閑話休題その2 「ロザリオ隊活動日誌1 いちご狩りレポート」②
--------------------------------------------------
閑話休題その2 「ロザリオ隊活動日誌1 いちご狩りレポート」②
---3rd Eye's---
--------------------------------------------------
さて……そのレッドボロニティクス狩りとやらに出撃したロザリオ隊はどうなったかと言うと。
出撃時には、50名もいたはずなのに、もはや20名足らずしか動けるものはいなかった。
後の30名はどうなったかと言うと……真っ赤な蜘蛛の巣に捕らわれていたり、ぐるぐる巻きになっていたりと……。
そんな調子で動けなくなっていた……幸い死者は出ていないのだけど、何と言うか死屍累々と言った有様。
相手は……全長3mはある茶色っぽい表皮に覆われた巨大な蜘蛛!
それがレッドボロニティクスと呼ばれる蜘蛛型肉食大型魔獣だった!
「カーペンター! 被害報告ッ!」
クリスがあたりの惨状を目にすると絶叫するように、カーペンターに被害報告を求める。
「はっ! 我が隊はすでに自分以外は全滅ですっ!」
人間以上の反射神経と動体視力を持つ自分達獣人ですら、レッドボロニティクスの攻撃に付いていくのがやっとなのだ。
人間族では、やはりどうにもならなかった……弾除けくらいになるかと連れてきたのだけど。
実際、弾除けにしかならなかった……やっぱ人間なんてラララにゃーと、危うくバグりそうになったクリスだけど、ギリギリで生還してきた!
「ダメじゃん! カーペンター! なんで、重装備のあんたらが真っ先にやられてるわけにゃ?」
「いや、こんなん相手なんて、自分ら聞いてないで……」
言い終わる前にカーペンターの姿が消える。
糸に簀巻にされながら、「アーッ!」なんて悲しそうな悲鳴と共に彼は華麗に宙を舞う。
カーペンター隊……全滅っ!
彼らは対魔獣戦用に棘がいっぱい付いたニードルアーマーとか、連発式連射弩と言った強力な装備を持っていたのだが、相手が悪かった! 残念っ!
「ベンジャミン! アイツに弱点とか無いの! あんたが一番詳しいんじゃないの?」
「頭をもげば、死にますにゃ!」
やたらキリッとした男前な感じでそんな当たり前な事をほざくベンジャミンを思わずクリスさんがはっ倒す!
「んなの、あったりまえだっつーの! じゃあ、私もベンジャミンの弱点潰しちゃおうっかなー! にゃははーっ!」
何か色々吹っ切れたらしく、笑いながら拳をぽきぽきと鳴らすクリス。
そこにはもう最初の頃の真面目っぽい猫軍人の姿は何処にもなかった。
「んにゃー! 某、緊迫しすぎた場を和ませようとしただけでー! そ、それだけはやめていただくのですよ! あ、クリスーッ! う、うえにゃーーっ!」
ベンジャミンの言葉に、クリスも上を見上げると、レッドボロニティクスが両手に持った糸を投げ縄のようにグルグルと振り回しながら、振り子のように迫ってくるところだった。
この脅威の三次元機動と、投げ縄のように遠心力を用いて、獲物を絡め取っていく強靭な糸。
現実世界では、ナゲナワグモと言う蜘蛛の一種が同様の方法を用いて狩りをすると言う話が知られているが……。
これによって、ロザリオ隊は為す術なく壊滅したのだった!
「しまった!」
「この場は、某に任せるのですにゃーっ!」
カッコよく親指を立てて、ニヤリと笑うとクリスの前に立ちはだかるベンジャミン。
そして、クリスとベンジャミンに二本の糸が迫る。
ベンジャミン、意味なし。
あ、これダメだ……クリスがそんな風に諦めかけた瞬間。
赤い稲妻がクリスの視界の端を過る!
「秘技! 飛燕雷神脚!」
アオイの叫びとともに猛烈な飛び蹴りがレッドボロニティクスの頭に直撃し、木っ端微塵に打ち砕く!
地面に墜落し、しばしの痙攣の後、レッドボロニティクスはキュンと丸まって動かなくなる。
そして、くるくると宙を舞ったその頭の残骸だけがポーンと地面に落ちて転がる。
残心の構えを崩さず、レッドボロニティクスを見つめていたアオイもそれを見て、構えを解くとVサインと共に勝利の笑顔を決める!
その光景を見て、一斉に歓声をあげる簀巻にされたロザリオ隊の面々!
「うん、今のは最高のタイミングの登場だったね! クリスさん、ケガはない? 皆も……一応大丈夫そうだね」
そう言って、思わずしゃがみ込んでしまったクリスに手を差し出すアオイ。
クリスも少しだけ迷いながらも、その差し出された手を握り返すと、ポッと頬を赤く染める。
クリスさん、落ちましたーっ!
「ア、アオイ様! 某、感服いたしましたぁ!」
そう言って、アオイに抱きつくベンジャミン。
「あはは、ベンジャミンもなかなかカッコよかったよ!」
そう言って、ベンジャミンを撫で回すアオイ。
「ありがたきお言葉! このベンジャミン……アオイ様に一生ついていきますぞーっ!」
ベンジャミンも陥落!
アオイ様LOVE勢が約二名ほど爆誕した瞬間だった!
さて……何でイチゴ狩りがお化け蜘蛛狩りになってしまったのか。
その理由を説明せねばなるまい。
砂糖の原料となる、グリーンザットと呼ばれる緑色の巨大アリマキの赤バージョン、レッドザット。
こちらも一応腹に糖分を蓄えているのだけど、酸味が利きすぎていて、食用にはならない。
そのレッドザットを主食とするのがレッドボロニティクス……ここまではOK?
そして、レッドボロニティクスの吐き出す糸に付いている粘液。
これは、レッドボロニティクスの体内の化学反応で甘さと酸味のバランスが絶妙な感じで整えられ、現実世界で言う所のストロベリー味に酷似したものになるのだった。
赤くて甘酸っぱい……確かに間違ってなかった! ついでに言うと、香りまでもストロベリーっぽい!
そして、その糸も茹でれば美味しく食べられると言うことで、スパゲティー風に仕立て上げられて、カヤ様の目の前のお皿に綺麗に盛られていた。
(お、思ってたのと何か違いますわ……)
皆の奮闘とアオイの活躍で完成したイチゴっぽい香りのする何か入りのクリスマスケーキ的な何かと、苺の香りが漂うスパゲティーもどきを前に、カヤ様も思わず固まってしまっていた。
そもそも、自分の無茶振りが原因なのだけど。
予想の斜め上を行く展開と、その結果にさすがのカヤ様もドン引きだった。
ケーキのクリームの色はピンク色。
レッドボロニティクスエキスをふんだんに使ったそれの香りはまさにストロベリー風。
メリークリスマスと下手くそな字で書かれた板状のものからは、カカオっぽい香りがする。
これは、レッドボロニティクスの体表の装甲材なのだけど……。
薄い積層構造となっており、バラして食べるとチョコの味がすると言う逸品だった!
つまり、全身スイーツモンスター! それがレッドボロニティクスだった!
ああ、そう言えばチョコレートの話とかしたっけ……そんな事を思いながら、さすがのカヤ様も躊躇い気味。
気分は限りなくゲテモノ食いのフードファイター!
お笑い芸人なら、ここでネタのために身体を張るところだけど、カヤ様は割りと育ちのいいお嬢様なので……。
セミとかアリとか平然と食べられるほど、タフじゃなかった。
ついでに言うと、原材料は皆で担いで持ち帰ってきたので、カヤ様の割りと目の前に鎮座してたりもする。
手足が収縮して丸くなってはいるものの、どうみても蜘蛛! それも激しく大物である。
思わず、そのべっこう飴のような複眼をマジマジと見てしまって、さすがのカヤ様もなんだか鳥肌が立つ!
ベンジャミン達が今もその表皮をノミとハンマーを使って、ガツガツと削り出しているのだけど。
その度になんとも甘い香りがぷーんと漂う。
(チョコなんて随分と長いこと食べてないし……食べないと何かすっごい悪いような気がしますわ……)
傍若無人のカヤ様だって、仲間を思う心はある。
それに何と言っても、ベンジャミン達の期待に満ちた眼差し。
カヤ様、もはや退路なし!
しばしの逡巡の末、思い切って一口!
「あ、いちご味……こっちもチョコですわ……」
なんか思ってたのと違ったけど、ケーキの味自体は懐かしくも甘酸っぱいストロベリー!
チョコ味の表皮もクチの中でホロリと崩れ、ほろ苦さと濃厚な甘さとクリーミィさを演出する。
思わず、幸せな気分になり、笑顔になるカヤ様。
どんな反応が返ってくるか不安そうだったベンジャミン達もカヤ様のそんな笑顔を見て、笑顔になる。
アオイがグッジョブと言いたげに、そんなベンジャミンの頭を撫で回す。
皆で狩った魔獣を美味しくいただくモンスターハンティングとなってしまったけれど。
何だかんだで皆、一つの仕事をやり遂げた達成感で笑顔。
訓練や周辺警戒から戻ってきたメンツも加わり、今夜もやっぱりどんちゃん騒ぎ!
ロザリオ隊のクリスマスのような何か的な宴の夜は、こうして更けていった。
メリークリスマス?
そんな訳で、思いつきのクリスマス特別企画。
ロザリオ隊活動日誌…いかがでしたか?
皆でほのぼのお料理回のつもりが、モンスターハンティングでゲテモノスイーツを作る話になってしまいました。
ついでに言うと、獣人関係の設定が新たに増えました。
ワイルドお気楽猫獣人ベンジャミン…本編には出てこないと思います。(笑)
一応、次回は本編に戻ります。
このあとがきを書いてる時点では、シリアス急転直下展開です。
気分切り換えてまいりましょうっ!




