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3.奇妙なメッセージ

 翌日からケンジは大学に姿を見せなくなった。ケータイもつながらず、メールを出しても返事は来なかい。五日目になり、とうとうおれとアキヒロは再びケンジのアパートを訪ねていった。しかし、ドアをノックしても応答はなく、アキヒロお得意の女の声音作戦も効果がなかった。

「どうやら本当にいないようだ。まさか中で孤独死してるってことはないだろうな」

 不吉なことを口走るアキヒロに、おれは冷静を装って答えた。

「いや、こんな隙間だらけの古いアパートだったら、廊下まで死臭が漂ってくるはずだから、それはないだろう。実家に帰省でもしてるんじゃないか」


 結局その日はそのまま帰るしかなかった。実家の住所も電話番号も知らないし、ケンジにはおれたちの他に親しい友人らしい友人もいなかったので、どうすることもできなかった。

 それからさらに五日が過ぎ、心配も頂点に達した頃、おれのところにケンジから手紙が届いた。あわてて封を開けてみると、中には部屋の鍵と手紙が入っていて、次のように書かれていた。


「急にいなくなって、すまなかった。実はおれは、ユリと駆け落ちをした。訳あって行き先は言えないが、おれたちは元気で幸せに暮らしている。同封の鍵でおれの部屋に入って、パソコンを立ち上げてくれ。メッセージを送っておいた。それじゃあ、元気でな。アキヒロにもよろしく伝えてくれ。お前らもはやく彼女を見つけろよ。じゃあな。ケンジより」


 差出人の住所は書かれていないし、切手もなく消印も押されていない。だれが配達したのだろうか。

 とにかくおれは急いでアキヒロを呼び出し、すぐさまケンジのアパートへ向かった。鍵でドアを開けると、部屋の中は以前と変わらずゴミだらけで、足の踏み場もない。

 座卓の上のパソコンのスイッチを入れ、ウインドウズを立ち上げると、デスクトップに「メッセージ」と書かれたファイルがあった。ファイルを開くと動画が再生された。背景はハワイかどっかのリゾート地の風景で、青い空と海を背景に、若い男女が親しげに腕を組んで並んで立っている。男の方は短パンにアロハシャツ姿だが、顔は明らかにケンジだった。そして女の方はビキニ姿で上に薄いシャツを羽織って、裾を細いウエストのところで結んでいるが、その顔はたしかに多部未華子だった。

 動画ファイルだったが、画像は写真のままで動かず、やがて波の音をBGMにして、ケンジの声のメッセージが流れはじめた。


「よう、心配かけてすまなかったな。おれたちはこのとおり、南国のリゾート地で暮らしている。おれは貧乏だがユリは金持ちのお嬢様だから、自由に使える資産をけっこう持ってるんだ。十年ぐらいは働かなくても暮らせるが、そのうち事業でも始めるよ。それじゃあ元気でな」


 動画ファイルの作成年月日は五日前になっていた。ケンジはこの動画を作成してからいなくなったのだろうか。それともこの動画を入れるために一時帰宅したのだろうか。あるいはネットを使ってよそから部屋のパソコンにファイルを送ったのだろうか。だがパソコンの電源は切れていたはずだ。不思議に思っていると、デスクトップ上に「ユリちゃん」と書かれたフォルダーがあるのに気がついた。

 フォルダーを開いてみると、そこには多部未華子の写真がたくさん入っていた。中にはケンジと一緒に写っているのもある。やがて一枚のファイルを開けて、おれは驚いた。それは多部未華子が裸で入浴している写真だった。次のファイルを開くと、そこには多部未華子が全裸で足を広げた無修正の写真があった。


 アキヒロはそれらの写真を食い入るように見ていたが、やがて首をひねりながら言った。

「うーん、この写真、ちょっと不自然だと思わないか。これは合成だな。アイコラってやつだ」

 おれは再び写真を見てみたが、たしかに顔の位置と胴体の位置の関係がちょっと不自然な気もした。だが、あの不器用なケンジにこんな高度な合成写真を作る技術があっただろうか。

 おれとアキヒロはメッセージの動画と「ユリちゃん」のフォルダをUSBメモリに移し、パソコンの電源を落として部屋に鍵をかけ、その日は帰ることにした。


 おれは持ち帰ったファイルをパソコンに詳しい友人に見てもらった。すると、写真の構図は確かに不自然なところもあるが、ファイル自体には合成した痕跡は見あたらないということだった。その日の夜、おれはテレビのドラマに多部未華子が出演しているのを見た。どうやら多部未華子が失踪したというようなうわさはないようだ。

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