第二十六話「それぞれの戦い」③
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第二十六話「それぞれの戦い」③
---Hari Eye's---
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拍手をしながら現れたのは、すらりと背の高いいわゆるカイゼル髭の中年男。
騎兵将校独特の飾りで一杯の騎兵服を着た伊達男と言った雰囲気で、なんともキザったらしい奴。
あたしは、ひと目でこいつを嫌いになった。
生理的嫌悪? いや、こいつの眼が気に食わない。
腐った魚みたいな淀んだ眼。
あたしには解る……こいつは紛れもなく悪党だった!
「いやはや、いやはや! 見事な手際な殺しだった! この城の200名もの守備兵……それをたった5人であっという間に殺し尽くすなんて、素晴らしいっ! お見事! 実にお見事だったよ……千年魔王が下僕諸君!」
「てめぇは何者だよ? その腐った魚みてぇな眼……味方な訳がないよな……それに円無斬の範囲は100mってとこ。初見であれを避けれるはずがない……どうやって見切ったんだよ?」
「円無斬」は一言で言えば瞬時に召喚されるガラス板なのだけど……。
出現位置に何があろうと、それを強引に押しのけて召喚されるのだ。
つまり、どんな鎧や防御も無効化する無敵の刃でもある。
二回目以降なら見切れるかもしれないが、初見でこれを回避する事はまず不可能……。
実際、この城で生きて動いているような奴はこいつ一人だった。
「はははっ! そう警戒しないで欲しいな。……こう見えて、私は騎士道精神って奴を実践してるのだからね。いきなり、仕掛けたりなんかしないさ! 一応、名乗らせてもらうと私は「ダスティール」……使徒「吊られた男」とも言う。君は「灰色の淑女」だな? ずいぶん若い姿のようだが……その眼光……忘れちゃいない」
……使徒って言ったのか?
エーリカ姫とかくろがねの同類って事か?
強いのは解る……魔力も半端じゃないし、隙だらけに見えて、全く隙が無い。
それに「灰色の淑女」? なにそれ……あたしの事なのか?
「悪いね……あんたの言ってることは全然解かんないわ……。いいから、そこをどけ……それかバーツの王様を出せよ。あたしらはそいつらを排除して、この王都の城門を開けさせればそれで任務完了なんだからね。別にあんたと戦う理由も無いけど、邪魔だてするってのなら斬る!」
「おやおや、つれないね……灰色の……。この国の国王や王族なら、先に私が始末しておいたよ……どうせもう用済みだ。だから、この城で生きて動いているのは私と君達だけ。一応、言っておくけど……私は君の味方なんだよ? ……どうにも毎度毎度、君には嫌われっぱなしなんだがね。しかもあの「黒の節制」のオリジンもいるって話じゃないか……あの堅物はどうにも好きになれんがね。「混沌の戦車」もこの世界に来ている……「女帝」と「ゼロ」そして、千年魔王を滅ぼすには十分すぎるメンツだと思わないか? だから、要するに私は君をともに戦う仲間として、スカウトしたいんだよ……」
何を言ってるのか全くわからない……そもそも、こいつは何なのか?
全く答えになってなかった……あたしらの味方?
なら、どうして魔王様を滅ぼすなんて、言葉が出てくるのか?
けど、そう言う事なら話は早かった!
「あんた……訳が解らないよ……使徒とか何なのさ! けど、魔王様を滅ぼすって言葉は聞き捨てならないね! そう言う事なら、てめぇはあたしらの敵だ! 問答無用で排除決定っ!」
そう言って、あたしは水晶剣を錬成すると、剣を向ける。
「おやおや……まず、そこからなのかい? 困ったね……それに後ろの娘達もやる気満々になってるじゃないか……。少しは話を聞こうって気にはならないのかい?」
「てめぇは……魔王様を滅ぼすって言った……それはあたしらにとっては宣戦布告に等しい! 魔王様の敵は全て滅ぼす……それが魔王様の剣たるあたしらの責務! 皆、フォーメーションC! 距離を取りつつ、集中攻撃!」
あたしの言葉に、皆は即座に反応して散開する!
「やれやれ……本当はこんな事したくないのだがね……。悪いけど、これは君達の軽率さの報いだと思ってくれ」
それだけ言って、奴は指をパチンと鳴らした。
やった事はそれだけだったのに……あたしの背後でドサドサと誰かが倒れる音。
恐る恐る振り返ると、4人の仲間たちが全員ピクリとも動かず倒れ伏せていた。
気絶した? いや、違う……。
ひと目見て解る……あるべくはずの魔力が完全に消滅し、コアストーンが機能停止した状態……つまり……。
「ああ……あ、あ……そ、そんな……」
そして、あたし自身の視界もぐらりと傾くと為す術無く倒れ伏せる。
何が起こったのか解らないまま、指一本動かせなくなっていた。
「な、なにが……皆に……あたしに……何をした?」
かろうじて、首から上だけは動くようだった……。
けど、まるで自分が首だけになったように、他は一切動かせなかった。
「すまないね……。後ろの4人は、先に始末させてもらったよ。私は人形遣いでもあるからね……君らへの対処なんて、お手のものなのさ。命なきものに命を与えるコアストーン……これがある限り、君達は不滅。けど、逆を言えばコアストーンを砕かれたらそこまで……。だから、彼女たちはもうただの人形……実に切ないね。彼女たちにも、人生があって、築き上げて来た思い出があり、そして輝かしい未来もあったはずなのに……」
そう言って、芝居がかった嘆くような仕草をするダスティール
「私は悲しいっ! それが儚くも、こんなにも呆気なく散ってしまった……悲しい……実に悲しいっ! ああ……実に残念だよ! 君達がもう少し聞き分けが良かったら、こんな酷い事をせずに済んだと言うのに……。けれど……それも君達自身の選択の結果……ここで果てるのも彼女たちの運命だったのだ。運命は残酷だ……そして、世界は残酷に出来ている……せめて、彼女たちの冥福でも祈るとしよう」
勝ち誇るでなく、憐れむような口調。
けれど、その表情はまるで虫けらでもいたぶるような楽しげな表情だった。
「ふ……ふざけんな……ちくしょうっ! てめぇは……絶対殺す! 確実に! 完膚無きまで殺す! 殺す! 殺す! ぜってぇに殺すっ!」
ありったけの憎しみを込めて、あたしは睨みつける。
「やれやれ…散々殺しといて、まだ殺す気なんだね…君は。なぁに、私は君と二人きりでゆっくり話がしたかっただけだ……ちゃんと加減したから、首から上くらいは動かせるだろう?」
「妹達と瑠璃ちゃん、柘榴をあんな呆気なく……絶っ対に許さないッ! なんで、動かない! あたしの身体っ! クソッタレ! 動けっ! 動けーッ!」
必死で叫ぶのだけど、あたしの身体は全く言うことを聞かない。
「ああ、その憎悪に燃える瞳……煮えたぎるような殺意……やはり、君は最高だっ! そう! そして、それが君、本来の姿だ……さぁ! 思い出すんだ……君の生き様を……! イッツァ! ショウッタイームッ! さぁ、魂の旅を楽しんできたまえ! お嬢様、よい旅を!」
またしても響き渡る、指を鳴らす音。
ダスティール……奴の言葉に、嫌が応にでもあたしの前世の記憶が呼び起こされる。
(嫌だ! やめてくれ……あんな人生……もう思い出したくもない!)
あたしの心の叫びも虚しく……まるで映画のように、過去の情景がフラッシュバックし始める。
(なんだこれ? それに……誰だ? 周囲に大勢の誰かが隣にいるような……。)
あたしの前世の物語……。
それはひとりのいわゆるストリートチルドレンの血と硝煙にまみれたほんの短い人生。
幾多の観客が見守る中、遠い世界の過ぎ去った物語が……静かに幕を開けた。
そんな訳で、本編です。
さて……黒幕「ダスティール」の登場です。
CVはじまんぐ?
そして、次回は玻璃ちゃんの過去の回。
少々胸クソ展開となりますが。
あらかじめ、ご了承下さい。




