打ち明けた時の流れ
恵子のターンが続きます。
感情を吐き出して気持ちが落ち着いた由紀恵は、中三の恵子を連れておばあちゃんの家に入った。
締め切った家に特有のくすんだ臭いがしたので、台所の窓もドアも開けっ放しにする。
クーラーも扇風機も全開にしてかけて、やっと落ち着いて座ることが出来た。
リュックサックの中からコーヒーのセットを取り出し、お湯を入れると、恵子の前には砂糖の袋を二本出した。
「暑い時に熱いもので悪いけど、ここの家、冷蔵庫が動いてないのよ。ごめんね~」
「ちょっと聞いていい? なんで私がコーヒーに砂糖を二本入れるの知ってるの?」
「それは……これから話す話を聞いたら、たぶんわかってくれると思う。突拍子もない話だから最初は信じられないと思うけど、最後まで聞いて欲しいんだ」
「話は聞くつもりで来たよ。手紙の中に謎がたくさんあるんだもの」
「へっ? 何が書いてあったの?」
「自分で書いたのにそれを聞くんだ。ふぅーん、いいから話して」
熱いコーヒーをすすりながら、由紀恵はここ二、三日の体験を恵子に話した。
恵子は最初は口をはさみたそうな顔をしていたが、段々真剣になって、最後まで話を聞いてくれた。
「一応……わかった。私の役割は、その写真をおばあちゃんに見せることなのね」
「たぶん。ちょっと待って、持ってくるから」
由紀恵はリュックの口を開けて、さっき未来の恵子が入れた大きな袋を、コーヒーを飲んでいる恵子の前にドサリと出した。
「……なに、これ? 写真にしては、重たすぎない?」
「そういえばそうだねぇ」
「遠坂さんって、噂に聞いてた通りに天然だね」
「えっ? そんな噂があるの?」
「……知らなかったんだ。見た目は大人しそうな美人タイプなのに、外見サギって言われてる」
「がぁーん、ショック!」
中身も外見もひっくるめて、私は私なんだけどなー
「袋の中を確かめたいから外に出てて」と恵子に言われて、由紀恵はしぶしぶ家の外に出た。
暑いので、陰を求めて庭の桜の木陰に入ると、少しは温度が下がったような気がした。
気がするだけだけどね。
ケムシが落ちてきたら嫌だなぁと思いつつ葉陰を見上げると、桜の木が随分大きくなっているのに気づいた。
この木、私が赤ちゃんの時に植えたって言ってたな。
おばあちゃんが最初に病気になった年だ。
小さな木がこんなに大きくなるまで、おばあちゃんは病気と付き合いながら、頑張って生きて来たんだなぁ。
お母さんと敏子叔母ちゃんは、この家を売るつもりなんだ。
その売ったお金を、私たち姉弟や従兄弟の久史たちの教育資金にするつもりでいる。
この木も……無くなっちゃう。
私が今、我が家みたいに思っているこの家も。
嫌だ。無くしちゃいけない。
なんとかしなくちゃ。なんとか……ええっと、私が働いてこの家を買う!
……あれ?
待って。
未来に行った時、この家あったよね、二回とも。
なぁーんだ、売ってなかったんじゃない。
いや……それとも、未来の私が買ったのかも……?
由紀恵が考え込んでいた時に、恵子が出かける支度をして外に出て来た。
「遠坂さん。電気を切って窓を閉めて来たから、鍵だけ閉めて。これから病院に行った方がいいみたい」
病院に行くのぉ?
はぁーーー
ううぅ、行かなきゃいけないのか。
「わかった」
モヤモヤと嫌な予感が湧いてくる胸の辺りをこすりながら、由紀恵は恵子のいるところへと歩いていった。
いよいよ病院か・・・。
 




