、子どもを育てる仕事の方が役者より面白そうだと思ったんだよね。だからそう考えたのは、山岡君には関係ない」


「役者を目指していたというのも、引っかかるが、そこから家を買ったり、子育てをしたりする方向に舵を切るのは、えらく方向転換しているように見えるぞ。お父さんたちが彼氏の影響なのかと疑うのも、仕方がないだろ?」


「ああ、そういうことね。本を読んだの。おばあちゃんちの二階にあった本を読んで、自分の考え方の狭さに気が付いたんだよね。パーッと違う方向が見えたっていうか……想像上の舞台の中にあるドラマより、日常のドラマのほうが実がある感じがした。なんか先祖や、子孫や、そんなものを繋いでいく一員になりたいなと思ったの」


「そうか……青春時代にいい本をたくさん読むのはいいことだ。そういう本に影響されて自分の生き方を見つめ直すのもな。けどなぁ……島田先生じゃないけど、高三の夏に方向転換をするのはキツイぞ」


「そうねぇ、県短はレベルが高いでしょ? 桜花(おうか)女子短大にしたら? 私立で学費が高いけど、短大の二年間だったら、何とかなるんじゃないかしら?」


お母さんは、由紀恵が考えていなかった学校を提案してきた。

私立か……学費が高いから、そんな所に入ったら、家が変えなくなるんじゃないかな?


「うーん……山岡君が、県短ならお金がかからないから、家を買った後で二人でローンを払っていけるって言ったから、県短を考えてみたんだけど……」


「その山岡君っていうのは誰だい?」


「そうか、お父さんには詳しい話をしてなかったね」


由紀恵は山岡君の事、今日、二人で話したことなどをお父さんに話した。



「なるほど、今年23歳になる子か。どこに勤めてるんだ?」


「知らない。聞いてなかった」


「まぁ、呆れた。学歴や勤め先は聞くでしょ、普通」


「学校は知ってるよ。桑南(そうなん)高校から安達(あだち)国立大学に行ったんだって」


「そりゃあすごいな。お家の事とか兄弟のことは知ってるのか?」


「家はマルヨシの三軒先の洋風の家。兄弟は男ばかり三人の真ん中。お兄さんは大阪の大学を出てて、一番下の弟はうちの高校の、私の二つ上の先輩っていうのは知ってる」


「マルヨシの近くの家の山岡さんっていったら、岸蔵(きしくら)市でホテルをやってる人じゃないかしら? 私よりだいぶ年上のお兄さんだったから、よくは知らないけど。ほら、図書館の前にあるじゃない、ホテルマウンテンっていう茶色の建物」


「ああ、あれか。あそこは会社の研修で使ったことがあるな。ふーん、よさそうな話じゃないか。本人に会ってみなけりゃわからんが」


……なんかお母さんとお父さんが、山岡君の話の方で盛り上がってる。

私の将来の話はどうなったんだろう。


二人とも一度、山岡君と話がしたいと言い出して、この二、三日中にでも家の方に連れてこいと言い出した。



由紀恵は夕食の後、両親にせっつかれて、今日貰ったばかりの携帯の連絡先にメールをすることになった。


山岡君にメールをしたら、何分も経たないうちに、携帯に電話がかかってきた。


その電話もあれよあれよという間に、横にいたお母さんに取り上げられてしまった。


側で会話を聞いていると、うちの両親と山岡君の間で、明後日の水曜日に、由紀恵の家で会食をすることが決まってしまっているようだ。


……………………?


なんか、結婚の話の方が先に進んでる? 



ちょっと待ってよ、私はまだ、結婚するかどうかもまだ考えてないんだけど……


でも、考えるとは言っても、結婚ってなんじゃらほいって感じ。


どこをどう考えたらいいのかしら??

・・・由紀恵。

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