4.写真の中のケンジ
それから一ヶ月、ケンジからは何の音沙汰もなかった。その間にケンジの部屋はすっかり空き部屋になった。家族は捜索願を出し、おれたちは警察から事情聴取を受け、知っていることはすべて正直に話した。メッセージ動画の写真の背景はハワイだそうだ。しかし、ケンジが日本を出国したという記録は見つかっていないらしい。
「おれはふと、こう思ったんだが」
居酒屋で飲んでいると、アキヒロがいつものように焼き鳥の串を手に持ったまま話し始めた。しかし今回は珍しく、少し真面目な顔つきだった。
「ケンジのやつ、もしかしたらあの写真の中に入り込んでしまったんじゃないか、とな。江戸川乱歩の小説か何かに、そんな話あっただろ」
おれはだいぶ前に読んだ『押絵と旅する男』という小説を思い出した。
「そんなことは現実にはありえないだろう。だけどさ、もしそうだとすると、あいつは本当に幸せだろうな。どうせリアルの世界じゃ、あんなカワイイ彼女なんかできっこないからな」
「ま、おれたちも人のことは言えないけどな」
アキヒロはそう言って笑った。このままじゃ、おれたち二人だけになった童貞同盟が解散する日は、当分は訪れることもなさそうだ。それにしても、ケンジはいったいどこへ行ってしまったのだろう。
その日の夜、おれは自分の部屋に戻るとパソコンを起動させて、ケンジからのメッセージ動画を久しぶりに再生してみた。すると動画の写真をみているうちに、何かちょっとした違和感を覚えた。
おれは動画をもう一度再生し、写真をじっくりと見直した。背景の空と海の様子がなんとなく前と違うような気がした。だが何よりも違うのは二人の服装だ。ケンジは前と同じく短パンとアロハシャツだが、前は黄色いアロハだったはずだ。ところが今着てるのはブルーだ。それに多部未華子の方はたしか赤いビキニと黄色いシャツで、へそを出していたはずだが、今写真に写っているのは黒のワンピースの水着とピンクのシャツで、へそは出ていない。それともおれの記憶違いだろうか。
不思議に思いながら、おれはファイルの作成年月日をチェックした。するとそこには今日から三日前の日付が書かれていた。おれは驚愕し、再び動画を再生してみた。
そこに現れた写真の中のケンジの顔は、本当に幸せそうに笑っているように見えた。




